2017年3月8日

宴の終焉

35歳の女性です。職場のパーティーのあと、家に帰ってから突然調子が悪くなりました。

After the Party's Over.
N Engl J Med. 2017 Jan 5;376(1):74-80. 
George JN, Morton JM, Liles NW, Nester CM.

2017年2月1日

かわうそ:具体的な症状としては、悪寒、筋肉痛、嘔気、腹痛です。それまでは元気でした。熱は39度、下痢もあります。腹痛というか腰痛みたいなんですけど。
急性胃腸炎ということでよさそうですし、バイタルは、熱があるくらいであんまり問題なさそうです。 そんなに悪くなさそうですが、点滴するし、ということなんでしょう。採血検査もされています。

ちなみにこういうとき、外国ではオンダンセトロンが早速使われているのにちょっと衝撃です。

かば:抗癌剤の制吐剤ですよね。めっちゃ効くんでしょうけど。
パーティーのあとなら、急性アルコール中毒では?

かわうそ:家には車で帰った、と書いてありますので、飲んでいはいないと信じたいところです。
採血検査では、貧血はありませんが、白血球がかなり増えていて18400、血小板が132000でちょっと減っています。が、スルーしてしまいがちです。
ただ、尿がとれなかったということがちょっと心配ですね。便は培養に出しています。

ウイルス性の急性胃腸炎と考えて輸液をだして、2-3日たっても良くならなかったら来てください、と指示して帰宅しています。
さて、この対応はどうでしょう?

かば:白血球が多いですね。さらに、桿状球がでているので、おかしいですね。そう考えると、血小板が少ないこととか、尿検査が出せなかったこととかがひっかかってきます。

かわうそ:そうですね。コメントでは、この時点でウイルス性急性胃腸炎に飛びつかないほうがよい、急性胆嚢炎、胆管炎、膵炎なんかもちゃんと除外するように、と言っています。

まあただ、この時点ではこれ以上の結果がでなかったようです。翌朝、生化学検査の結果がでると、Creが2.6、肝機能障害もあって、特にビリルビンが3.5でした。
たまたま10ヶ月前の検診の結果が残っていて、それは全く正常ですので、それとくらべてみると、その異常さが際立ちます。
本来、この時点で速やかに連絡して受診、精査を勧めるべきなんでしょうけど、この症例ではスルーされてしまいました。

かば:おそろしいですね。

かわうそ:この人の場合は、BUNが上昇していないのにCreが上昇していますので、急性腎障害、特に急速進行性糸球体腎炎とかも考えてほしいみたいです。
で、結局この人は、2日後にやっぱり調子が悪いとのことで受診されました。吐き気や下痢などの胃腸症状は落ち着いていますが、あれ以降排尿がないと、恐ろしいことを言っています。腰痛も持続しています。でも、熱や発疹はありません。
もともとアルコールはとらないみたいです。違法な薬物の使用もありません。

バイタルは初診時とくらべてかなり変わっています。血圧は140まであがっています。若い女性なのでこれは高いでしょう。Hbは11.6に減っています。WBCは高いまま、桿状球は6%でまだ高いです。血小板は54000まで減りました。そしてCreはなんと驚きの9.3です。肝機能障害も進行していますが、凝固能はそんなに動いていません。ちなみに、初診時にとった便培養は陰性でした。あと、CT検査では明らかな異常なし。

というわけで、腎障害と血小板減少、貧血も進んでいる、というのがメインの症例なわけですが、この時点でどんな疾患を頭に浮かべますか?

かば:HUSとかですか?

かわうそ:そうですね。TTPとHUS、あわせてTMA、thorombotic microangiopathyという病態です。
ただ、ちょっと合わないところがいくつかあります。普通はこんなには急激に来ないみたいです。あと、肝機能障害もあんまり来ないはずで、逆に血小板減少はもっと著しいはずです。

かば:腹部症状は血便が有名なんじゃなかったでしたっけ?

かわうそ:まさにその通りなんです。となると、ループス腎機能障害とか、強皮症の腎クリーゼとか?とか想像しています。でも、皮疹や関節症状なんかがありませんし、いずれも典型的ではありません。

というわけで、もう少し情報が必要です。
病歴を詳しく聞くと、喘息でモンテルカストを飲んでいたり、偏頭痛でNSAIDSやトリプタン製剤を飲んでいるようです。
関節痛やレイノー症状などはやっぱりありません。家族歴も特記すべき事項なし。

かば:うーん。

かわうそ:そうこうしているうちに、貧血はどんどん進みますし、血小板もなくなります。クレアチニンも上昇し続けます。
あと、どんな検査結果がほしいですか。

かば:画像検査?

かわうそ:CTとって異常なしですけど、多分造影検査はできないんでしょう。腎臓が悪いので。

かば:なら、感染の原因を突き止めるために、いろいろ培養とってみたらどうでしょうか?

かわうそ:たしかに最初発熱もありましたしね。でも、ここでは便培養が陰性だった以外の情報はないです。あんまり感染と考えていないんじゃないでしょうか?

かば:桿状球がでたりしてるのに?

かわうそ:まあそうなんですけど…。でも、熱は自然に下がっていますしね。
とりあえず、筆者たちは、貧血の原因が気になるみたいです。スメアを作って破砕赤血球があるかどうかとかを調べています。TMAかどうかの確認ですね。
で、溶血性貧血とか、骨髄での造血異常がないということが否定されました。
一応、典型的ではないとしても、HUS/TTPに近い病態が疑われます。

とりあえず、検査異常は著しいので、診断に頭を悩ませつつも、なんらかの対応をしないといけないんですけど。
こういう場合の治療って知ってます?

かば:血漿交換でしたっけ?クレアチニンの値からすると透析も必要そうですね。

かわうそ:そうですね。あとはステロイドの投与も考慮します。メチルプレドニゾロン120mg/日を使われています。

でも、コメンテーターは納得していないようです。治療開始せざるをえないことについては同意していますが、診断が納得いかないようです。ちょっと血圧が低めなところなど、合わないところが多いみたいです。

どうやら、最近になって新しい薬が認可されたことをきっかけに、新しい疾患概念が提唱されたようなんです。その薬というのがエクリズマブという、補体C5のactivation inhibitorなんですけど、知ってます?

かば:…。

かわうそ:この薬は補体関連のTMAという新しい疾患カテゴリーに使用できる薬みたいなんです。でもって、この症例はこの疾患にあてはまりそうなんです。

これを念頭において詳しく病歴を取り直します。すると、発症当時のことを教えてくれました。家に帰ったとたん、「雷に打たれたかのように」調子が悪くなった、というのです。このように、突然発症なのは、薬剤誘発性に抗体が産生された瞬間というのを示唆する訴えだそうです。

でも、この人は大した薬を飲んでいるわけではないので、別の薬物を考えないといけません。もともとモンテルカストだとかトリプタン製剤とかイブプロフェンとかで、新しい薬もないわけですし。どうも、薬を飲んですぐ、せめて数時間以内に抗体が産生してほしいらしいです。
パーティーのあとなんですが、職場の会みたいなので、違法な薬物は考えにくそうです。

かば:じゃあお手上げですね。

かわうそ:でも、しつこく聞きます。
実は、トニックウォーターの中にはいっているキニンが、この疾患との関連が有名なんです。

そう言われてみると、パーティーで少しウオッカトニックを舐めたことを思い出します。
あと、1年くらい前に結婚式でトニックウォーターを飲んだときに似たような症状がでて、ERを受診したと言っています。
このときは頭痛もあったので頭部CTを撮影していますが異常なし。しかし、その時の検査結果を取り寄せてみると、血小板数が正常値ではあるものの少し減っていますし、Creが1.7にあがっていました。

というわけで、これでimmune mediated adverse drug reactionだという診断がつきました。

かば:なるほど。すごいですね。よく思い出しましたね。

かわうそ:舐めただけのウオッカトニックがこんな症状を引き起こすとは思いもよらないですね。
このキニン誘発性の補体関連TMAという診断を知っていて、しつこく行動を聞かない限り、診断にたどり着かないですね。

キニンさえ摂取しなければ、もう再発しませんので安心です。でも、腎機能が悪いので2ヶ月位透析を続けるようです。
ちなみに、HUS/TTPには、ADAMTS13活性が低下していることが必要なんですが、この活性は100%ありましたので、やっぱり診断基準を満たしません。
逆に、キニン依存性の抗体というのがあるかどうかについても調べていて、やっぱり検出されています。

かば:よかったですね。Dr.Houseみたいですね。きっと家探しに行きますね。

かわうそ:基本的には後遺症なく過ごしています。7年後にフォローアップされています。ちょっと認知機能が低下しているらしいですけど家庭生活も問題なく、仕事もバリバリやっています。
あと、腎機能がちょっと悪いみたいです。eGFRが40くらいみたいです。

さっきのエクリズマブを使ってみたい気持ちはあるみたいですが、なんせ新しい薬なのでデータがない、としきりに言っていて、残念そうです。

かば:キニンってマラリアの薬ですよね。ジントニックに入っているんですね。Wikiによると、たしかにマラリア予防で飲まれるって書いてありますね。

かわうそ:私もこれは知りませんでした。

2017年2月21日

62歳男性、サルコイドーシス治療中の意識障害 その2

鑑別診断と剖検の結果です。

Case 3-2017. A 62-Year-Old Man with Cardiac Sarcoidosis and New Diplopia and Weakness.
N Engl J Med. 2017 Jan 26;376(4):368-379. 
Samuels MA, Gonzalez RG, Makadzange AT, Hedley-Whyte ET.

2017年1月30日

その2

その1から続き

かわうそ:経過をまとめます。62歳男性、心サルコイドーシスでステロイド治療を受けていた方でした。免疫抑制状態と考えていただいてかまいません。でも、ものすごく急速進行性の髄膜脳炎を起こして、脳浮腫や脳圧亢進が制御できなくて、ほんの数日で亡くなってしましました。
広域抗生剤、抗ウイルス薬、抗真菌薬、免疫抑制剤、全て使ったといっていいでしょう。でも、効果はありませんでした。

で、鑑別診断に入ります。

さすがに病名を挙げていくのは難しいので、系統的に考えてみましょう。
感染性なのか、非感染性なのか、代謝性、毒物などを考えるみたいです。

まずはサルコイドーシスについて考えています。診断についてはほぼ確実と思われます。縦隔鏡で生検されていますので。なんか慎重になっているような記載もありますが、そこまでしつこく考えなくてもよさそうに思います。
あと、この人はステロイドを長期投与されて、休薬してから症状がでているわけです。そういうところに着目すると、免疫再構築症候群なんかも考えておくべきらしいです。クリプトコッカスだとか、JCウイルスにもし感染していたとしたら、免疫再構築症候群で症状が出現することもありうるらしいです。ただ、これほど劇症の髄膜脳炎は聞いたことが無いとのことです。
あと、サルコイドーシスから悪性リンパ腫を発生することが知られているようで、それも鑑別にあがっています。でも、経過がやっぱり違いそうです。こんなに急激な経過をとることはないそうです。
神経サルコイドーシスについても、ちょっと症状が違います。そもそも、5%くらいにしか認められません。神経サルコイドーシスが認められたとしても、下垂体不全とかの症状みたいでして、このような脳浮腫ができるとは思われません。

かば:頭部CT画像からしても、肉芽腫性疾患では全然ないですよね。

かわうそ:ただ、サルコイドーシスは血栓傾向になるらしいので、そのあたりがからんでこういう画像になるかもしれない、と書いてあります。知りませんでしたが。

次に、非感染性の炎症性疾患がいろいろ並んでいます。レアな疾患ばっかりです。名前も聞いたことありません。飛ばします。
それから、自己免疫性疾患とか、傍腫瘍神経症候群だとかを検討しています。先程も言いましたけど、画像的にはなんともないのに症状がシビアが特徴ですので、ちょっと合わないですね。

あとはANCA関連疾患ですね。とくに、この症例では喘息があるので、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などは考えるべきなんでしょうけど。

かば:あれって末梢神経障害じゃなかった?

かわうそ:そういえばそうですね。
次は、代謝性や中毒性疾患です。これらは検査結果から否定的らしいです。ふつうはアンモニアだとか尿毒症だとかですし、血液検査からは否定的、というわけで、最終的には感染性疾患しか残りませんでした。

かば:やっぱり免疫抑制状態ですし、素直に考えるべきでしたね。

かわうそ:ウイルス、プリオン、細菌、寄生虫などを挙げています。

かば:プリオンですか…。あとはたいてい除外されているように思いますけど。

かわうそ:そうなんですけどね。
ウイルスについては、ちゃんと季節と場所も考えたようです。この症例は、ニューイングランドの秋のことだったそうですが。土地勘がないのでピンときません。かといって、地元でも風土病とか考えて診療したことありませんけど。

今回については、ウイルスや細菌は、一応否定的と考えていいのではないでしょうか。

かば:ちゃんと血培も髄液も培養していますしね。

かわうそ:こういう困ったときにどうするか、ってことですが、ここでもまた、ネットで検索しろ、と書いてあります。
で、ここでもちゃんとアメーバ脳炎が検索結果の上位に上がったようなんです。

かば:すごいですね。どういう単語を入れて検索したんですか?

かわうそ:それがよくわからないんです。残念です。

さて、アメーバの中では4種類が候補になります。Acanthamoeba culbertsoni、Naegleria fowleri、Balamuthia mandrillaris、そしてSappinia pedataです。
それぞれ特徴があるらしいですが、割愛です。
この症例で、アメーバ感染を疑う手がかりがあるとすれば、最近歯の治療をしたとか、鼻がよくない、というのがヒントになりそうです。

診断にはやっぱりCSFの検体から見つけるしかないです。ギムザ染色やPCRをやっていますが、特殊な検査ですので、まずアメーバを疑わない限り、そういう検査までできないですよね。

というわけで、臨床診断では神経サルコイドーシスと思って治療をしていたというわけなんですが、こうして検討した結果、Acanthamoeba culbertsoniによるアメーバ脳炎ということになりました。

病理所見です。
まず、マクロの所見では脳実質に出血と壊死が認められます。左視床と海馬に目立ちます。

かば:こんなに出血していても、CTではわからなかったんでしょうか?

かわうそ:そういえば、そうですね。なんでなんでしょう?
やっぱりMRIが必要ですね。もうちょっと精密な情報がほしいところです。

かば:でも、出血がわかったからと言って、アメーバ感染を疑います?
出血性の病変っていう情報にひっぱられて、診断から遠ざかる可能性もありません?

かわうそ:たしかに。検査できればいいってもんでもないですね。

さて、ミクロの所見では、血管周囲にそういう所見が目立つみたいです。
で、大脳実質のアメーバのencysted formが全体的に目立って見えます。脳の表面も相当汚染されていたようなんですが、脳の中にまで入り込んでいたというところが恐ろしいです。
多核巨細胞が認められており、肉芽腫性アメーバ性脳炎という診断になります。
脳の凍結検体はCDCに送られて、PCR検査などもやって、診断を確定しているようです。

かば:アメーバってことは、どっかから体の中に入ったわけなんですよね?普通は外傷とかから血行性に入るんだと思うんですけど、侵入経路とかはどうなっているんですか?

かわうそ:そうなんですよ。しかし、そこに気づくとは…!

もし、この人を救命するためにはどうしたらいいかということをディスカッションしています。
診断のためには生検をしないといけないわけなんですが、脳の生検は非常にハードルが高いです。でも、こういうアメーバ感染は、普通は皮膚に病変があるはずで、そこを生検すれば発見でき、その結果をうけて速やかに治療が開始できると救命できるかもしれません。治療としては、ST合剤とかリファンピシン、フルコナゾールです。

ただ、この人はそれが見つからなかったんで、残念でした。

かば:慢性の経過だとすると、侵入部位がわからなくなってしまっているのかもしれません。

あ、国立感染研のサイトにアメーバ感染のことが載っていますよ。Acanthamoeba culbertsoniは日本でも数百例報告があるみたいです。でも、Naegleria fowleriは1例だけだそうです。ちなみに、全世界でも100例くらいで、うち助かった人は1人しかいないみたいです。怖い。
治療としてアムホテリシンBを使うこともあるみたいですけど、効かなかったんですね。

かわうそ:感染研のサイトすごいですね。
アムホテリシンBが効かなかったのは、やっぱりBlood Brain Bareerのせいでしょうか?あと、cyst形成していると、なかなか抗真菌薬も効かないように思いますし。

それにしても、神経サルコイドーシスと思っていたら、意外でした。診断については、人工知能に任せたほうがよさそうですね。
手技は代わってもらえないと思うので、生き残るのは外科系でしょうか。

2017年2月17日

62歳男性、サルコイドーシス治療中の意識障害 その1

冬のせいで仕事が忙しかったため、更新が久しぶりになってしまいました。


Case 3-2017. A 62-Year-Old Man with Cardiac Sarcoidosis and New Diplopia and Weakness.
N Engl J Med. 2017 Jan 26;376(4):368-379. 
Samuels MA, Gonzalez RG, Makadzange AT, Hedley-Whyte ET.

2017年1月30日

その1

かわうそ:今回の症例は62歳の男性で、心サルコイドーシスで治療を受けていました。

最初は風邪と言われて処方されたようです。しかし、入院3日前、朝4時に目が冷めて、上半身がうまく動かないことに気が付きました。
メガネを取ろうとして手を伸ばしますが、すごく集中しないと取れなかったとのことです。エピソードが具体的で面白いですね。

かば:ここまで時間が特定できるって突然発症ですね。

かわうそ:さすがに病院に行きます。症状は客観的にも確かめられますが、血液検査では異常ありません。また、頭部CTでも異常なしです。脳血管造影も問題なし。
追加で何の検査結果がほしいですか?

かば:髄液検査はどうですか?

かわうそ:赤血球4個、白血球188個、大部分がリンパ球です。白血球は多いですね。
この段階では、入院して抗生剤とステロイドを処方されたとのことです。

それでも、複視が増悪していますし、熱が出てきたようです。手の振戦もひどいです。治療のかいなく改善しないとのことで、MGHに搬送されたようです。
身体所見をとりなおされていますが、頭痛や項部硬直、嘔気嘔吐など、髄膜炎を疑わせるような所見はありません。

病歴も詳細に聴取しています。既往としては、4年前、心不全が悪化したということをきっかけにして心サルコイドーシスと診断されました。
16ヶ月前から、ステロイド治療を4ヶ月しています。

かば:ってことは、3年くらいは診断がつかなかったってことですか?

かわうそ:このあたりの経緯は不明です。診断がついても、病状が安定していて治療を必要としなかったのかもしれません。でも、心不全が悪化しているわけですしね。
ただ、PET-CTと縦隔鏡で診断がついた、と書いてありますので、診断は確定的でしょう。

さらに、4ヶ月前からは、今度はステロイドとメトトレキサートを投与されています。で、今回のエピソードの直前に終了しています。

かば:免疫抑制状態と言っていいんですかね?

かわうそ:そう考えてもらって構いません。
その他にもいろいろ合併症を持っています。高血圧とか高脂血症とか。また虚血性心疾患でステントと埋込み型除細動器が入っています。喘息と鼻炎もあります。
さらに、最近歯の治療をしています。これはあとで重要になってきます。処置後は抗生剤を投与されています。

かば:なるほど。

かわうそ:これらの基礎疾患に合わせて多種類の薬を飲んでいます。そのほか、喫煙飲酒なし。違法な薬物の使用なし。家族歴も一応書いてありますが、たいしたものはなさそうです。

バイタルとしては、少し血圧が低くてSPO2も悪いんですが、熱はありません。
記憶の障害がありそう、と書いてあります。神経学的所見もいろいろ書いてありますけど、慣れてないのでわかりません。どうやら複視のほか、眼球突出とか、ほおを膨らませられないとか書いてありますが、これがあとでどう関わってくるのかよくわかりません。

四肢の動きとしては、上腕にミオクローヌスがあるようです。力は大丈夫みたいです。rigidityありません。触覚は問題なし。深部腱反射はやや亢進程度です。ただ、あんまり、この所見が診断に役立つことはなさそうなんです。

かば:なら、ラボデータはどうですか?突発性の神経障害で、どれくらい採血検査が役に立つのかはよくわかりませんが。

かわうそ:そうですね。あまり異常値は載っていません。

かば:そういえば、画像検査はどうなんでしょうか。MRIとか。

かわうそ:たぶん埋込み型除細動器があるのでとれなかったんだとおもいます。CTの画像はあとで出ています。

かば:髄液検査の他の項目はどうですか?初圧とか、糖とか蛋白とか。

かわうそ:初圧も蛋白も高いです。糖は少し下がっていますが、一般的な細菌感染や結核感染などは考えなくてもよいくらい、らしいです。

で、転院後どういう治療をしているのかは詳しく書いていませんが、表をみると数日の経過で検査結果がどんどん悪化しているのがわかります。
神経症状も全身状態も悪化しています。高熱が出て、傾眠傾向や見当識障害がでています。

かば:感染症っぽいですよね。

かわうそ:そうなんですけど、喀痰、尿、血液、髄液からは細菌培養はされていません。それに、広域抗生剤を投与されていますが効果ありません。
細菌でなければウイルスだろう、ということでアシクロビルを投与されています。

かば:でも、ヘルペスを疑うような皮疹はないんですよね。

かわうそ:そうみたいです。さて、ここでようやくCTの画像も出てきます。

かば:どんどん悪くなっていますね。脳溝が見えなくなっているということは、脳浮腫が進行しているんですよね。

かわうそ:これみると、よく髄液採取しているなって思いますね。怖くないんでしょうか。
あと、脳溝がちょっと造影されているようにも見えますので、髄膜炎になっているんじゃないでしょうか。

脳波をとっても異常があるらしいんですが、よく知りません。すいません。ロラゼパムとかをつかって、てんかん発作を抑えたいようですが、根本的な治療ではないですからね。

あと、何の病気を疑って、何の検査をするべきなんでしょうか?

かば:神経サルコイドーシスはどうなんでしょうか?あとは、免疫抑制状態なので、やっぱり日和見感染症なんでしょう。
真菌とか結核とか?

かわうそ:たしか、アムビゾームも投与されていました。でも、βDグルカンは陰性だったらしいです。

かば:意外にがん性髄膜炎とか?ちょっと前に出ていた抗NMDA受容体抗体脳炎とか?

かわうそ:たしか、あれは画像的にはあんまり所見がないのに、症状が激烈なのが特徴だったと思います。

かば:こんなに脳浮腫はでない、と。神経所見も合わないですね。

かわうそ:おそらく。ここには、膠原病関連の脳症を鑑別に挙げています。SLEとか。サルコイドーシスで、さらに免疫抑制状態のヒトにに合併するのかは知りませんが。
ただ、抗核抗体やANCAを測定していて、陰性だったと思います。

かば:このヒト喘息があったので、Churg-Straussは考えておくべきなんでしょう。

かわうそ:免疫グロブリンとかもつかったりしていますが、効果なく、最終的には剖検がされています。

それでは鑑別診断をあげていきましょう。

その2へつづく


2016年12月30日

27歳女性、突然の意識障害 その2

追加の検査と経過についてです。


CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Scratching Below the Surface
N Engl J Med 2016; 375:2188-2193
Mathai SK, Josephson SA, Badlam J, Saint S, Janssen WJ.

2016年12月13日


その2

その1からつづき

かば:まだ採血の結果出ていませんよね。あと、やっぱり細菌性とウイルス性の髄膜炎としての治療が必要ですよね。治療開始が遅れるのは禁忌ですし。
あと、結核性髄膜炎はどうですかね?

かわうそ:除外できないとは思いますけど、もうちょっと亜急性から慢性の経過であって欲しいという思いはあります。
あと、結核の薬って点滴ありましたっけ?胃管入れてまでするべきなんでしょうか?

ここでは、さっそくアシクロビルとバンコマイシンとセフトリアキソンが入っています。
検査も外さないようにしないといけないですけど、治療も遅れてはだめなところが、神経系の病気の怖いところですね。

血液検査の結果としては、生化学、肝機能、甲状腺、CBC問題なしです。尿のトライエージでも陰性でした。
こういうときいつも、何かしら異常が見つかってくれと、祈るように検査結果を待っているんですけど、残念ながら頭部CTは明らかな異常を指摘できませんでした。

かば:やっぱりまだここではMRI撮れないんですね。じゃあ、CSFはどうですか。

かわうそ:CSFでは、白血球は多いくらいなんです。糖は下がっていなくて、蛋白は正常。グラム染色では最近検出されませんでした。

かば:リンパ球に白血球が多くて、糖が下がっていないならウイルス性髄膜炎でいいんではないでしょうか?

かわうそ:なるほど。でも、アシクロビルがどれくらい即効性があるのかどうかわかりませんが、残念ながら少なくとも12時間後には、さらに話し方に知性が感じられなくなり、興奮状態も悪化しています。

かば:大変ですよこれは。

かわうそ:ベンゾジアゼピンやハロペリドールを使ってみましたが、さらに精神症状が悪化して攻撃的になっています。
仕方がないので、鎮静して挿管人工呼吸管理をしています。

CSFでの白血球増多はたしかに大切な所見です。薬剤性や代謝性の脳症は可能性が低くなるかもしれませんが、感染が確定するわけでなく、自己免疫性や傍腫瘍神経症候群については除外できません。

挿管できればMRIも撮影できますが、ここにMRI画像が載っていないことからも分かる通り、異常なしでした。

かば:泣きそうになりますね。

かわうそ:でも、こんなに派手な症状を呈しているにも変わらず、画像に異常が出ていないというのは、これはこれで参考になる所見といえる訳です。
とはいえ、私はこの病気知りませんでしたけど。

かば:となりに腹腔鏡とか経膣エコーの写真が載ってますからね。推測できます。

かわうそ:ホントですか?すごいですね!
卵巣の中にハイエコー病変があります。さらに腹腔鏡で卵巣を見ていますが、表面には異常ありません。エコーで分かる通りだいたい1cmくらいの結節ですし。
その病理標本も載っていますけど…。

かば:いろんな組織が見えますよね。まあ、テラトーマ、つまり奇形腫ですよね。というわけで、抗NMDA受容体抗体脳炎ですよね。

かわうそ:この病気はそんなに有名なんですか?全然知らないんですけど。
でも、こういう派手な神経症状にもかかわらず脳の画像検査で明らかな異常が見つからない場合は、この病気を疑って経膣エコーで卵巣を調べるのがほぼルーチンみたいなノリで書いてます。ここでも、1cmしかない病変を探しに行っていますし。

かば:調べたら新しい疾患みたいですね。2007年提唱とされていますので、大学では習っていないはずです。
内科専門医試験の勉強でみましたけど。

かわうそ:さすがですね。治療は知っています?

かば:卵巣切除ですね。

かわうそ:そうですね。まずそれで抗体の産生を減らします。あとは血漿交換やステロイドまたはイムノグロブリン投与で抗体を減らします。
これで基本的には完全に回復するはずです。それでも回復しない場合はシクロホスファミドとかリツキシマブを使うようです。

かば:ここでもリツキシマブ出てきますね。

かわうそ:ちなみに、この症例では血清中には抗体を検出できませんでしたが、CSF中から出てきて診断できました。
この症例では、いまいち治療の反応が良くなかったようですが、諦めずに治療して、最終的には劇的に完全に回復しました。

かば:よかったですね。でも、怖い病気ですね。
奇形腫の組織に脳の神経細胞を思わせるような部分がありますね。mature ganglion cellとあるので、このあたりが抗体産生に関係しているのでしょうか?

かわうそ:なるほど、そのあたりが、この回の題名の「scraching below the surface」と関係しているのかもしれませんね?
やっぱり英語の素養がないので、いまいちしっくり来ませんが。

かば:傍腫瘍神経症候群も、そういえば画像では明らかな異常がでないはずなので、似ていますね。そういえば、最近一人いましたね。
原因不明のふらつきで受診して、頭部画像検査でも異常なし、ビタミン不足なんかもなかったみたいです。で、胸部CTで肺に腫瘍が発見されて紹介されていました。


2016年12月28日

27歳女性、突然の意識障害 その1

映画エクソシストのモデルになった疾患らしいです。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Scratching Below the Surface
N Engl J Med 2016; 375:2188-2193
Mathai SK, Josephson SA, Badlam J, Saint S, Janssen WJ.

2016年12月13日


その1

かわうそ:27歳日本人女性。5日前からのせん妄なんですけど。
7日前からちょっとお腹の調子が悪かったようです。その2日後から、記憶障害、不安、興奮、幻視、幻聴、手足の拘縮、けいれんなどが出現しています。

この段階で、どんなこと考えますか。まだ病歴とかぜんぜんわからないんですけど。

かば:突然なので、感染とか薬物ですかね。

かわうそ:このあたりがどれくらいの都会か、とかによりますけど。まあ、トライエージはしますよね。

かば:田舎のほうがはびこる可能性もありません?

かわうそ:そうかもしれません。田舎だからと言って、ないわけではないでしょうね。

とりあえず、大きくはせん妄という状態として捉えて、せん妄の鑑別診断を体系的にアプローチするべきなんでしょう。
せん妄とは、急性の精神状態の変化でして、特に注意や認知が障害されます。この症例でも十分あてはまります。

まず最初に胃腸症状があって、それから精神症状が出現しています。
興奮して幻覚があって、さらに四肢の拘縮があることから、広い範囲の脳の障害があるということが読み取れます。

記憶障害とか幻覚からは側頭葉の、幻視からは後頭葉の、拘縮からは大脳基底核の、それぞれ障害があると推定しないといけません。

かば:こういう風に論理的に考えていけるのはすごいですよね。

かわうそ:この広範囲の障害は単純な脳梗塞や脳出血とかの巣病変では説明がつきません。
薬物とか、橋本病の脳症状とかの内分泌疾患、感染性の脳炎、髄膜炎とかを考えるべきです。あと、ヘルペスは外せませんね。あとは季節的に西ナイル熱なども鑑別に上がっています。自己免疫性疾患も当然考えます。

さて、ここで配偶者が来て、ようやく病歴がとれました。本人からは全く問診できませんので。
5年前からコロラド州に住んでいます。病人との接触なし、旅行歴なし。違法な薬物の使用もないようです。妊娠に向けて葉酸か何かのサプリを飲んでいます。

最近ちょっと熱があったようだという情報を得ました。

さて、ここでどう考えますか?

かば:熱があるなら感染が考えやすくなりますけど、自己免疫疾患とか傍腫瘍性の疾患の除外もできませんよね。

かわうそ:自分としては、家族が薬物使用歴はないっていう話をしたとしても、トライエージするまでは信じないと思いますけど。薬剤性で熱があがることもなくはないそうです。
あと妊娠も。子癇以外で妊娠と意識障害の関係があるのか知りませんけど。

日本からの移住ということですので、一応日本脳炎も鑑別に上がるようです。ただ、5年間アメリカに住んでいれば、そこまで心配しなくていいと言っています。
あと、日本人ならきちんとワクチン接種されているはずだし、日本脳炎以外でも、ワクチンで予防できる感染症については可能性は低いと言っていますけど、これってちょっと日本の医療を過大評価しすぎじゃないですか?

かば:一応定期接種ですし。長期滞在するなら、ワクチン接種の証明も要求されるんじゃないですか?

かわうそ:ならいいんですけど。まあ、麻疹とかのこともありますし。ちょっと日本の医療を信じ過ぎでは?と思ってしまったわけです。
バイタルとしては、微熱があって、脈が早くて、血圧が高くて、呼吸数が多いです。見当識障害があって、興奮して叫んでいます。手足もゆらゆらしています。かなり音や光による刺激がるようです。話は全く通じません。えらいことになりましたね。こんなの引いた日には、「なんて日だっ!」って言ってますよ。

かば:どうしたらよいかわからないですね。

かわうそ:そんな中でも、眼底初見を取って乳頭浮腫がないことを確認しています。脳浮腫はなさそうだということで、やっぱり脳脊髄液、CSFを取る気みたいですね。これだけ興奮していて、実行可能かどうかは不明ですが、とりあえず速やかにとるべき、と何度も書かれています。
また、項部硬直も筋力低下も深部腱反射の異状もなし、とのことです。

かば:つくづくすごいですね。こんな状況でも身体所見きっちり取ってますね。

かわうそ:CSF取るためにも、画像検査するためにも、やっぱり鎮静しないといけませんよね。とりあえず、なんとかCTまでは取れたようです。
で、追加の検査と治療として何しますか?


その2へつづく


2016年12月22日

62歳男性、食事がのどを通らない。その2

幸運な症例の続きです。治療経過です。
この治療が早く広まるといいと思います。


Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.

2016年11月28日

その2

その1からつづき

かば:扁平上皮癌でも腺癌でも同じメニューでよいんですか?どちらが予後が悪いんですかね?
たしか、日本は扁平上皮癌が多くて、外国は腺癌が多いんでしたっけ?
でも、うちなら多分CDDP+S1とかが多いように思います。

かわうそ:なるほど。すいません。経験ないので何も言えません。
ここではEOXというのを最初に検討しています。けっこうエビデンスはあるようなんですが、いかんせん、休薬期間がないらしいんです。よく知りませんが、けっこう恐怖を覚えます。epirubicin、oxaliplatin、capecitabineと、けっこう緊張感のある薬が並んでいますし。
あとは、FOLFOXかなっていっています。

かば:大腸がんでつかうのかと思ってました。

かわうそ:ほかにはCDDP+CPTも候補に上がっています。
このあたりの選択についても、きちんと論文を参照しています。これらを比較したRCTで、効果は同じくらいだけど副作用が少なかったという理由で、FOLFOXがよいのではないかと言っています。

放射線との併用もしやすいみたいです。FOLFOXとCDDP+FUの比較の論文が引用されています。さらに、放射線治療のスケジュールについても、いろいろ論文を引いた上で、計画したと言っています。

かば:えらいですね。

かわうそ:この態度は見習いたいですね。
しかし、治療完遂後、フォローアップのPET-CTで遠隔転移再発がありました。で、2nd lineの治療についてなんですけど、どうしますか?

かば:そもそも食道の腺癌ってほとんど見たことありませんし。
肺癌でも、2nd lineの治療ってあんまりガイドライン通りやっていませんよね?

かわうそ:DTX単剤くらいですけど、若くて元気だからという理由で1st lineと同じようにプラチナダブレット使いますしね。
ここでは、CPTとかDTXの単剤治療かな、とか書いてあります。最近では、PTXとサイラムザの併用が話題らしいですけど。
ただし、BSCとこれらの治療を比較した論文によると、1.5ヶ月の生存期間延長が期待できるくらいらしいんです。サイラムザのレジメンでも、生存期間を約2ヶ月伸ばすくらいです。

かば:…。やっぱりかなり厳しいですよね。

かわうそ:でも、これだけではたぶんこのケースレポートになりません。
ここでは何をしているかというと、一か八か遺伝子変異の検索をしているんです。
胃癌では、HER2過剰発現があれば、乳がんの治療薬のトラスツマブの効果が期待できるなんていう知見もあるし、とかいろいろ書いてあります。

かば:胃癌なら必ずHER2は調べていますよ。

かわうそ:このあたりは何をやってるのかよくわかりませんので、結論だけ言うと、PIK3CAという遺伝子変異がみつかったということと、METの増幅があることがわかりました。

かば:どちらも知りませんけど。でも、ふたつの遺伝子変異があるのって珍しくないですか?

かわうそ:そうですね。そのあたりは後の質疑応答でツッコまれていますが、そもそも、こんな症例ないのでコメントのしようがないって言ってます。
PIK3CAの方については、食道領域では胃癌での報告があるくらいだそうです。乳癌では、トラスツマブに対する反応がよくないものの、予後はよいという報告があるようです。肺癌では、EGFR遺伝子変異陽性のうち、少数で見つかることがあって、EGFR-TKIに対する耐性の獲得に関係するようです。

METの増幅については、とくにhigh-gradeの食道腺癌に認められて、アグレッシブな経過をたどることが多いそうです。この症例でも、放射線化学療法に対してPDでしたし、当てはまりそうですね。

で、クリゾチニブを使っています。

かば:え?ザーコリですよね。あれはALK融合遺伝子だと思っていましたが、そういえば関係あるんでしたっけ?

かわうそ:よくご存知ですね。ネットで調べてみたところ、もともとc-Met遺伝子の阻害薬として開発されていたらしいんです。
MET増幅って、消化器系の悪性疾患では多いような気がしますけど、あんまりクリゾチニブを使うって聞かないですよね?

かば:適応ないですよね。

かわうそ:で、内服開始してからのPET-CTをみると、原発巣も転移巣も全く取り込みなくなっています。

かば:すごいですね!

かわうそ:この症例では四年間のみつづけてまだ効果が持続しているようで、めでたしめでたし、といえるかどうかわかりませんが、かなり幸運だと思います。

最近、ザーコリって、アレセンサとかとの比較でいいところがあまりないように思っていましたので、これでちょっと見直しました。

2016年12月19日

62歳男性、食事がのどを通らない。その1

非常に幸運な症例と思います。
まずは病歴と診断までです。

Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.


2016年11月28日

その1

かわうそ:今回はわりと珍しいんですけど、早速病名が書いてあります。食道腺癌です。
ゴルフボールが喉に詰まっている感覚が2ヶ月続くということで受診されました。胃食道逆流が疑われ、PPIを処方されましたがよくなりません。

かば:次の手としては、梅核気ってことで半夏厚朴湯を試してしまいそうです。たしかに、食道癌のもありえますし、早めに胃カメラが必要でしたね。

かわうそ:怖いですよね。感覚だけなのか、実際に飲み込めないのか、きちんと聞かないと、ですね。この症例では実際に通らなかったようです。
ここではまずバリウムをされています。Fig 1Aでは、胃食道接合部のあたりの粘膜が不整な感じになって狭くなっているのがわかります。口側が拡張しているようにも見えます。
次がPET-CTです。

かば:内視鏡じゃないんですね?

かわうそ:ちょっと不思議ですが、検査のハードルもいろいろありますし。
CTでも、胃食道接合部のあたりの食道が全周的に肥厚していることがわかります。PETでFDGの取り込みもあります。この図ではわかりませんが、腋窩リンパ節なども腫脹しているようです。
血液検査では、CEAとCA19-9が上昇しています。

かば:なるほど、腺癌っぽいですね。

かわうそ:上部消化管内視鏡検査では、遠位食道から胃食道接合部にかけて、周囲がやや隆起して、中心に潰瘍を形成している病変がありました。食事ものどを通らないくらいですので、内視鏡もなかなか通りません。拡張させてから胃・十二指腸までのぞいています。そこには病変を認めなかったようです。
超音波内視鏡の画像も載っています。粘膜下まで浸潤していること、リンパ節腫脹があることが確認できました。

そして、さっそく生検しています。

かば:検体が大きいですね。

かわうそ:気管支鏡検査の検体とは違いますね。消化管内視鏡では、生検の検体だけで粘膜下まで浸潤しているということがわかるらしいです。

かば:で、これは腺癌でいいんですか?

かわうそ:HE染色で青っぽく染まっている部分がムチンらしいです。そのあたりから腺癌を伺わせますが、なかなか腺管形成がはっきりしません。

かば:低分化型なんでしょうね。
細胞診のパパニコロウ染色で、扁平上皮癌は黄色っぽくなるんでしたっけ?
これをみると青色ばっかりなので、やっぱり腺癌が疑わしいですね。

かわうそ:ちなみに、細胞診の検体でセルブロックを作成すると、少し腺管形成らしいものができてくるのが不思議です。

というわけで、低分化型腺癌、リンパ節転移あり、というところまで診断できました。

ここから病歴がはじまります。
嚥下困難と嘔吐のため食欲がなく、2ヶ月間で9kg減っています。

かば:それは大変ですね。

かわうそ:と思うのが日本人の限界でしょう。あとでこの人、体重が111kgだとでてきまので、本当に大変なんでしょうか?

かば:それでも1割減っていますし…。

かわうそ:たしかにそうですね。
そういえば、胃カメラのあとは食道が少し広がったためか、ごはん食べられるようになったような記載もありました。
既往としては、高血圧、高脂血症、脊椎の変形があります。子供の頃の虫垂炎の手術のときに小腸を切除して短くなったため、下痢をしているようです。

かば:慢性的に下痢をしていて、それでも111kgですか。

かわうそ:これらでけっこう大量の薬を内服しています。喫煙歴もしっかりあります。
さて、こういう人にどういう治療をしましょうか?

その2へつづく



2016年11月29日

泳いだ後に血を吐く人

こんなことってあるんですね。想定外の主訴ですので、外来で遭遇したら確実に慌てる自信あります。

Exercise-induced haemoptysis as a rare presentation of a rare lung disease.
Thorax. 2016 Sep;71(9):865-8. 
Mihalek AD, Haney C, Merino M, Roy-Chowdhuri S, Moss J, Olivier KN.

2016年10月7日

かわうそ:特に既往のない若い患者が来院されます。アフリカ出身です。なぜか、頑なに「Patient」と書かれており、性別不明です。多分男性だと思うんですけど、最後まではっきり言ってくれないんです。

かば:すごいな。なぜ隠すんでしょう?

かわうそ:なにか意味があるんでしょう。
主訴は4年間続く、運動誘発性の喀血ということで来院されました。しかも、2マイルの水泳したあとに必ず喀血します。量も結構多くて100-200mlとのことです。自然に治るらしいんですけど、けっこう大変なことと思うんですけど、発症から4年目でようやく来院です。

かば:2マイルって3kmだから、すごくないですか?アスリートですか?
でも、日常的にそれだけの症状があればもっと早く受診しそうですよね。最初に泳いだときには何ともなくて、だんだん症状が出てきたということですか?

かわうそ:そのあたり気になりますけど、あんまり詳しい情報はないようです。謎が多いですね。これ以外の症状、例えば胸痛、呼吸困難などの呼吸器症状はありません。また、水泳以外の運動は、普通に楽しくできるようです。

こういうわけのわからない不思議な症例がやってきた場合、先生はどうしますか?自分なら、そんなことあるわけないと思っちゃうので、冷たい態度をとってしまう可能性ありますね。特に忙しい日なら。

かば:さすがに喀血が主訴なら、ちゃんとみると思います。100mlはすごいですよ。

かわうそ:そうでしょうね。
実は、こういう症状があるわけがないと思ってしまうのは、自分の勉強不足なだけなんです。世の中は広いです。こういうclinical entityがちゃんとあると書いてあります。swimming induce pulmonary edemaというらしいです。水泳している人や軍隊では、わりと知られた疾患らしいです。

かば:へー。防衛医大とかでは習うんでしょうか?

かわうそ:たぶんそうなんでしょう。
機序もしっかりと書いてあります。運動して心拍出量が増えて、肺血流が増えて、肺動脈圧が高くなるわけですが、水の中だと血管が広がりにくくなるので、なにやらこのあたりのバランスが崩れて、肺水腫になる、とのことです。
ただし、これだけで喀血をきたすかどうかと言われると、それは疑問でして、おそらく、血管内皮細胞が破綻するような、別の基礎疾患があるのではないかということが疑われます。

とまあ、後付ならこういうことを思うわけですが、この人はアフリカではずっと抗生剤を投与されたりして治療されていました。当然無効ですし、喀痰検査で有意な菌が検出されることもありません。
アメリカに移住してきてから、病院も変わって、改めて評価されています。

かば:やっぱりプロのアスリートではないみたいですね。レストランで働いていると書いてありますし。

かわうそ:そうかもしれません。でも、マイナースポーツなら、トップクラスの選手でもそれだけでは食べていけない可能性もありますよ?

さて、この病院でとった、現病歴が詳しく述べられています。
アメリカにきても水泳して、やっぱり水泳するたびに喀血しています。その他の呼吸器症状は全然ありません。喫煙はほぼなし。危ない薬はやっていません。兄弟には結核がいるようです。
身体所見では、口腔内衛生が少し悪い以外は突起すべき異常所見ありません。血液検査、喀痰検査、心エコー、気管支鏡検査では特に異常ありませんが、胸部CTでは異常ありです。どうみます?

かば:壁の薄くて不整なところのない嚢胞が多発していますね。

かわうそ:こういうcystic lung changeのある疾患は少ないので、鑑別もだいぶ少なくなります。

かば:多分、ここでLAMを考えてほしいので男女の区別を曖昧にしていたんでしょうね。

かわうそ:おそらくそうだと思います。この人は男性ですので、否定していただいて良いです。

かば:ランゲルハンス組織球症と嚢胞性線維症はどうですか?

かわうそ:嚢胞性線維症は、どうやらもう少し壁が厚かったり、気道に沿った分布がはっきりしてほしいみたいです。ただ、見たことないので…。
ランゲルハンス組織球症は、喫煙との関係が明瞭ですので、この人のように、あんまり喫煙していないなら、可能性は低くなります。

かば:あと、結節影もありませんし、合いませんね。
そういえば、BHD(Birt-Hogg-Dubé)症候群はどうでしょうか。

かわうそ:それは言及ありませんでした。でも、たしかに画像的にも鑑別に上がりそうですね。

かば:あれは気胸が反復するので、症状としては合わないかもしれませんが。あとは丘疹、腎腫瘍などがあるかどうかですね。遺伝性疾患なので家族歴も参考になると思います。

かわうそ:あと、ここで思いつかないといけないのは、アミロイドーシスです。
さて、気管支鏡でも診断がつかなかったので、この人はVATS生検が行われています。白黒写真なのが残念ですが、間質、血管周囲に好酸性で無構造な物質が沈着しています。コンゴレッド染色もして、アミロイドと確定しました。

というわけでアミロイドーシスだったんです。アミロイドーシスにはAAとALがあります。ALの方が、リンパ腫などの基礎疾患があって重症になるようです。
この人は4年間症状が変わらないので、二次性のAAアミロイドーシスなんだろうな、と予想されます。この辺も少し詳しく記載ありますが、割愛です。

ただでさえアミロイドーシスは珍しいんですけど、さらに水泳誘発性肺水腫を合併しているというわけで、ものすごくレアですね。
ただ、診断できても、治療の方法がないんですよね。水泳やめるしか。結局、フォローからは脱落してしまいました。

ちなみに、この論文はイギリス英語なので、edemaがoedemaと表記されています。だからか、swimming induce pulmonary oedema、略語はSIPOと書いてあります。

かば:esophagealがoesophagealと綴られるみたいですね。GERD(Gastroesophageal Reflux Disease)もGORDとかいてあるのを見たことあります。
そういえば、この報告では、SIPOとSIPEが混在していますね。たぶんアメリカ英語で書いてて、校閲をすり抜けてしまったんですね。

かわうそ:内幕が見えたような気がして、少し面白いですね。


2016年11月18日

31歳女性、不妊症 その2

診断と経過についてです。



2016年9月28日

その2

その1からつづき


かば:子宮内膜に肉芽腫ができる疾患ですよね。…、結核とサルコイドーシスしか思い浮かびませんね。

かわうそ:普通はそうですよね。親切なことに、Table 2にまとめてあります。まずは感染か非感染で考えます。感染なら、結核、真菌、寄生虫などです。
非感染なら、サルコイドーシス、異物、手術後、血管炎などです。
この中で何が一番考えられるか、ということなんですが…。

やっぱり、結核の蔓延国からやってきた人、というのが一番ひっかかるらしく、外せないです。ほとんど決まり、みたいなテンションで書かれてあるように感じました。

卵管の狭窄と子宮内膜の肉芽腫がある、ということも結核なら矛盾しません。

かば:オッカムの剃刀ですね。

かわうそ:とはいうものの、結核を否定する要素もいろいろあります。まず、BCGをしっかり接種されています。そして、乾酪壊死がありません。また、他の臓器症状がありませんし、熱や咳など結核の症状がそもそもありません。画像上、肺の病変もありませんし。血液検査で炎症のない健康な若い女性なんです。

でも、ネパールでは人口の45%が感染しているわけですし、その大多数が子どもを産んで育てるべき人が罹患している、と書いてあるんです。

かば:なんと。

かわうそ:BCGって、髄膜炎を予防する程度なのかと思っていましたが、子どもの感染のリスクを5割くらい下げると書いてあります。すいませんでした。認識を改めます。

かば:BCGは大事ですよね。

かわうそ:そうなんですね。
活動性の結核に進行するのも8割近く減らします。ただ、10-15歳で効果がなくなってしまうんです。それ以降の感染は予防できません。

性器結核は、ネパールでは不妊に悩む女性には珍しくないらしいです。呼吸器の結核がないのは別に珍しくなく、この人の症状はまさに典型的なようです。

結核性子宮内膜炎についての病態生理もけっこうわかっているらしく、まず、もともとの感染巣から血行性またはリンパ行性に卵管に感染巣をつくります。そこからは卵管を通って子宮内膜にドレナージされます。だから、卵管狭窄はほぼ必発です。

子宮内膜生検で非乾酪性肉芽腫になる理由もちゃんとあります。子宮内膜は周期性に剥落しますので乾酪壊死を形成するまで成長しない、ということだかららしいです。脱落直前に採取すればあるかもしれません。また、卵管の病変を調べてみたら、乾酪壊死が見つかることも多いそうです。

かば:こうみてみると、まさに典型的ですね。
抗酸菌染色で陰性でしたが、PCRなども調べるべきなんでしょうね。

かわうそ:鑑別診断を否定していきます。
真菌ならもっと全身性になりそうです。ウイルスなら核内封入体などが見つかってほしいですし、ヘルペスやパピローマウイルスならもっと性器に皮膚症状が出てほしいです。これらは血行性ではなく上行性感染なんでしょうし。

サルコイドーシスもGPAも他の臓器に病変が出てほしいですね。性器だけってのはまれです。

というわけで、診断確定のためには、何度も生検をするべきであり、できれば卵管切除が必要なようです。
月経血培養で抗酸菌を検出するべき、と書いてあります。治療効果の確認用いるようです。培養の陰性を確認します。

かば:卵管切除したら自然妊娠しにくくなると思いますけど。でも、もう狭窄しているから働かないんでしょうね。

かわうそ:うそかほんとか、こういう場合、逆に切除したほうが人工授精の確率が上がると書いてあります。

さて、この症例の経過ですが、月経血と子宮内膜生検の培養から結核菌が検出されて診断され、治療に移ります。なんと、リファンピシンとイソニアジドの血中濃度の測定までしています。

かば:やったことないですね。

かわうそ:結核の治療は無事終わり、そのあとは人工授精でなんとか妊娠しています。

かば:子癇前症になったり、34週で帝王切開など書いてありますので、大変だったみたいですけど。

かわうそ:まあ今は母子ともに元気なようで、よかったですね。

時代小説とか読むと、子どもができないから離縁とかで事件が起きたりするのが定番だったりしますけど、結核も一因だったんですね。
ネパールで5割だったら、昔の日本でも似たようなものでしょうしね。

ちなみに、この号の「Images in clinical medicine」は、尿管結核でしたので、奇しくも結核つながりが見られました。


2016年11月16日

31歳女性、不妊症 その1

呼吸器科ではあんまり関係ない主訴ですが、実は馴染みのある疾患が原因です。


2016年9月28日

その1


かわうそ:31歳女性。不妊症で受診されました。そのほかは元気な方です。

かば:副鼻腔気管支症候群ですか?

かわうそ:なるほど。残念ですが違います。
子宮卵管造影検査を早速しています。Fig 1です。
見たことないのですが、キャプションによると、子宮の形は問題ないようです。
ただし、卵管は、中枢部分は問題ありませんが、末梢の方では拡張していたり、欠損しているように見える部分があるようです。
また、卵管采から腹腔内に漏出するはずの陰影が見えません。
つまり、排卵はあるかもですが、卵管を通っていかないのではないかと予想されます。

とにかく人工授精を2回施行されています。しかし妊娠しません。これはおかしいということで、さらに精査されました。

ここで最近の人工授精事情について、けっこうスペースとって説明しています。生きのいい(?)卵子を探す技術みたいなのも発達しているようなので、かなり成功率は高いはず、2-3回の失敗でおかしいと思うべき、みたいなことが書いてあります。なれない分野の英語でしたので、言葉の意味はよくわかりませんが。

かば:とにかくすごい自信ですね。

かわうそ:どの時期にどういう処置するのかについても、けっこういろいろマーカーがあるらしいです。ふーんって感じですけど。

さて、これから、どのような情報が知りたいですか?

かわうそ:受精卵ができたということは、卵子には問題ないのだと思います。戻したはずなのに妊娠しないわけですから、着床しないのが問題なんですよね。子宮内膜の問題でしょうか。
あとは、凝固系とか?それくらいしか思いつきません。

かば:そうですね、抗リン脂質抗体症候群は思い浮かびます。不規則抗体とか血液型不適合とかもでしょうか。

かわうそ:卵管の狭窄がどれくらい影響しているのかはわかりませんが、骨盤内感染ということで、性感染症とかは聞いておくべきでしょう。ここでも、B型肝炎、C型肝炎、淋病、クラミジア、HIVなどは調べられており、全部陰性でした。
さらに、人工授精にふさわしい卵子が得られているようですので、それほど心配しているわけではないのでしょうが、月経のサイクルなども聞いています。ちょっと月経困難症があるようですが、基本的には問題なし。なぜかpap染色しています。これも問題なし。たぶん産婦人科のお作法なんだと思います。

かば:拒食症とかはどうでしょう?

かわうそ:なるほど。それも聞いていて、ありませんでした。

生活歴としては、ネパール生まれ、インド育ち、アメリカに渡ってからはサウスウェストに住んで、それからマサチューセッツに来ています。
ネパール、インドは結核が蔓延していますので、アメリカ人にしては珍しくBCGワクチンを打っています。結核の家族歴ありません。

また、自覚症状や身体所見、血液検査では特に問題ありません。

かば:ホルモン検査は?

かわうそ:いろいろやられていますが、ちょっとコメントできないですね。月経周期によって正常値が変わるんでしたよね…。正直手におえません。
とりあえず、問題なしということで勘弁してください。

かば:卵子を作るところまでは正常なんですし、この症例ではあまり関係なさそうですね。
卵管を通らないところ、子宮内膜に着床しないところが問題なんですね。

かわうそ:そこで、次は子宮鏡をしています。子宮内膜にはポリープや線維化、瘢痕などはなく、見た目は正常だったようです。
子宮内膜生検をしました。その結果がfig 2ですけど、どう思います。

かば:…。あ、肉芽腫がありますね。

かわうそ:これらは全部肉芽腫らしいです。乾酪壊死はありません。抗酸菌や真菌などは、染色してまして認められなかったようです。
鑑別診断としては、どうでしょうか?

その2へつづく


2016年10月31日

鏡は横にひび割れて

NEJMのImages in clinical medicineからです。
写真をそのまま載せると問題ありそうですので、リンクしておきます。
ぜひ見て下さい。


2016年10月28日


かわうそ:8ヶ月の子どもの眼の写真です。黒目の真ん中に白いモヤッとしたものが写っています。
親御さんによると、4ヶ月前から両方の眼に白い不透明な物質ができて、眼振も目立ってきたとのことです。

かば:写真見ると白内障ですね。ていうか、題名にデカデカとCongenital Rubellaって出てますからね。

かわうそ:もうちょっと隠して、クイズ形式でもいいかなって思うときがあります。

さらに両側の白内障だけでなく、小角膜・小眼球症が認められました。
眼底所見は正直よくわかりませんが、風疹の網膜症の所見があるとのことです。salt-and-pepper appearanceというらしいです。そういわれるとそうかもしれません。

血液検査でIgMとIgG抗体が陽性でした。というわけでやっぱり先天性風疹症候群でした。母親が妊娠時に風疹に罹患したかは不明なのが怖いところです。少なくともワクチン接種歴はないとのことです。

かば:かわいそうですね。われわれはポリクリとか、小児科研修の前に抗体の有無を確認されますけど、一般的には自分の抗体の有無とか知らないでしょうからね…。

かわうそ:で、白内障の手術をして、リハビリをしています。さらに精査をしたところ、動脈管開存症があって結紮術を必要としました。
発達の程度が気になるところでして、その後もフォローされています。5歳4ヶ月の時点では、眼振が減少しており、視力もまあまあ回復していて、普通に学校生活を送っているようです。

かば:よかったですね。

かわうそ:私は先天性風疹症候群の話を聞くといつも、アガサ・クリスティーの「鏡は横にひび割れて」を思い出すんですよね。映画になるとなぜか「クリスタル殺人事件」なんですけど。
ご存知ですか?

かば:たしか、往年の大女優が毒殺されかかって、代わりにファンの女性が死んでしまう話ですよね。
先天性風疹症候群が動機になってましたね。

かわうそ:アガサ・クリスティーは、薬剤師の経歴がありますから、こういう背景の話があってもいいと思いますけど、少なくても当時の読者も、先天性風疹症候群がどういうもので、殺人事件の動機になりうるということを理解していたということになりますよね。

かば:今の日本ではちょっと通じないかもしれません。

かわうそ:だからこの映画を啓蒙活動として勧めるといいと思ってるんです。

…。ちょっと話変わりますけど、アガサ・クリスティーの話って、けっこう医師が犯人とか嫌な役が多いような気がしているんですけど。やはりアガサ・クリスティーの職歴が関係してるのでしょうね。

かば:考えすぎじゃないですか?


2016年10月20日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その3

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:Discussionに入ります。
もう一度結果をまとめます。心血管疾患のある閉塞性睡眠時無呼吸患者における二次予防についての本研究では、通常の治療にCPAP治療を加えたことで、重症心疾患系イベントのリスクは減らせませんでした。ただし、CPAP治療は日中の眠気を減らし、HR-QOLやmoodを改善させるなど、自覚症状については良好な効果が期待できます。

私は知りませんでしたが、実はこの結果はそれほど目新しいものではないようです。
既報について述べられています。これまでに3つ、似たような目的でランダム化比較試験が行われています。
一つ目はスペインで行われた他施設試験で、心血管疾患のない閉塞性睡眠時無呼吸患者725人が対象でした。もう一つは、単施設で冠動脈疾患でカテーテル治療を受けたばかりの閉塞性睡眠時無呼吸患者224人を対象にしています。いずれも数年間のフォローアップで、心血管系の複合エンドポイントで有意差を示せませんでした。しかし、アドヒアランス良好な患者では良好なアウトカムが得られたというサブ解析がなされています。3つ目は最近の虚血性脳卒中140人で行われたもので、CPAP治療は、2年のフォローアップでevent free survialに影響しなかったというものです。

かば:ということは、CPAP治療で心血管系、脳血管系疾患には予防効果がないということは、専門家の間ではあたりまえだったということですか?私も知らなかったんですけど。

かわうそ:みたいです。これはちゃんと言ってほしかったですけどね…。
limitationとしては、この研究を始めた時期には参加した幾つかの地域では、睡眠時無呼吸の診断や治療が一般的ではなかったということがあります。ただし、研究施設に対して説明やモニターを十分にして、質の良い研究になるよう配慮したとのことで、試験の結果に影響するようには思えません。

また、今研究でのCPAPのアドヒアランスは平均で3.3時間/日であり、これが問題なのかもしれないといっています。
これくらいのアドヒアランスのレベルは、既報と同程度なんですが、心疾患系のアウトカムに影響するほど十分ではなかったのかもしれません。

かば:もっとアドヒアランス良好な場合に、はっきりとした治療効果があるかもしれないってことですか?

かわうそ:と、言いたいのだと思います。でも、サブグループ解析の結果を見ると、それもどうなんでしょうかね…。

また、効率的にリクルートして、他施設でのデータに矛盾がないようにするため、conventionalでstandardなPSG検査ではなく、単純なスクリーニングデバイスを用いて被験者を集めています。ここが問題なのかもしれません。
ただし、AppneaLinkは既報によると、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸を診断するのに信頼できるデバイスということですので、やはり結果にそれほど影響するとは思えませんね。

かば:中等症の閉塞性睡眠時無呼吸を含めたからでないですか?重症の人なら違うかも。

かわうそ:それも、いちおうサブグループ解析でやってます。

かば:重症だと人数が少なくなるので有意差が出にくいとか。だから、重症の人だけを2000人集めたら有意差がでるかも。 実臨床でも、中等症の人だとコンプライアンスが悪い印象ありますから。

かわうそ:かもしれませんが、それだけの規模で研究してようやく有意差がでるくらいの結果だとしたら、そんなに熱心に治療しないといけないのかって思いますけど。

かば:自覚症状が非常に改善した人を集めたらどうなんでしょうか?

かわうそ:なるほど。たしかに、そういうサブグループ解析はなかったように思いますが、経験上、睡眠が改善してばっちり眠気がとれたといって満足している人は、やっぱりアドヒアランスが良好な気がします。
だから、アドヒアランス良好群とそれほど異なるグループにはならないのではないでしょうか。

睡眠時無呼吸の人っていろいろいますからね。日中の眠気などの自覚症状がひどい人から、家族からいびきがひどいと言われるくらいで、自覚症状が全くない人とか。
自覚症状の強い人が、CPAPをつけて眠気が改善されたりすれば、モチベーションが上がってつけ続けてもらえることが多いですが、自覚症状のもともとない人は、マスクの不快感が強くて、続けられない人がいますよね。
そういう人につけ続けてもらうために、AHI低下の他に、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防する目的でつけ続けてください、と言っていたんですけどね。こういう事実を知ってしまうと、これから情熱を持って診療続けられないですよ!

かば:そんなにCPAP治療に情熱もってやってたんですか?(;一_一)

2016年10月14日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その2

結果です。なかなかおもしろい結果ですよね。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。15325人あつめて、そのうち5844人が適格基準に当てはまりましたので、アプニアリンクによる検査をしています。3246人が中等症以上になりましたので、run-in periodの1週間、シャムCPAPをしています。2717人が忍容性があり研究に参加しました。これをCPAP+usual care群とusual care alone群に半分ずつにわけていますが、なんやかんやで減って、結局2687人が解析されました。
平均年齢は61歳、81%が男性、BMIが29、ODIは28でした。ESSは7.4でそれほど高くありません。途中で脱落したのは147人でした。フォローアップの中央機関は3.7年です。
Table 1が患者背景になります。

かば:フォローのレベルがハンパないですね。

かわうそ:お金かかってますよね。
アドヒアランスを見てみると、シャムCPAPの段階では5.2時間着用していましたが、1ヶ月後には4.4±2.2時間に減っています。12ヶ月後では3.5±2.4時間で、それ以降は安定していました。AHIは3.7まで減少しており、OSAがCPAPで良好にコントロールされていることを示唆していました。CPAP群1346人中566人、42%は1日あたり4時間以上着用しておりアドヒアランス良好でした。いろいろ批判もあるでしょうけど、実臨床の感覚からするとこれくらいなんじゃないでしょうか?usual care alone群の中でも、90人、6.7%がCPAPを試みられたようです。うち57人のみが治療を継続しているとのことでした。よいのでしょうか?
薬物治療、食事・喫煙などの生活習慣、BMIの推移などには両群間で差がありませんでした。

さて、プライマリーエンドポイントについてですが、全部で436人で心血管系のイベントが記録されています。うちわけをみると、CPAP群で229人、17.0%に対し、usual care alone群では207人、15.4%でした。HRは1.10で、むしろCPAPで治療したほうが、心血管イベントを起こしやすいという結果でした。もちろん、95%信頼区間が0.91-1.32、p値0.34ですので有意差はありませんでしたが。Table 2、Figure 2に書いてあります。

かわうそ:さすがにこれでは困りますので、サブグループ解析を追加していろいろ解析していますが、それでもCPAP群がよかったという結果はでませんでした。
参加者が多様ですので、中国とそれ以外、年齢、性別、OSAの重症度、BMI、日中の眠気の有無、心血管系疾患の既往、耐糖能障害など、いろいろやっています。

かば:涙ぐましい努力ですね。

かわうそ:ただ、CPAP治療のアドヒアランス良好群では、アドヒアランス不良群やusual care群とは異なっていました。

名前だけはおなじみ、で有名なプロペンシティースコアマッチングの結果を、アドヒアランス良好群で見てみましょう。CPAP群でアドヒアランス良好だった561人と、それとマッチするようなusual care alone群を集めてきて比較しました。この集団だと、CPAP群では86人(15.3%)でイベント発生に対してusual care alone群では98人(17.5%)でした。HRが0.80で95%CIが0.60-1.07、p=0.13でしたので、有意差はないもののCPAP治療が良好な結果につながりました。
カプランマイヤー曲線でもこの結果を確かめたとのことです。図はsupplementary appendixです。

かば:想定したよりアドヒアランスがよくなかったんですかね。アドヒアランス良好群がもっといたら、ちゃんと有意差がでたのかもしれませんね。

かわうそ:でも、これくらいギリギリの差しかないなら、苦しくめんどくさいCPAP治療をしたくないと患者さんが考えても、止められないですよ。

セカンダリーエンドポイントでも、ほとんど有意差がついていませんが、唯一、CPAP群で一過性脳虚血発作による入院が増えたという結果がでました。RR=2.09、95%CI=1.05-4.99、P=0.04です。また、アドヒアランス良好群とusual care郡のプロペンシティースコアマッチングの解析結果では、卒中や脳血管イベントの複合アウトカムでCPAP群がよいという結果がでていますが、これも多変量解析では消えてしまいました。

かば:なんならCPAP群の方が悪いですね。この結果って、あんまり話題になっていないように思いますけど。黙殺されてません?

かわうそ:そんな気がしています。
ただ、自覚症状だけはCPAP群で良好でした。Table 3に載っています。
ESSがCPAP群でベースラインとくらべて3減っています。HADSも良くなったと言っていますが、これが臨床的に意味のある違いなのかどうかは知りません。統計的に有意差があっても、臨床的には意味のない違いっていうのは、けっこうこっそりと論文に紛れ込んでいたりしますから、ちゃんと元論文にあたってみる必要があるんでしょう。やっていませんが。SF36もCPAPでよかったと書いてありますし、健康状態が悪くて仕事を休んだ日も少なくなっています。

でも、ESSで3の差って、CPAP治療の劇的な効果からすると、ちょっとしょぼくないですか?

かば:あまり自覚症状のない人を集めたらしいんで、しょうがないのでは?

かわうそ:なるほど。
まあ、ちょっとせつない結果の論文ですので、ここくらいは著者の主張を信じてあげたいと思います。

そういえば、血圧は経過中下がっていませんでした。これは既報と違うところです。

さて、睡眠時無呼吸で気になるのは交通事故との関係ですよね。これは、Table 4に書いてあります。
交通事故だとか、事故による外傷とか、ニアミスとか書いてあります。データのある人数が少ないからなのかもしれませんが、これも有意差ありませんでした。

タクシーとかトラックの運転手が、睡眠時無呼吸で受診したばあい、今後どうなるんでしょうね。何をやっても事故が減らないんですけど。

その3へつづく。


2016年10月11日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その1

これまでの診療を一変させうる、けっこう衝撃的な結果と思いますけど、あんまり話題になっていないように思うんですけど?
イントロから方法までです。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その1

かわうそ:睡眠時無呼吸は、いびきとか日中の眠気が問題なだけではないんですよね。
夜間に一時的な低酸素血症になって、交感神経が活性化され、高血圧になったり、酸化ストレスや炎症反応が亢進、血液過凝固傾向になるとされています。また、胸腔内の陰圧が上がることで、心臓、大血管に強い力学的ストレスがかかるそうです。
これまで報告されているコホート研究では、睡眠時無呼吸と心血管系疾患、特に脳卒中などのイベントには強い相関があるとされてきました。

かば:われわれには特になじみのある分野ですね。

かわうそ:直接的に関与したことはないですが、噂はよく聞いてました。
さて、過去のRCTでは、CPAP治療によって、血圧が低下するとか、血管内皮細胞の機能、インスリン抵抗性の改善などの効果も報告されています。
これまでの観察研究の報告では、CPAP治療により心血管系の合併症や死亡を、特にアドヒアランスの良い人で減らすと言われていました。

心血管系疾患の既往のある人の4-6割で、OSAが合併していると言われています。こういう患者さんでは、十分な薬物治療をしているにも関わらず心血管系のイベント再発のリスクが高いので、CPAP治療を追加することでリスクを予防できるかもしれないと言われていました。

かば:これまで証明はされていなかったんでしょうか?意外ですね。

かわうそ:この確認のため、今回のSAVE study(Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints study)というものをやってみた、ということです。「OSA患者の心血管系イベント発生率の減少の点でCPAPが効果があるかどうかを評価するためにデザインされた二次予防研究」らしいです。

かば:ちょっとEが強引ですね。

かわうそ:方法です。研究デザインとしては、国際的、多施設共同、ランダム化、パラレル、オープンラベルの研究デザインです。シャムCPAPではないので、どちらのグループに入ったかは、医師も患者もわかっているんですが、エンドポイントとなるイベントの評価については、ブラインドされているということです。
Philips Respironics社とResMed社が研究資金と機械を提供しました。

かば:けっこうプレッシャーかかりますね。結果を出さないといけない。

かわうそ:参加者は7カ国、89の施設で集められました。適格基準は、45-75歳で、心血管系または脳血管系疾患があり、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断されていること、です。閉塞性睡眠時無呼吸の診断はPSGではなく、ApneaLinkというResMedの機械をつかって、ODI4>12で診断しています。あと、あんまりにも自覚症状が強い人は除外されています。ESSが15以上、または重症の低酸素血症、チェーンストークス呼吸で居眠り運転事故のリスクが高いと診断された場合は除外されています。

かば:なんで自覚症状が強い人は除外なんでしょうか?

かわうそ:書いてなかったので私の推測なんですけど、自覚症状が強い人に対して、CPAP治療をしないのが、倫理的に問題があると判断されたのかもしれません。

参加者はCPAP治療に対して最低限のアドヒアランスが必要ですので、1週間のrun-in periodを設けてシャムCPAPを着けて寝てもらい、平均3時間以上着用できた人を選んでいます。

CPAP治療は、Philips Respironics社のREMstar AutoのMかPRが使われています。はじめの一週間はオートマチックモードにセットされ、それからは記録されたデータに基づいて計算された90th percentileの圧に固定されます。心血管系リスクを下げるための投薬治療などはガイドラインに従って行われました。また、すべての参加者は睡眠習慣改善のためのアドバイスをうけています。診察は、1、3,6,12ヶ月とそれ以降1年毎に設定されました。年一回の診察以外に半年ごとに電話での調査も行われました。

測定項目は、血圧、脈拍、投薬内容、health behaviorが記録されています。CPAP群では、CPAPのアドヒアランスのデータもです。ランダム化のとき、6ヶ月、2年、4年目に身体測定と、質問票としてESS、SF36、HADS、EQ5Dを取っています。

どちらの群に割り当てられたかを知らないcommittee memberが、心血管系のアウトカムを判定しました。
プライマリーエンドポイントは、心血管疾患の複合アウトカムです。ここには、心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、心不全、急性冠症状、一過性脳虚血発作による入院です。
前もって指定したセカンダリーエンドポイントとしては、カテーテル治療、心房細動、糖尿病発症、全死亡などを追加しています。あとは自覚症状、QOL、気分などを見ています。
安全性についてのエンドポイントには、運転中や仕事中に怪我に繋がったような事故など、参加者の居眠りに関係した項目があり、これも興味あるところです。

統計は省略します。

かば:かまわんよ。

かわうそ:しのびねえな。

その2へつづく。


2016年10月3日

ジャディアンスって何? その2

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その2

その1からつづき


かば:患者背景とかはどうなんです?

かわうそ:65歳前後でBMIが30くらい、A1cが8くらいです。血圧や脂質異常症はコントロールされているようですね。
ACEやARB、メトホルミン、SU剤などの服用率は高いです。

かば:BMIが30って聞くと、これをそのまま日本で当てはめて使っていいのかわからないですね。

Figure 2をみると、もともと腎機能の良くって蛋白尿がない人には、あんまり効果がないんでしょうね。腎機能の悪い人には意味のある薬なのかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。ただ、どういう人に使うべき、ということについては、考察でも触れられていませんでした。なにせ腎機能悪化進行抑制効果が初めて証明されたわけですので、eGFRが低くて禁忌になっていなければ、全員につかうべき、くらいのテンションなんでしょうか。

腎機能について言えば、そもそも尿糖が出ているというのは、けっこうどきっとする検査異常ですよね。薬でそういう状態を作ってしまうというのが、腎機能の予後的にどうなのか、という懸念があります。
で、それについての検討がされています。Figure 3です。
プラセボ群だと、経時的にeGFRが低下しています。それと比較してエンパグリフロジン群では、飲み始めにややeGFRが低下するものの、そのあとは安定して変化ありません。
さらに、内服終了後、エンパグリフロジン群ではもとのレベルまで回復するという結果まで出てしまっています。

まあ、プラセボ群で悪くなったと言っても、3年間でeGFRで4くらいなので、それがどれくらい意味があるのかというのも…。

長期フォローの研究ですので、尿蛋白やeGFRなどの検査結果で差がでたと大騒ぎするのも、ちょっと。あくまでサロゲートマーカーにすぎないんですから。

とはいうものの、こういう結果がでた糖尿病の薬が初めてということなので、期待が大きいんでしょうね。低血糖発作もあまりないようですし。

ちなみに、adverse event、有害事象についても一言いいですか。

かば:どうぞ。

かわうそ:最近の傾向なんでしょうけど、内服中におきたあらゆるイベントをここに入れてしまっているんですけど、なにせやたら多いんです。どちらの群でも9割くらいが副作用を報告されています。severeだとかseriousな副作用ですら、3-5割で報告されたことになっています。ここまで来ると、かえって本当の薬の副作用がわからなくなっちゃうように思いますけど。

かば:ネットで調べると、「エンパグリフロジンは、プラセボと比較すると、心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中のリスクを14%有意に低下させた」だとか「3人に1人の割合で心血管死を抑制した」、らしいんですけど。
ネットでは、素晴らしい結果だ、という好意的な評価が多いみたいです。

かわうそ:ほんとですか?なんか、ここに書いてある数字からは想像できない数字ですけど。有害事象の表に、any deathっていうのがありますけど、5-6%くらいしかないです。腎不全死が少ないんですから、ほとんどが心血管死ってことですよね。なら、そんな華々しい結果になりますかね?
まあ、もとの論文に当たってみないとなんともいえませんけど。

かば:そういえば、エンパグリフロジンの投与量が2種類あって、それを一緒の群として解析するのもどうなんでしょうか?

かわうそ:添付文書を見ると、体格や腎機能で用量を調整するわけではなく、効果不十分な場合は増量らしいですし、たしかにおかしいですね。

とにかく、いろいろツッコミ所のあるよい論文だったと思います。


2016年9月30日

ジャディアンスって何? その1

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その1

かわうそ:薬剤名はジャディアンスっていうんですけど、知ってます?

かば:すいません。知らないです。糖尿病も最近新しい薬が多いですね。

かわうそ:ナトリウム・グルコースの共輸送担体(SGLT)を阻害するという、これまでとは違った機序で血糖を下げます。自分の昔の生理学の知識では、腎糸球体で濾しだされた糖とナトリウムを尿細管で再吸収していたと思うんですけど、ここを止めることで糖の再吸収を抑制します。
つまり、余分な糖を尿糖として排出することで血糖値を下げるという理屈です。そうすると糸球体内圧も減って、糸球体の傷害も抑制されるのではないかと仮説されます。

かば:ちょっと何言ってるかわかんない(笑)

かわうそ:(サンドウィッチマン富澤?)
…。さて、2型糖尿病かつeGFR≧30の人を集めています。で、このエンパグリフロジンを10または25mg、またはプラセボを投与しています。ほかの糖尿病治療や心血管治療はガイドライン通り普通にやっていて、それに上乗せしたときの効果を評価しています。
腎障害としては、顕性アルブミン尿が新たに出現、Creが2倍になる、透析が始まる、腎不全死というものを複合アウトカムとして評価しています。

もともと、エンパグリフロジンの効果を調べる研究として、EMPA-REG試験という大規模な研究がありました。
プライマリーアウトカムは、心血管系の複合アウトカムです。いつもの通り、心血管系疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中になっています。
で、もともとのセカンダリーアウトカムとして、微小血管の傷害発生を設定していました。網膜症で光凝固したとか硝子体出血があったとか失明したとか、それと腎機能の悪化というものを設定しています。ただ、どうやら殆どのイベントが腎機能の悪化だったらしくて、今回はそれだけを取り出して解析したものの報告ということになっています。

結果ですけど、エンパグリフロジン群では4124人中525人で12.7%、一方プラセボ群は2061人中388人で18.8%でした。当然有意差がついて、HRなんかも0.61ということで、非常に効果的でした、と書いてありますけど…、これは、なんと言ったらいいか…。

かば:どうしました?すごい結果じゃないですか。

かわうそ:あんまり糖尿病における蛋白尿の重要性を認識していないだけなのかもしれませんが、顕性アルブミン尿の出現と透析を一緒にして複合アウトカムにしていいんでしょうかね?それに、Creが2倍になるのも確かに問題ですが、透析導入や腎不全死と比べるとちょっと…。

実際、Creが2倍になった症例は、エンパグリフロジン群4645人中70人、1.5%に対して、プラセボ群で2323人中60人で2.6%なんですよ。
腎代替療法についても、エンパグリフロジン群では4687人中13人(0.3%)、プラセボ群で2333人中14人(0.6%)ですからね。5割抑制しました、とだけ言われればすごいですけど、NNTは1/(0.006-0.003)=333ですし。そりゃ、透析ってのは大事ですから、それでもいいんだ、と言われればそれまでですが…。

かば:とにかく、ほとんどのイベントが顕性アルブミン尿ということなんですね。

かわうそ:そうなんです。ここまで一方的なアウトカムの差があるのに、複合アウトカムとして扱っていいのかな、と思います。まあ、ちゃんとアブストラクトに数字が出されているので、読めばいいんでしょうけど。

ちなみに、ネットで検索したら、ベーリンガーとイーライリリーのプレスリリースを見つけました(https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/pressrelease/2016/16-34_co.jp.pdf)。こちらでは、この辺りの違和感は巧妙に隠された形だと言わざるを得ません。うそは言っていないんでしょうけど、ズルいと思います。

あとですね、これはもしかしたら既報で述べられているからなのかもしれませんが、血糖降下薬ならA1cがどれくらい減ったか、くらいは書いてほしいんですけど、どこにもありません。臓器障害の抑制という、絶対的な目標について調べているわけなので、A1cのようなサロゲートマーカーは眼中にないのかもしれませんけど。
都合の悪いことだから書かれていないのか、当たり前だから書いていないのか、不要だから書かれていないのか。ちょっと不自然に感じます。

その2へつづく



2016年9月20日

33歳男性、肛門痛と出血 その2

診断と治療経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その2

その1からつづき

かわうそ:炎症性腸疾患の中では、潰瘍性大腸炎やベーチェット病は少し印象が違います。クローン病が考えやすいとのことです。
感染症としたら、どれっぽいですか?

かば:結核はどうですか?

かわうそ:そうですね。経過が長いですからね。でも、結核性直腸炎というのは、どうなんでしょうか?AIDS発症していればありうるのかもしれませんが、この人はHIVネガティブですし。さらに、直腸だけでなく、肛門にも合併して病変をきたすような結核はさらにまれ、ということらしいので頻度的に除外できそうです。

クラミジアや淋病については、もう少し罹病期間が短いはずです。一応、最後のMSMから半年経っているはずですので。ただ、本当にそうか、という点はきちんと確認すべき、と書いてあります。

かば:じゃあ、ヘルペスは?

かわうそ:もうちょっと皮疹がメインと思いますし、あんまり消化器症状は聞かないですね。

かば:そうか、そうですね。

かわうそ:まあ結局、梅毒が鑑別として外せないところらしいです。会陰部に潰瘍だとか扁平コンジローマだとかの病変をきたしますし、経過も矛盾しないようです。
梅毒といえば、皮疹についてこれまで述べられていないじゃないか、と思うかもしれません。実際、9割の人に出現するはずです。ただ、非常に曖昧な症状なので、患者自身も医師も、きちんと認識するのは難しいようです。

ちなみに、感染症医がしっかりと診察したら、手のひらと足の裏に皮疹を発見しました。場所的になかなか難しいところですね。梅毒を疑わないと診ないかも。

ただ、この症例の場合は、肛門裂傷を診察した際に、直腸鏡をして直腸炎に気がついているわけですので、その標本を調べれば診断できそうです。あとは、血液検査で抗カルジオリピン抗体、抗Treponema 抗体を調べれば完璧でしょう。クローン病との鑑別も問題無くつきそうです。

で、Figure 1が病理所見ですが…。

かば:すごく粘膜にリンパ球が集まっていますね。

かわうそ:そうです。腺組織が減って、リンパ球を中心とした炎症細胞が集まっています。再生している像もあります。このへんは全然知りませんが、キャプチャーをみるとクローン病とは全く違う所見とのことです。免疫染色でスピロヘータの存在も証明できました。

かば:こんなにいるんですか!

かわうそ:怖いですよね。
ただ、一般的な梅毒の染色では全然見つけられず、特殊な免疫染色を用いた、と書いてありましたので、やっぱり臨床所見から梅毒を疑わないと、診断が困難な症例なのかもしれません。

治療は何か知ってます?

かば:ペニシリンです。

かわうそ:ペニシリンGの筋注ですよね。この人もその治療をしていますが、日本には注射剤がなくて延々と内服しないといけないというのもまた有名な話です。
で、抗体価も治療によってきちんと下がっています。

あと、MSMの場合、性感染症に罹患していないか、定期的にフォローが必要です。また、HIVに対して暴露前予防のため、テノホビル・エムトリシタビン(ツルバダ配合錠)の内服をしています。
このあたりはもはや常識なんでしょうか?この記述読んだ時はけっこうビックリしましたけど。

かば:そうですね。国試にもでていると思います。

かわうそ:リンパ球数が減って初めて内服開始と言われていた時代からすると、隔世の感がありますね。まだ数年しか経っていないはずですけど。
こうやって知識をアップデート出来て良かったです。

ただの痔でしょ、と思ったら、クローン病なども鑑別に上がってきて、やっぱり性感染症だったという流れで、けっこう二転三転して面白かったですね。


2016年9月15日

33歳男性、肛門痛と出血 その1

ちょっと微妙な症例なんですけど。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その1

かわうそ:33歳の男性の直腸の痛みと出血です。排便時にお腹が痛い、拭いた時に血がつくとのことです。4ヶ月前からということで結構長く症状続いています。
便自体には血が付いていないようです。

かば:ふーん。普通に聞いたら、ちょっと経過は長いですけど、まずは痔と考えますね。

かわうそ:まず家庭医のところを受診しています。さすがに偉いな、と思うところは、この男性がMSM(Men who have Sex with Men)であることを聞いているということです。というわけで、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどを調べておきましょう。
また、直腸診もしており、外痔核を確認しています。

かば:結果としては、HBV抗体が陰性みたいなので、ここは介入の余地がありますね。

かわうそ:サイリウム(下剤)、NSAIDS、局所ステロイドを処方しています。
しかし、10週間後に再診しました。痛みが全然引かないようです。バイタルなどは初診時と変りなく、特に問題ありませんが、これでもう半年くらい悩んでいることになります。

さて、この時点でなにか考えることありますか?

かば:この分野には、あんまり経験ないので…。

かわうそ:そうですよね。専門科に任せますね。
病歴としては、あまり大したことありません。既往歴も家族歴も問題ありません。
さて、専門科ではさすがにしっかりと身体所見の評価がされています。視診上、前部と後部の二箇所に深い裂肛を認めました。sentinel skin tagなんかもできています。
普通、裂肛は9割後部にできて、残り1割が前部です。このように2箇所できたり、横に裂肛を認めたりすると、即、基礎疾患があると考えるべきとのことです。

というわけで、ここで直腸鏡を施行されています。すると、直腸にも粘膜の炎症が認められました。

ですので、ただの外痔核と思った病変が、ここで急に内科の領域になってきます。

かば:潰瘍性大腸炎なんかの、炎症性腸疾患とかですかね。

かわうそ:さすがですね。ただ、潰瘍性大腸炎は肛門の病変は有名ではないので、鑑別の上位にはこなさそうです。直腸から上行する潰瘍病変がキーワードでしたっけ?

あと、大腸炎ではなく直腸炎というところも鑑別疾患を挙げるのに役立ちます。そもそも、あんまりproctitisという英単語は目にしないですよね。

かば:そういえば。

かわうそ:直腸炎と大腸炎では症状も違います。直腸炎は、典型的には排便障害、切迫感、渋り腹、失便などが典型的です。一方、大腸炎では下痢、腹痛、腹部膨満、体重減少などの症状がでます。当然、大腸から直腸に炎症がまたがることもあるのですが、この症例ではほぼ直腸炎の症状だけと考えられますので、けっこう典型的な直腸炎となります。

あと、炎症性腸疾患だけでなく、この方がMSMであることを考えると、性感染症なども当然考えるべきですよね。あとは、外傷、虚血、アミロイドーシスなどが鑑別に上がってきます。表に一覧が載っています。
ただ、外傷は、ちょっと経過が長いので消えそうですね。
虚血も、このような若年でリスク要素のない人は、消えそうです。

というわけで、やっぱり感染症か自己免疫疾患が残ってきそうです。

その2へつづく


2016年8月10日

ホセ・デ・リベーラの絵画に描かれたPectus excavatum

医学論文とはちょっと違うので、英単語に馴染みがなくて読むのに苦労しました。

Pectus excavatum in paintings by Jusepe de Ribera (1591-1652).
Thorax. 2016 Jul;71(7):669-70.
Lazzeri D, Nicoli F.


2016年8月1日

かわうそ:Pectus excavatumという疾患が描かれているわけなんですが、まず、ホセ・デ・リベーラって知ってます?

かば:知らないです。

かわうそ:カラバッジョのリアリズムの流れを組んだ画家とのことです。この絵のように、明暗を強調して、聖人の衰えた肉体を美化することなく写実的に描いていることなど、たしかに影響がうかがわれますね。

聖人の受難・殉教のシーンをドラマチックに描くことが多いようです。当時はかなり人気だったようです。
私も、カラバッジョの絵が好きですので、けっこう好みの画風ではあります。

で、写実的な画風のためか(?)、解剖学的異常や内科疾患もリアルに描かれています。
有名な絵としては、「えび足の少年」、「髭のある女性」、「盲目の彫刻家」などがあります。

「髭のある女性」については、大塚国際美術館で見た記憶があります。まあ、インパクトのある絵ではあります。

かば:大塚国際美術館行ったことあるんですか?複製が大量に置いてあるんですよね。どんなとこですか?

かわうそ:入場料が高いだけあって、充実してますよ。1日では回れないくらいです。何度か行きましたけど、楽しみました。食事も美味しいし。

かば:「えび足の少年」は見たことありますね。「髭のある女性」は、男性ホルモン過剰でしょうか。

かわうそ:だとすれば、不妊になると思うので、この絵のように授乳しているのはおかしいように思うんですよね。ほんとに写実的なのでしょうか?どこか誇張があるように思います。別にそれでいいと思いますけど。

さて、この絵を見て、描かれた疾患はわかりますか?この号のThoraxの表紙にもなっています。本文には他に2つの絵が載っています。


かば:うーん?

かわうそ:ちなみに、描かれた聖人は、St JeromeとSt Onophriusです。St Jeromeというのは聖ヒエロニムスのことだそうです。St Onophriusについては日本語のWikipediaがなかったので不明です。ただ、どちらも別に殉教した人ではないみたいなんですよね。少なくとも、聖ヒエロニムスは、砂漠で隠遁生活を送った神学者、というイメージなんですけど。あと、自分にとって、ヒエロニムスといえばライオンと一緒に描かれているもの、と考えていましたので、ちょっとこの絵をヒエロニムスと言われても違和感があるんですよね。

かば:で、疾患は?Pectus excavatumってなんでしたっけ?

かわうそ:実は、漏斗胸なんです。

かば:なるほど。そういえば。

かわうそ:ところで、なぜ漏斗胸が描かれているか、なんですが、いまいちはっきりしません。

かば:この聖人にそういう伝承があったわけではないんですか?

かわうそ:ないようなんです。この絵以外には、これらの聖人が漏斗胸として描かれているものはないのです。
ちなみに、漏斗胸自体は、レオナルド・ダ・ヴィンチが初めて解剖学的に考察しているようですし、この時代には医学的にも認識されていたとのことです。

かば:漏斗胸だと、見た目の問題の他に、呼吸機能低下とか呼吸困難などの自覚症状が出てくることがあるので、そういう苦難を聖人の苦悩の象徴として描いたのでは?

かわうそ:なるほど。そうかもしれませんが、真相はもはやわからないです。
ただ、なんとなくですが、光と影を強調したかったのかな、と思います。で、そういうモデルを探してきたのではないでしょうか。


2016年8月4日

GERDと咳の関係

すっきりとわかりやすい論文でした。

The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms.
Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.
Lavorini F, Chellini E, Bigazzi F, Surrenti E, Fontana GA.


2016年7月29日

かば:Deflation coughってわかります?「肺活量測定の時、息を吐き切った時に誘発される咳のような排出努力」という定義らしいんですけど。

かわうそ:なんとなくわかります。聴診のとき、強制呼気で咳き込むってことですかね。

かば:そういうイメージでいいと思うんですが、定義上は、肺活量測定なので、ゆっくり呼出して肺が空っぽになった時に誘発される咳嗽とのことです。なので、強制呼気とは少し違うのかもしれません。とにかく、胃食道逆流、GERDの症状と考えて良さそうです。

そのDeflation Cough、DCとGERDの関係を調べたのが本研究です。

157人で、DCの評価と24時間食道PHモニタリング、MII-pHをしています。

かわうそ:24時間食道PHモニタリングを157人で!

かば:なのでCHESTに載ったんだと思われます。

157人中、93人では慢性咳嗽もありました。
DCは、肺活量測定を2~4回繰り返して、咳込みを耳で測定したとあります。

結果です。表をみてもらう方がわかりやすいですね。2×2表が載っています。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1531
DCなし1596

DCとGERDには関係がありました。P<0.01です。
感度50%、特異度76%、陽性予測率33%、陰性予測率86%ということでしたが、著者はまだ満足していません。

かわうそ:けっこう立派な結果に感じますけど。

かば:そこで、慢性咳嗽のある93人に絞って解析しています。慢性咳嗽についてはVASで評価したとのことです。ちなみに、この中に現喫煙者はいませんでした。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1525
DCなし251

こうすれば、感度88%、特異度67%、陽性予測率38%、陰性予測率はなんと96%ということになりました。

かわうそ:すごいですね!
でも、つまり…、どういうことだってばよ?

かば:つまり、遷延性咳嗽・慢性咳嗽で受診した患者さんで、強制呼気で聴診をしたとしますよね。

かわうそ:うんうん。

かば:その時に、DC、咳込みがなかったとしたら、GERDの可能性が低くなるので、PPIを出さなくてもよいということになると思うんです。

かわうそ:なるほど。
強制呼気時の咳込みって、けっこう喘息に典型的かと思っていましたけど、GERDに関係するんですね。

かば:胸腔内圧が高まることで胃酸逆流につながるんじゃないか、とDiscussionに書いてありました。
この論文は全部で6ページだけで、非常にシンプルですけど美しい結論ですよね。