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2015年9月5日

大量腹水と発熱、意識障害が出現した60歳女性。アルコール性肝硬変と診断され ていたのだが…。その2

「病理形態学で疾病を読む」Chapter 4 Case 4

2015年8月13日

その1からつづき

その2

かわうそ:実は、Budd-Chiari症候群でした。こんなの、アルコール性肝硬変だと思い込んでいる自分には思いつかないでしょうね。肝静脈系の流出路閉塞によるうっ血が引き起こすプロセスです。静脈の閉塞がどこで起こるかによってそうとういろいろな症状をきたします。原因もいろいろです。右のページに纏めてあります。薬だとか癌だとかがありますが、この症例では血液凝固異常が関係しそうということです。
剖検でこんなところまでわかるのか、と感心するんですが、肝左葉だけがこうやって萎縮しているというところから、左の肝静脈流入部の下大静脈壁に壁在血栓が剥がれて、末梢にばらまかれてできたものと推測されています。血栓のなかに再開通している部分もあるので、慢性の経過ですね。
で、血栓の原因ですが、DICっぽい血液凝固の異常というところを検討しています。DICとはいいつつも、血小板はそれほど減っていませんし、肝硬変は一部あるものの、右葉の機能は保たれていると予想されますので、DICになるほど、凝固因子産生が阻害されていたわけではないということです。ということは、遺伝的な凝固因子欠乏が疑われるわけなんです。
で、ここで愚痴が入ってきます。検査をしておけと。PT、APTT、D-Dimer、FDPとかだけではなく、プロテインCだとかSだとか、抗リン脂質抗体だとか。あと、病歴ですね。「血栓症に関する詳細な既往歴と家族歴の情報があればなと嘆息するのである」と書いてあるんです…。

かば:はははっ。

きりん:しみじみと語ってますね。

かわうそ:こんなのって、初診時のテンションが全てじゃないですか。アルコール性肝硬変といって紹介された患者さんに、ここまでしておくのは、やはりよっぽど出来た人ですよ…。
わかったところで、救命できたかどうかわかりませんが、私が主治医だとしたら、ここまでCPCでボロカスに言われてしまったら、これまでにない「手をつくしてあげられなかった感」でうちのめされているでしょう。
これだけ解明しつつも、剖検してもわからないことだらけであった、と書いてあります。血栓が原因だったにしろ、血栓ができる原因は不明。全身の臓器の中で肝臓だけに血栓ができている理由も分からない。消化管出血の場所もわからない…。というところで症例提示は終わりなんで、もやもやされるかもしれないですが…。
私の感想ですが、もし自分が主治医だったらという仮定の話になるんですが、たぶん、本人には「肝臓悪いですね、お酒のせいですね」とか言ってたと思うんですよ。で、同僚の先生にも、「今までの生活のつけが回ってきた患者がいて大変ですよ、勝手に帰っちゃうし、やっかいですよ」とか愚痴を言っていたと思うんです。
でもですよ、このノートってところを見て下さいよ。「肝臓以外なんら問題はない人体でありました」とあります。大動脈の粥状硬化症は片鱗すらなく、肺は炭粉沈着を認めず、胸膜癒着すらもない。腎臓も心臓も脳も。で、「大量飲酒歴があるといわれ、アルコール性肝硬変と告げられた一人暮らしの60歳の女性Nさん。唯一障害の標的となった肝臓もアルコール性肝硬変ではなかった」…。

かば・きりん:せつない…。

かわうそ:主治医の指示に従わず勝手に退院した、というところは、少し性格の偏りを伺わせますが、これも、もしかしたら何かそういう風にならざるを得ないようなエピソードが、その人生の中にあったのかもしれないな、と思ってしまいました。というわけで、いろいろなことを考えさせる症例です。
われわれがよく会うCOPDの患者もそうかもしれません。たしかに、タバコを吸ってできたものなので自業自得だと考えがちです。でも、タバコ吸ってもCOPDにならない人もたしかにいるわけです。

チーター:そうですね。

かわうそ:そこは遺伝とか素因とか、喫煙感受性の問題のようです。となると、COPDになるならないは本人のせいではない、という考え方もできます。そういう体質については、本人の責任はないわけですから。
となると、患者の自業自得だ、みたいな考え方はよくないな、と思います。そこまで考えてくると、いったいどういうテンションで接したら良いのかわからなくなります。
そういう思いをこめて、今回、非常に長くて恐縮でしたが、これを読ませてもらいました。

かば:…。これは、アルコール性と思っていたから肝生検をしなかったということなんでしょうか?それとも、状態が悪かったから?

きりん:腹水があったらできないでしょうね。

かば:凝固能も悪いですしね。でも、診断するには、どこかの段階で肝生検できていたらと思うんです。

きりん:この人はアルコール多飲歴とかがあるわけですし、すごく多忙だと心がそっちに流れてしまう感じはわかります。私も、謎の肝不全でやってきた患者を診たことあります。ウイルスも陰性で原因不明で、透析とかしてたのですが、結局剖検になりました。で、結節とかを全くつくらないDiffuse Large B cell lympomaが肝臓と脾臓全てにはびこっていました。

かわうそ:肝生検はしていなかったんですね。

きりん:血小板が3万とかで出来ませんでした。でも、いろいろ文献を調べていくと、そういう状況でも、「すべきだ」というものが多かったです。

かば:診断をつけられる手段があるのなら、やるしかないんですね。
うちの病院なら経皮生検のハードルが低いから、放射線科に相談したらいいですね。

きりん:この人は腹水がもしかしたら邪魔をしたかもしれないですね。

かば:穿刺しないの?

かわうそ:漏出性だからしないのでは?

かば:肝臓ならCART(腹水濾過濃縮再静注法)とかありますよ。

きりん:腹水のコントロールしてから生検はたしかにありですね。

かわうそ:3ヶ月の経過ですので、どこかの段階でできるはずですね。そうなってくると、やはり最初のテンションが決めませんか?高齢の、独居の、アルコール性肝硬変という情報が聞いてきますね。

きりん:たしかに。「2-3杯とか言ってるけど、絶対もっと飲んでるんじゃないの。これはアルコール性だよ」とか言ってそうです。胸が痛いです。

かば:絶対言ってますね。60歳は高齢ではないですけどね。

かわうそ:アルコール性肝硬変に限った話ではないんですが、こういう風に真摯に対応しないといけないというエピソードなら、観音伝説とか空海伝説を思い出します。
昔話で、いいおじいさんおばあさんが旅の人に親切にしたら、それは観音様でご利益があった、とか。救急の偉い先生とかも言ってますよね。

きりん:夜中に慢性膵炎患者がアルコールを飲んで腹痛でやってきたりしても、「ああ仕方がない、診てあげよう」と怒らずにちゃんとできれば一人前、という話ですね。

かわうそ:そうなんです。怒ってしまってはご利益をもらえないんでね。真摯に対応しないといけないなと反省します。
夏休みで行った四国八十八ヶ所巡りでも、そういう伝説のお寺ありました(10番札所切幡寺)。でも、その御利益が、すぐに即身成仏したとかいう話なんですが…。

かば:それはご利益ですか?

きりん:それはちょっと…。

チーター:やっぱりこの人、かわいそうですね。

かわうそ:この本って、けっこうこういう話多くて好きなんですよね。けっこう長いんですけど。

チーター:これ、消化器の専門の先生ならわかって欲しいですけどね。

かわうそ:剖検するくらいなので、どこかで気づいていたんでしょう。話を面白くするために、わからないふりをして書いているのかもしれません。
朝からせつない気分にさせてしまい申し訳ありませんでした。


大量腹水と発熱、意識障害が出現した60歳女性。アルコール性肝硬変と診断されていたのだが…。その1

「病理形態学で疾病を読む」Chapter 4 Case 4

2015年8月13日

その1

かわうそ:今回は「病理形態学で疾病を読む」という参考書のケースカンファレンスを見てみたいと思います。
GIMカンファのとはまたちょっと違う面白さがあって、私はけっこう好きなんです。
60歳の独居の女性が、腹部膨満感で近医を受診したところ、肝硬変と診断されます。若いころに大量飲酒歴があったが、最近は缶ビール2-3本/日。B・C肝ウイルスが陰性であることから、アルコール性肝硬変と診断し、この病院に紹介されています。
ただし、入院の指示には従えず、外来での投薬で腹水をコントロールせざるを得なくなったみたいです。そして、退院後まもなく38度の発熱、意識障害で救急搬送となります。
意識障害が起きて入院してからの臨床像です。38度の発熱とそれに伴う頻脈、少し酸素化が悪く、意識障害があって、羽ばたき振戦と黄疸がある。かなり貧血があって、腹水の所見と浮腫がある。
ちなみに、この本の親切なところは、Keyという項目に全部まとめられているところです。
臨床検査もいろいろ書いてありますが、白血球はともかく、高度の貧血があって、血小板は13万くらい。肝硬変がすごく疑われているわりには、一応保たれていますね。尿の所見もウロビリノーゲンが出ていたり肝不全の所見です。生化学ではAlbが2.0で、肝機能低下を伺わせます。腎機能と電解質は問題なし。肝機能については、総ビリルビンが上昇している(5.5mg/dl)ほか、肝逸脱酵素はそれほど上昇していません。あんまり肝疾患を見た経験がないので、生意気なこと言えませんが、肝硬変の末期ならこんな検査結果でよいのかな、という感想です。アンモニアは高い(109μg/dl)が、肝細胞癌の腫瘍マーカー(AFP、PIVKA)は陰性です。発熱があって感染症が疑われるのですが、CRPは低い(1.65mg/dl)。これは肝臓で合成されないからでしょうか。けっこう危険ですよね。私はCRPに引っ張られる傾向がありますので、数字だけ見てたら、大したことないとか言いかねないです。凝固能はことごとく異常でDICが疑われます。でもそのわりには血小板は下がっていない…。次は我々呼吸器科医には心強いところです。SPO2が低いのを受けて、PaO2も低く(66.9torr)、CO2は飛んでいて(31.9torr)、アルカレミア(7.503)です。でも、レントゲン等で肺には異常ないので、これはおそらく大量腹水による横隔膜運動の障害によるものなんでしょう。今後そうやって自信を持って退けましょう。

きりん:ふふっ。

かわうそ:腹水も感染の原因として心配ですが、今のところは漏出性を示唆する結果でした。
これまでのところで何かひっかかるところはありますか?

かば:とりあえず、これは本当に肝硬変といってよいのか?というところですね。
これは特発性細菌性腹膜炎とは違うんですか?

きりん:あれは滲出性で、細胞の数も多いと思います。

かば:じゃ、なんで熱が出ているんでしょうか?

かわうそ:すいません。プレゼンが拙くて。それは尿路感染が疑われています。

きりん:貧血が気になりますね。LDHが高い(402U/l)と溶血も考えたくなりますが、直接ビリルビンが高い(3.6mg/dl)ですね。

かば:大球性貧血ですね(MCV=115.4fl)。

かわうそ:でも、一元的に考えれば、アルコールの多飲歴があって、腹水があるくらい肝硬変があるなら、食道静脈瘤からの出血ということになるのかな、と思います。DICに関しても、肝臓悪いならしょうがない、とか思ってしまいますけど…。

かば・きりん:はい。

かわうそ:でも、こうやってアルコール性肝硬変と診断してしまうというのが…。ビール2-3杯でこう言われるのは、ちょっと。中にはそういう人もいるのでしょうけど。

きりん:そうですね。若いころにアルコール性肝障害になっていて、それでも飲酒を続けているとかいう情報があれば、そうかなと思うんですけど。

かわうそ:そうなんです。そういう背景なく、アルコール性肝硬変という診断をつけてしまうのは、相当罪だな、と思うんです。しょうがないのかもしれないのですが。

チーター:でも、アルコール性肝硬変「疑い」での紹介ですよね。精査目的の。

かわうそ:その「疑い」に引っ張られない自信は自分にはないです。
画像検査でも、肝硬変として矛盾しないんですが、いくつかおかしいところもあります。まず脾腫があるとは言ってもそんなにはないこと、そして、CTでわかったんですが、左葉が異常に萎縮していることです。意識障害があったので頭部CTを撮ったけど異常なし。貧血についてはやはり消化管出血を疑って、上部消化管内視鏡をしたけど出血なし。

かば:すごい貧血で、どんどん進行していますけどね。

かわうそ:治療にもかかわらず残念ながら不幸な経過をたどってしまいます。だから、写真でわかるように、剖検されています。死亡前日にはとうとう腹膜炎になってしまっています。臨床経過3ヶ月です。
身寄りがないにも関わらず、剖検を取っていますので、この主治医の先生は相当真面目だったのだと思います。あと、やはり経過にどこか疑問があったのでしょう。優秀な先生ですね。
病理解剖の目的は、肝硬変がアルコール性なのか?貧血の原因は?意識障害については?というところです。
さて、肝臓のマクロ写真の説明に移ります。図1です。なかなか見慣れていないのでわかりにくいと思いますけど、まず、左葉がないんです。

きりん:ない?

かわうそ:RHV、MHV、LHVという3つの静脈が肝臓を通っているんです。矢印で示されてますよね。それぞれの先に担当している肝臓があって欲しいんですが、LHVだけこのシケた三角形の肝臓しかない、といっているんです。

かば:めちゃくちゃちっちゃくなってますね。

きりん:えへへ。ないですね。

かわうそ:これが先天性か後天性かについて今後考えていくみたいです。割面では黄疸があるとみるみたいです。よくわかりませんが。
あと、肝円索が開いていたり、側副血行路ができていたりしていますので、門脈圧亢進症の存在が示唆されます。
この時点ですでに、左葉の萎縮が瘢痕様でかつ、微小な再生結節が散在していますので、後天性のものということです。原因も、肝静脈の閉塞でしょう、ということです。顕微鏡みなくても、これくらいわかっているんですね。
左葉の組織をみていくと、再生結節が線維化の中にういている像で、これは肝硬変ですね。次は、血管が詰まっていて、さらに再開通した像も示されています。再開通の結果、再生結節が保たれているということです。慢性の経過なんでしょうね。左葉萎縮は、肝静脈のかなり末梢の方の循環障害が原因ということです。
次は肝臓の右葉に移ります。肝硬変と言われているわりには、線維化はかなり軽度です。

かば:比べてみると全然違いますね。マクロでもミクロでも。

かわうそ:少しだけ血管内に血栓があるようですけどね。マロリー小体もなかったということですし、肝線維症から肝硬変まで幅広い病態を呈していて、アルコール性肝硬変ではなかった、という結論です。ちょっと衝撃的な結果ですよ、これは。もし自分がこのCPCに主治医として参加していたら、と思うと胃が痛いです。ちゃんと臨床経過のどこかで、放射線科の先生あたりが、「ちょっとこれアルコール性肝硬変とは違いますよ、おかしいですよ」とか言ってくれていることを願います。
次は、腹水は6L、混濁していてフィブリンも析出している、好中球も出ていたということから、特発性細菌性腹膜炎で矛盾しないです。門脈圧亢進症、食道静脈瘤も認められてますので、肝硬変の合併症はひと通りあったということでしょう。
次は、やはり貧血が心配だったのでその精査です。まず胃を開いてみると、1Lの出血がありました。持続的に出血していたところはあったんです。でも、食道静脈瘤の破裂はないし、胃粘膜もきれい。人名読めませんが、何とか潰瘍というもないようです。

きりん:Dieulafoy(デュラフォイ)潰瘍ですね。

かわうそ:よくご存知で。粘膜欠損は小さいのですが、動脈が露出していて出血がひどいというものらしいです。
そういうのも念入りに見ましたが、きれいな食道、胃でした。ではもっと下か、というわけで、どんどん見ていくと、回腸末端にも500mlの出血があったということです。出血源は分からないが複数回の消化管出血があるというわけです。どうも、こういうことはよくあるみたいですね。
意識障害があるので、脳をみています。ちょっと萎縮していますが、非常にきれいでした。
さて、ではなんでしょうか。

かば:ぜんぜんわからないんですけど。

きりん:これはわかりませんね。

かわうそ:絶対わからないですね。名前は聞いたことあると思いますが。

その2につづく


2015年8月12日

診断力強化トレーニング 「本当にあった怖い話」 その2

診断力強化トレーニング
京都GIMカンファレンス


2015年7月31日

その1から続き

その2

きりん:では答えです。
これは、知っている人が見ると一目でわかるものです。私は最近おぼえたんですけど。
レミエール症候群です。

かわうそ:なるほど。(名前だけはかろうじて)聞いたことあります(キリッ)。

きりん:若い男性で、首が痛くて、虫歯があって、こんな胸部写真だと疑うというものです。何例かみるともしかして、と思えるかも、ですね。
血液培養で嫌気性菌が生えてきて、多分口腔内の菌だと思うんですけど。あと、頚部の造影CTものってますけど、静脈が血栓で詰まってます。リンパ節ではなく、血栓で痛かったんですね。

かわうそ:これはかなり怖くないですか?触診してて飛んだらどうしよう、という感じ。

きりん:でも静脈ですから、頭でなくて肺ですから。

かわうそ:あ、そうか。なら安心(?)ですね。

きりん:ヒントになるのは、まず上気道感染があったというところ、あとリンパ節が腫れていないのに首が痛いところです。お腹の所見は目くらましですね。

かわうそ:なるほど。で、血沈が0ってことについては?

きりん:何も書いてないですね。ふふっ。

かわうそ:ははは。わざわざ書いといて触れてないってのは、なんかすごくモヤモヤしますね。
でも、もし自分が鑑別診断聞かれたら、結核でしょって自信満々で言って、すごい恥を書いてたと思いますね。

きりん:まあまあ。実際結核は鑑別診断に上がっておかしくないと思いますよ。
治療については、この疾患を「当初から」想定し、アンピシリン・スルバクタムとクリンダマイシンを使用したとあります。嫌気性菌をターゲットにしてます。感受性を確認してベンジルペニシリンに変えています。肝腎機能も改善しています。

かわうそ:肝臓と腎臓が悪かったのは、敗血症とDICによるものってことなんですね。

きりん:だと思います。発熱も肺炎像も血栓も、そうとう長く続いたようです。DICについては最初に抗凝固しただけということです。

かわうそ:自分がこれを診たとき、最初から診断つけるのは無理としても、検査と治療を大きくはずすことはないと思うんです。それなりの抗生剤を使って、それはメロペンとかゾシンかもしれませんけど。クリンダマイシンを使えるかどうかまでは別ですけど。で、それなりにDICとして抗凝固療法して、というように。
首についても、そんなに痛いのなら、という感じでCTを撮って、おそらく血栓まではわかるんでしょう。

きりん:うちの優秀な放射線科の先生が見つけてくれて、あわよくばレミエール症候群って診断をつけてくれると。

かわうそ:他力本願ですが、そこは否定できません。
でも、こういうふうにかっこよく診断して治療するのにはやっぱりあこがれますね。治療を開始するのはいいとして、抗生剤の変更とかいつまで抗凝固するかとか。どう管理するかってのはなかなか難しいです。

きりん:すぐ血液培養の結果がでて、感受性に一週間かかるとすると…。まだ発熱している間にde-escalationしてると思いますけど、たしかに経過表がほしいですね。

かわうそ:先生もこの前レジオネラ肺炎を治療されてましたけど、あれも延々と熱が出てたし大変そうでしたよね。

きりん:あれは最初腎機能が悪くて、クラビット隔日投与にしてたんです。で、一度熱型が悪化したんですが、その時利尿がついていたので、Ccrを測定してクラビットの量を調整して、とかしてました。

かわうそ:なるほど、やっぱりレジオネラ肺炎って診断できても、その管理は一筋縄ではいかないんですね。最終的にちゃんと救命できてて、さすがです。

きりん:いえいえ。いい勉強になりました。
最後にレミエール症候群の特徴が書いてあります。抗菌剤がない時期には多かったのですが、最近上気道炎に抗菌剤を処方するのを制限したらまた報告が増えてきたみたいです。

かわうそ:抗生剤減らしたことの弊害ってのもあるんですね、意外です。

きりん:あと、嫌気性菌が原因なので、感受性が判明する前のペニシリン系単剤は危険です。

かわうそ:なるほど。まあ、頼まれてもしてないでしょう。

きりん:治療期間は決まったものはないそうですが、本症例では点滴経口あわせて八週間だそうです。長いですね。
抗凝固についても、決まりはないようですが、血栓が逆行性に進行して頭蓋内に進展するなら、血管結紮とあります。

かわうそ:そんなのあるんですか?怖いですね。何度もエコーとか造影CTしないとだめですね。

きりん:海綿静脈洞もつながっていくので、頭痛が悪化してるとか眼球充血にも関係してたのかもしれないですね。けっこう危険なサインととらえていたのかも、です。今思い付いたんですけど。
こういうのは救急外来にきてもおかしくないですね。帰しちゃいそうですね。若いからって言って。

かわうそ:そのあとショックで戻ってきますね。
でもやっぱりこういう形のカンファはこわいですね。自分たちだけではできないですね。鑑別診断挙げる知識が少ないので。
あと、診断したと思って自信満々でプレゼンして、でも会場から思わぬ鑑別診断が上がってきて、全然それを想定してなくて、検査もしてないから否定できなくて、結局診断間違ってたんじゃないの、とかいう雰囲気になっていって涙目になってる自分の姿が目に浮かびます。

きりん:えーっ、先生は全然大丈夫じゃないですか?

かわうそ:ええっ?そうですか?(*・ω・*)

きりん:先生はいつもカンファとかでは本気(で殺りにくる)モードですから。

かわうそ:えっ…。((((;゚Д゚)))))))

きりん:なんでこれ調べてないの?とか、この影に気がつかなかったの?とか。

かわうそ:いやいや、そんなキツく言ってないはずですよ…。( i _ i )

きりん:今でも先生方とのカンファはちょっと恐怖感覚えるときあります (笑)
研修医のときは、ありがたいことに救急外来で困った症例を相談するカンファレンスがありました。そこでは、偉い教授でも、「僕、ちょっと鑑別挙げてみていいですか?これとこれと…。合ってます?」「違いまーす」とかいってワイワイしてました。総診のカンファはそういうの多いかもしれません。

かわうそ:ならぜひこの京都GIMカンファレンスに参加して、そういう話芸を学んできます。


2015年8月9日

診断力強化トレーニング 「本当にあった怖い話」 その1

診断力強化トレーニング
京都GIMカンファレンス


2015年7月31日

その1

きりん:今回はかば先生は夏休みです。
また、「診断力強化トレーニング」からです。京都GIMカンファレンス編集です。いろいろ有名な病院の先生が執筆されています。

かわうそ:これって、外部から参加してもいいんでしょうかね?恐いですけど、機会があれば行ってみたいですね。

きりん:本に書いてあるところによると、毎月洛和会音羽病院でやっているみたいです。老若男女、勤務医開業医だれにでも門戸を開いているとかネットに書いてありました。

かわうそ:我々がここでやいやい言っているのは、その場では的はずれだったり議論され尽くしたような指摘なのかももしれないですね。

きりん:もしかしたらプレゼンターが答えを言う前に、参加者で診断がついていたりとか?
さて、今日の症例は27歳の特に既往のない男性です。側胸部痛と背部痛です。10月の半ばから倦怠感があって、咽頭痛と頭痛を伴う40度の発熱を認めたため、近医を受診、シプロフロキサシンを処方され、一旦良くなったということです。よくあるパターンですね。一旦解熱したんですけど、1週間位たってまた38度の発熱が出て胸背部痛が出現したので、入院となったということです。

かわうそ:27歳が発熱でいきなり入院になったんですね。

きりん:病歴をまとめると、緩徐発症で、高熱ですが悪寒戦慄がなくって、寝汗もなくって、この時は頭痛も腹痛も嘔吐もなしと。温泉・渡航歴なくって、周囲に同様の症状なくって、でも深呼吸で胸が痛くって、咳と唾液様の痰があって、呼吸困難があると。大切なのは、嚥下時と咽頭痛、側頚部痛があるということで、なんか、喉と肺のあたりが怪しいなって思います。それと食欲が落ちているということです。
既往歴は特になくて、アレルギーもなくて、ビール飲んでいて、喫煙は少し多いですね。1日2箱を10年、てことは17歳から吸っていたのかってかんじですね。

かわうそ:吸ってたんでしょうねぇ。

きりん:で、シプロフロキサシンを6日間内服したと。

かわうそ:こういう時にいつも思うんですけど、量がどうだったのかっていう情報が重要じゃないですか?きちんと処方されていれば、抗生剤をきちんと出していたけど効かないから感染症は否定的なんじゃないか、とか考えられそうですが、100mg3錠分3なら話がややこしくなりますよね。実際は感染症だけど、抗生剤が効いていないという可能性も考えないといけないというか。

きりん:感染症診療の一番基本ですよね。

レボフロキサシンも、我々なら500mg分1に決まってますけど、油断してると100mgとか250mgとかだされてますよね。腎機能も別に悪くないのにな、とか思うことあります。

身体所見は、まあまあ大柄で、発熱してて、呼吸数が多くて、脈拍多くて、血圧は保たれていて、SPO2も保たれていると。

かわうそ:SPO2が92%はちょっと低くないですか?老人が92%なら、まあいっかとか考えちゃうかもしれないですけど。

きりん:さすがに27歳の若者には低いですね、たしかに。で、頭頸部では、眼瞼結膜に充血があって黄染はなし。なんか、目を真っ赤にして、はあはあいっている感じです。口腔内に虫歯が多く、咽頭発赤著明ですけど、扁桃腫大はない。頸部のリンパ節をさわっていくと、胸鎖乳突筋に沿って痛い痛いという。でもリンパ節はあんまり腫れていないみたいです。心音は異常なくって、聴診は右下肺と左側胸部に吸気終末にぼそぼそ音がすると。腹部は、右季肋部に圧痛があって…。ややこしくなってきましたね。筋性防御はないけど、肝叩打痛はあって、Murphy徴候はない。CVA叩打痛はないと。
首なのか、肺なのか、お腹なのか?という…。

かわうそ:おなかの所見も出てきたんですか…。もう手に負えないかも…。

きりん:検査結果は、カラーで印刷したのでわかりやすいです。

かわうそ:異常値が赤色になってますね。わざわざありがとうございます。

きりん:いえいえ。白血球が20000以上、好中球優位、血小板が極端に減っていて、凝固が延びている。血沈が0です。腎機能障害もあって、肝逸脱酵素は上昇してないのにビリルビンとALPが高い、と。さらに、Na低くて、CRPが20です。盛りだくさんです。

かわうそ:それはたしかに入院ですね。

きりん:ですね。胸部CTでは胸膜直下に多発浸潤影です。

ここで、あなたの診断は?とくるんです。

かわうそ:この時点で診断つけるんですか?(驚愕)

きりん:そうです(キッパリ)。
まとめると、高度の炎症所見があって、血小板が消費されてる。血沈が亢進してないのが変わってますけど。あと、肝機能が悪くないようなのにビリルビンが上がっている。敗血症のときってビリルビンちょっと高めになる印象があるので、そういうのかなって思います。

かわうそ:血栓・塞栓でこういうふうになったのかなって思わせますよね。

きりん:私は胸部CTをみて、これはって思いました。

かわうそ:reversed halo sign みたいですよね。ちょっと中が空洞っぽいというか。

きりん:私はこれみてseptic emboliって思いました。入院させますよね。

かわうそ:なるほど。自分は、結核はやっぱり除外できないなって思います。ニューキノロン出されちゃって、一瞬よくなったっていう経過もありますし。でも、喉が痛いとかはあまり聞かない訴えなんでおかしいかな…。

きりん:結核なら、もうちょっと赤沈がんばれよってなりますね。

かわうそ:それもそうですね。血沈ほとんど計らないんでいまいち感覚つかめませんが、さすがに0ってのはないですね。これは重要な情報そうですね。

きりん:きっと実際のカンファでもこんな感じでもっといろいろ鑑別診断があがってきて、「でも血沈あがってないからね」とかいう会話があったんじゃないですかね。
あとは、血管炎とか考えるべきでしょうか。

その2に続く