ラベル 原著論文 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 原著論文 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016年10月20日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その3

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:Discussionに入ります。
もう一度結果をまとめます。心血管疾患のある閉塞性睡眠時無呼吸患者における二次予防についての本研究では、通常の治療にCPAP治療を加えたことで、重症心疾患系イベントのリスクは減らせませんでした。ただし、CPAP治療は日中の眠気を減らし、HR-QOLやmoodを改善させるなど、自覚症状については良好な効果が期待できます。

私は知りませんでしたが、実はこの結果はそれほど目新しいものではないようです。
既報について述べられています。これまでに3つ、似たような目的でランダム化比較試験が行われています。
一つ目はスペインで行われた他施設試験で、心血管疾患のない閉塞性睡眠時無呼吸患者725人が対象でした。もう一つは、単施設で冠動脈疾患でカテーテル治療を受けたばかりの閉塞性睡眠時無呼吸患者224人を対象にしています。いずれも数年間のフォローアップで、心血管系の複合エンドポイントで有意差を示せませんでした。しかし、アドヒアランス良好な患者では良好なアウトカムが得られたというサブ解析がなされています。3つ目は最近の虚血性脳卒中140人で行われたもので、CPAP治療は、2年のフォローアップでevent free survialに影響しなかったというものです。

かば:ということは、CPAP治療で心血管系、脳血管系疾患には予防効果がないということは、専門家の間ではあたりまえだったということですか?私も知らなかったんですけど。

かわうそ:みたいです。これはちゃんと言ってほしかったですけどね…。
limitationとしては、この研究を始めた時期には参加した幾つかの地域では、睡眠時無呼吸の診断や治療が一般的ではなかったということがあります。ただし、研究施設に対して説明やモニターを十分にして、質の良い研究になるよう配慮したとのことで、試験の結果に影響するようには思えません。

また、今研究でのCPAPのアドヒアランスは平均で3.3時間/日であり、これが問題なのかもしれないといっています。
これくらいのアドヒアランスのレベルは、既報と同程度なんですが、心疾患系のアウトカムに影響するほど十分ではなかったのかもしれません。

かば:もっとアドヒアランス良好な場合に、はっきりとした治療効果があるかもしれないってことですか?

かわうそ:と、言いたいのだと思います。でも、サブグループ解析の結果を見ると、それもどうなんでしょうかね…。

また、効率的にリクルートして、他施設でのデータに矛盾がないようにするため、conventionalでstandardなPSG検査ではなく、単純なスクリーニングデバイスを用いて被験者を集めています。ここが問題なのかもしれません。
ただし、AppneaLinkは既報によると、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸を診断するのに信頼できるデバイスということですので、やはり結果にそれほど影響するとは思えませんね。

かば:中等症の閉塞性睡眠時無呼吸を含めたからでないですか?重症の人なら違うかも。

かわうそ:それも、いちおうサブグループ解析でやってます。

かば:重症だと人数が少なくなるので有意差が出にくいとか。だから、重症の人だけを2000人集めたら有意差がでるかも。 実臨床でも、中等症の人だとコンプライアンスが悪い印象ありますから。

かわうそ:かもしれませんが、それだけの規模で研究してようやく有意差がでるくらいの結果だとしたら、そんなに熱心に治療しないといけないのかって思いますけど。

かば:自覚症状が非常に改善した人を集めたらどうなんでしょうか?

かわうそ:なるほど。たしかに、そういうサブグループ解析はなかったように思いますが、経験上、睡眠が改善してばっちり眠気がとれたといって満足している人は、やっぱりアドヒアランスが良好な気がします。
だから、アドヒアランス良好群とそれほど異なるグループにはならないのではないでしょうか。

睡眠時無呼吸の人っていろいろいますからね。日中の眠気などの自覚症状がひどい人から、家族からいびきがひどいと言われるくらいで、自覚症状が全くない人とか。
自覚症状の強い人が、CPAPをつけて眠気が改善されたりすれば、モチベーションが上がってつけ続けてもらえることが多いですが、自覚症状のもともとない人は、マスクの不快感が強くて、続けられない人がいますよね。
そういう人につけ続けてもらうために、AHI低下の他に、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防する目的でつけ続けてください、と言っていたんですけどね。こういう事実を知ってしまうと、これから情熱を持って診療続けられないですよ!

かば:そんなにCPAP治療に情熱もってやってたんですか?(;一_一)

2016年10月14日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その2

結果です。なかなかおもしろい結果ですよね。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。15325人あつめて、そのうち5844人が適格基準に当てはまりましたので、アプニアリンクによる検査をしています。3246人が中等症以上になりましたので、run-in periodの1週間、シャムCPAPをしています。2717人が忍容性があり研究に参加しました。これをCPAP+usual care群とusual care alone群に半分ずつにわけていますが、なんやかんやで減って、結局2687人が解析されました。
平均年齢は61歳、81%が男性、BMIが29、ODIは28でした。ESSは7.4でそれほど高くありません。途中で脱落したのは147人でした。フォローアップの中央機関は3.7年です。
Table 1が患者背景になります。

かば:フォローのレベルがハンパないですね。

かわうそ:お金かかってますよね。
アドヒアランスを見てみると、シャムCPAPの段階では5.2時間着用していましたが、1ヶ月後には4.4±2.2時間に減っています。12ヶ月後では3.5±2.4時間で、それ以降は安定していました。AHIは3.7まで減少しており、OSAがCPAPで良好にコントロールされていることを示唆していました。CPAP群1346人中566人、42%は1日あたり4時間以上着用しておりアドヒアランス良好でした。いろいろ批判もあるでしょうけど、実臨床の感覚からするとこれくらいなんじゃないでしょうか?usual care alone群の中でも、90人、6.7%がCPAPを試みられたようです。うち57人のみが治療を継続しているとのことでした。よいのでしょうか?
薬物治療、食事・喫煙などの生活習慣、BMIの推移などには両群間で差がありませんでした。

さて、プライマリーエンドポイントについてですが、全部で436人で心血管系のイベントが記録されています。うちわけをみると、CPAP群で229人、17.0%に対し、usual care alone群では207人、15.4%でした。HRは1.10で、むしろCPAPで治療したほうが、心血管イベントを起こしやすいという結果でした。もちろん、95%信頼区間が0.91-1.32、p値0.34ですので有意差はありませんでしたが。Table 2、Figure 2に書いてあります。

かわうそ:さすがにこれでは困りますので、サブグループ解析を追加していろいろ解析していますが、それでもCPAP群がよかったという結果はでませんでした。
参加者が多様ですので、中国とそれ以外、年齢、性別、OSAの重症度、BMI、日中の眠気の有無、心血管系疾患の既往、耐糖能障害など、いろいろやっています。

かば:涙ぐましい努力ですね。

かわうそ:ただ、CPAP治療のアドヒアランス良好群では、アドヒアランス不良群やusual care群とは異なっていました。

名前だけはおなじみ、で有名なプロペンシティースコアマッチングの結果を、アドヒアランス良好群で見てみましょう。CPAP群でアドヒアランス良好だった561人と、それとマッチするようなusual care alone群を集めてきて比較しました。この集団だと、CPAP群では86人(15.3%)でイベント発生に対してusual care alone群では98人(17.5%)でした。HRが0.80で95%CIが0.60-1.07、p=0.13でしたので、有意差はないもののCPAP治療が良好な結果につながりました。
カプランマイヤー曲線でもこの結果を確かめたとのことです。図はsupplementary appendixです。

かば:想定したよりアドヒアランスがよくなかったんですかね。アドヒアランス良好群がもっといたら、ちゃんと有意差がでたのかもしれませんね。

かわうそ:でも、これくらいギリギリの差しかないなら、苦しくめんどくさいCPAP治療をしたくないと患者さんが考えても、止められないですよ。

セカンダリーエンドポイントでも、ほとんど有意差がついていませんが、唯一、CPAP群で一過性脳虚血発作による入院が増えたという結果がでました。RR=2.09、95%CI=1.05-4.99、P=0.04です。また、アドヒアランス良好群とusual care郡のプロペンシティースコアマッチングの解析結果では、卒中や脳血管イベントの複合アウトカムでCPAP群がよいという結果がでていますが、これも多変量解析では消えてしまいました。

かば:なんならCPAP群の方が悪いですね。この結果って、あんまり話題になっていないように思いますけど。黙殺されてません?

かわうそ:そんな気がしています。
ただ、自覚症状だけはCPAP群で良好でした。Table 3に載っています。
ESSがCPAP群でベースラインとくらべて3減っています。HADSも良くなったと言っていますが、これが臨床的に意味のある違いなのかどうかは知りません。統計的に有意差があっても、臨床的には意味のない違いっていうのは、けっこうこっそりと論文に紛れ込んでいたりしますから、ちゃんと元論文にあたってみる必要があるんでしょう。やっていませんが。SF36もCPAPでよかったと書いてありますし、健康状態が悪くて仕事を休んだ日も少なくなっています。

でも、ESSで3の差って、CPAP治療の劇的な効果からすると、ちょっとしょぼくないですか?

かば:あまり自覚症状のない人を集めたらしいんで、しょうがないのでは?

かわうそ:なるほど。
まあ、ちょっとせつない結果の論文ですので、ここくらいは著者の主張を信じてあげたいと思います。

そういえば、血圧は経過中下がっていませんでした。これは既報と違うところです。

さて、睡眠時無呼吸で気になるのは交通事故との関係ですよね。これは、Table 4に書いてあります。
交通事故だとか、事故による外傷とか、ニアミスとか書いてあります。データのある人数が少ないからなのかもしれませんが、これも有意差ありませんでした。

タクシーとかトラックの運転手が、睡眠時無呼吸で受診したばあい、今後どうなるんでしょうね。何をやっても事故が減らないんですけど。

その3へつづく。


2016年10月11日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その1

これまでの診療を一変させうる、けっこう衝撃的な結果と思いますけど、あんまり話題になっていないように思うんですけど?
イントロから方法までです。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その1

かわうそ:睡眠時無呼吸は、いびきとか日中の眠気が問題なだけではないんですよね。
夜間に一時的な低酸素血症になって、交感神経が活性化され、高血圧になったり、酸化ストレスや炎症反応が亢進、血液過凝固傾向になるとされています。また、胸腔内の陰圧が上がることで、心臓、大血管に強い力学的ストレスがかかるそうです。
これまで報告されているコホート研究では、睡眠時無呼吸と心血管系疾患、特に脳卒中などのイベントには強い相関があるとされてきました。

かば:われわれには特になじみのある分野ですね。

かわうそ:直接的に関与したことはないですが、噂はよく聞いてました。
さて、過去のRCTでは、CPAP治療によって、血圧が低下するとか、血管内皮細胞の機能、インスリン抵抗性の改善などの効果も報告されています。
これまでの観察研究の報告では、CPAP治療により心血管系の合併症や死亡を、特にアドヒアランスの良い人で減らすと言われていました。

心血管系疾患の既往のある人の4-6割で、OSAが合併していると言われています。こういう患者さんでは、十分な薬物治療をしているにも関わらず心血管系のイベント再発のリスクが高いので、CPAP治療を追加することでリスクを予防できるかもしれないと言われていました。

かば:これまで証明はされていなかったんでしょうか?意外ですね。

かわうそ:この確認のため、今回のSAVE study(Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints study)というものをやってみた、ということです。「OSA患者の心血管系イベント発生率の減少の点でCPAPが効果があるかどうかを評価するためにデザインされた二次予防研究」らしいです。

かば:ちょっとEが強引ですね。

かわうそ:方法です。研究デザインとしては、国際的、多施設共同、ランダム化、パラレル、オープンラベルの研究デザインです。シャムCPAPではないので、どちらのグループに入ったかは、医師も患者もわかっているんですが、エンドポイントとなるイベントの評価については、ブラインドされているということです。
Philips Respironics社とResMed社が研究資金と機械を提供しました。

かば:けっこうプレッシャーかかりますね。結果を出さないといけない。

かわうそ:参加者は7カ国、89の施設で集められました。適格基準は、45-75歳で、心血管系または脳血管系疾患があり、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断されていること、です。閉塞性睡眠時無呼吸の診断はPSGではなく、ApneaLinkというResMedの機械をつかって、ODI4>12で診断しています。あと、あんまりにも自覚症状が強い人は除外されています。ESSが15以上、または重症の低酸素血症、チェーンストークス呼吸で居眠り運転事故のリスクが高いと診断された場合は除外されています。

かば:なんで自覚症状が強い人は除外なんでしょうか?

かわうそ:書いてなかったので私の推測なんですけど、自覚症状が強い人に対して、CPAP治療をしないのが、倫理的に問題があると判断されたのかもしれません。

参加者はCPAP治療に対して最低限のアドヒアランスが必要ですので、1週間のrun-in periodを設けてシャムCPAPを着けて寝てもらい、平均3時間以上着用できた人を選んでいます。

CPAP治療は、Philips Respironics社のREMstar AutoのMかPRが使われています。はじめの一週間はオートマチックモードにセットされ、それからは記録されたデータに基づいて計算された90th percentileの圧に固定されます。心血管系リスクを下げるための投薬治療などはガイドラインに従って行われました。また、すべての参加者は睡眠習慣改善のためのアドバイスをうけています。診察は、1、3,6,12ヶ月とそれ以降1年毎に設定されました。年一回の診察以外に半年ごとに電話での調査も行われました。

測定項目は、血圧、脈拍、投薬内容、health behaviorが記録されています。CPAP群では、CPAPのアドヒアランスのデータもです。ランダム化のとき、6ヶ月、2年、4年目に身体測定と、質問票としてESS、SF36、HADS、EQ5Dを取っています。

どちらの群に割り当てられたかを知らないcommittee memberが、心血管系のアウトカムを判定しました。
プライマリーエンドポイントは、心血管疾患の複合アウトカムです。ここには、心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、心不全、急性冠症状、一過性脳虚血発作による入院です。
前もって指定したセカンダリーエンドポイントとしては、カテーテル治療、心房細動、糖尿病発症、全死亡などを追加しています。あとは自覚症状、QOL、気分などを見ています。
安全性についてのエンドポイントには、運転中や仕事中に怪我に繋がったような事故など、参加者の居眠りに関係した項目があり、これも興味あるところです。

統計は省略します。

かば:かまわんよ。

かわうそ:しのびねえな。

その2へつづく。


2016年10月3日

ジャディアンスって何? その2

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その2

その1からつづき


かば:患者背景とかはどうなんです?

かわうそ:65歳前後でBMIが30くらい、A1cが8くらいです。血圧や脂質異常症はコントロールされているようですね。
ACEやARB、メトホルミン、SU剤などの服用率は高いです。

かば:BMIが30って聞くと、これをそのまま日本で当てはめて使っていいのかわからないですね。

Figure 2をみると、もともと腎機能の良くって蛋白尿がない人には、あんまり効果がないんでしょうね。腎機能の悪い人には意味のある薬なのかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。ただ、どういう人に使うべき、ということについては、考察でも触れられていませんでした。なにせ腎機能悪化進行抑制効果が初めて証明されたわけですので、eGFRが低くて禁忌になっていなければ、全員につかうべき、くらいのテンションなんでしょうか。

腎機能について言えば、そもそも尿糖が出ているというのは、けっこうどきっとする検査異常ですよね。薬でそういう状態を作ってしまうというのが、腎機能の予後的にどうなのか、という懸念があります。
で、それについての検討がされています。Figure 3です。
プラセボ群だと、経時的にeGFRが低下しています。それと比較してエンパグリフロジン群では、飲み始めにややeGFRが低下するものの、そのあとは安定して変化ありません。
さらに、内服終了後、エンパグリフロジン群ではもとのレベルまで回復するという結果まで出てしまっています。

まあ、プラセボ群で悪くなったと言っても、3年間でeGFRで4くらいなので、それがどれくらい意味があるのかというのも…。

長期フォローの研究ですので、尿蛋白やeGFRなどの検査結果で差がでたと大騒ぎするのも、ちょっと。あくまでサロゲートマーカーにすぎないんですから。

とはいうものの、こういう結果がでた糖尿病の薬が初めてということなので、期待が大きいんでしょうね。低血糖発作もあまりないようですし。

ちなみに、adverse event、有害事象についても一言いいですか。

かば:どうぞ。

かわうそ:最近の傾向なんでしょうけど、内服中におきたあらゆるイベントをここに入れてしまっているんですけど、なにせやたら多いんです。どちらの群でも9割くらいが副作用を報告されています。severeだとかseriousな副作用ですら、3-5割で報告されたことになっています。ここまで来ると、かえって本当の薬の副作用がわからなくなっちゃうように思いますけど。

かば:ネットで調べると、「エンパグリフロジンは、プラセボと比較すると、心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中のリスクを14%有意に低下させた」だとか「3人に1人の割合で心血管死を抑制した」、らしいんですけど。
ネットでは、素晴らしい結果だ、という好意的な評価が多いみたいです。

かわうそ:ほんとですか?なんか、ここに書いてある数字からは想像できない数字ですけど。有害事象の表に、any deathっていうのがありますけど、5-6%くらいしかないです。腎不全死が少ないんですから、ほとんどが心血管死ってことですよね。なら、そんな華々しい結果になりますかね?
まあ、もとの論文に当たってみないとなんともいえませんけど。

かば:そういえば、エンパグリフロジンの投与量が2種類あって、それを一緒の群として解析するのもどうなんでしょうか?

かわうそ:添付文書を見ると、体格や腎機能で用量を調整するわけではなく、効果不十分な場合は増量らしいですし、たしかにおかしいですね。

とにかく、いろいろツッコミ所のあるよい論文だったと思います。


2016年9月30日

ジャディアンスって何? その1

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その1

かわうそ:薬剤名はジャディアンスっていうんですけど、知ってます?

かば:すいません。知らないです。糖尿病も最近新しい薬が多いですね。

かわうそ:ナトリウム・グルコースの共輸送担体(SGLT)を阻害するという、これまでとは違った機序で血糖を下げます。自分の昔の生理学の知識では、腎糸球体で濾しだされた糖とナトリウムを尿細管で再吸収していたと思うんですけど、ここを止めることで糖の再吸収を抑制します。
つまり、余分な糖を尿糖として排出することで血糖値を下げるという理屈です。そうすると糸球体内圧も減って、糸球体の傷害も抑制されるのではないかと仮説されます。

かば:ちょっと何言ってるかわかんない(笑)

かわうそ:(サンドウィッチマン富澤?)
…。さて、2型糖尿病かつeGFR≧30の人を集めています。で、このエンパグリフロジンを10または25mg、またはプラセボを投与しています。ほかの糖尿病治療や心血管治療はガイドライン通り普通にやっていて、それに上乗せしたときの効果を評価しています。
腎障害としては、顕性アルブミン尿が新たに出現、Creが2倍になる、透析が始まる、腎不全死というものを複合アウトカムとして評価しています。

もともと、エンパグリフロジンの効果を調べる研究として、EMPA-REG試験という大規模な研究がありました。
プライマリーアウトカムは、心血管系の複合アウトカムです。いつもの通り、心血管系疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中になっています。
で、もともとのセカンダリーアウトカムとして、微小血管の傷害発生を設定していました。網膜症で光凝固したとか硝子体出血があったとか失明したとか、それと腎機能の悪化というものを設定しています。ただ、どうやら殆どのイベントが腎機能の悪化だったらしくて、今回はそれだけを取り出して解析したものの報告ということになっています。

結果ですけど、エンパグリフロジン群では4124人中525人で12.7%、一方プラセボ群は2061人中388人で18.8%でした。当然有意差がついて、HRなんかも0.61ということで、非常に効果的でした、と書いてありますけど…、これは、なんと言ったらいいか…。

かば:どうしました?すごい結果じゃないですか。

かわうそ:あんまり糖尿病における蛋白尿の重要性を認識していないだけなのかもしれませんが、顕性アルブミン尿の出現と透析を一緒にして複合アウトカムにしていいんでしょうかね?それに、Creが2倍になるのも確かに問題ですが、透析導入や腎不全死と比べるとちょっと…。

実際、Creが2倍になった症例は、エンパグリフロジン群4645人中70人、1.5%に対して、プラセボ群で2323人中60人で2.6%なんですよ。
腎代替療法についても、エンパグリフロジン群では4687人中13人(0.3%)、プラセボ群で2333人中14人(0.6%)ですからね。5割抑制しました、とだけ言われればすごいですけど、NNTは1/(0.006-0.003)=333ですし。そりゃ、透析ってのは大事ですから、それでもいいんだ、と言われればそれまでですが…。

かば:とにかく、ほとんどのイベントが顕性アルブミン尿ということなんですね。

かわうそ:そうなんです。ここまで一方的なアウトカムの差があるのに、複合アウトカムとして扱っていいのかな、と思います。まあ、ちゃんとアブストラクトに数字が出されているので、読めばいいんでしょうけど。

ちなみに、ネットで検索したら、ベーリンガーとイーライリリーのプレスリリースを見つけました(https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/pressrelease/2016/16-34_co.jp.pdf)。こちらでは、この辺りの違和感は巧妙に隠された形だと言わざるを得ません。うそは言っていないんでしょうけど、ズルいと思います。

あとですね、これはもしかしたら既報で述べられているからなのかもしれませんが、血糖降下薬ならA1cがどれくらい減ったか、くらいは書いてほしいんですけど、どこにもありません。臓器障害の抑制という、絶対的な目標について調べているわけなので、A1cのようなサロゲートマーカーは眼中にないのかもしれませんけど。
都合の悪いことだから書かれていないのか、当たり前だから書いていないのか、不要だから書かれていないのか。ちょっと不自然に感じます。

その2へつづく



2016年8月4日

GERDと咳の関係

すっきりとわかりやすい論文でした。

The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms.
Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.
Lavorini F, Chellini E, Bigazzi F, Surrenti E, Fontana GA.


2016年7月29日

かば:Deflation coughってわかります?「肺活量測定の時、息を吐き切った時に誘発される咳のような排出努力」という定義らしいんですけど。

かわうそ:なんとなくわかります。聴診のとき、強制呼気で咳き込むってことですかね。

かば:そういうイメージでいいと思うんですが、定義上は、肺活量測定なので、ゆっくり呼出して肺が空っぽになった時に誘発される咳嗽とのことです。なので、強制呼気とは少し違うのかもしれません。とにかく、胃食道逆流、GERDの症状と考えて良さそうです。

そのDeflation Cough、DCとGERDの関係を調べたのが本研究です。

157人で、DCの評価と24時間食道PHモニタリング、MII-pHをしています。

かわうそ:24時間食道PHモニタリングを157人で!

かば:なのでCHESTに載ったんだと思われます。

157人中、93人では慢性咳嗽もありました。
DCは、肺活量測定を2~4回繰り返して、咳込みを耳で測定したとあります。

結果です。表をみてもらう方がわかりやすいですね。2×2表が載っています。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1531
DCなし1596

DCとGERDには関係がありました。P<0.01です。
感度50%、特異度76%、陽性予測率33%、陰性予測率86%ということでしたが、著者はまだ満足していません。

かわうそ:けっこう立派な結果に感じますけど。

かば:そこで、慢性咳嗽のある93人に絞って解析しています。慢性咳嗽についてはVASで評価したとのことです。ちなみに、この中に現喫煙者はいませんでした。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1525
DCなし251

こうすれば、感度88%、特異度67%、陽性予測率38%、陰性予測率はなんと96%ということになりました。

かわうそ:すごいですね!
でも、つまり…、どういうことだってばよ?

かば:つまり、遷延性咳嗽・慢性咳嗽で受診した患者さんで、強制呼気で聴診をしたとしますよね。

かわうそ:うんうん。

かば:その時に、DC、咳込みがなかったとしたら、GERDの可能性が低くなるので、PPIを出さなくてもよいということになると思うんです。

かわうそ:なるほど。
強制呼気時の咳込みって、けっこう喘息に典型的かと思っていましたけど、GERDに関係するんですね。

かば:胸腔内圧が高まることで胃酸逆流につながるんじゃないか、とDiscussionに書いてありました。
この論文は全部で6ページだけで、非常にシンプルですけど美しい結論ですよね。


2016年7月15日

アドエアとウルティブロ その3

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果後半と感想です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その3

その2からつづき


あと、1秒量の変化率についても書いてあります。1年後、ウルティブロとアドエアでは62mlもの有意な差がありました!
でも62mlって…。肺機能検査して、これくらいは誤差の範囲のはずですよ。

かば:COPDの人って、1年間で150mlくらい1秒量が減っていくはずなので、その中で60ml違うのは大きいかもしれません。

かわうそ:これもマスとして見た時には意味があっても、個人としては意味が無いということですね。
それよりは、デバイスとしての使い勝手とか安い方とかの方が選択の動機としては大きくなりませんか?

その他SGRQなども軒並みウルティブロの方がいいと出ていますし、サブグループ解析でも基本的にはウルティブロの方が優勢でした。
が、これが本当に処方の動機になるかどうか。まあ、みなさんの判断に任せますけど。

安全性のまとめを見てみると、やはりCOPDの研究で死亡をアウトカムにするのは難しいと思います。1年で1%くらいの死亡率です。
ただ、COPDの論文を読むと、いつもCOPDは死亡の原因の4番目、とか高々と掲げられていて、だから治療が大切、薬が大事、と言われているんですけどね。その割には実際論文読んだときに目にする死亡率がしょぼいんだよな、と思わざるをえません。

このまえの降圧剤・高脂血症治療薬の論文では5年間フォローしていましたので、それと比べると…。

あと、副作用は多いことになっています。8-9割で起きています。ただ、COPDの悪化というのが7割くらいあります。これって、本当に副作用なのかというのが疑問です。COPDは進行性の疾患ですし…。

他にもこの辺は謎が多いです。増悪とは別に、副作用として、ウイルス性や細菌性の上気道感染という項目があります。

かば:下気道感染と肺炎がそれぞれ別で計上されていますね。インフルエンザも別に項目作られてますね。

かわうそ:そうなんですよ。謎です。
肺炎については、ウルティブロが3.2%、アドエアが4.8%で、P=0.02ですが、これだけ数を集めたら、このレベルでは有意差がないようにも思いますが…。

かば:この論文みたいにアウトカムが何十個もあると、それだけでもP値の設定は厳しくなるはずですよね。

かわうそ:すいません。実は統計のあたりは、よっぽど気合入れて論文読まないかぎりはすっ飛ばしていまして。よくわかりません。場合によっては、そういう議論を全部すっ飛ばして、「P<0.05でした(だから有意差ありました)」とMRから宣伝されるかもしれませんね。医師がまじめに論文を読み込んでいるとは思われていませんからね。

という感じの論文ですが、先生はウルティブロだしてますか?

かば:けっこうだしてます。

かわうそ:そうですか…。純粋なCOPDと診断できていればいいんです。

まず最初に、咳・痰・息切れできた高齢者に喫煙歴があって、閉塞性燗器障害があって、何ならCTで気腫性病変がしっかりあったとしますよね。で、LABAなりLAMAで治療をしました。それでも症状が残存していたり、増悪を来したりして、追加の治療が必要になったわけですよね。
そこでLABA+LAMAを使えるかどうかですけど…。
普通に考えると、COPDと喘息ってすごく合併しやすいと言われているわけです。とすれば、ここで純粋なCOPDと言い切れるだけの自信が私にはありませんので。
喘息の存在を否定できます?アトピー体質や季節性など、典型的な所見のない喘息の存在ってのも、そんなに珍しいものではないと思いますけど。

かば:喘息があるんだとしたら、吸入ステロイドが入っていないのは最悪ですね。

かわうそ:なので、自分ならやっぱりアドエアなりシムビコートを使いがちです。

かば:でも、吸入ステロイドでCOPDの症状取れますかね?

かわうそ:たしかにそこは弱いんでしょうね。でも、なにせ喘息に気管支拡張剤のみってのは禁忌ですから。
COPDに吸入ステロイドは、肺炎のリスクを高めるんだか高めないんだか、そこはたしかに微妙なとこですが、禁忌ではありませんから。

かば:喀痰細胞診で好酸球を確認したりするのは参考になりますよ。

かわうそ:あんまりそのオーダー出したことないです…。さすがですね。今度やってみます。

あと、こういう合剤の論文読むといつもアドエアが出だした頃を思い出します。あの時代、1つのデバイスで済むので画期的で大流行しましたよね。

フルタイドとセレベントを合剤で吸入することによる相乗効果ってやつも、あの時代は大流行でしたね。

かば:今でも言ってません?
理屈は色々ありましたね。平滑筋がナンチャラで、ステロイドが吸収されやすいとか。

かわうそ:私は、そんなことほんとにあるのかなって思って眉唾と思っていましたけど。いや、まだ医師になりたてくらいで、純粋な気持ちできいていたかも…。

でも、その理論はあれ以降の合剤でお目にかからないように思います。普通に考えたら、服薬コンプライアンスよくなる以上の効果はないですよね。


2016年7月12日

アドエアとウルティブロ その2

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.

2016年6月20日

その2

その1からつづき


かわうそ:3000人以上あつめて、1600人ずつに分けて試験しています。ITT解析だけでなく、per protocol解析もしているようです。途中でいなくなった人が多かったんでしょうか。まあ、どちらでもそれほど結果は変わりません。
吸入薬ってあんまり副作用でない印象ありますが、けっこう脱落者が多いんです。ウルティブロ群で17%、アドエア群では19%です。副作用でなのかどうかはわかりませんが、とにかくやめています。

Table 1が患者背景です。平均年齢は65歳、男性が75%でやや多く、最初の段階で半数以上で吸入ステロイド薬が使われていました。適格基準に呼吸困難の自覚症状があり、増悪の経験があるという条件がありますからこうなるんでしょう。ただ、喘息の除外という点では、どうなんでしょう?
あと、現喫煙者が40%というのは、いかにも多いと思います。

グループ分けについても書いてあります。ABCDと分けて、それぞれ何%くらいいるのかと。詳細は省きますが、定義上、A群の人はこの研究に含まれにくいので少ないです。また、C群は肺機能はいいはずなのに症状が重かったり増悪が多かったりと、あんまり想像しにくいグループなのでやっぱり少ないです。基本はD群が中心です。肺機能も悪くて増悪も多いという最重症です。

でも、実際このグループわけを日常診療で意識することってありますかね?自分では、研究の時にしか使わないような…。

かば:一応これに基づいて治療することにはなっていますよね。C群のような人たちでは、肺機能がよかったとしても、増悪すると予後が悪いので、2剤、3剤での治療が必要です。

かわうそ:1秒量なども群間差がないように分けられています。%FEV1も45%くらいですのでしっかりと悪いです。

アウトカムについてはFig 2を見てください。ウルティブロ群の方が増悪率が低くなっています。HRだかORだかが0.88ですので、薬の広告では、「増悪の発生率が1割下がりました」とか、大々的に宣伝されるんでしょうね。

かば:「非劣性を確認するつもりが優越性が証明されました!」とかも言われそうですよね。

かわうそ:うーん、って感じですね。

1年間でどれくらい増悪するか、というのがグラフになっています。とりあえず「any」のラインを見てみましょう。どんなレベルの増悪でもよいというくくりにすると、52週のところをみてみると、なんと8-9割の人が最終的には増悪しています。で、さすがにウルティブロ群の方が5ないし10%くらいは増悪した人が少ないように見えます。でも、健康な人でも1年に1回くらいは調子崩しますよね…。

もうちょい重症な群、「moderate + severe」を見てみます。つまり病院にいって抗生剤やらステロイドやらをもらうとか、入院を考える群ということになります。こういう人たちも1年間で50%くらいあって、ウルティブロ群の方が10%くらい低くなっているように思います。このレベルのイベントを10%抑えるというのは、けっこう大したものだとも思いますが…。

secondary outcomeに、最初の増悪までの日数の中央値が比較されています。ウルティブロで70日、アドエアで56日くらいで起きているようです。2ヶ月に1回くらいは起きているんでしょうか?

かば:日本の研究だと、年の増悪が1回以下、何なら0.5回以下だと思いますけど。多すぎじゃないですか。

かわうそ:まあ、けっこう重症群を集めてきたからでしょうか。
あ、moderate or severeな増悪の年間発生回数はここに載っていました。ウルティブロ群で0.98回なところが、アドエアでは1.19回となっています。…、これ、差ありますか?

そもそも、増悪時には主治医の判断で抗生剤なりステロイドを出すことになっていますけど、でも、ガイドライン上ではここのしきいはすごく低いはずですよね。
だいたい、これくらいの重症度の人が調子悪いと病院にきて、風邪薬とか鎮咳去痰薬とかだけで帰しますかね?レントゲン撮って、肺炎の所見があってもなくても、どっちにしても基本出しますよ?

やっぱりアウトカムの設定がゆるゆるなのでは?

前に降圧剤・高脂血症治療薬の論文を読みましたけど、あのときは複合エンドポイントだからどうこうといちゃもんを付けてしまいました。
でも、個々のエンドポイントは、死亡率とかカテで診断してたりとかしっかりとしています。あんまり判定が変わる要素がありません。

それと比べると、この論文の、というかCOPD系の論文って、病気以外の要素が影響される部分が大きすぎると思うんです。
たとえば、病院へのアクセスとかですよ。同じような症状だとしても、病院に行こうと思うかどうかでmildとmoderateが別れるというのは、どうなんでしょうか。自分としては納得いきません。

入院かどうか、というのも同じです。もともとのADLとか、独居か同居家族がいるか、とか、増悪の重症度と違うところで対応が別れ得ますよ。
想像してみてください。これはやばい、入院かもしれないな、と思ったとしても、同居家族がいてちょっと悪くなれば連れてこれる人と、独居で悪くなったら孤独死しそうな人では、同じレベルの症状・検査結果でも対応が変わってきますよ。
この辺が、1000人単位で人数を集めたんだから統計学的には意味があると言われても、感情としては納得できません。

というわけで、先生がさっき触れた日本のCOPDの増悪の影響を調べた論文だって、あの大学という異常にしきいの高い外来に増悪でわざわざ受診するストレスを考えると、そのまま受け取っていいのかどうか、非常に疑問です。日本人は、自分たちの管理が海外と比べて良いから増悪が少ない、と自賛しているのかもしれませんが。

あと、これは大規模な研究になるとどれでも言えることなんですが、1年間の増悪回数が0.98回と1.19回で、P値が0.001以下だから統計学的に有意差があると言われて、だからウルティブロを使いなさいと言われてもですよ…。数字の上では差があったとしても、実臨床で差があるのでしょうか?

かば:自分1人で考えるのではなく、日本全体とか大きな単位で考えてみんながみんなウルティブロを出せば、医療経済的に変わってくるという話をきいたことありますけど。

かわうそ:なるほどそうかもしれません。
まあとにかく、こういう風にいろいろ考えて読めば読むほど、どうしたらいいかわからなくなってきます。

その3へつづく



2016年7月4日

アドエアとウルティブロ その1

薬の比較の論文は好みではないのですが、勉強会の題材としてはけっこういいかもしれません。突っ込みどころが多くて割りと盛り上がりました。
まずはMethodまでです。


Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その1

かわうそ:NEJMに載っていたインダカテロール+グリコピロリウムとサルメテロール+フルチカゾンの比較です。

かば:オンブレス+シーブリ=ウルティブロとセレベント+フルタイド=アドエアですね。

かわうそ:アドエアは1日2回、ウルティブロは1日1回投与なんですよね。それを比較するってどうなのかな、と正直思います。

かば:デバイスの形もけっこう違いますよね。

かわうそ:とにかく、LAMA/LABAとICS/LABAの比較です。
LABAまたはLAMAの単剤で治療を開始して効果不十分な患者さんに、次に何を使うのか、という疑問に対する研究という位置づけでよいのでしょうか。

かば:純粋なCOPDなら、ICSを使うのは最後の手段という感じですけど。自分ならLAMA/LABA使うことが多いと思います。

かわうそ:なるほど。
あと、これはCOPDの研究論文を読むとたいてい書いてあるのですが、急性増悪が非常に重大な意味を持つという…。
個人的には、本当に増悪を予防することがそんなに重要なのかな、という疑問が残るところなんですけど。いちおう、肺機能低下が進行するとか、QOLが下がるとか、入院が増えるとか、さらに死亡が増えるとか、まあ、お金がかかるし、健康の面でも問題なので、なんとかこれを食い止めることが大切だ、とか書いてあります。たいていこの手の論文にはこうやって書いてありますよね。こう書いときゃ間違いないみたいな。

というわけで、増悪を抑えるということをアウトカムに持ってきて解析していますけど、このあたりいつもひっかかります。
まあ、薬を投与するのは症状を軽減させたり、なんなら数値を改善させるということを目標にしてしまいがちですけど、本来はこういうふうな真のアウトカムを目標にするべきなんでしょうね。増悪が真のアウトカムかどうかはともかくとして。

かば:一番重要なのは予後とかなんでしょうけど、やっぱりCOPDは経過が長いので、死亡をアウトカムにしようとすると10年20年先になりますから、なかなか現実的ではないですよね。
で、これまでの論文で、増悪と肺機能とか、増悪と死亡率の関係についてははっきりしているので、増悪をサロゲートマーカーにしているということなんでしょう。観察期間も短くなりますし。

かわうそ:理屈はわかりますけど、ちょっと三段論法っぽさが残っていて、騙された気分になります。
それに、増悪ってなんなのかというところが、未だにはっきりしないんですよね。そもそも肺炎は増悪なのかどうなのか。

かば:そうそう。あと、アドエア500を使われているところもちょっとひっかかります。

かわうそ:そうか。日本で適応があるのは250でしたっけ。

メソッドに行きます。
1年間フォローした多施設共同研究です。43カ国356施設が参加しています。

かば:大規模ですね。ダブルブラインド、ダブルダミーですね。デバイスの形でどちらの薬かわかってしまうので、どちらの群も2種類処方されているようですね。一つは実薬、一つはプラセボ。

かわうそ:ちなみに、ウルティブロがノバルティスの製剤ですし、ノバルティスの資金で行われた研究です。ウルティブロよりなのはしょうがないと思いますけど、ICS/LABAは肺炎のリスクをあげるから望ましくないみたいなことがイントロにかかれています。
ノバルティスといえば、ディオバン事件ですよね。となると話半分で聞いておいたほうがよいのかも…。

かば:あれは日本だけの研究ですから。この論文の研究は世界中で行われているわけですし、そういう不正はないと信じて良いとおもいますけど。

かわうそ:なるほど。でも私、ディオバンはあれ以来ほとんど切り替えました。
そもそも、ディオバンは降圧作用に加えて、脳梗塞や狭心症など血管障害を予防する効果が他のARBと比べると強いとかいう触れ込みだったわけですよね。それが偽装だったとして、ディオバンをわざわざ出す気になります?他に山程似たような薬があるのに。実際、勝手に変えるわけではないですよ。患者さんに、「こういうケチのついた薬ですけどどうします?」って聞いたうえで変更していますが。ただ、基本的にARBの中ではもっとも安い部類の薬になりますので、変更しないでほしいと言われたことはありますけど。

ちなみに、同じ理由で三菱の車も東芝の家電も買わないようにしてます。
でも、自分が失敗した時には、一度の失敗で自分の評価を決めないで欲しい、挽回のチャンスがほしいと思ってしまいます。人って勝手なもんですよね。

さて、対象は40歳以上のCOPD患者で、MRCがgrade 2以上の呼吸困難がある人です。SABAを吸ったあとの肺機能検査でしっかりと診断しています。
あと、増悪が重要な指標になりますので、1年前までに記録された増悪があるかどうかを適格基準に入れています。増悪の既往があったほうが、増悪しやすいという既報を踏まえたものになっています。

アウトカムとしては、COPDの増悪が1年間に何回あったのか、その程度はどうだったのか、軽度だったのか中等度だったのか重度だったのか、あと、初回増悪までの期間ということになっています。

増悪の定義もここに書いてあります。全身ステロイド and/or 抗生剤投与ということになっています。
というわけで、この論文では、肺炎の有無は問わないということになると思います。

かば:もともとの増悪の定義は、レントゲンであきらかな浸潤影がある場合は除くことになっていますよね。

かわうそ:増悪と肺炎は別物ということですよね。でも、そもそも重症のCOPDだと、レントゲンで肺炎の有無がわからない、気腫性変化が強くて浸潤影がはっきりしない、というのも常識ですし。

かば:症状では区別できないですしね。

かわうそ:いつもこのあたりはモヤモヤします。CTをいつも撮ることができるわけではないので仕方ないといえば仕方ないのですが。
その他もろもろ合わせて27個のsecondary outcomeを設定したと書いてあります。

かば:多いですね。全部を載っけてなくてアウトカムがオンラインサプリメント参照ってのは結構珍しいです。

かわうそ:さすがにこれは擁護しきれません(呆)
まあ、ほとんどが増悪関連のアウトカムなんだと思いますけど。増悪回数とか、初回増悪までの期間、増悪の期間とか、あと、moderateとsevereを組み合わせだとどうか、とかいろいろやってみたんでしょうけど。あとはSGRQとか肺機能なんかも評価しています。
ただ、これだけのアウトカムを検定するのは、統計学的にはどうなのかと思いますけど。対象患者が多いからいいってもんでもないでしょうし。

最後に、mild、moderate、severeの定義もありました。mildなものは、2日以上の症状の増悪とされています。ただし、抗生剤・ステロイドの治療にはいたらないもの。severeは入院やER受診が必要なもの、という風に決められています。
mildをどうやってひっかけるかというと、「electronic diary」なるものを渡しており、毎日記録してもらっているみたいです。けっこうお金かかりそうですね。

かば:最近はスマホのアプリを駆使した研究流行りですからね。

かわうそ:でも、老人が対象なので、そういう人たちがアプリを使いこなせるのかどうか。もちろん中にはそういう人もいるんでしょうけど。
統計についても詳しく載っていますが、割愛です。ほんとは非劣性試験のつもりで初めていますが、優越性を証明するための計算方法なんかも書いてあります。

その2へつづく



2016年6月30日

スタチン神話再び?

降圧剤と高脂血症治療薬の効果についての論文です。目新しいところは、リスクの小さい人が対象という点です。

Blood-Pressure and Cholesterol Lowering in Persons without Cardiovascular Disease.
N Engl J Med. 2016 May 26;374(21):2032-43.
Yusuf S, Lonn E, Pais P, Bosch J, López-Jaramillo P, Zhu J, Xavier D, Avezum A, Leiter LA, Piegas LS, Parkhomenko A, Keltai M, Keltai K, Sliwa K, Chazova I, Peters RJ, Held C, Yusoff K, Lewis BS, Jansky P, Khunti K, Toff WD, Reid CM, Varigos J, Accini JL, McKelvie R, Pogue J, Jung H, Liu L, Diaz R, Dans A, Dagenais G; HOPE-3 Investigators.


2016年6月8日


かわうそ:降圧剤は、ARB(カンデサルタン)とサイアザイド(ヒドロクロロチアジ)の合剤、つまりエカードです。
高脂血症治療薬は、ロバスタチンですので、クレストールですね。

かば:うちの病院には合剤少ないんですよね。

かわうそ:実は、今回のNEJM(2016年5月26日号)では、一連の研究で3つの同じような論文が載っているんです。
同じような軽度のリスクの人に、降圧剤群とプラセボ群の比較、高脂血症治療薬群とプラセボ群の比較、そしてこの、降圧剤と高脂血症治療薬のコンビネーション群とダブルプラセボ群の比較です。

かば:すごいですね。それを全部やったんですね。

かわうそ:それぞれ3000人ずつ、合計12000人を集めて、これを中央値で5.6年間フォローアップしています。

かば:…(絶句)。

かわうそ:リスクの高い人、心筋梗塞発症後の再発予防ではなく、それほどリスクの高くない人に使った時の効果をみる、というのが目的です。
では、どんな人が含まれるのか、ということですけど、methodsのところにはあまり詳しく書いてありません。男性なら55歳以上、女性なら65歳以上で、心血管系の疾患がなく、年齢以外に少なくとも1つ以上のリスク要因がある人、と書いてあるのみです。

かば:オンラインサプリメント参照ってありますけど。

かわうそ:当然お金を出していないので読めませんでした。
ただし、患者背景のTable 1が参考になると思います。ウエスト/ヒップ比が高い、喫煙歴、HDL-Cho低値、耐糖能障害、家族歴、腎機能障害とかです。
高血圧や脂質異常症は不問ということです。それにもかかわらず、降圧剤と高脂血症治療薬を使うという実験計画がドラスティックでよいですね。

かば:血圧高くない人にも、降圧剤を出すんですか?

かわうそ:そうなンですよ。高血圧のあった人は3割くらいしかいません。平均140/80くらいです。
高脂血症についても総コレステロールが200、LDL-choも120強です。

こういう人がほんとうにマジメに飲むのかどうか疑問だったのでしょうか、最初にお試し期間を設けています。4週間まず内服していただき、コンプライアンスだとか副作用だとかをチェックしたうえで、本番に臨んでいます。最初は6週間、それから6ヶ月毎フォローしています。

アウトカムについては、ちょっと注意が必要です。流行りの複合アウトカムが採用されています。
primary outcomeは、心血管系による死亡、非致死性の心筋梗塞または非致死性の脳卒中の発症です。
secondary outcomeは、primaryに加えて、心肺蘇生された、心不全を発症した、心カテをされた、が含まれるようになります。

結果に移ると、12705人集めてきて、3180人にエカードとクレストールを飲ませました。3181人はクレストールだけ、3176人がエカードだけ、3168人が両方共プラセボ、という感じでやっています。
これから先は、エカードとクレストールの両方とも内服した群と両方共プラセボの群を比較します。

年齢は65.7歳、46.2%が女性でした。血圧は138.1、LDL-choが127.8でした。やはり、普通なら投薬しない可能性が高い人々です。

お、けっこう服薬アドヒアランスはいいですね。8割以上の方が2年間飲んでいます。

治療効果としては、Fig 2に載っています。血圧は最長7年フォローしています。

かば:やっぱり血圧下がるんですね。ぱっと見、けっこう下がっているように見えますけど。

かわうそ:よくよく見てください。目盛りの単位がキモです。
まず、プラセボでも5mmHgくらい下がっています。内服群では、さらにそこから6mmHgさがるというわけです。

かば:y軸の目盛りに注意しないとですね。

かわうそ:でも、クレストールだと、LDL-choが30くらい減ります。たいしたものです。

ちなみに、このグラフ、5年までは横ばいなのに、そこから先にはさらに下がったりしているように見えます。油断していると、5年以上飲み続ければさらに効果が出てくるのか、とか刷り込まれてしまいそうです。

でも、よくみるとグラフの下に何人をフォローした結果なのか、という数字が載っています。ここに注目すると、実は5年以上フォローした人が少ないので、結果が変わってきているだけだと思われます。

かば:なるほど。

かわうそ:Table 2がアウトカムのまとめです。複合エンドポイントですが、個々のエンドポイントについても丁寧に件数の数字を出しています。偉い態度だなと思います。

かば:複合エンドポイントにしないと、イベント数が少なすぎて有意差がでにくいんでしょうね。

かわうそ:そう思います。デザイン的にも、低リスクの集団ですし。実際、心血管系が原因の死亡については、有意差がでていません。非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中については有意差が出ているようですが。
とりあえず、primary outcomeについては有意差があったということなんですが…。

かば:5年間フォローしたとき、157人にそういうイベントが起きるところが、降圧剤と高コレステロール薬を飲むと113人まで減らせられた、ということですね。3000人が飲んで30人くらいに効果が出たわけですね。

かわうそ:この結果をどう感じたらいいんでしょうかね。もう少し詳しく数字を追ってみると、コンバインドセラピー群では113人、3.6%にイベントが起きています。ダブルプラセボコントロール群では、157人、5.0%にイベントが起きています。HRが0.71で95%信頼区間が056-0.90、p<0.005です。
どう思います?「すごい、ぜひとも処方するべき」ってな感じで、広告されるんでしょうかね?

かば:製薬会社からすると、イベント発症率を3割近く減らした、とか言われますね。

かわうそ:absolute difference、つまり、5.0%と3.6%の単純な差なんですが、それもきちんと書いてありますよね。1.4%減らしました、といわれると、ほんと大したことない違いですよ。
さらにNNT(number need to treat)を計算すると72でした。つまり、72人治療して、1人救えるというわけです。
普通は隠したくなる数字ですよね。ちゃんと出しているだけ、真摯な態度を感じます。

かば:これを多いと見るか少ないと見るか。あと、医療経済的にどうなのか。
でも、COPDの薬よりはNNT小さいですよね。効いている気がします。

かわうそ:ていうか、COPDとかOSAの論文でこういうのを出しているところを見たことがないンですけど。
循環器科はこういう研究で呼吸器科よりかなり先を行っていますね。

かば:あと、結局スタチンがよく効いているみたいです。

かわうそ:よくご存知で。さっきも言ったように、この号では降圧剤とプラセボ、高脂血症治薬とプラセボでも同じような検討をしています。
で、高脂血症治療薬とプラセボ群の比較だけが、有意差がでました。
ということで、この3つの論文を読んだ感想として、クレストールの力がすごいな、という見方もあります。NNT=72ですけど。

かば:NNT=72って、でもけっこうすごくないですか?心筋梗塞の予防と考えたら、処方するかもしれません。
もっと血圧とかコレステロールの高い人だと効果がいいかもしれませんし。

かわうそ:あ、そういう解析もしていました。集められた人の中で、それでも血圧高めの人で解析すると有意差が出たといっています。

かば:きれいな結果ですよね。すごいですね。

かわうそ:実はYusufっていう人が、この3つの論文のうち2つを書いています。

かば:アジア系もが入っていますね。

かわうそ:これまでの研究ではやっぱり白人対象のものが多かったので、人種差を除外するためにいろいろ入れた、とどこかに記載ありました。

でも、私が仮に患者としてこの情報を得た時、やっぱり飲まないと思います。
筋痛・めまいだとかの副作用もある程度ありますし、それ以上に恩恵を受けるのが何十人に一人と言われると…。

かば:昔はもっとスタチン神話すごかったですよね。肺炎にだせ、とかCOPDにも出せ、とか。CRPが0でも、抗炎症作用があるとか。

かわうそ:今はどうなってるんでしょうね。

2016年5月26日

話題のがん免疫治療についての文献を読んでみた その2

今回はペンブロリズマブについての論文がLancetに載っていたので読んでみました。
今話題のがん免疫療法です。後半は結果からです。

Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial.
Lancet. 2016 Apr 9;387(10027):1540-50.
Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Arvis CD, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB.

2016年5月13日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。
まずOSについてのカプランマイヤー曲線をみましょう。50%以上PD-L1が発現している群と、全患者でそれぞれ曲線が描かれています。
機序的にいっても、PD-L1がたくさん発現している群で効果が大きいはずですよね。PD-1経路を介して、免疫細胞からの攻撃を逃れていた癌細胞に対する免疫が回復するわけなので。

一応、有意差はしっかりとあります。でも、このグラフで見ると、数ヶ月くらいの全生存期間の延長ですよね。これをみると、残念ながら必ずしも喧伝されているほどの夢の薬でもないな、と感じてしまいます。

解析期間中、1000人中約500人の患者さんが亡くなっています。詳しく見てみると、ペンブロリズマブ2mg/kg群では50%、10mg/kg群で45%、ドセタキセル群で56%の方が亡くなっています。

かば:あんまり変わっていないですね。

かわうそ:50%以上PD-L1が発現している場合は、ちょっと変わってきます。ペンブロリズマブ2mg/kg群では42%、10mg/kg群で40%のところが、ドセタキセル群で57%になりますから。

生存のHRで見てみると、ペンブロリズマブ2mgとドセタキセルをくらべると0.54で、10mgとドセタキセルだと0.50でした。
これならそうとうペンブロリズマブのほうがドセタキセルよりいいということになりますね。

あとは、ペンブロリズマブの用量を2mg/kgで認可されるのか、10mg/kgになるのかという問題が残ります。

かば:これは2mg/kgにするべきでしょう、さすがに。

かわうそ:それほど効果は変わらないけど、5倍値段が違ってくるわけですからね。

50%以上PD-L1が発現している場合、全生存期間の中央値は、ペンブロリズマブ2mg/kgで14.9ヶ月、10mg/kgで17.3ヶ月のところ、ドセタキセルでは8.2ヶ月でした。
半年から10ヶ月くらいは生存期間を延長できるということです。これをどう考えるかですけど…。

全患者でも、似たような結果でした。ペンブロリズマブ2mg/kgで10.4ヶ月で、10mg/kgで12.7ヶ月で、ドセタキセルでは8.5ヶ月でした。2ヶ月から4ヶ月、生存期間の延長が期待できるといえます。

つぎに、どんな特徴を持っている患者さんでペンブロリズマブの効果がいいのか、みたいなサブグループ解析をやっています。ニボルマブは扁平上皮癌がよいとかいう話があったように思いますが、ペンブロリズマブは非扁平上皮癌の方がよいようです。

ちなみに、Progression Free Survivalでも同じような解析をやっていますが、これでは、それほどペンブロリズマブ群が優位だとは言えないですね。
PFSっていうのは、やっぱりあくまでもサテライトのアウトカムであって、あんまりあてにならないこともあるのかな、とか思います。

かば:追加の治療の問題でしょう。ペンブロリズマブという選択肢が一つ増えた分だけ生存期間が伸びたという説明できませんか?あと、ペンブロリズマブだと副作用が少ないから、弱ってしまわず次の治療に移りやすいとか。

かわうそ:一応、このあとの化学療法のサイクル数についても解析されているようで、差はなかったようでした。
こういうがん免疫療法って、いったんは大きくなるけどがんばって使い続けろ、とかいう話をニボルマブの勉強会で聞きませんでした?

かば:そこが胡散臭いと感じてました。

かわうそ:同感です。
ただ、このあたりがPFSがあてにならないところなのかな、みたいなことがdiscussionにかかれていました。

副作用についてもまとめられています。
ドセタキセルでは、実感通り、食思不振とか倦怠感がやっぱり多いです。一方、ペンブロリズマブだとこれらは少ないです。あと骨髄抑制もあんまり出なさそうです。

自己免疫疾患が発症しやすいということで、甲状腺機能障害が有名です。あとは間質性肺炎ですね。死亡された方もいます。あと、重症な皮膚症状でなくなっている方もいます。

かば:やっぱり間質性肺炎でるんですね。新しい薬でどれくらいの副作用が出るかわからないし、どんな人に使っていいのか悪いのかという症例の蓄積がないので怖いですね。
でも、夢の薬と宣伝されていますからね。イレッサみたいに使われまくったあげく、悲惨なことにならないといいんですけど。

かわうそ:夢の薬というわりには、っていう生存期間ですね。
ドセタキセルとの値段の差はものすごいものがありますからね。

かば:ちょっと前までは、がんの免疫療法ってすごくアレな印象でしたね。血液をとって、免疫細胞を増やして活性化して戻します、みたいな。
ものすごく高いし、保険適応外で自腹だからものすごく高いし。
ニボルマブとかを適応外で自腹で使わせたりもするみたいですよ。自由診療ですから、良心さえ傷まなければ、やりほうだいです。

かわうそ:搾取ですね。怖いですね、恐ろしいですね。

2016年5月23日

話題のがん免疫治療についての文献を読んでみた その1

今回はペンブロリズマブについての論文がLancetに載っていたので読んでみました。
今話題のがん免疫療法です。イントロから方法までです。

Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial.
Lancet. 2016 Apr 9;387(10027):1540-50.
Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Arvis CD, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB.

2016年5月13日

その1

かわうそ:最近使われるようになったのは、ニボルマブ(オプジーボ)ですが、今回の主役のペンブロリズマブもそれと同じく免疫チェックポイント阻害薬というくくりになるようです。

かば:ググってみると、キートルーダという名前になるらしいですね。海外ではもう認可されているようです。
おっ、特許侵害とかで裁判沙汰になってますよ。


かわうそ:まじですか…。ニボルマブとペンブロリズマブは、直接比較試験はないのに、そんなとこで戦ってるんですね。

とりあえずこれは、進行した非小細胞肺癌で、PD-L1の免疫染色が陽性だった人を集めて行った第2/3相試験です。
ちなみに、ニボルマブの一連の試験はCHECKMATE、ペンブロリズマブはKEYNOTEという名前が付いているようです。
まず基礎知識として、PD-1経路というのが免疫のチェックポイントとして有名なんです。

この分野のしかも機序的なところは勉強不足でして、ほとんどこのイントロでしか情報を得ていないのでうまく説明できないし、正確かどうかも自信ありません。なので、詳しくは成書を参考にしていただきたいのですが、とりあえずまとめてみると、癌細胞にPD-1リガンドが発現していると、T細胞やB細胞のもっているPD-1受容体と結合して、免疫細胞がDown regulationされてしまいます。よって、癌細胞が異物と認識されることがないため、免疫チェックポイントをすり抜けて増殖してしまうというわけなんですね。というわけで、この薬はPD-1受容体に対する抗体ですので、T細胞上のPD-1受容体が癌細胞のもっているリガンド(PD-L1)とくっつくことを邪魔します。結果として、癌細胞が免疫系の攻撃を受けて縮小するというわけです。…、わかりましたか。

かば:…、まあ…。

かわうそ:とにかく話を進めます。大切なのは治療効果ですし。
プラチナダブレットによる化学療法を受けたあとの2nd lineとして使えるように認可されているようです。
ニボルマブとどう違うのかはよくわかりません。この論文の中には書いてありませんでした。

方法にどんな患者を集めたか書いてあります。化学療法を受けたあとの患者さんを集めています。EGFR-TKIやALK阻害薬でもいいみたいですね。
あと、組織検体でPD-L1が1%以上発現していることが確認されていることも参加に必要です。
自己免疫疾患や間質性肺炎は除外基準にひっかかります。ステロイド全身投与も除外基準です。免疫力を頼みにした治療ですので、ステロイドを飲んでいる人は効果が減弱して使いにくいみたいですね。脳転移も除外基準にひっかかりますが、浮腫に対してステロイド使っているからという認識でよいでしょうか。

Fig 1に患者登録の流れが詳しく載っています。2600人スクリーニングした中から、PD-L1染色できたのが2222人、そのうち2/3くらいで陽性でした。けっこう多いです。陰性の人はここで除外されます。50%以上発現している人と、1-49%の発現の人で分けて解析しています。さらに400人位がなんらかの理由で除外されています。脳転移の存在などでしょうか。結局、約1000人が350人弱くらいの3群にわけられています。ペンブロリズマブ2mg/kg、10mg/kg、ドセタキセルの人です。同じようなポピュレーションになるように、いくつかの基準で層別化したうえでランダム化した、と書いてありました。

患者背景が次のテーブルになります。平均年齢60歳くらい、男性6割。人種いろいろいますが、たいてい白人とアジア人ですね。

かば:日本人患者は、著者に日本人が含まれていないのでいないようです。

かわうそ:韓国かも知れません。
喫煙者も多いですね。
組織としては、非扁平上皮癌が7割でだいぶ多いです。

かば:オプジーボは扁平上皮癌がいいと言われていますよね。先に認可されていますし。

かわうそ:そうでしたね。でも、たしかこの薬は扁平上皮癌ではあまり良い結果がでなかったとありました。後で出てきます。

その2へ続く



2016年5月15日

静脈血ガス分析

静脈血ガス分析でCOPD増悪を評価したらどうか、という論文です。

Using venous blood gas analysis in the assessment of COPD exacerbations: a prospective cohort study.
Thorax. 2016 Mar;71(3):210-5. 
McKeever TM, Hearson G, Housley G, Reynolds C, Kinnear W, Harrison TW, Kelly AM, Shaw DE.

2016年4月18日

かわうそ:イントロから行きます。
当然ですがCOPDの増悪はよいものではありません。これはイギリスでは1年間に10万人くらい入院するようですし、死亡のリスクを高めます。増悪入院した人の50%の人が4年以内に亡くなるほどです。
COPDの増悪を診察した場合、ガイドラインでは動脈血を採取してガス分析をするように推奨されています。
ただし、動脈血ガス採取は相当痛いです。手首で取る場合は特に。麻酔をかけてやることもある、と書いてありますが、その直後には、めんどくさいので誰もやっていない、とも書いてあります。

かば:Aラインを取るときは麻酔するんでしょうね。

かわうそ:そうですね。麻酔科回ったときにした記憶あります。
そんな血ガスなんですが、最近の報告によると、静脈血のガス分析でも変わらないのではないかという説があるようです。
たしかに小児科領域ではよく見ますし、最近では糖尿病性ケトアシドーシスのモニタリングもするらしいです。

かば:透析科でもよく見てますよね。

かわうそ:CO2貯留をみる場合も問題ないようです。
というわけで、COPDの増悪でどうなのか、ということを調べているのが今回の論文です。

Methodsに行きます。単一施設でCOPDの増悪と診断された患者すべてを登録して、動脈血ガスと静脈血ガスを同時に測定します。この際、痛みのスケールも評価しています。
さっそく結果を見てみます。2013年2月から2014年1月までの1年間で1376人がCOPDの増悪として入院しています。

かば:ほんとかな?1日3人位入院していますよ?

かわうそ:恐怖ですね。
あと、少し謎なところですが、全員を登録したと書いてある割には、解析している患者数は234人なんです。どういう基準で除外されたのかが詳しく書かれていないようです。
患者背景ですが、年齢は71歳でまあいいんですが、性別が男女ほぼ半分ということで、ちょっと気になりますね。COPDって普通は男性が圧倒的に多い病気ですからね。BMIが26ですが、これは外国なのでこんなもんですね。

かば:あと、喫煙歴なしの14人が。これを入れていいのかとツッコミたいですね。
現喫煙者も3割なのでけっこう多いように思います。

かわうそ:次がメインのResultです。
Figureをみてみます。動脈血ガスからと動脈血ガス、それぞれから得られた結果の平均値を横軸にとって、縦軸に差をとって散布図を作っています。
PHの差は非常に小さいことがわかりました。PHの平均は7.4くらい、縦軸の0のそばに点が集まっています。ということはPHについては静脈血でも代用できそうです。
HCO3-については、Figure2に同じような図が載っています。平均29.7mmol/lで、これもほとんど差がありません。
PCO2については、この論文では単位がキロパスカルなので少しわかりにくいですが、Torrに換算すると、PaCO2=52、PvCO2=57くらいです。

かば:さすがに増悪なのですこしCO2が溜まっているんですね。

かわうそ:そして今までのと比べると、ばらつきが大きいようです。
最後のFigure 4はO2についての図です。これはさすがに動脈血と静脈血を直接比べるわけにはいきません。というわけで、SaO2、つまり動脈血ガスから計算された酸素飽和度と、SpO2、つまり経皮的に測定された酸素飽和度を比較しています。

かば:だいぶばらつきが大きいように見えますけど。

かわうそ:それでも、この筆者の人は、SpO2が80%以上あればばらつきが小さくなると言い張っています。

かば:けっこう強引だな。統計的には説明がつくのかもしれませんが。

かわうそ:一応それを信じて話を進めます。こういう風に解釈するにも意味があるんです。COPD増悪をみて静脈血ガスを採取した時のアルゴリズムを作ろうというわけです。
計算方法についてはよくわかっていませんので、アルゴリズムの表を見てもらいたいのですが、これまでの結果から、PH、HCO3-、PaCO2については、動脈血ガスを取らなくても、静脈血ガスで十分信用できて代用できることがわかりました。問題はPaO2なのです。
SpO2が80%以下の場合、SpO2が信頼できないので動脈血ガスを採取します。またアシドーシスがある場合も動脈血ガスを採取してきちんと評価すべきです。
そうでなければ、CO2の貯留はきちんと評価できますので、静脈血ガスでの評価で十分なのではないでしょうか。CO2の貯留はきちんと評価できているはずなので、静脈血ガスでアシドーシスでなければ、動脈血ガスでもアシドーシスではないでしょう。

このアルゴリズムを適用すると、2/3という、けっこうな割合で、動脈血ガスを採取せずに済んだはず、ということです。
ありがたい結果ですね。

かば:増悪でも意外にCO2が貯留していないものなんですね。


2016年4月22日

間質性肺疾患の緩和 その2

間質性肺疾患の終末期についての検討です。
結果と感想です。

End-of-life care in oxygen-dependent ILD compared with lung cancer: a national population-based study.
Thorax. 2016 Feb 10. pii: thoraxjnl-2015-207439. doi: 10.1136/thoraxjnl-2015-207439. [Epub ahead of print]
Ahmadi Z, Wysham NG, Lundström S, Janson C, Currow DC, Ekström M.

2016年3月9日


その2

その1からつづき

かわうそ:Table 2がmain resultになります。
予想通りなのですが、間質性肺疾患患者の方が肺癌患者と比べて、緩和ケアを行った割合が少なかったという結果でした。
そもそも、「予期されない死」というものが、間質性肺疾患の方が多いです。15%くらいということです。
また、死に場所にも差があります。ホスピスに入るのは肺癌患者が多く、間質性肺疾患患者はナーシングホームが多いです。
あと、EOL discussionについても評価されてます。本人や家族と話している割合です。

かば:でも、間質性肺炎でも半分くらいされているんですね。

かわうそ:わりと間質性肺疾患患者に対して、がんばって話していますよね。逆に肺癌では少ない印象です。でも、統計的には有意差をもって、肺癌患者の方が多く話をされていることになります。

さらに、治療に関する指標が、肺癌ではしっかりあるんですね。例えば疼痛についてのスケールとかです。きちんとvalidateされたスケールを用いてい診療している割合が、どんな症状についても肺癌患者の方が多かったようです。

かば:うちの病院でも、STAS-Jを使っているのは癌の人だけですよね。

かわうそ:看護師さんがやってますね。恥ずかしながら、あれを参考にして治療をするということはないんですけど…。

かば:われわれもどういうものか知っているべきですよね。

かわうそ:このように指標をきちんと使って評価しているとか、本人家族とDiscussionをしているということから、肺癌の方が間質性肺疾患よりも、緩和ケアをしっかりやっているということを言いたいようです。

次に症状については、呼吸困難が間質性肺疾患の方がやっぱり多いです。Table 3に書いてあります。
不安や嘔気は有意差なかったようです。
また、間質性肺炎では、「不明」という回答が多くて、この辺も、肺がんの方がしっかり見ている、スケールに則って記録されている、ということらしいです。

かば:疼痛は肺癌では重要な指標ですけど、意外に間質性肺炎でも半分くらいの人で訴えているんですね。でも、どういう痛みなんでしょうね?気胸でトロッカーとか?

かわうそ:あとはステロイドで圧迫骨折とか?でも、半分もありますかね?

かば:そういえば、嘔気もなぜなのかわかりませんね。モルヒネの嘔気に対する治療ですかね。
間質性肺疾患でこの指標を評価するのはちょっと疑問がありますけど。

かわうそ:モルヒネは量が少ないので、そんなに嘔気言われた経験ないんですけど。
向こうではもっと早期に、大量に、というガイドラインでもあるのでしょうか?

かば:癌と間質性肺疾患とどちらもある人はどうなっているんでしょうか?そういう人なら疼痛あるかも。

かわうそ:それはあんまり書いてなかったと思います。
Table 4が、治療により症状が緩和されたかどうかです。間質性肺疾患の方が完全寛解が難しいようです。
結果としては、間質性肺疾患では、緩和ケアサービスの利用がすくないこと、症状の重さやニーズが過小評価されている、そもそも評価されていないのでは、ということがわかりました。
症状が寛解しているのも肺癌の方が多いようですので、これもきちんとスケールにそって評価されて、治療が始まっているからなのではないか、と書いてあります。

かば:緩和ケア導入のタイミングが難しいですけどね。HOT導入がきっかけになりそうですね。
そういえば、前亡くなった方もやっぱりHOT導入から半年だったのを思い出しました。

かわうそ:うちの病院で、がん以外の病気で緩和サポートチームに介入依頼できるんでしょうか?前の病院では、癌かHIVしかだめと言われてましたので。

かば:多分できます。「非癌」という項目があったように思います。


2016年4月19日

間質性肺疾患の緩和 その1

間質性肺疾患の終末期についての検討です。とりあえず背景、方法、患者背景までです。

End-of-life care in oxygen-dependent ILD compared with lung cancer: a national population-based study.
Thorax. 2016 Feb 10. pii: thoraxjnl-2015-207439. doi: 10.1136/thoraxjnl-2015-207439. [Epub ahead of print]
Ahmadi Z, Wysham NG, Lundström S, Janson C, Currow DC, Ekström M.

2016年3月9日

その1

かわうそ:間質性肺疾患の終末期についての検討です。
進行期の間質性肺炎をここでは在宅酸素を導入されている人と定義して、癌の終末期の人について比較しています。

かば:ふんふん。

かわうそ:スウェーデンの全国登録コホートを使っています。
2011年1月から2013年10月までの死亡した方について、死亡前7日間の症状と治療について、主治医があとから記憶をたよりに回答するという形式です。
間質性肺炎が285人、肺がん患者が1万人です。

かば:圧倒的な人数の差ですね。レトロスペクティブな研究なんですね?

かわうそ:でも、登録自体は前向きみたいです。
背景としては、間質性肺疾患は、特に特発性肺線維症は予後不良で進行期には症状が重くてQOLが低下します。肺癌と違って、予後不良な割には緩和ケアが少ないのが問題です。
最近では非腫瘍領域でも緩和ケアの関心が高まっていて、COPDと緩和ケアなんかはちょっと話題になっているようですけど。
で、実際のところ間質性肺炎ではどうなのか、という疑問に対する研究です。

方法に入りますが、スウェーデンでは在宅酸素を導入した患者に関する全国登録調査というものがあるみたいです。そのうち、間質性肺疾患の患者を対象にして研究しています。この期間内に490人が亡くなっていました。
さらに、SRPCという緩和ケアに関して登録される全国調査があって、そこにも登録されていた間質性肺疾患患者が285人ということみたいです。

かば:登録の割合が高いですね。さすが(?)スウェーデンですね。

かわうそ:肺癌の方については、SRPCが全肺がん患者の80%以上が登録されていて、この期間中に1万人くらい亡くなっているということです。

ただ、この評価項目はけっこうざっくりしているんだな、という印象を受けました。
「死亡の1週間前に、以下の様な症状がありましたか?」という質問について、あとから主治医が登録するというものです。
どんな症状があったか、それが薬でどれくらい解消されたか、寛解したのか、部分緩和か、非緩和かを回答します。
薬を使ったかというのも、はいかいいえかぐらいで、投与量は不問です。

結果です。Table 1に載っています。患者背景としては、年齢は間質性肺疾患の方が78歳で少し高くて、女性の割合は逆に少ないという感じですね。

かば:Fig 2は在宅酸素導入後の生存曲線ですね。けっこうショッキングですね。

かわうそ:間質性肺炎で在宅酸素を導入した場合、生存期間の中央値が8ヶ月で、カプランマイヤー曲線だと、50%生存期間は6ヶ月くらいですからね。
在宅酸素療法が呼吸困難に対する緩和ケアの一環とすれば、緩和ケアの認識が甘くて、導入が遅すぎるということになるのだと思います。

かば:なるほどね。

その2につづく


2016年4月7日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その6

ようやくラスト。Discussionにはいります。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その6

その5からつづき


かわうそ:まずはまとめですが、EVDのためヨーロッパまたはアメリカで治療を受けた患者の重症度は、軽症から重症・致死的まで幅がありました。ヨーロッパまたはアメリカでの死亡率は18.5%ということで、西アフリカの37-74%と比べてかなり低かったといえるのではないでしょうか。
死亡した5人は全員42歳以上でした。西アフリカでは、40歳以上または45歳以上というのが、EVDの死亡のリスクファクターとして同定されていまして、それと矛盾しないと言えます。

かば:西アフリカだと42歳で高齢なんでしょうね。

かわうそ:その基準を欧米で当てはめていいのかとは思います。
次に、アメリカとヨーロッパでは、十分に治療されたから、死亡率が低かったのか?ということについて考察されています。

筆者によると、もしかすると、死亡率は41%(27人中11人死亡)まで上がってもおかしくなかったと主張しています。つまり、NIV治療を受けた2人、MVをうけた2人、MVとCRRTを受けた2人、これ合わせて6人が、西アフリカでは行われない治療で救命しえたと言えますので。

ヨーロッパとアメリカで治療をうけたEVD患者の重要な特徴は、電解質と血球数について詳細にモニターできたということです。これらのデータをまとめると、はやく受診して、supportive care, intravenous fluid resuscitation, careful fluid management and electrolyte replacement to correct metabolic abnormalities, nutritional support, and critical care supportを受けられれば、死亡率を減らすことができるんじゃないか、ということが示唆されたというわけです。

全部で5人の患者が、無尿性の腎不全になり、CRRTを受けています。急性腎不全はおそらくhypovolemic shockと急性尿細管壊死のためと考えられました。CK上昇、肝逸脱酵素上昇なども影響している可能性があるかと思います。
EVDは、典型的には重症の呼吸器症状を呈さないと考えられていたのですが、実際は8人(30%)で入院時に咳嗽がみられています。これは既報と矛盾しません。ギニアからの報告では、入院時の呼吸困難は致死的な経過と関係があるとされているくらいです。今回は9人(33%)で呼吸不全のため人工呼吸管理されました。繰り返しになりますが、NIVで治療された2人は生存しましたが、MVを必要とした7人のうち、腎機能障害でCRRTを必要とした3人は死亡しています。EVDで呼吸器症状のでるメカニズムはいろいろ書いていますが、結局はよくわからないみたいです。ウイルス自体のため?治療のため?輸液が多すぎた?実験的治療の副作用?など考察されています。結局、症例が少ないので何もいえません。

実験的治療についてですが、ほとんどの患者で実験的治療が行われていました。8割以上です。有害事象もありましたが、有害事象も治療効果も評価できないし、支持療法によるものと区別できません。この辺りについては、今後の研究に期待、とのことです。

limitationについてですが、1.西アフリカと比べて数が少ない。2.成人、ほとんどが非アフリカ系。アフリカでのデータに乏しい。3.検査施設が異なる。RT-PCT。退院基準が決まっていないので入院日数の比較は?4.実験的治療をうけているが、その効果・副作用が不明確。5.レトロスペクティブなデータ収集。というわけで、この結果を一般化することはできない、となっています。

結論としては、EVDによる死亡率は依然として高いままなんですが、このように詳細にモニタリングして、経静脈的に補液を行って、電解質バランスの異常を補正して、栄養管理をして、呼吸不全・腎不全に対して侵襲的な治療を厭わないということで生存率を高めうることがわかりました。
また、そもそも、西アフリカという医療資源が制限された状況を改善するべきだということも示唆されました。

以前、NEJMのMGH case reportでエボラ疑いの人を読んだので、その関連で読んでみました。その人は結局マラリアだったというオチでしたが。

そういえば、やっぱり欧米はすごくて、こうやって欧米でもEVD患者をみるということが予想された時に、情報共有のネットワークを作ったそうです。その結果がこの論文というわけです。

かば:たしかにすごいですね。


2016年4月4日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その5


まだ結果が続きます。アウトカムについてです。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.


2016年3月3日

その5

その4からつづき

virologic and immunologic examinationについては、Table 4にまとめが載っています。
エボラウイルスのRNAを検出するための、平均のRT-PCRサイクルの閾値は発症5日目で24でした。エボラウイルスRNAの量は発症6.5日目で、2.7*10^7コピー/mlということです。
発症してから、血液検査で最初にRT-PCRが陰性になるまでの時間としては、17.5日が中央値です。

かば:帰国者の隔離ってされているんでしたっけ?

かわうそ:どうなんでしょう?たぶん無いんじゃなですか?でも、この結果からすると、2週間以上はウイルスが検出されるようなので、けっこう長く隔離されることになりますけど。

エボラウイルスRNAは、いろんなところから検出されるんですが、実際、唾液、汗、大便、精液、直腸/膣/皮膚のスワブ検体で検出されています。

かば:ほんとうに皮膚からも検出されているんですね。汗のせいなんでしょうけど。

かわうそ:エボラウイスルに対するIgM抗体は、発症10日目の時点で5人で検出されました。IgGは11日目で6人で検出されました。全員が抗体ができるわけではないんですかね。

かば:抗体のできる人が生存しやすいとか?

かわうそ:それっぽいですけど、どうなんでしょう?記載ありませんでした。
ただ、回復患者からの血液製剤は、EVD治療の特効薬というわけではないと報告されているようです。

ちなみに、ゴルゴ13がエボラウイルスに感染した時は、サルからつくった血清で、自分だけでなく乗り合わせた豪華客船の乗客の命も救っていましたけどね(「病原体レベル4」より)。

アウトカムですけど、5人が死亡しました。発症14日目で11.1%、28日で18.5%ということで、死亡例は4週間で全員亡くなっています。20人が自宅退院して、2人はリハビリ施設に退院しました。あと5人が死亡退院で、計27人ですね。
死亡群は生存群と比べて高齢であったということで、56歳対34.5歳、P=0.01で有意差がありました。
当然この5人は重症で、多臓器不全があり、MVとCRRTを受けていました。NIVを受けたうち2人は生存しています。8人(30%)で昇圧剤、循環作動薬が使用されています。心肺蘇生を施行された患者はいませんでした。EVDの致死的なケースが2例あったんですが、そのうち1例ではResuscitaion medicationが投与され、もう一例では経皮ペーシングが行われたということです。

他に生存群と死亡群を分ける要因としては、入院までの時間があがりました。生存群3.5日対死亡群5日ということで、P=0.03で有意差がありました。
特に、medically evacuated patientsでは、入院までの時間が、生存した16人では死亡した4人よりも短かったようです。4日と5日というわけでの違いなんですが…。P=0.02で有意差あります。

かば:つまり、死亡した5人のうち、4人は「medically evacuated patients」で、あとの1人が「imported case」か「locally acquired case」かわからないということですね。
この死亡した人が、医療従事者だったかどうかとか国籍とか気になりますよね。

かわうそ:そのあたりは興味あるところですが、記載されていないと思います。見逃しただけかもしれませんけど。
医療従事者の割合はたしかに高いはずですが、今回の報告には一般人なのか医療従事者なのかは入っていません。西アフリカにも旅行者や商用で滞在していた人がいるはずですし(渡航制限はあるかもしれませんが)、原理的には、欧米でも病院外で感染し得ます。また、西アフリカの上流階級の人が、より良い治療を求めて欧米に渡った、という可能性もあります。

まあでも、基本的にEVDは医療従事者の罹患率・死亡率の高い疾患ということは言えると思います。
そこをはっきりさせるとかなりセンセーショナルなので、ぼかして書いてあるような印象を受けました。

かば:どれくらいの人が、ボランティアなりNGOなりで西アフリカに支援に行っていたのか、その母数も欲しいところです。

かわうそ:たしかに。
本文に戻りますが、クレアチニン、ビリルビン、ウイルス量の上昇が死亡と関係があるのではないかと示唆されています。
まあでも、生存群22例と死亡群5例の比較ですからね…。数が少ないですね。

その6へつづく


2016年3月31日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その4

結果続き。治療についてです。
やはり西アフリカと欧米では違ってきます…。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その4

その3からつづき

かわうそ:まず支持療法についてです。すべての患者で、経口または経静脈的に電解質バランス異常を治療するために補液を受けています。実際、1人以外のすべての患者で、経静脈点滴がされていました。さらに、15人(56%)では食事も中止になって、完全静脈栄養になっています。
制吐剤はほとんどすべてで投与されていましたが、止痢薬はほとんど使われていません。
22人(81%)ではempiricalな抗生剤が投与されていて、平均2剤使っています。多いのは第三世第セフェム系です。西アフリカにいた24人のうち、17人は抗マラリアの予防投薬または治療を行われました。実際、マラリアが合併していると診断されている症例もあったと書いてあります。
11人(41%)の患者で、血液製剤が使用されています。血小板減少や出血傾向、低アルブミン血症に対するものでしょうか。あんまり詳しく書いてありませんでした。ここでの血液製剤はあくまで一般的な製剤です。このあと、実験的治療の項目でも血液製剤の使用について言及されています。ご存知と思いますが、こちらは、EVDから回復した患者さんの血液から作った製剤を、エボラウイルスに対する抗体があるものとして使用するというものです。

また、呼吸器系のSupportive careがしばしば行われていました。先程も言いましたが、呼吸器症状が意外に多いんです。19人(70%)で酸素投与が行われていて、9人(47%)では呼吸不全で人工呼吸管理が行われていました。Table 1にそのあたり書いてあります。
呼吸不全発症までのmedian timeは9日です。4人(15%)ではNIVを施行されていいて、うち2人では失敗したので、その後挿管人工呼吸管理されています。
全部で7人(26%)でMVされていますが、そのうち7人中5人では、さらに持続的腎代替療法が行われていました。

実験的治療についてですが、免疫治療として、回復期患者の血漿、白血球製剤、triple monoclonal antibody cocktail(ZMapp、ZMab、MIL77)があります。
抗ウイルス活性があると考えられている薬(TKM-Ebola、Favipiravir、Brincidofovir、Amiodarone)もいくつかあるようです。

かば:アミオダロンとか使うんですね。どういう効果を期待しているんですかね?

かわうそ:あと、血管漏出に対抗する薬(FXX06、melanocortin)もあります。
これらが、23人(85%)で投与されています。認可外または例外的使用(未承認医薬品を例外的に使用許可)として投与されたとのことです。
19人(70%)では、これらのうち少なくとも2剤が投与されていました。効果についてはよくわからないようですが、副作用はけっこうあったようで、SIRS、低血圧、肝機能障害、transfusion associated acute lung injuryなどが有害事象として報告されています。このあたりはTable 3にまとめてあります。特にTKM-Ebolaでは100%有害事象があったということになっています。

かば:怖いですね。

その5へつづく


2016年3月30日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その3

結果です。長いので前半だけです。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その3

その2からつづき

かわうそ:結果に行きますけど、ヨーロッパまたはアメリカで治療を受けたのは、全部で27人でした。9カ国、15病院での治療ということになっています。年齢の中央値は36歳。19人(70%)が男性、26人中9人が何らかの併存疾患を持っていました。20人(74%)がmedically evacuated patientでした。年齢の中央値は36.5歳。あとは圧倒的に少なくて、3人(11%)がlocally acquired caseの医療従事者でした。年齢の中央値は29歳です。4人(15%)がimported case of EVDで、年齢の中央値が38.5歳で、これはちょっと高いですね。22人(81%)が医療従事者であり、17人(77%)は西アフリカのエボラ治療チームで働いていた方です。発症から診断までの中央値は3日、発症から入院までは4日ということで、割と素早く診断と加療がなされていることがわかります。

臨床所見は気になるところで、Fig 1にまとめてのっています。発症時と入院時がわかれています。たぶん、発症時は記憶にたよっているのでちょっと不正確だと言いたいんだと思います。nも欠けています。あとで考察されていますが、西アフリカで発症した人でこの辺りのデータが乏しいようです。

発症時には、もっともcommonな症状は倦怠感です。20人(80%)で認められました。発熱が17人(68%)です。他のはFigure 1Aを参照してもらうとして…。
Fig 1Bが入院時の話になります。入院時には、発熱、食欲不振、虚弱、消化器症状が主なものとしてあげられます。

意外に、「エボラ出血熱」というわりには、あまり出血は多くないんだな、という印象を受けます。まあ、発症・入院時ということで比較的早期だからでしょうか。

Tableにも入院中に認められた臨床所見がまとめられています。半分近くの患者(14人、52%)で低酸素血症があって、平均SPO2は室内気で84.5%でした。酸素投与もされています。
実はすべての患者で下痢が認められていて、平均罹病期間は6日、1日3000mlが続くということで、けっこう激しい下痢ですね。これも関係していると思いますが、33%で腎障害があり、乏尿または無尿の人もいました。16人(59%)でSIRSの基準を満たしました。脳障害、脳炎などの神経学的合併症も1/3で報告されています。入院時には9人(33%)で鼻出血、点状出血、下血、血性下痢、静脈カテーテル周囲のoozingなどの出血傾向を認めており、入院経過では14人(52%)でカテーテル周囲のoozingが認められました。やはり出血熱だけはありますね。大量出血は2人(7%)で観察されています。

かば:PPEつけながら中心静脈カテーテルいれるのがすごいですよね。

かわうそ:さすがですね。
検査所見については、まずはウイルス感染ということで白血球減少が認められています。1週目で認められるようです。発症から6日目にnadirになり、2週間で回復していました。また、血小板減少はほとんどすべての患者で報告されていて、INRも上昇していて、medianで1.49です。この辺が出血に関係するのでしょうか。
アミノトランスフェラーゼは2週目で上昇していました。特にASTが有意に上昇するようです。一方、ビリルビンは少し上昇していただけでした。筋肉痛なんかも報告されていますので、それを反映しているのか、CKは最大平均1000Uくらいまで上昇してて、乳酸値もたいていの患者で上昇しています(2.8mmol/l)。クレアチニンは入院時には5人(19%)で上昇していました。大部分の患者で電解質バランス異常が認められています。また、すべての患者で低アルブミン血症が認められました。

その4へつづく

2016年3月29日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その2

本文に入ります。背景と方法です。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その2

その1からつづき

かわうそ:西アフリカでのEVDの流行で、2015年12月までに28600人以上の感染と、11300人以上の死亡が報告されています。死亡率は37~74%とけっこう幅がありますが、とにかくそう報告されています。
重症患者が圧倒的に多いですし、さらに西アフリカという地域柄、医療・非医療にかぎらず物資の供給に制限があったりだとか、あと、高温多湿という熱帯気候のためPPE装備、あの宇宙服みたいなやつですが、あの装備が十分にできないなど、不利な条件が重なったので、これくらい死亡率が高くなってしまっているようです。
多くのEVD患者が、全く治療を受けていないわけではもちろんなく、経口補液、止痢薬、解熱鎮痛薬、抗生剤などの対症療法は一応うけていたとされていますが、すべてのエボラ治療ユニットでより有効と思われる補液などの治療ができたわけでは当然ないのです。
そういう状況なので、より積極的に、経静脈補液などによって電解質バランスを補正することができれば、EVD重症患者のアウトカムを改善できるのではないか、という説はこれまでもあったのです。

2014年8月以降、西アフリカでEVDと診断された患者のうち数人が、より高度の医療を求めてヨーロッパやアメリカに避難してきました。さらに、西アフリカで、またはヨーロッパ・アメリカでの(院内)感染によりエボラウイルスに感染したと診断された患者も発生しています。
ヨーロッパとアメリカでEVDの治療を受けた患者は、広範囲の検査と循環動態について詳細なモニタリングの記録があり、より侵襲的な治療だとか、何より実験的な治療を受ける機会もあったので、西アフリカでの経過と違うのではないかということが予想されます。
というわけで、このレポートで、アメリカとヨーロッパでのEVD治療を受けたすべての患者の臨床的特徴と治療についてまとめてみたということです。

方法です。
Study designとしては、2014年8月から2015年12月まで、アメリカとヨーロッパで治療をうけた、エボラウイルス感染が確定したすべての患者のデータ(demographic、clinical、laboratory、virologic)をレトロスペクティブに匿名化して収集しました。

Study populatonはRT-PCRで診断確定した患者さんです。いろいろ定義があります。
「medically evacuated patient with EVD」というのが、発症と診断が西アフリカでされて、ヨーロッパまたはアメリカに治療を求めて移動した患者と定義されています。
「A patient with an imported case of EVD」というのもあります。これは、エボラウイルスに西アフリカで暴露または感染し、発症と診断がヨーロッパまたはアメリカであった患者と定義されています。
最後は、「A locally acquired case」というのがあって、暴露、発症がヨーロッパまたはアメリカで、診断が当然ですが、ヨーロッパまたはアメリカでされた患者と定義されています。基本的には院内感染ということだと思います。
これらの患者群で違いがあるかどうかということが後で検討されています。

その3へつづく