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2016年6月20日

32歳男性、焦げた匂いと感覚異常 その2

いつもおなじみのMGH症例検討会です。
後半は、検査と診断、治療経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.


2016年5月30日

その2

その1からつづき

かわうそ:実臨床では、この段階で脳生検に突き進んでいます。でも、鑑別診断の検討ではこのあたりでサルコイドーシスなんじゃないのって疑っているらしいんですよね。
clinical diagnosisだと、脳腫瘍となっていますが、この解説の先生の診断では肉芽腫で、たぶんサルコイドーシスなんじゃないか、となっています。

だから、例えば採血でACEしたりとか、肺のCTを撮影したほうがよかんたんじゃないの、みたいなコメントを頂いています。

かば:もうちょっと侵襲の少ないところで生検できたんじゃないの?と考えてるわけですね。後出しですけどね。

かわうそ:主治医からすると、ぶどう膜炎や皮膚・関節症状、涙液・唾液の乾燥症状なんかの全身症状がないから、脳腫瘍だけと思ったんだ、ってコメントしています。

かば:あんまりサルコイドーシスっぽい症状がなかったんでしょうがないですね。
PET-CTの所見はどうだったんでしょうか?

かわうそ:そういえば、脳のPETについてコメントありましたよね。でも、胸部については触れられていません。

次は脳神経外科の先生のコメントです。glial tumorと思って開頭手術したわけですが、見た目がそれっぽくありません。固くて、ゴムみたいで、紫色っぽかったとのことで、想像と違ったと言ってます。

で、病理標本の写真をみてみると…。

かば:これは立派な肉芽腫ですね。サルコイドーシスですね。

かわうそ:そうなんです。非乾酪性肉芽腫ということがわかりました。
そういう目でレントゲンを撮り直してみると、やっぱり肺門部が腫れていることが確認されました。
造影CTでも肺門リンパ節腫脹がはっきりします。

かば:肺門部も分岐部も腫れていますし、EBUSの良い適応です。

かわうそ:VATSでもよさそうです。
でも、我々だとそう思うだけで、脳外の先生からすると、脳生検なんて簡単ですよ、とかなりませんかね?

かば:どうでしょう?わかりません。

かわうそ:サルコイドーシスについていくつか新たな知見があります。
最近では、あのワールド・トレード・センターの粉塵に巻き込まれた方の中に発症が増えたという報告があるんですって。
サルコイドーシスは非結核性抗酸菌症や真菌の感染で誘起されるのではないか、という噂がありますので、きっかけにはなるのかもしれません。

かば:それはほんとなんでしょうか?
その後のフォローがしっかりしていて、細かく見ているから、たまたま発見される可能性が高いのかもしれませんけどね。

かわうそ:なるほど。

神経サルコイドーシスについては、我々はあまりみないと思っていましたが、剖検の報告では、5-15%くらいはあるようです。
もう少しまじめに調べたほうがよいのかもしれません。MRIとかして。

かば:胸部CT、心エコー、眼科フォローするくらいですね。たしかにあんまり頭は調べませんね。

かわうそ:この症例の場合でも、年単位で徐々に症状出現、というくらいなので、心臓やブドウ膜のようにあえて積極的に探しに行かなくてもよいのかもしれません。

治療についてですが、なかなか攻めてるな、と思いますね。たぶん体格がよい人なのでしょう。80mgのプレドニンで治療しているンですが、外来で初めているンです。

かば:おおっ。さすがアメリカですね。

かわうそ:ただ、抗てんかん薬はやめられないようですし、幻覚については残っているようです。ステロイドの影響もあるのでしょうか、気分変動や物忘れで悩んでいるらしいです。さらに、けいれんの大発作も起こして搬送されたりしています。
サルコイドーシスって、ステロイド使ってほんとに治療効果あるのかな、とは疑問に思いますね。

かば:ステロイドパルスとかしないんでしょうか。

かわうそ:インフルキシマブとかも使わざるをえないかも、とは書いてます。
こういう風に、ステロイドの副作用の精神症状などで困った場合には、倍量にして隔日投与にするのがけっこううまいこといっていいんだ、みたいなトリビアというか小技が披露されてます。

で、最後に患者さん本人が来てコメントしています。
でも、今回みたいに、診断も治療もイマイチすんなり行ってない場合だと、本人がいる前では、活発な議論できないですよね。最初からサルコイドーシスを疑って全身検索したほうがいいとか、強く言い難いです。
以前読んだエボラ熱疑いならいいんですけど。

かば:ただ、肺門部リンパ節腫脹が見つかったからといって、脳生検がほんとに必要ないかどうかわかりませんよね。サルコイドーシスと脳腫瘍の合併の可能性を考えたら、やっぱり脳生検をしちゃうかもしれません。

それにしても、症例報告でサルコイドーシスが話題になることってけっこう多いですよね。やっぱり症状や経過が多彩で、診断が難しいんでしょうね。



2016年6月16日

32歳男性、焦げた匂いと感覚異常 その1

いつもおなじみのMGHの症例検討会です。
まずは鑑別診断までです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.


2016年5月30日

その1


かわうそ:若い男性の、これは珍しいんでしょうね、匂いの幻覚です。

かば:幻嗅ですね。

かわうそ:それと、錯感覚です。だるさ、しびれなどが左側だけででています。

かば:麻痺ではないんですね。

かわうそ:感覚の異常だけです。そういうのが結構長い期間で出てきています。幻嗅については、1年位の経過です。ほぼ毎日、硫黄の匂い、燃えたような匂いを感じて嘔気を催します。2分ほど続くそうです。さらに、6週間前から錯感覚も出てきたので受診しました。
神経学的な身体所見ではほとんど異常はありませんでした。
ただ、MRIを撮影すると、右側頭葉に腫瘤を指摘されました。部分的に造影されています。フレア画像では造影されている部分以上に病変が広がりを見せていたようです。

かば:浮腫でしょうか。

かわうそ:部分発作と診断されて、抗てんかん薬を処方されています。

かば:においといえばてんかんの前兆ですよね。

かわうそ:あ、なるほど。それは気づきませんでした。
で、精査のためにこの病院に紹介されました。
脳神経系の疾患ですので、ふだんならあまり読まないンですが、今回は我々にもけっこう関係のある疾患なので読んでみました。

かば:なんと。

かわうそ:まず、右利きということが一番初めに書いてあります。そして奥歯に虫歯があると書いてあります。このあたりは、頭の病気を見るときにいつも気に留めておくべき情報です。

かば:利き手はわかりますが、虫歯も関係あるんですか。

かわうそ:あとで出てきますけど、脳膿瘍などを考える際に、虫歯からの感染の波及を考慮すべきとのことです。

かば:なるほど。

かわうそ:あと、既往にADHDがあります。…、ほんと最近多いですね。
あとはあまり特記すべき所見はありません。関節痛、口腔内乾燥、呼吸困難などはないと書いてあります。昔、目の手術をしたため、瞳孔や対光反射に左右差ありらしいです。薬としては、最近はじまった抗てんかん薬くらいです。アレルギーはありません。普通に社会人として仕事をしています。飲酒喫煙なし、イリーガルドラッグの使用なしです。人種としては、アフリカ系とカリブ系の系統です。あまり旅行には行っていないようです。自己免疫疾患の家族歴なしです。
もう一度身体所見をとって神経学的異常なし、筋力なども異常なし。血液検査もほとんど異常なしです。心電図はちょっと微妙です。軽度の左室肥大。レントゲンも異常なしです。

MRIの所見をもう一度見てみましょう。Figure 1です。

かば:メタみたいな感じではないですね。リングエンハンスメントではないですし、くりっとした腫瘤病変というよりは、モヤモヤっと不正形ですね。

かわうそ:実はこのような腫瘤は一つだけではありません。さらに、髄膜にそっていくつか小さい結節が広がっています。

かば:髄膜炎とか髄膜播種とか?橋まで広がってますね。

かわうそ:この病変なら、幻嗅や片側の錯感覚の説明はつきそうです。
鑑別診断を上げていくのですが、まずてんかんについて検討しています。

このように、側頭葉に病変がある場合、5割でてんかん発作が出てくるみたいです。怖いですね。
複雑部分発作ということみたいです。このあたりの分類については勉強不足ですいません。部分発作なので意識が保たれるということだと思います。
この辺りの病変だと、嗅覚とか味覚に異常が出るということがわかっているらしいです。

かば:ヘルペス脳炎なんかもそうですよ。

かわうそ:原因としては、先ほど出てきた虫歯のほか、海綿静脈洞血栓症とか脳膿瘍も考えておけというところですが、この人はあんまり感染の兆候がないので、ちょっと可能性が低くなりますね。

全身症状といえば、唾液・涙液の乾燥症状 がないことも注目すべきです。
あんまりピンとこないのですが、唾液・涙液の乾燥症状がないということを、この筆者はやたら強調しています。サルコイドーシスやSLE、シェーグレン、強皮症などの神経症状ではなさそう、と言いたいようです。人種的に黒人ということで罹患率が高いということから、鑑別にあがってくるのでしょう。

ということで、これではいまいち絞れませんでしたので、てんかん発作ではなく、脳腫瘍の画像所見から鑑別をあげてみましょう。
とはいっても、われわれは脳転移くらいしかみたことがないのですが…。

かば:うーん。

かわうそ:拡散強調画像など、MRIの撮影方法の違いでいろいろ見えてくるものがあるようです。
例えば、グリオーマは細胞成分が少ないので写り方がどうこうとか、けっこう力入れて書いてありました。
あと、最近ではMRIのスペクトロスコピーという撮影方法があるようです。

かば:SPECTですか?いわゆる脳の血流をみるやつ?でもあれはCTでしたね…。

かわうそ:よくわからなかったのですが、けっこうかっこいいことが書いてあるんです。腫瘍内部のメタボリズムについての情報がわかるとのことで、どうやら細胞の中になんの蛋白が含まれているのか、というものがわかるらしいんです。
例えば、グリオーマは、おそらく細胞膜のターンオーバーが更新していることを反映して、cholineの量が多く、N-acetylaspartateが少ないということがわかっています。また、lactateが多いと嫌気性のメタボリズムが示唆され、脂質が多いと細胞の壊死を反映するなど、glioblastoma multiformeだと診断できます。これ、たしかERのマーク・グリーン先生が罹患した病気ですよね。

というわけで、脳腫瘍のなかでもどんなものらしいか、ということが想像できるということらしいです。
ただ、この症例では役に立たなかったということでした。

かば:ふふっ。

かば:あと、PETの結果も有用とのことです。ただ、我々の知識では、脳のPETは参考程度らしいので、どういうことなのか…。
まあ結局、いろんな情報を総合すると、悪性新生物ではなかろうということがわかりました。

石灰化も有用な情報と書いてありますが、この人にはそういう所見はなかったように記憶していますので、ここではちょっと省きます。結核の可能性を考えてのことでしょうか?

まとめると、悪性新生物ではない証拠がけっこうあって、炎症性の疾患の証拠がそろっています。
で、鑑別にあがるものは、多発性硬化症、脳炎、サルコイドーシス、ベーチェット病、結核、真菌感染、梅毒ゴム腫というところらしいです。

かば:難しい…。

かわうそ:画像上は肉芽腫っぽいな、というところまでわかりましたが、これ以上するとしたら生検しかないのでしょう。
けっこう気軽に脳生検するんだな、という感想ですけど。

その2につづく


2015年9月29日

まさかの臨死体験前向き研究 その3

Lancet. 2001 Dec 15;358(9298):2039-45.
Near-death experience in survivors of cardiac arrest: a prospective study in the Netherlands.
van Lommel P, van Wees R, Meyers V, Elfferich I.

2015年8月25日

その3

その2から続き

かわうそ:で、次は筆者が最も大切と考えている、臨死体験による性格の変化についてです。Table 4です。臨死体験をした群の方が、自分の感情をより表すようになり(これがいいことかどうかはわかりませんが)、より共感的になったり、人の意見を受け入れるようになったり、人生の深い意味を理解したとか、死後の世界を信じて死を怖くなくなったとかいう変化があります。これを2年後と8年後にやっていて、時間が経つほどこの傾向はより顕著になります。臨死体験って、いいものですね。
ちなみに、あとで臨死体験を思い出した人もいました。2人ですが。
というわけで、すごい、としかいいようがないっていうのが私の結論というか感想なんですが…。

かば:どうコメントしていいのかわからないですね。研究として前向きにちゃんとやっているのはすごいことですけど。例えば質問票の妥当性とかどうなんでしょうか。

かわうそ:いちおう、インタビュアーを訓練して同じようにやっているようです。そういえば、それについてはDiscussionで書いてありました。この研究、多施設共同でやっているんですが、そのうち、けっこう長いこと熱心にやっていた施設では、臨死体験の報告が10%未満だったので、やっぱり聞き方とか、どこかでバイアスが入っているのかもしれない、話を誘導してしまっているかも、という話がありました。
まあただ、これは最初の研究ですからね。今後の課題ですよね。

かば:やらないよりずっといいですけどね。

かわうそ:そうですよね。これ、私のあこがれの研究になりました。

きりん:すごいですね。ところで、この質問票は前の文献を参考にしたりとかはあるんですか?

かわうそ:臨死体験の定義には、そういう引用はなかったと思います。一応、Near death experience scaleとありますが、自分で作ったんだと思います。ただ、性格変化は引用文献がありますので、一応validateされたものだと思います。

かば:やってみた人がいるってのはすごいですね。

きりん:蘇生した後、聞いてみたくなりますね。「何か見ましたか?」とか。

かば:誘導しないように聞くのが難しそうですよね。

かわうそ:患者さんから言ってくれればいいですけど、やっぱり医者にはそういうことは言わないだろうなと思いますね。家族には言っているかもしれないですけど。

きりん:入れ歯の場所とか当てられたら、「ひーっ」ってなりますよね。

かわうそ:意識がない時で、知らないはずのことを知っている、というのは、臨死体験でよく言われているんですよね。

かば:患者背景で宗教も聞いているんですよね。信心深さの定量化は難しいと思いますが。ていうのも、臨死体験で光をみるというのを、天使に会うという風にとらえるかどうかは、宗派とかが関係してくるんじゃないかと思いますが。

かわうそ:たしかに。いちおう、その体験については、どうやらあんまり個別の宗教とか文化には影響されない、という報告があるみたいなんです。だから、酸素濃度、二酸化炭素濃度、脳内麻薬などの脳の生理学変化が原因とかいう説がある程度支持されているという面があるようです。
その辺りのことにもし万が一ご興味をお持ちなら、添付資料「学研まんが 大人のひみつシリーズ 臨死体験のひみつ」を御覧ください。以前ネットで見つけたものです。著作権の問題がありそうなので、ここには載せられませんが。

きりん:マンガはアレですけど、研究についてすごく真面目な内容が書いてありますね。

かわうそ:この元ネタのマンガはご存じですか?平松伸二の「ブラックエンジェルズ」ですけど。

かば:名前は聞いたことあるけど、読んだことはないです。

かわうそ:ところで、前の病院から変わる直前の抄読会の論文を思い出しました。「最後だし、いいかな」とか思って調子に乗って読んだのが、終末期のがん患者に、死の恐怖を和らげるためと称して覚醒剤の一種を投与するという内容でした(Arch Gen Psychiatry. 2011 Jan;68(1):71-8. Pilot study of psilocybin treatment for anxiety in patients with advanced-stage cancer)。当然どんびきされましたけど。
覚醒剤って、キマると神の存在を感じたり、全能感を感じたりする幻覚になるっていう噂じゃないですか。けっこうこの臨死体験後の性格変化と似た印象を受けます。それで満足して死を迎えるっていう内容なんですけど。

かば・きりん:ははっ。

かわうそ:最後だし、ちょっときわどい内容でもいいかな、と思ったんですけどね。しーん、てなってしまいました。
この臨死体験論文のDiscussionでも少し触れられているのですが、今後、薬とか脳の手術や電気刺激でこういう臨死体験のような感覚を起こすことはできるようになると思うんです。それを、性格を変えたり、死の恐怖を和らげたりするための治療に応用できないか、というようにつながっていきます。そういう考え方もありかな、と思いますが、やっぱりそれはダメなんじゃないかな、とか思いました。

かば:これに対するLetterでの反論とかあるんでしょうか?

かわうそ:そこまでは調べていないです。すいません。でも、これに真面目に反論したら負けなような気しませんか?
ただ、こういうのも研究に値する点があるということが言えただけでもいいんじゃないでしょうか?

きりん:ふふっ。倫理委員会をどうやって通したのかも気になりません?

かわうそ:そうですね。やっぱり臨死体験っていうことは表に出さず、蘇生後の性格変化、みたいなところを押し出したとかでしょうか?臨死体験を研究したいとか言うと、やっぱり怒られそうですからね。

かば:面白いのは、日本でも三途の川だし、ギリシャでもカロンが渡し守しているし、エジプトにもそんなのがあるみたいで、みんな川を渡ってあの世に行くのは面白いですね。
ていうのが「鬼灯の冷徹」にありました。全く関係のないところで、同じようなイベントになっているのは不思議ですね。
あと、死んで別のところに行くっていうのを川を渡るってことで表しているんだと思うんですが、別に山を越えるでもいいはずなのに、必ず川が出てくるのは面白いですね。

かわうそ:実は、山越阿弥陀図っていうのがあって、臨終する人を阿弥陀如来が山を越えて迎えに来るっていうのがあるにはあります。京都の永観堂で見て印象に残っています。けっこうビジュアル的にはかっこいいんですけど、あんまりメジャーではないと思いますね。


2015年9月25日

まさかの臨死体験前向き研究 その2

Lancet. 2001 Dec 15;358(9298):2039-45.
Near-death experience in survivors of cardiac arrest: a prospective study in the Netherlands.
van Lommel P, van Wees R, Meyers V, Elfferich I.

2015年8月25日

その2

その1から続き

かわうそ:結果です。まず患者背景ですが、344人の患者がいて、うち複数回CPR受けている人がいるので、509回のCPRが施行されました。平均62歳、やや男性が多いです。74%の人がCPRの5日以内にインタビューされました。2年後にインタビューした人が74人です。さすがにだいぶ減っていますね。薬はフェンタニルやジアゼパム、ミダゾラムなどの鎮静薬が使われたとありますが、あんまり相関関係はなかったようです。344人のうち、234人(68%)が蘇生されています。
さて、お待ちかねの臨死体験の報告ですが、なんと、344人中62人(18%)が報告しています。臨死体験のレベルも定量的に分けられていますが、12%がある程度深い臨死体験を報告し、2人はかなり深い臨死体験をしたようなんです。臨死体験をした人が1割以上ですから、ちょっとセンセーショナルな結果ですよ、これは。
でも、続くこの一連の文章、これはちょっとどうなんでしょうか。医学論文では異例と思うんですけど、よっぽどこれを言いたかったんだろうな、という筆者の熱みたいなものを感じます。(*´∀`*)

かば・きりん:え?

かわうそ:まあ聞いてみて下さい。看護師さんの証言がけっこうなボリュームで書いてあります。この看護師さんが夜勤の時に、44歳の男性がチアノーゼと昏睡状態で運ばれてきました。どうやら1時間位前に倒れているところを通りすがりの人に発見されて、運ばれてきたと。この時にはもうすでにCPRされていて、これから挿管という時です。でも、どうやら入れ歯だったので、とりあえず入れ歯を外して、この看護師さんが台車の上に置きました。挿管して蘇生して、一週間後くらいに病棟に薬を届けに行ったら、この患者さんが言うことには「あ、この看護師さんが俺の入れ歯がどこにあるか知っているはずだ」。看護師さんもびっくりですよね、蘇生処置中で意識ないはずですから。さらに「あんた、俺の入れ歯を台車の上にのっけたよね?」と言っています。どうやら、このときこの患者さんは幽体離脱をしていて、医療スタッフが何をしているのか上から見ていたというんです。だから、自分の入れ歯がどこにあるかも知っている。

きりん:はー。

かわうそ:さらに、たぶんなんですけど、どうやら処置中にスタッフの間には「あ、これはダメかも」という雰囲気があったようなんです。でも、この患者さんは、自分は生きているんだから、あきらめないでくれ、というようなことを何とか伝えようと努力したけどダメだった、と言っていたらしいんですよ。

きりん:ふふっ。

かば:すごいね。

かわうそ:これがLancetに載っているんですよ。Editorも、「ここは何とかならんものか」、とか言わなかったんでしょうかね?でも、やっぱり筆者はここを書きたかったんだと思います。「ここは外せない」と突っぱねたと私は信じています。
結果に戻ります。Table 2では、先ほどの臨死体験の定義に従って、どれくらい深い体験だったのかを定量化しています。けっこう、死を怖がらない経験は多いですね(56%)。他にも、死の自覚は半分以上ありますね。あとは2-3割といったところです。
Table 3は、患者背景との相関関係です。基本的には関係がないんですが、どうやら臨死体験をした群の方が、さらに言うと深い臨死体験をした方が、30日以内の死亡率が高いようです。臨死体験をした方が、亡くなりやすいということです。この辺が何を意味するのかは難しいですね。

かば・きりん:ふーむ。

その3へ続く


2015年9月23日

まさかの臨死体験前向き研究 その1

Lancet. 2001 Dec 15;358(9298):2039-45.
Near-death experience in survivors of cardiac arrest: a prospective study in the Netherlands.
van Lommel P, van Wees R, Meyers V, Elfferich I.

2015年8月25日

その1

かわうそ:ちょっと古いんですけど、2001年の論文です。Near death experience、つまり、臨死体験についての論文です。なんとLancetです。心停止でCPRをして蘇生をした人の臨死体験を、驚くべきことに前向きに研究したものです。

きりん:ふふふっ。

かば:すごいね!

かわうそ:すごいですよね。さて、イントロには、最近の治療・技術の進歩により臨死体験の報告が増えている、とこの人たちは言っています。ただ、あんまり引用文献が書いていないので、ちょっと検証のしようがないんですよね。心停止、アナフィラキシー、感電、溺水とか、そういう病態で臨死体験が報告されている、と書いてありますが、全然引用文献が載っていません。一応、引用文献の一覧を見てみると、LancetとかBMJとかあって、まじめに研究されている人もいるようなんですけど、医学論文ではなく、本が多く引用されているようにも感じます。
臨死体験の機序の研究についても少し書いてあります。低酸素などによる脳の生理学的変化が幻覚をみせているのでは説、死に直面した時に恐怖を和らげるための本能的に備わっている精神の防御機構なんじゃないか説、とかが言われているようです。
ここでは、臨死体験の最も大切なことは、臨死体験をすること自体ではなく、そのあとでその人の生き方・性格が変わること、という前提で研究を行っています。
これまでの研究と違うところは、なんといっても前向き研究というところです。この試験の前にも、後ろ向き研究はあります。って、あるのもけっこう驚きですが、これではバイアスが入ってしまい頻度がバラバラなんですって。というわけで、前向きにやらざるをえまい、という筆者の覚悟が感じられます。これはすごいですよ。ちょっと興奮してきます。
Methodsに入ると、オランダの複数の病院で、4ヶ月から4年間かけて患者を集めています。とりあえずCPRの患者さんをすべて入れています。ちゃんと文書で同意も得ていますし、倫理委員会も通しています。通るもんなんですね。

かば:すごいなぁ。

かわうそ:臨死体験の定義をしっかりしようということで、次のような要素に当てはめています。一般的に臨死体験といって想像するようなエピソードになりますが、死んだということを自覚している、それでも悪くない、ていうかむしろポジティブな感情があります。さらに、幽体離脱とか、トンネルのような場所を通るとか、光(天使?)を見たとか話をしたとか、綺麗な景色を見たとか、三途の川を見たとか、亡くなった親族にあったとか、人生の走馬灯を見るとか、そういう記憶を臨死体験としています。臨死については、心肺蘇生処置をしないとなくなってしまう状態という定義みたいですね。蘇生後、けっこうすぐインタビューしています。だいたい蘇生後5日後にやっています。相関関係を調べるため、患者背景もしっかり取っています。特に薬については詳しいですね。やっぱりモルヒネとかの影響を危惧しているようです。
ここまででも十分なんですが、この研究で一番すごいのは、フォローの期間ですね。2年後と8年後まで追っかけています。34項目にも上る、けっこう細かい質問票を送りつけています。性格がどう変わったかということについてです。
こういう、まじめな人からするとバカバカしいと思われるようなことをきちんと検証しようという姿勢はすごいとしかいいようがないです。感動します。私にできないことを平然とやってのけています。そこにシビれますし、あこがれます。これが今後この分野の研究のゴールドスタンダードになるんでしょうね。

きりん:うん?

その2へつづく


2015年8月31日

人体自然発火

Case of So-Called "Spontaneous Combustion".
Br Med J. 1888 Apr 21;1(1425):841-2.
Booth JM.

かわうそ:完全に趣味の世界ですがお付き合いください。X-fileが好きなのもので。たしか、人体自然発火事件の回があって、そこでモルダー捜査官がスカリー捜査官に説明してるときに、医学雑誌にも載っている、とかいってたように思います。記憶が定かではありませんが。
で、pubmedで「Spontaneous Combustion(人体自然発火)」で検索したところフリーで入手できたものがこれです。100年以上前のBMJになります。

きりん:むー。今までにないジャンルですね。

かわうそ:さて、人体自然発火の定義的なものがまず書いてあります。被害者は全て死亡した状態で発見され、体、服、周囲のものは部分的にまたは全部が燃えて破壊されているようです。体は燃えて炭化しているが、これは衣服や周囲のものの燃焼では説明できないということです。
次いで著者の経験した症例の報告という形式になっています。
2月19日、日曜日の朝、納屋の屋根裏の干し草置き場で65歳の男性の検死を行いました。

かば:耳鼻科のドクターじゃないんですか?

かわうそ:たしかに、Lecturer on Diseases of Ear and Larynxとありますね。
まあとにかく、被害者(症例報告なら患者というのが正しいように思いますが、ここでふさわしいのはやはり被害者、もしくはガイシャですね。)は酒浸りの年金生活者で、前日の夜9時前に酩酊した状態で1階の馬小屋に入っていくところが確認されています。その目撃者にドアを閉めるよう言い、ドアが閉まった後、階段を登って行く音が聞こえたという証言があります。その日はそよ風もないくらい静かだったという証言もあり、争う物音などは気付かれなかったようです。
で、翌日の8-9時に、近所に住人が現場の屋根から煙が出ているのをたまたま窓から見つけ、現場に駆けつけたところ、屋根裏部屋の床の穴からこの年老いた兵士の遺体を目撃したということです。
消火作業については述べられていませんので、すでに鎮火していたのだと思います。
著者が到着した際の写真がありますので、これを見ながら続きを聞いてください。

きりん:ちょっとショッキングな写真ですね。

かわうそ:ですね。ただ、キャプションにあるように、近所の人が撮影したのをもらってるんですよね。この写真以外には、撮影できなかったっていってますし、なんだかなーって思います。
さて、写真を一目見て異様なのは、周囲には燃えやすいもの、例えば干し草や木材などが豊富にあるにも関わらず、発火が本人の周囲の床などにしか影響していないように見えることですね。これは他でも報告されている現象で、人体自然発火事件の特徴の一つといえそうです。
体はほとんど灰になっているんですが、顔などの形はまだ残っていて、髪の毛と頭皮は燃え尽きていたんですが、ヒゲは残っているくらいで、彼を知っている人はそうと認識できるほどだそうです。この写真ではややわかりにくいですが。四肢の末端は階下の床の灰の中に落ちていたようです。これも人体自然発火事件の特徴でしょう。人体の一部が焼け残っている写真がネットにあります。モルダー捜査官も出していたかもしれない。
軟部組織はほとんど燃焼の燃料として消費されていたということです。酒浸りで太っていてよく燃えたと言いたいんでしょうか。火災で屋根からの石の落下したため、遺体がいくらか損傷してるのもわかります。
争った形跡がないことにも触れておくべきでしょう。死に際して、苦しんだ形跡がない。どうやら、人体自然発火事件では、これも特徴といえるようです。目撃者がいて、証言している事例もネットにはけっこうありました。
ただし、真犯人がいて、密かに忍び込んで泥酔した被害者に火をつけたり、本人の火の不始末という線も可能性としては十分残っているのではないでしょうか。
さて、いよいよ解剖、組織学的検討、と行きたいところですが、ここで急展開です。運搬人によると、一体として運ぼうとしたところ、collapseしてしまってできなかったと言ってます。で、解剖はできなかったと。著者の嘆きが聞こえてくるようです。
最後に体裁を整えるためか、機序みたいなものを考察してますが…。

かば:なんか、症例報告っていうよりは、大衆雑誌の記事とか推理小説読んでるみたいですね。
BMJに載っているっていっても、鵜呑みにするんじゃなくて、どこまで信頼できるのか実際読んでみないとわからないってことですね。

かわうそ:そういっていただけると、読んだかいがあります。

きりん:あと、レイアウトとかフォントとか今のとかなり違いますね。今のはやっぱり読みやすいですね。

かわうそ:やっぱりそういう見やすさは大切ですよね。私はそういうのもあって、NEJMが一番読みやすいなって思っています。
今後も、フィクションで題材になる不思議な事件が、実際に医学雑誌で検討されてるのかとか、たまに調べたいと思います。全く役に立ちませんが。