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2016年12月22日

62歳男性、食事がのどを通らない。その2

幸運な症例の続きです。治療経過です。
この治療が早く広まるといいと思います。


Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.

2016年11月28日

その2

その1からつづき

かば:扁平上皮癌でも腺癌でも同じメニューでよいんですか?どちらが予後が悪いんですかね?
たしか、日本は扁平上皮癌が多くて、外国は腺癌が多いんでしたっけ?
でも、うちなら多分CDDP+S1とかが多いように思います。

かわうそ:なるほど。すいません。経験ないので何も言えません。
ここではEOXというのを最初に検討しています。けっこうエビデンスはあるようなんですが、いかんせん、休薬期間がないらしいんです。よく知りませんが、けっこう恐怖を覚えます。epirubicin、oxaliplatin、capecitabineと、けっこう緊張感のある薬が並んでいますし。
あとは、FOLFOXかなっていっています。

かば:大腸がんでつかうのかと思ってました。

かわうそ:ほかにはCDDP+CPTも候補に上がっています。
このあたりの選択についても、きちんと論文を参照しています。これらを比較したRCTで、効果は同じくらいだけど副作用が少なかったという理由で、FOLFOXがよいのではないかと言っています。

放射線との併用もしやすいみたいです。FOLFOXとCDDP+FUの比較の論文が引用されています。さらに、放射線治療のスケジュールについても、いろいろ論文を引いた上で、計画したと言っています。

かば:えらいですね。

かわうそ:この態度は見習いたいですね。
しかし、治療完遂後、フォローアップのPET-CTで遠隔転移再発がありました。で、2nd lineの治療についてなんですけど、どうしますか?

かば:そもそも食道の腺癌ってほとんど見たことありませんし。
肺癌でも、2nd lineの治療ってあんまりガイドライン通りやっていませんよね?

かわうそ:DTX単剤くらいですけど、若くて元気だからという理由で1st lineと同じようにプラチナダブレット使いますしね。
ここでは、CPTとかDTXの単剤治療かな、とか書いてあります。最近では、PTXとサイラムザの併用が話題らしいですけど。
ただし、BSCとこれらの治療を比較した論文によると、1.5ヶ月の生存期間延長が期待できるくらいらしいんです。サイラムザのレジメンでも、生存期間を約2ヶ月伸ばすくらいです。

かば:…。やっぱりかなり厳しいですよね。

かわうそ:でも、これだけではたぶんこのケースレポートになりません。
ここでは何をしているかというと、一か八か遺伝子変異の検索をしているんです。
胃癌では、HER2過剰発現があれば、乳がんの治療薬のトラスツマブの効果が期待できるなんていう知見もあるし、とかいろいろ書いてあります。

かば:胃癌なら必ずHER2は調べていますよ。

かわうそ:このあたりは何をやってるのかよくわかりませんので、結論だけ言うと、PIK3CAという遺伝子変異がみつかったということと、METの増幅があることがわかりました。

かば:どちらも知りませんけど。でも、ふたつの遺伝子変異があるのって珍しくないですか?

かわうそ:そうですね。そのあたりは後の質疑応答でツッコまれていますが、そもそも、こんな症例ないのでコメントのしようがないって言ってます。
PIK3CAの方については、食道領域では胃癌での報告があるくらいだそうです。乳癌では、トラスツマブに対する反応がよくないものの、予後はよいという報告があるようです。肺癌では、EGFR遺伝子変異陽性のうち、少数で見つかることがあって、EGFR-TKIに対する耐性の獲得に関係するようです。

METの増幅については、とくにhigh-gradeの食道腺癌に認められて、アグレッシブな経過をたどることが多いそうです。この症例でも、放射線化学療法に対してPDでしたし、当てはまりそうですね。

で、クリゾチニブを使っています。

かば:え?ザーコリですよね。あれはALK融合遺伝子だと思っていましたが、そういえば関係あるんでしたっけ?

かわうそ:よくご存知ですね。ネットで調べてみたところ、もともとc-Met遺伝子の阻害薬として開発されていたらしいんです。
MET増幅って、消化器系の悪性疾患では多いような気がしますけど、あんまりクリゾチニブを使うって聞かないですよね?

かば:適応ないですよね。

かわうそ:で、内服開始してからのPET-CTをみると、原発巣も転移巣も全く取り込みなくなっています。

かば:すごいですね!

かわうそ:この症例では四年間のみつづけてまだ効果が持続しているようで、めでたしめでたし、といえるかどうかわかりませんが、かなり幸運だと思います。

最近、ザーコリって、アレセンサとかとの比較でいいところがあまりないように思っていましたので、これでちょっと見直しました。

2016年12月19日

62歳男性、食事がのどを通らない。その1

非常に幸運な症例と思います。
まずは病歴と診断までです。

Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.


2016年11月28日

その1

かわうそ:今回はわりと珍しいんですけど、早速病名が書いてあります。食道腺癌です。
ゴルフボールが喉に詰まっている感覚が2ヶ月続くということで受診されました。胃食道逆流が疑われ、PPIを処方されましたがよくなりません。

かば:次の手としては、梅核気ってことで半夏厚朴湯を試してしまいそうです。たしかに、食道癌のもありえますし、早めに胃カメラが必要でしたね。

かわうそ:怖いですよね。感覚だけなのか、実際に飲み込めないのか、きちんと聞かないと、ですね。この症例では実際に通らなかったようです。
ここではまずバリウムをされています。Fig 1Aでは、胃食道接合部のあたりの粘膜が不整な感じになって狭くなっているのがわかります。口側が拡張しているようにも見えます。
次がPET-CTです。

かば:内視鏡じゃないんですね?

かわうそ:ちょっと不思議ですが、検査のハードルもいろいろありますし。
CTでも、胃食道接合部のあたりの食道が全周的に肥厚していることがわかります。PETでFDGの取り込みもあります。この図ではわかりませんが、腋窩リンパ節なども腫脹しているようです。
血液検査では、CEAとCA19-9が上昇しています。

かば:なるほど、腺癌っぽいですね。

かわうそ:上部消化管内視鏡検査では、遠位食道から胃食道接合部にかけて、周囲がやや隆起して、中心に潰瘍を形成している病変がありました。食事ものどを通らないくらいですので、内視鏡もなかなか通りません。拡張させてから胃・十二指腸までのぞいています。そこには病変を認めなかったようです。
超音波内視鏡の画像も載っています。粘膜下まで浸潤していること、リンパ節腫脹があることが確認できました。

そして、さっそく生検しています。

かば:検体が大きいですね。

かわうそ:気管支鏡検査の検体とは違いますね。消化管内視鏡では、生検の検体だけで粘膜下まで浸潤しているということがわかるらしいです。

かば:で、これは腺癌でいいんですか?

かわうそ:HE染色で青っぽく染まっている部分がムチンらしいです。そのあたりから腺癌を伺わせますが、なかなか腺管形成がはっきりしません。

かば:低分化型なんでしょうね。
細胞診のパパニコロウ染色で、扁平上皮癌は黄色っぽくなるんでしたっけ?
これをみると青色ばっかりなので、やっぱり腺癌が疑わしいですね。

かわうそ:ちなみに、細胞診の検体でセルブロックを作成すると、少し腺管形成らしいものができてくるのが不思議です。

というわけで、低分化型腺癌、リンパ節転移あり、というところまで診断できました。

ここから病歴がはじまります。
嚥下困難と嘔吐のため食欲がなく、2ヶ月間で9kg減っています。

かば:それは大変ですね。

かわうそ:と思うのが日本人の限界でしょう。あとでこの人、体重が111kgだとでてきまので、本当に大変なんでしょうか?

かば:それでも1割減っていますし…。

かわうそ:たしかにそうですね。
そういえば、胃カメラのあとは食道が少し広がったためか、ごはん食べられるようになったような記載もありました。
既往としては、高血圧、高脂血症、脊椎の変形があります。子供の頃の虫垂炎の手術のときに小腸を切除して短くなったため、下痢をしているようです。

かば:慢性的に下痢をしていて、それでも111kgですか。

かわうそ:これらでけっこう大量の薬を内服しています。喫煙歴もしっかりあります。
さて、こういう人にどういう治療をしましょうか?

その2へつづく



2016年8月4日

GERDと咳の関係

すっきりとわかりやすい論文でした。

The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms.
Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.
Lavorini F, Chellini E, Bigazzi F, Surrenti E, Fontana GA.


2016年7月29日

かば:Deflation coughってわかります?「肺活量測定の時、息を吐き切った時に誘発される咳のような排出努力」という定義らしいんですけど。

かわうそ:なんとなくわかります。聴診のとき、強制呼気で咳き込むってことですかね。

かば:そういうイメージでいいと思うんですが、定義上は、肺活量測定なので、ゆっくり呼出して肺が空っぽになった時に誘発される咳嗽とのことです。なので、強制呼気とは少し違うのかもしれません。とにかく、胃食道逆流、GERDの症状と考えて良さそうです。

そのDeflation Cough、DCとGERDの関係を調べたのが本研究です。

157人で、DCの評価と24時間食道PHモニタリング、MII-pHをしています。

かわうそ:24時間食道PHモニタリングを157人で!

かば:なのでCHESTに載ったんだと思われます。

157人中、93人では慢性咳嗽もありました。
DCは、肺活量測定を2~4回繰り返して、咳込みを耳で測定したとあります。

結果です。表をみてもらう方がわかりやすいですね。2×2表が載っています。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1531
DCなし1596

DCとGERDには関係がありました。P<0.01です。
感度50%、特異度76%、陽性予測率33%、陰性予測率86%ということでしたが、著者はまだ満足していません。

かわうそ:けっこう立派な結果に感じますけど。

かば:そこで、慢性咳嗽のある93人に絞って解析しています。慢性咳嗽についてはVASで評価したとのことです。ちなみに、この中に現喫煙者はいませんでした。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1525
DCなし251

こうすれば、感度88%、特異度67%、陽性予測率38%、陰性予測率はなんと96%ということになりました。

かわうそ:すごいですね!
でも、つまり…、どういうことだってばよ?

かば:つまり、遷延性咳嗽・慢性咳嗽で受診した患者さんで、強制呼気で聴診をしたとしますよね。

かわうそ:うんうん。

かば:その時に、DC、咳込みがなかったとしたら、GERDの可能性が低くなるので、PPIを出さなくてもよいということになると思うんです。

かわうそ:なるほど。
強制呼気時の咳込みって、けっこう喘息に典型的かと思っていましたけど、GERDに関係するんですね。

かば:胸腔内圧が高まることで胃酸逆流につながるんじゃないか、とDiscussionに書いてありました。
この論文は全部で6ページだけで、非常にシンプルですけど美しい結論ですよね。


2016年5月2日

Too Much of a Good Thing その2

何かよいものが過剰なようです。
答え合わせです。


CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Too Much of a Good Thing
N Engl J Med 2016; 374:873-878
Lauren A. Beste, M.D., Richard H. Moseley, M.D., Sanjay Saint, M.D., M.P.H., and Paul B. Cornia, M.D.

2016年3月16日

その2

その1からつづき

かわうそ:これだけ調べて原因がわからなかったのでどうするかというと、ここがすごいところだと思うんですけど、またしつこく問診に戻ってるんですよね。
その結果、ビタミンAをしこたま摂っていたということがわかりました。1367000IUでした。

かば:なんと!

かわうそ:これは、単位の設定が間違っていますよ。もうちょっと切り上げてわかりやすい数字にすべきではないでしょうか、かつてのジンバブエドルじゃないんですから。
…、ちなみにジンバブエドルといえば、ゴルゴ13の史上最高ケタ数の報酬で有名なエピソード、「標的は陽気な悪魔」ですよね。なんと驚愕の1300京ジンバブエドルです。

さらに面白いことに、この患者さんは強迫性障害なので、内服量を詳細に記録していました。
その記録によると、入院の直前には、たしかに申告された量だったので、うそは言っていないことになります。その前には山ほど飲んでいましたけど。
このエピソードからすると、強迫性障害というよりも、アスペルガーを疑いますけどね。へんに真面目に、聞かれたことしか答えないところとか。言いたくなくてごまかしてるだけかもしれませんけど。

でも、ここまでわかると、肝機能障害、門脈圧亢進症以外に、この患者さんが最初から申告していた(らしい)食思不振、皮膚障害、脱毛などもビタミンAの過剰摂取の症状でなかったか、ということが思い当たります。

実は、診断前にビタミンA=レチノールの血中濃度も測定していましたが、これは正常でした。あまり役に立たないんです。ビタミンAは脂溶性なので、あまり血中にはでないのかもしれませんね。

かば:「これDAKE」で、ビタミンD、A、K、Eは脂溶性です。有名な語呂合わせです。

かわうそ:ビタミンA過剰症と診断されたという情報を得た上で、そういう目で生検標本を見直すと、いちおうチョビっとだけ先ほど述べたようなそれらしき病変がみつかったとのことで、めでたく診断確定しています。

あとはわりと自然に肝機能障害、門脈圧亢進症の症状が治っています。ビタミンAが自然に減っていったのでしょうか。

もちろん強迫性障害の治療もやっています。栄養士との相談とか、認知療法とか。

かば:いいわけが書いてありますね。ビタミンA過剰症は程度が様々だとか、この患者ではとても見つけるのが難しかったとか。

かわうそ:まあ針生検は標本が小さいですからね。
やっぱり、この疾患を疑っている、と思った上で検査しないと見落としてしまいます。鑑別診断あげるのは大切ですよね。

それにしても、サプリの健康被害ってあるんですかね?あんまり経験しないように思いますけど。

かば:一応肝障害とか、あと間質性肺炎とかあるんじゃないですか。

かわうそ:あ、そうですね。

かば:日本ではそんなに大容量では売っていないから、目立たないのかもしれません。

かわうそ:メラトニンとかもそうですよね。向こうでは時差ボケのサプリとして市販されてますが、日本ではなぞの高額な薬価です。



2016年4月28日

Too Much of a Good Thing その1

何かよいものが過剰なようです。
問題篇です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Too Much of a Good Thing
N Engl J Med 2016; 374:873-878
Lauren A. Beste, M.D., Richard H. Moseley, M.D., Sanjay Saint, M.D., M.P.H., and Paul B. Cornia, M.D.

2016年3月16日

その1

かわうそ:54歳男性。下肢の浮腫と腹痛です。腹痛はあんまりはっきりとした訴えではないんですけど、上腹部に帯状に痛い部分があるようです。

この段階で、腹部臓器のどのあたりの疾患かを鑑別にあげています。このへんの診断学というのがすごいですよね。普通は、とりあえず検査でなんとかならないかと考えてしまいがちですけど。

まず、上腹部の帯状の鈍痛は、腹膜そばの内臓疾患を示唆します。心窩部痛なら胃・十二指腸または膵臓の疾患、右季肋部なら肝胆あたり、食後の症状なら胃潰瘍または胆嚢の痛みなどなどです。
あれ、けっこう当たり前のことでしたね?

とにかく、今回の症例では下肢の浮腫があるので、腹水の存在は?とか肝疾患では?とコメントされています。

あと、この方は強迫性障害で20年以上薬を飲んでいるとのことです。ビタミンAもサプリとして飲んでいます。この情報、実はあとでジワジワ効いてきます。

かば:アメリカではサプリメントはけっこう問題になってますよね。市販でいろいろ大量に買えちゃいますからね。

かわうそ:ビタミンAは1日25000単位まで大丈夫らしいので、自己申告の量では大丈夫みたいです。

身体所見では、かなりカヘキシアがあるように見えました。あんまりよくないですよね。
あと、下肢浮腫だけでなく、やっぱり腹水の所見があります。腹部膨満していてfluid waveも認められました。黄疸はありません。また、腹水がたまるほどの肝硬変ならくも状血管腫とか手掌紅斑とかあってほしいんですが、そういうのはないようです。

かば:いわゆる肝硬変ぽくはないってこと?

かわうそ:そうみたいです。なら、悪性疾患とかネフローゼとかかな、とか鑑別を挙げています。

血液検査では、低Na血症と軽度の肝逸脱酵素上昇です。PT延長、血小板減少があります。これは肝硬変っぽいといえそうです。
で、Albは下がっていません。3.6です。低たんぱくで腹水がでているわけでもないようです。やっぱり尿蛋白も陰性でした。
A肝、B肝、C肝はそれぞれ陰性でした。実は、C型肝炎の抗体は陽性でしたが、ウイルス量がnegativeなので、C型肝炎が治癒したものと考えられました。

かば:しかし、不思議な症例ですね。ウイルスでも肝硬変でもないのに、腹水貯留で悪液質に生ってしまっているんですよね?

かわうそ:ほんとそうですね。
ところで、以前腹水の症例をやったときに、SAAGというのを知りましたよね。

かば:胸水は血液と胸水の比だけど、腹水は差だとかいうやつですね。

かわうそ:それを調べたところ、2.7g/dlだったということで、漏出性の腹水を示唆するということです。
こういう場合はフロセミドとかスピロノラクトンで治療が始まっています。あと、水分制限、Na制限です。この人は低Na血症があるんですけど、それでもNa制限です。

かば:けっこうきついですね。

かわうそ:なかなかできないです。あと、SAAG>1.1g/dlのときは、門脈圧亢進症を示唆するとのことですので、今後はそのへんの鑑別をしていくことになります。
ウィルソン病とか、自己免疫性肝炎、ヘモクロマトーシス、住血吸虫などを鑑別に挙げています。なかなか馴染みのない病気ですが。

かば:うーん。

かわうそ:また、hapatic venographyというものをやっています。どうやら肝臓の静脈の血流をみているようです。門脈圧亢進の原因がどのあたりにあるのか鑑別するみたいです。全然知らない検査ですね。Figureにも載っていますが、門脈の血栓とか、肝内の血栓とか、類洞の問題とか、バッドキアリ症候群とかがわかるみたいです。

かば:あとはやっぱり肝生検でしょうね。

かわうそ:そうですね。場合によっては、経皮針生検だけでなく、開腹してせよ、ということです。

今回は経皮針生検の結果が載っています。この辺りで主治医はどうやらビタミンAの過剰摂取を疑っていたようですが、組織診ではそういう所見はなかったようです。
もし、ビタミンA過剰があった場合の所見がFigureに出ています。ビタミンAが肝細胞内に溜まって細胞質が白っぽく抜けます。で、肝細胞が腫大する結果、類洞の流れが悪くなり、門脈圧亢進症をきたします。ま、今回はそういう所見はなかったんですけど。

かば:じゃあ、なんなんですか?どうするんですか?

その2へつづく




2016年2月29日

9歳女児、繰り返す腹痛 その3

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 3-2016. A 9-Year-Old Girl with Intermittent Abdominal Pain.
N Engl J Med. 2016 Jan 28;374(4):373-82.
Guglietta PM, Moran CJ, Ryan DP, Sagar P, Huck AE.

2016年2月3日
その3

その2からつづき

かわうそ:で、CTが結局決め手になるんです。造影剤の静注と内服をして撮影された画像です。

かば:アメリカでは造影剤を飲ませるんですよね。

かわうそ:らしいですね。で、何が異常なのかわかりますか?

かば:矢印のところに何かありますね。痛いところにあるんですよね?左側腹部ですし。脾臓と同じ濃度ですね。

かわうそ:実はこれは非常に大きな副脾なんです。壊死や石灰化はないようです。
副脾がどのように痛みの原因になるか、というのがこれからの話題になります。
副脾というのは、けっこう多いらしいです。

かば:人間ドックすると、けっこうエコーで発見されていますよ。小さいですけど。

かわうそ:そうなんですか。筆者によると、CTで11%くらいで発見されるらしいです。さらに剖検だと30%で発見されるそうです。発生学的にもできやすくて当たり前、ということが書いてありましたが割愛します。
今回のは非常に大きいですね。普通は2cmくらいだそうですが、この人は4cm以上でした。

痛みの原因としては、血管が細いことと、ひねったりすることで虚血になりやすかったのではなかろうかと考察されています。手術の時の内視鏡写真が載っています。

手術で副脾を取り除いたことで速やかに鎮痛を得ています。
でも、一般的には保存的な治療でよいはずだ、と5年間経過観察していたことについて、なんとか自己保身というか抵抗というか、を試みています。

摘出臓器の病理所見が詳しく載っています。いろいろ免疫染色されています。虚血と代償性の再生血管を証明しようとしているものと思われます。虚血と再開通を相当繰り返していたんでしょう。

かば:前にエコーやっていたと書いていますけど、気が付かなかったんでしょうか?あ、やっぱり参加者からも質問あるみたいですね。

かわうそ:ルーチンにプローベを当てる場所になければ、見つかりにくいんだと思います。
日本なら、もっと早い段階でCT撮影してわかったんでしょうけど…。いろいろ考えさせられますね。

2016年2月25日

9歳女児、繰り返す腹痛 その2

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 3-2016. A 9-Year-Old Girl with Intermittent Abdominal Pain.
N Engl J Med. 2016 Jan 28;374(4):373-82.
Guglietta PM, Moran CJ, Ryan DP, Sagar P, Huck AE.

2016年2月3日
その2

その1からつづき

かば:やっぱり心療内科的なもの、と考えちゃいますけど。でも、IBSとかは除外しておきたいです。

かわうそ:たしかに、でも、便秘はいつも言っていますが、下痢はないんですよね。

かば:そうですね…。
あ、腹部CTを撮っていないんですよね?いくら子どもでも、1回くらいしてもよくないですか?胃カメラしているのに。胃カメラのほうが躊躇しません?

かわうそ:そうなんですよね。まったくその通りです。
発汗して倒れた、顔面蒼白でした、とかいうエピソードもあるくらいですし。けっこう重病ですよね。

かば:そういうエピソードがあるなら、自律神経障害とかは?

かわうそ:なるほどね。でも、あれ、検査で調べられるんですか?心電図のRR間隔とか?
まあ一応、鑑別診断としてあがっているのは、便秘、機能性腹痛症だとかです。これはゴミ箱診断ですね。経過にも合いません。

やはり、これだけシビアな経過をたどっているわけですので、器質的な原因があるかもしれないのに、このような機能的な疾患に飛びつくのはよくないように思います。

あと、GERD、ヘリコバクター・ピロリ感染なども鑑別に上がっていますが、いまいちパンチに欠けますね。
内視鏡検査でGERDの徴候はないんですが、それでも油断するなと書いてあります。NERDってやつでしたっけ?まあ、PPIが効果ないのでいずれにしても違うのでしょう。
セリアック病、胃潰瘍、炎症性腸疾患なども、一応鑑別にあがった上で否定されています。

かば:あと、アレルギーですか?下痢になりそうですけど。

かわうそ:病歴からすると食事とは関係なさそうです。これまで、食事制限したことありませんし。同様の理由で乳糖不耐症なども違うようです。
あと、先天性の疾患として腸の軸捻転なども挙がっています。もっと小さい時から症状が出るものらしいですけど、この症例の年齢でも矛盾はしないようです。

とかなんとかいろいろ考えた上で、やっぱり機能性腹痛症または腹部偏頭痛という診断になっています。
しかし、どちらの疾患だとしても満足できるような、そして簡単な治療法がないんです。精神的なもの、ストレスによるものということで、認知療法くらいしかエビデンスがないのです。

ただ、効果がないので、医療従事者も家族も、本人が腹痛で苦しんでいるのをみて、心を痛めていました。
さらに親がいうにはですね、「腹部偏頭痛という診断は意味が無い、診断されても治療がないならしょうがない」。

もっともだと思った主治医の先生が、CTをしましょうと提案したらしいんですよね。
長い通院で培われた良好な医師患者関係が、診断に役に立った、と豪語しています。

かば:もっと早くやったらいいのに。そんなにCTは敷居が高いんでしょうか?お金の問題なんでしょうか?あとはやっぱり子どもへの被爆の問題でしょうかね?

かわうそ:エコーで異常ないのに、CTでなにか見つかるとは思われないということなのかもしれませんけど。

かば:たしかに。

その3につづく


2016年2月22日

9歳女児、繰り返す腹痛 その1

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 3-2016. A 9-Year-Old Girl with Intermittent Abdominal Pain.
N Engl J Med. 2016 Jan 28;374(4):373-82.
Guglietta PM, Moran CJ, Ryan DP, Sagar P, Huck AE.

2016年2月3日

その1

かわうそ:今回の症例は、なんだかな~、って感じです。日本ではありえなさそうです。

かば:9歳の女の子、という時点で読まないですけど。

かわうそ:まあまあ、そう言わないでちょっとお付き合い下さい。

9歳の女の子で、慢性的な便秘があるんですが、だんだん腹痛がひどくなってくる、というものです。嘔吐もあります。
4歳位から時々腹痛を言っていたらしいです。8歳ごろからひどくなっています。痛みは左側に限局していました。
なにせ経過が長いので本人も家族も大変でしょうね。でも、ちょっと厄介なことに週末より学校にいる時に症状が出ることが多いらしいんですよ。学校の成績はよいようですけど、診察時には不安そうで、少し神経質な性格なのかも、という先入観を持ってしまった可能性は否定できません。

かば:なるほど。精神的または機能的な疾患が頭をよぎりますね。

かわうそ:このあたりが、診断が遅れてしまった原因なのかもしれないな、と思いました。
腹部レントゲンが載っています。全体的にガスが溜まって、上行結腸に便を認めますが、明らかな異常があるとは言えませんでした。

診断がつかないまま、その都度下剤で排便があって腹痛が軽快するというエピソードを繰り返しています。
PPIを試したけど効果ありませんでした。セリアック病などの家族歴もありません。

他に、超音波検査、胃カメラ、血液検査などを行っていますが、腹痛の原因となるような異常は認めませんでした。ヘリコバクター・ピロリ感染も陰性でした。

かば:子どもに胃カメラするんですね。

かわうそ:なかなか想像できないですね。
で、診断はabdominal migraneです。腹部の偏頭痛、というものらしいですが。で、神経内科に紹介されました。

かば:でも、4ヶ月後のフォローなんですね?

かわうそ:経過も長いし、緊急性はないということで…。
こんな感じで、器質的な問題はない、ということで、認知療法を行うことになっています。

この次、鑑別診断をがんばって上げているんですが…。

その2につづく

2015年9月5日

大量腹水と発熱、意識障害が出現した60歳女性。アルコール性肝硬変と診断され ていたのだが…。その2

「病理形態学で疾病を読む」Chapter 4 Case 4

2015年8月13日

その1からつづき

その2

かわうそ:実は、Budd-Chiari症候群でした。こんなの、アルコール性肝硬変だと思い込んでいる自分には思いつかないでしょうね。肝静脈系の流出路閉塞によるうっ血が引き起こすプロセスです。静脈の閉塞がどこで起こるかによってそうとういろいろな症状をきたします。原因もいろいろです。右のページに纏めてあります。薬だとか癌だとかがありますが、この症例では血液凝固異常が関係しそうということです。
剖検でこんなところまでわかるのか、と感心するんですが、肝左葉だけがこうやって萎縮しているというところから、左の肝静脈流入部の下大静脈壁に壁在血栓が剥がれて、末梢にばらまかれてできたものと推測されています。血栓のなかに再開通している部分もあるので、慢性の経過ですね。
で、血栓の原因ですが、DICっぽい血液凝固の異常というところを検討しています。DICとはいいつつも、血小板はそれほど減っていませんし、肝硬変は一部あるものの、右葉の機能は保たれていると予想されますので、DICになるほど、凝固因子産生が阻害されていたわけではないということです。ということは、遺伝的な凝固因子欠乏が疑われるわけなんです。
で、ここで愚痴が入ってきます。検査をしておけと。PT、APTT、D-Dimer、FDPとかだけではなく、プロテインCだとかSだとか、抗リン脂質抗体だとか。あと、病歴ですね。「血栓症に関する詳細な既往歴と家族歴の情報があればなと嘆息するのである」と書いてあるんです…。

かば:はははっ。

きりん:しみじみと語ってますね。

かわうそ:こんなのって、初診時のテンションが全てじゃないですか。アルコール性肝硬変といって紹介された患者さんに、ここまでしておくのは、やはりよっぽど出来た人ですよ…。
わかったところで、救命できたかどうかわかりませんが、私が主治医だとしたら、ここまでCPCでボロカスに言われてしまったら、これまでにない「手をつくしてあげられなかった感」でうちのめされているでしょう。
これだけ解明しつつも、剖検してもわからないことだらけであった、と書いてあります。血栓が原因だったにしろ、血栓ができる原因は不明。全身の臓器の中で肝臓だけに血栓ができている理由も分からない。消化管出血の場所もわからない…。というところで症例提示は終わりなんで、もやもやされるかもしれないですが…。
私の感想ですが、もし自分が主治医だったらという仮定の話になるんですが、たぶん、本人には「肝臓悪いですね、お酒のせいですね」とか言ってたと思うんですよ。で、同僚の先生にも、「今までの生活のつけが回ってきた患者がいて大変ですよ、勝手に帰っちゃうし、やっかいですよ」とか愚痴を言っていたと思うんです。
でもですよ、このノートってところを見て下さいよ。「肝臓以外なんら問題はない人体でありました」とあります。大動脈の粥状硬化症は片鱗すらなく、肺は炭粉沈着を認めず、胸膜癒着すらもない。腎臓も心臓も脳も。で、「大量飲酒歴があるといわれ、アルコール性肝硬変と告げられた一人暮らしの60歳の女性Nさん。唯一障害の標的となった肝臓もアルコール性肝硬変ではなかった」…。

かば・きりん:せつない…。

かわうそ:主治医の指示に従わず勝手に退院した、というところは、少し性格の偏りを伺わせますが、これも、もしかしたら何かそういう風にならざるを得ないようなエピソードが、その人生の中にあったのかもしれないな、と思ってしまいました。というわけで、いろいろなことを考えさせる症例です。
われわれがよく会うCOPDの患者もそうかもしれません。たしかに、タバコを吸ってできたものなので自業自得だと考えがちです。でも、タバコ吸ってもCOPDにならない人もたしかにいるわけです。

チーター:そうですね。

かわうそ:そこは遺伝とか素因とか、喫煙感受性の問題のようです。となると、COPDになるならないは本人のせいではない、という考え方もできます。そういう体質については、本人の責任はないわけですから。
となると、患者の自業自得だ、みたいな考え方はよくないな、と思います。そこまで考えてくると、いったいどういうテンションで接したら良いのかわからなくなります。
そういう思いをこめて、今回、非常に長くて恐縮でしたが、これを読ませてもらいました。

かば:…。これは、アルコール性と思っていたから肝生検をしなかったということなんでしょうか?それとも、状態が悪かったから?

きりん:腹水があったらできないでしょうね。

かば:凝固能も悪いですしね。でも、診断するには、どこかの段階で肝生検できていたらと思うんです。

きりん:この人はアルコール多飲歴とかがあるわけですし、すごく多忙だと心がそっちに流れてしまう感じはわかります。私も、謎の肝不全でやってきた患者を診たことあります。ウイルスも陰性で原因不明で、透析とかしてたのですが、結局剖検になりました。で、結節とかを全くつくらないDiffuse Large B cell lympomaが肝臓と脾臓全てにはびこっていました。

かわうそ:肝生検はしていなかったんですね。

きりん:血小板が3万とかで出来ませんでした。でも、いろいろ文献を調べていくと、そういう状況でも、「すべきだ」というものが多かったです。

かば:診断をつけられる手段があるのなら、やるしかないんですね。
うちの病院なら経皮生検のハードルが低いから、放射線科に相談したらいいですね。

きりん:この人は腹水がもしかしたら邪魔をしたかもしれないですね。

かば:穿刺しないの?

かわうそ:漏出性だからしないのでは?

かば:肝臓ならCART(腹水濾過濃縮再静注法)とかありますよ。

きりん:腹水のコントロールしてから生検はたしかにありですね。

かわうそ:3ヶ月の経過ですので、どこかの段階でできるはずですね。そうなってくると、やはり最初のテンションが決めませんか?高齢の、独居の、アルコール性肝硬変という情報が聞いてきますね。

きりん:たしかに。「2-3杯とか言ってるけど、絶対もっと飲んでるんじゃないの。これはアルコール性だよ」とか言ってそうです。胸が痛いです。

かば:絶対言ってますね。60歳は高齢ではないですけどね。

かわうそ:アルコール性肝硬変に限った話ではないんですが、こういう風に真摯に対応しないといけないというエピソードなら、観音伝説とか空海伝説を思い出します。
昔話で、いいおじいさんおばあさんが旅の人に親切にしたら、それは観音様でご利益があった、とか。救急の偉い先生とかも言ってますよね。

きりん:夜中に慢性膵炎患者がアルコールを飲んで腹痛でやってきたりしても、「ああ仕方がない、診てあげよう」と怒らずにちゃんとできれば一人前、という話ですね。

かわうそ:そうなんです。怒ってしまってはご利益をもらえないんでね。真摯に対応しないといけないなと反省します。
夏休みで行った四国八十八ヶ所巡りでも、そういう伝説のお寺ありました(10番札所切幡寺)。でも、その御利益が、すぐに即身成仏したとかいう話なんですが…。

かば:それはご利益ですか?

きりん:それはちょっと…。

チーター:やっぱりこの人、かわいそうですね。

かわうそ:この本って、けっこうこういう話多くて好きなんですよね。けっこう長いんですけど。

チーター:これ、消化器の専門の先生ならわかって欲しいですけどね。

かわうそ:剖検するくらいなので、どこかで気づいていたんでしょう。話を面白くするために、わからないふりをして書いているのかもしれません。
朝からせつない気分にさせてしまい申し訳ありませんでした。


大量腹水と発熱、意識障害が出現した60歳女性。アルコール性肝硬変と診断されていたのだが…。その1

「病理形態学で疾病を読む」Chapter 4 Case 4

2015年8月13日

その1

かわうそ:今回は「病理形態学で疾病を読む」という参考書のケースカンファレンスを見てみたいと思います。
GIMカンファのとはまたちょっと違う面白さがあって、私はけっこう好きなんです。
60歳の独居の女性が、腹部膨満感で近医を受診したところ、肝硬変と診断されます。若いころに大量飲酒歴があったが、最近は缶ビール2-3本/日。B・C肝ウイルスが陰性であることから、アルコール性肝硬変と診断し、この病院に紹介されています。
ただし、入院の指示には従えず、外来での投薬で腹水をコントロールせざるを得なくなったみたいです。そして、退院後まもなく38度の発熱、意識障害で救急搬送となります。
意識障害が起きて入院してからの臨床像です。38度の発熱とそれに伴う頻脈、少し酸素化が悪く、意識障害があって、羽ばたき振戦と黄疸がある。かなり貧血があって、腹水の所見と浮腫がある。
ちなみに、この本の親切なところは、Keyという項目に全部まとめられているところです。
臨床検査もいろいろ書いてありますが、白血球はともかく、高度の貧血があって、血小板は13万くらい。肝硬変がすごく疑われているわりには、一応保たれていますね。尿の所見もウロビリノーゲンが出ていたり肝不全の所見です。生化学ではAlbが2.0で、肝機能低下を伺わせます。腎機能と電解質は問題なし。肝機能については、総ビリルビンが上昇している(5.5mg/dl)ほか、肝逸脱酵素はそれほど上昇していません。あんまり肝疾患を見た経験がないので、生意気なこと言えませんが、肝硬変の末期ならこんな検査結果でよいのかな、という感想です。アンモニアは高い(109μg/dl)が、肝細胞癌の腫瘍マーカー(AFP、PIVKA)は陰性です。発熱があって感染症が疑われるのですが、CRPは低い(1.65mg/dl)。これは肝臓で合成されないからでしょうか。けっこう危険ですよね。私はCRPに引っ張られる傾向がありますので、数字だけ見てたら、大したことないとか言いかねないです。凝固能はことごとく異常でDICが疑われます。でもそのわりには血小板は下がっていない…。次は我々呼吸器科医には心強いところです。SPO2が低いのを受けて、PaO2も低く(66.9torr)、CO2は飛んでいて(31.9torr)、アルカレミア(7.503)です。でも、レントゲン等で肺には異常ないので、これはおそらく大量腹水による横隔膜運動の障害によるものなんでしょう。今後そうやって自信を持って退けましょう。

きりん:ふふっ。

かわうそ:腹水も感染の原因として心配ですが、今のところは漏出性を示唆する結果でした。
これまでのところで何かひっかかるところはありますか?

かば:とりあえず、これは本当に肝硬変といってよいのか?というところですね。
これは特発性細菌性腹膜炎とは違うんですか?

きりん:あれは滲出性で、細胞の数も多いと思います。

かば:じゃ、なんで熱が出ているんでしょうか?

かわうそ:すいません。プレゼンが拙くて。それは尿路感染が疑われています。

きりん:貧血が気になりますね。LDHが高い(402U/l)と溶血も考えたくなりますが、直接ビリルビンが高い(3.6mg/dl)ですね。

かば:大球性貧血ですね(MCV=115.4fl)。

かわうそ:でも、一元的に考えれば、アルコールの多飲歴があって、腹水があるくらい肝硬変があるなら、食道静脈瘤からの出血ということになるのかな、と思います。DICに関しても、肝臓悪いならしょうがない、とか思ってしまいますけど…。

かば・きりん:はい。

かわうそ:でも、こうやってアルコール性肝硬変と診断してしまうというのが…。ビール2-3杯でこう言われるのは、ちょっと。中にはそういう人もいるのでしょうけど。

きりん:そうですね。若いころにアルコール性肝障害になっていて、それでも飲酒を続けているとかいう情報があれば、そうかなと思うんですけど。

かわうそ:そうなんです。そういう背景なく、アルコール性肝硬変という診断をつけてしまうのは、相当罪だな、と思うんです。しょうがないのかもしれないのですが。

チーター:でも、アルコール性肝硬変「疑い」での紹介ですよね。精査目的の。

かわうそ:その「疑い」に引っ張られない自信は自分にはないです。
画像検査でも、肝硬変として矛盾しないんですが、いくつかおかしいところもあります。まず脾腫があるとは言ってもそんなにはないこと、そして、CTでわかったんですが、左葉が異常に萎縮していることです。意識障害があったので頭部CTを撮ったけど異常なし。貧血についてはやはり消化管出血を疑って、上部消化管内視鏡をしたけど出血なし。

かば:すごい貧血で、どんどん進行していますけどね。

かわうそ:治療にもかかわらず残念ながら不幸な経過をたどってしまいます。だから、写真でわかるように、剖検されています。死亡前日にはとうとう腹膜炎になってしまっています。臨床経過3ヶ月です。
身寄りがないにも関わらず、剖検を取っていますので、この主治医の先生は相当真面目だったのだと思います。あと、やはり経過にどこか疑問があったのでしょう。優秀な先生ですね。
病理解剖の目的は、肝硬変がアルコール性なのか?貧血の原因は?意識障害については?というところです。
さて、肝臓のマクロ写真の説明に移ります。図1です。なかなか見慣れていないのでわかりにくいと思いますけど、まず、左葉がないんです。

きりん:ない?

かわうそ:RHV、MHV、LHVという3つの静脈が肝臓を通っているんです。矢印で示されてますよね。それぞれの先に担当している肝臓があって欲しいんですが、LHVだけこのシケた三角形の肝臓しかない、といっているんです。

かば:めちゃくちゃちっちゃくなってますね。

きりん:えへへ。ないですね。

かわうそ:これが先天性か後天性かについて今後考えていくみたいです。割面では黄疸があるとみるみたいです。よくわかりませんが。
あと、肝円索が開いていたり、側副血行路ができていたりしていますので、門脈圧亢進症の存在が示唆されます。
この時点ですでに、左葉の萎縮が瘢痕様でかつ、微小な再生結節が散在していますので、後天性のものということです。原因も、肝静脈の閉塞でしょう、ということです。顕微鏡みなくても、これくらいわかっているんですね。
左葉の組織をみていくと、再生結節が線維化の中にういている像で、これは肝硬変ですね。次は、血管が詰まっていて、さらに再開通した像も示されています。再開通の結果、再生結節が保たれているということです。慢性の経過なんでしょうね。左葉萎縮は、肝静脈のかなり末梢の方の循環障害が原因ということです。
次は肝臓の右葉に移ります。肝硬変と言われているわりには、線維化はかなり軽度です。

かば:比べてみると全然違いますね。マクロでもミクロでも。

かわうそ:少しだけ血管内に血栓があるようですけどね。マロリー小体もなかったということですし、肝線維症から肝硬変まで幅広い病態を呈していて、アルコール性肝硬変ではなかった、という結論です。ちょっと衝撃的な結果ですよ、これは。もし自分がこのCPCに主治医として参加していたら、と思うと胃が痛いです。ちゃんと臨床経過のどこかで、放射線科の先生あたりが、「ちょっとこれアルコール性肝硬変とは違いますよ、おかしいですよ」とか言ってくれていることを願います。
次は、腹水は6L、混濁していてフィブリンも析出している、好中球も出ていたということから、特発性細菌性腹膜炎で矛盾しないです。門脈圧亢進症、食道静脈瘤も認められてますので、肝硬変の合併症はひと通りあったということでしょう。
次は、やはり貧血が心配だったのでその精査です。まず胃を開いてみると、1Lの出血がありました。持続的に出血していたところはあったんです。でも、食道静脈瘤の破裂はないし、胃粘膜もきれい。人名読めませんが、何とか潰瘍というもないようです。

きりん:Dieulafoy(デュラフォイ)潰瘍ですね。

かわうそ:よくご存知で。粘膜欠損は小さいのですが、動脈が露出していて出血がひどいというものらしいです。
そういうのも念入りに見ましたが、きれいな食道、胃でした。ではもっと下か、というわけで、どんどん見ていくと、回腸末端にも500mlの出血があったということです。出血源は分からないが複数回の消化管出血があるというわけです。どうも、こういうことはよくあるみたいですね。
意識障害があるので、脳をみています。ちょっと萎縮していますが、非常にきれいでした。
さて、ではなんでしょうか。

かば:ぜんぜんわからないんですけど。

きりん:これはわかりませんね。

かわうそ:絶対わからないですね。名前は聞いたことあると思いますが。

その2につづく