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2016年6月9日

MGH case 14-2016 その3

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。最後は検査と治療についてです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:このあとの対応としては、まず小腸の生検です。絨毛の障害を見つけたいです。
でも、けっこう大変ですよね。なぜって、この人は周りの人が自分を騙しているという妄想を抱いているわけなので、なかなか信用してもらえません。

かば:検査をさせてくれないんですね。

かわうそ:いちおう、セリアック病には信頼性の高い採血の検査、IgA tissue glutaminase antibodyがあるようです。この方はこれで陽性となっています。
このあとなんとか説得して検査した病理標本が図に載っています。自己免疫疾患なのでか、リンパ球が十二指腸の上皮内や固有粘膜に集まっていて、構造が破壊されているのがわかります。

でも、せっかく診断がついても、このあと治療も難渋してるんですよね。医者が嘘を付いているんだと。グルテンフリーダイエットを拒否しています。
どうやら妄想が延々と続いて、自分に対する陰謀の証拠を発見したとか騒いで、治療を拒否して、そうこうするうちに職を失って、ホームレスになって、自殺企図したりしたみたいです。

かば:なんと。

かわうそ:そのあとなんとか入院して、こんどこそ治療が開始されています。
グルテンフリーダイエットを三ヶ月続けたところ、リスペリドンの内服は必要ですが、妄想は消えたようです。
というわけで、苦労したけど、治療ができました。

かば:よかったですね。すごいですね。

かわうそ:良くなってから生検した結果の病理標本も載っています。すっかり正常の構造になっています。
実は、グルテンフリーダイエットが有効な疾患というのはセリアック病以外にもけっこうあります。セリアック病は他の自己免疫疾患との合併が多く、しっかりと診断する必要があるので、安易にグルテンフリーダイエットしない方がよいとのことです。

さて、この人については、この後切ない展開が待っています。実は、きちんとグルテンフリーダイエットを守っていたのですが、ついうっかり…。

かば:食べちゃったの?

かわうそ:そうなんです。妄想がぶり返し、グルテンフリーダイエットも受け入れてくれないらしく、困っているようです。

かば:やばいですね。診断ついても治療できないのは辛いですね。

かわうそ:こっそりグルテンフリーダイエット食べさせるわけにはいかないんでしょうか。

かば:やっぱり味が違うんでしょうね。ググると、日本ではダイエットのために使われることもあるみたいですけど。
この表をみると、セリアック病の合併症というか、消化管外症状ってたくさんありますね。難しいですね。

かわうそ:やっぱり、日本だけで働いていると、ほんとに診ない病気がたくさんありますね。

ちなみに、このcase recordの直前に載っていた、Image in clinical medicineもけっこう衝撃的な画像ですよ?

54歳の脳性麻痺のある男性が、喀痰による右主気管支の気道閉塞のせいで、Morgagniヘルニアから消化管が胸腔内に迷入しています。胸部聴診でbowel soundがわかったようです。
で、診断のあとどうしたかというと、本人・家族の希望により、外科的な修復は行われませんでした。このあとこの方がどういう暮らしをしたのかが気になるところです。


2016年6月7日

MGH case 14-2016 その2

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。鑑別診断編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その2

その1からつづき


かば:これまでの病歴からすると、鉄、ビタミン不足だけでなく、体重減少もあるんですよね。だから、腸管吸収が問題なのだと思いますけど、疾患が思いつきません。
自己免疫疾患がキーワードっぽいので、SLEかとも思いましたが、ほとんど診断基準に当てはまる症状、所見がないようですし。

かわうそ:確かにSLEは鑑別にあがるべきですね。

ここから鑑別診断に入ります。
まず、成人から突然発症した精神病とのことで、まずは基礎疾患がないかどうかしっかりと精査しましょう。

これまで発見された、鉄欠乏性貧血やビタミン欠乏は、神経障害との関係はありますが、さすがにこれほどの妄想性精神疾患をきたすことはないでしょう。
ビタミンB1のウェルニッケ症候群、ビタミンB3のペラグラは有名ですけど。

体重減少とビタミン欠乏があるので、神経性食思不振はやっぱり考えないといけないですよね。完璧主義というキーワードもありますし、ただし、さきほど触れたようにどれだけ周囲から話を聞いてもそういう証言は得られませんでした。

かば:体重減少と突然の意識障害と捉えると、悪性疾患と脳転移は考えるべきと思います。

かわうそ:そうですね。
でも、この症例では脳の画像検査は得られていないようです。
頭部MRIして脳腫瘍または脳転移の検索をすべきだ、とリコメンドされています。

あとは、橋本病という自己免疫性甲状腺疾患についてですが、これはおそらくたまたま見つかっただけで、精神症状との関係はなさそうとのことです。
むしろ、そのあと、甲状腺ホルモン補充に対して反応しないことが重要です。
あと、自己免疫性疾患があること、家族歴も濃厚であることです。
自己免疫疾患があって、吸収障害がある場合、これを考えるらしいんです。

・・・。実は、セリアック病でした。わかりました?

かば:おお。セリアックスプルーですね。

かわうそ:私はこの疾患は小麦というかグルテンに対するアレルギー反応を有する遺伝性疾患という認識だったのですが、むしろ吸収障害を伴うような自己免疫疾患と捉えるべきなようです。

かば:自己免疫疾患…。

かわうそ:という分類になるらしいです。私には、グルテンフリーダイエットというキーワードぐらいしか反応できないのですが。
ちなみに精神疾患についても、有名ではないものの、セリアック病に合併したという報告がけっこうあるらしいので、矛盾するものではないとのことです。

かば:すごいですね。病歴からここまでたどり着いたんですね。

かわうそ:ここで、精神科の主治医にコメントを求めています。「われわれは病歴でここまでたどり着いたわけだけど、実際みたお前はどうなの?」っていうところでしょうか。いじわるしているわけではないのでしょうが。
回答としては、「統合失調症としては、少しおかしなところはあるにせよ、やっぱり最初は妄想型の統合失調症と診断しちゃうよね」、といってます。

その3へつづく



2016年6月3日

MGH case 14-2016 その1

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。前半は問題編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その1

かわうそ:妄想で精神科を受診されました。自分のまわりで大きな陰謀が進行しているというよくある妄想です。家族や友達が、自分に対して嘘ついているというような妄想を突然抱くようになってしまいました。妄想の他には幻覚などの精神症状はありません。
たまたま家に泥棒がはいったという事件をきっかけにして、さらに妄想が進行します。合鍵を持っていたのが家族だけなので、家族に対する疑惑が爆発、暴力沙汰になってしまったようです。
やや発症年齢が高く、典型的ではないように思われましたが、一応スキゾフレニア、統合失調症として入院加療となっています。アメリカでどうかはわかりませんが、日本なら自傷他害の恐れあり、で医療保護入院とか措置入院のレベルでしょうか。

かば:単なる統合失調症では、MGHのケースレコードにならないように思いますけど。

かわうそ:そうですね。やっぱり病理所見との対比が売りですからね。実は器質的な疾患がありました。
まず、採血結果、鉄欠乏性貧血がわかりました。その他ビタミンB12、D2の欠乏もありました。あとはほとんど正常です。栄養状態については、あれ?記載ありませんね。

既往歴は特にありません。足のケガとか、あと、卵巣腫瘍で卵巣摘出していますが、その後ホルモンバランス異常などは指摘されていないようです。
ただ、性格は異常というわけではないのですが、ちょっと変わっているようです。10代のころから完璧主義者で鳴らしていたようです。

かば:自閉症スペクトラムですか?そういえば、最近ADHD多くありませんか?偏食で肝障害とか、サプリで肝障害とか。

かわうそ:私もそう思いますが、この時点でそこまで言えるかどうかは書いてありませんでした。
あと、よく聞いてみると体重減少があります。期間は不明ですが9kgも減少しているらしいです。
過食症や嘔吐、下痢、髪の毛が薄くなるなど、神経性食欲不振を疑うようなエピソードはありません。利尿薬や下剤の使用もなしです。頭部外傷なし。引きこもり歴なし。
さて、家族歴はけっこう注目です。

かば:ほう。

かわうそ:母がSLE、姉妹に甲状腺機能異常、祖母に糖尿、おばが乳癌。ただし、精神疾患はありません。
食事はペスクタリアンダイエットをされています。知ってます?

かば:しらない。

かわうそ:調べたところ、動物の肉は食べないものの、魚介類は食べるというこだわりのようです。
あとは、卵を結構食べるとか、サラダ毎食食べてるとか、けっこう詳しく述べられています。
アルコールは機会飲酒程度、喫煙はないがマリファナ使用歴あり。
コーヒーは一日二杯でよいとも悪いとも書いてありませんが、自分は四杯くらいなので、これが問題だとしたらけっこうやばいですね。

一ヶ月入院して退院されました。リスペリドンだとか抗鬱薬、ビタミン薬などを出されています。ただ、あまり症状はよくなっていないようです。
フォローの外来受診時に、入院担当医が見たところ、さらにガリガリにやせていることを発見されました。

かば:甲状腺機能亢進ですか?

かわうそ:主治医もそう疑ったのでしょう、あらためて所見をとったら、甲状腺腫脹が発見されました。精査したところ、橋本病と甲状腺乳頭癌でした。
橋本病って基本的には甲状腺機能低下になるはずですが、機能亢進状態にもなりえますので、そのための精神症状なのかな、とも思いましたが、ちょっと病歴とは合わない印象ですよね。この方はほかにもキーとなる症状がありますし、それは甲状腺機能異常では説明できないようです。

とりあえず橋本病と甲状腺乳頭癌に対する治療として、甲状腺摘出術後、甲状腺ホルモン補充療法を行いました。
この経過が診断に結びつきます。実は、補充しても、なかなか有効血中濃度にならないんです。

これで思い浮かぶ病気あります?ていうか、これが精神疾患につながるという印象が私にはありませんでした。

その2へつづく


2016年3月7日

A Complementary Affair その2

ネットで検索してみると、シェーグレン症候群の補完症状(?)と補体をかけたタイトルということです。
確定診断と治療経過についての部分です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. 
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.

2016年1月27日

その2

その1からつづき

さて、ここで精査で何をしますか。

かば:腎生検ですね。

かわうそ:そうですね。あと貧血についても調べるべきとのことです。

かば:Cre=1.6とかなので、それほど貧血をきたすほどの腎機能障害ではないってことですか。

かわうそ:ここで題名が利いてきます。補体を測定してみたいところです。

貧血については、血清鉄は減っているものの、結合能は正常で、フェリチンは十分あって、ビタミン・葉酸は問題なしでした。LDH上昇もありません。というわけで、貧血については慢性疾患に伴うものなのでしょうという診断でした。

あとはレントゲンですね。どうですかね。写真載っていますが、あんまり間質性肺炎とは言い難いですけど。

かば:左中肺野が少し淡いかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。でも、印刷したものではよくわかりません。
CTでは、胸水が溜まっているのと、背側に間質陰影がありました。重力効果にも見えますが。

かば:でも、気管支血管壁が肥厚していますね。
ひょっとしたら誤嚥とか肺水腫があるのかも、ですね。

かわうそ:このあたりも少しすっきりしませんが…。
血液検査では、ANA、リウマチ因子が上がっていますし、補体は消費されていました。というわけで、クリオグロブリン血症などの免疫複合体による血管炎を鑑別にあげましょう。

ちなみに、クリオグロブリン血症は、HCVとの関連が有名ですので、一応調べておいて下さいということです。

かば:そうでした。

かわうそ:ここで腎生検をしています。わかりますか?私は解説見ないとさっぱりです。

かば:膜性腎症ですよね。

かわうそ:さすがですね。糸球体膜の増殖です。さらに、矢印のところには無構造物が充満しているように見えます。微小血栓が毛細血管に詰まっているとのことです。
IgMが糸球体の毛細血管壁に、点状または巣状に沈着しているということも、免疫染色で証明されています。
ここまではどうも急性の経過を表しているようなんですが、次の写真で、LambdaとKapperの軽鎖が、Kapper優位に沈着しているのがわかります。これは、マイルドな間質性腎炎の像ということです。

かば:ふんふんなるほど、たしかに。

かわうそ:ただ、あんまり慣れていない分野なので、ちょっと理解はいまいちです。原文あたって下さい。

これらが合併して、急性の腎機能障害を引き起こしたんだろうな、ということが考察されています。

で、治療はどうしますか?

かば:免疫複合体が原因なので、ステロイドと免疫抑制剤ですね。

かわうそ:そうですね。けっこう大量のプレドニゾロンとシクロフォスファミド、アザチオプリンなどが使われています。ステロイドは18ヶ月かけてゆっくり減量しています。
治療のかいあって、腎機能障害や他の症状、検査データ異常などもよくなっています。

かば:めでたしめでたしですね。

かわうそ:まとめとして、シェーグレン症候群は基本的には潜在性の疾患ですけど、間質性肺炎や気管支拡張症以外にも、腎機能障害とか発疹とか、血管炎とかリンパ増殖性疾患なども、忘れちゃいけない、と書いてありますね。
あとは、クリオグロブリン血症の分類とか、マニアックな知識も書いてあります。
実は、シェーグレン症候群の1割以上でクリオグロブリン血症を起こすようです。

かば:意外に多いですね。

かわうそ:でも、たいてい無症状らしいです。
あと、治療としては、ここでもまたリツキシマブです。実はRCTがあります。コントロール群で生存率3%なところ、魔法の薬リツキシマブで治療した群では、なんと生存率が60%にアップします。

かば:ほんとですか?これは読まねばならない論文ですね。

かわうそ:もっと話題になっても良さそうですけどね…。


2016年3月3日

A Complementary Affair その1

この題名は、英語の掛詞的なものみたいでして、ちょっと意味がとりにくいです。
鑑別診断までの部分です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. 
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.

2016年1月27日

その1

かわうそ:57歳男性、呼吸困難、倦怠感で受診されています。労作時呼吸困難ということなので、我々だとすぐにCOPDとか間質性肺炎とかを考えてしまいますが、一般的には当然別の疾患も考えないといけませんよね。

かば:とりあえず心不全、腎不全、筋力低下、神経筋疾患とかですかね。

かわうそ:そうですね。ここではあと貧血なんかも上がっています。
どうやら労作時呼吸困難だと、ちょっと鑑別診断に上がってくる疾患が多すぎて絞り込めないようです。
ただ、起座呼吸ならもうちょいダイレクトだ、と書いてあります。そんなに疾患特異性ありますかね?ちょっとピンときていません。

かば:心不全ですね。肺うっ血みたいになる疾患。

かわうそ:ですかね。この人の病歴に戻りますが、シェーグレン症候群がもともとあって、あとは治療するまでもない高血圧、アレルギー性鼻炎、痔核、偏頭痛などがあります。で、ハイドロキシクロロキンという膠原病の薬とか、点鼻ステロイド、鎮痛薬を内服しています。事務職で旅行なし、喫煙飲酒なし。家族歴では膠原病の人がけっこういます。
この病歴、つまり、シェーグレン症候群の人の労作時呼吸困難で、疾患をさらにしぼれますか?

かば:間質性肺炎ですかね?あんまり心臓や腎臓の合併症は有名でないと思いますし。

かわうそ:そうですね。シェーグレン症候群といえば、基本的には涙腺、唾液腺がメインに障害されますが、あとは肺です。呼吸器疾患としては、間質性肺炎と気管支拡張症が多いように書いてあります。

この方は20年くらい前から診断されています。耳下腺の生検で確定診断されています。レイノー症状、関節炎、齲歯、GERD、腎結石などの既往があります。身体所見では、高血圧(150/80mmHg)、ドライアイ、ドライマウスくらいです。呼吸音はclearでfine cracklesは目立たないようです。ここはちょっとポイントですね。

で、検査なんですけど…。

かば:レントゲン、採血、尿検査とかですか?

かわうそ:呼吸音正常でもやっぱり胸部の画像検査はしますよね。
心機能については、トレッドミルして虚血性心疾患は否定的です。
ここでは、とりあえず高血圧に対して、サイアザイドとトリアムテネロンの合剤を処方されて帰りました。
やはり日本以外ではファーストチョイスはサイアザイドですよね。ただし、腎機能障害がある場合は要注意、と伏線が張られています。ちなみに採血検査はこの時はしていません。だからあとでちょっともめているんですけど。

で、7日後の次の受診時に採血してみたところ、Cre=1.6、BUN=43でした。たまたま7ヶ月前の記録があったんですが、そのときはCre=0.9、BUN=16ですので、急激に変化しています。

かば:あら。でも、薬出す前から腎機能が悪くなっていた可能性もありますよね。

かわうそ:そうなんですよね。薬剤性かどうかで対応が変わってきます。
いちおう、シェーグレン症候群でも腎障害が来るようです。自己免疫性のglomerular diseseと尿細管間質性腎炎が有名です。
腎結石の既往もありますので、腎後性腎障害の可能性も捨て切れません。

かば:ふんふん。

かわうそ:実は症状も悪化していました。呼吸困難が進行し、皮疹が出現しています。写真がのっています。赤い丘疹が体幹、大腿、上腕などに出現しています。
で、この皮疹が診断の決め手になるようで、全身性の血管炎をこの時点で考えないといけないのです。

かば:とすると、ANCAを測定するってことですか?

かわうそ:シェーグレン症候群にそういうANCA関連血管炎が合併するというのは考えにくいんですって。

かば:あ、そうか。シェーグレン症候群に発症する血管炎を考えるんですね。

かわうそ:そうなんです。知らなかったのですが、シェーグレン症候群に、最も多い合併症はleukocytoclastic angiitisだそうです。ただ、これは下肢にできやすいという特徴があるので、ちょっと考えにくいとのことです。
あとは、クリオグロブリン血症やHenoch-Schonlein紫斑病とかを挙げるべきです。実は、サイアザイドもこのような血管炎を引き起こすことがあるということでちょっとややこしいですが。

かば:なるほど。

かわうそ:血液検査の結果をみると、ヘマトクリットが23%で相当下がっています。で、MCVが86なので正球性貧血です。
あとは、やっぱり腎機能障害があります。肝臓は特に問題ありませんが、アルブミンとか総蛋白が減っていて、だいぶ疲弊していることがうかがわれます。
尿検査では、潜血と尿蛋白があって、腎機能障害が示唆されます。
あとは、超音波検査をやっていますね。水腎症はないし、腎萎縮が認められています。
つまり、やっぱり腎後性腎不全ではないし、薬剤性の急性の腎障害でもないですね。慢性の経過で腎障害があって、そのせいで高血圧になったのかな、と考察されています。

というわけで、ここまで考えると、シェーグレン症候群に関連したクリオグロブリン血症、その関連の腎疾患と考えます。

その2へつづく


2015年8月20日

MGHケースカンファ(22-2015) その2

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1からつづき



その2

かわうそ:ここから鑑別診断に入ります。ここまでの経過で5週間です。胸痛、呼吸困難、筋肉痛、倦怠感、発熱という「とらえどころのない症状の集まり」と言っていて、診断に苦労したんでしょうね。「とらえどころのない症状の集まり」というのも、診断を絞る上でのキーワードになるようにも思いますけどね。
とりあえず、一番ハデで生命に脅威を与えている症状であるところの、心嚢水貯留に着目して、病態にせまろうではないか、ということで話が進んでいきます。でも、とかいっているわりにはこれまでなんやかんや理由をつけて頑なに心嚢穿刺をしてこなかったじゃないか、って思いません?早く胸水穿刺をして症状をとってあげればいいのに…。
鑑別診断としては、まずKussmaul徴候に着目しています。このあたりはマニアックなんであんまり良くわかりませんでしたが、Kussmaul徴候は心タンポナーデでは出現しないが、収縮性心膜炎では出現するそうです。つまり、Effusive-constrictive pericarditisという診断になるようです。ただし、このEffusive-constrictive pericarditisという診断は、いろんな疾患で出てくるので、「does not lead us closer to a diagnosis」なんですって。なんか不安になってきます。
でも、全身状態の管理としては、心嚢水穿刺は絶対必須ですよね。死にかけて苦しんでいるんですから。ここでようやくとうとう自分でもそれを認めてくれました。ところがですよ、この主治医団(?)は、この段階での「心嚢水の検査では診断に結びつかないと信じている」とか言ってて、やっぱりやらない理由を言い続けているんです。

かば:反応性の心嚢水がたまっているんだろう、って考えているんですね。
この時点では誰がプレゼンしているんですか?最初のヒトとは違いません?

かわうそ:たしかに。変わっているかもしれません。まあ所属とか何も書いていませんので、私の想像で言わせてもらえば、これは最初研修医がプレゼンしていて、会場の誰かが「なんで心嚢水つかないの?」とか聞いてきて、収集つかなくなるほど炎上したので、上級医が出てきたっていう可能性を考えています。そう想像して笑ってしまったということです。
でも、このヒトなかなかかっこいいことを言っているんですよ。検査結果で診断が絞り込めるまで鑑別診断を上げていく、というのは今後心がけたいですね。かっこいいなと思いながらも、何いってんのコイツ?という思いが拭えませんが。
というところで、次のページには答えが出ているので、ここでみなさんに鑑別をあげていただきたいんです。どうですか?

チンパンジー:最初、筋肉痛とか息切れとかがありますね。呼吸器科回ってて見てた患者さんに似ているので、筋炎とか膠原病関連の間質性肺炎などを考えました。次に吸気時の胸痛とか心嚢水あると、心膜炎からSLEなんかを考えますが、ちょっと合わないところもありますね。血球減少ないですし。
しかも、僕もラボデータ見た時に、ぱっと目につく高い数値を見てしまいました。フェリチン著増ですよね。あと関節痛があることと、サーモンピンク疹があるということから、診断はついてしまいますね。

かば・きりん:(深く頷く)

かわうそ:みなさん、さすがですね。もう診断ついてるんですね。私はここまで読んできてまだピンときていませんでしたが…。
で、答えは?

チンパンジー:成人スティル病です。

かわうそ:大正解です。さすがとしかいいようがありませんね。
もう言うことないとお思いでしょうが、ここからが実はこの回で一番重要なところです。

かば:あ、いちおう不明熱の鑑別はしっかりやっているんですね。

かわうそ:そうなんです。感染や膠原病、悪性腫瘍についてはここで鑑別して否定しています。あと、急性リウマチ熱についても考えていますが、これは弁膜症が有名ですので、心臓の症状が合わないようです。
で、Adult onset Still’s diseaseについてなんですが、問題はここなんですよ。
ここには、「チャレンジングな症例にあたったとき、我々はしばしばインターネットで検索して、診断の仮説をたてる」、そう豪語しているんですよ!(`Д´)

かば・きりん・チンパンジー:ははははは。

かわうそ:そりゃそーだけど、それはいっちゃあダメでしょって話ですよ。
このセリフを聞いてから、これまでの話を振り返ってみると、私のこれまでの失礼な態度もご理解いただけるのではないでしょうか。

きりん:ふふっ。しかも、どんな単語で検索したのかも正直に言ってますね。言わないでいいのに…。

かわうそ:偉いことに検索結果の最初の10個がadult onset Still's diseaseだったようです。で、安心したと。

かば:インターネットはすごいですね。でも、これ活字になっているんですね。

かわうそ:活字にしちゃだめなところですね。この会をブログに上げるところだって、けっこう修正とかしてますから。

きりん:これ言ったの誰だ?って前を振り返って見ちゃいますね。本名出てますし。

かわうそ:同級生とかどう思うんでしょうか?「あれは言っちゃダメでしょ?自分もやってるけど。」とか言われてますよ。
とにかく、ここを電車の中で読んでいて、つい大笑いしてしまいました。今回私が一番言いたかったのはここです。これを伝えられて満足しました。
adult onset Still's diseaseが鑑別に上がって、これまでの症状とか検査所見とかを当てはめてみると、全てちゃんと合うということです。ここらへんで疾患のまとめが書いてあります。興味があれば読んでおいて下さい。
で、ようやく心嚢穿刺をしてくれて、でもあんまりよくならなかったんですね。まだリウマチ熱と考えてアスピリンとペニシリンで治療していたと。で、adult onset Still's diseaseと診断して、ステロイドを入れて、すみやかに改善したようです。今は元気に大学に戻って、バスケとかしているそうです。でも、IL1受容体アンタゴニストが始まっていますね。adult onset Still's diseaseの治療として最近行われているようです。

かば:ほんとに5週間1回もステロイドださなかったんでしょうか?NSAIDSも。気の毒に。
Dr. ハウスみたいな話ほんとにあるんだ。こわいこわい。

かわうそ:今となっては、Dr. ハウスの知恵に頼らなくても、インターネットに答えがあるんですよ。

かば:検索しているとかいうところ、だれも何もつっこまなかったんでしょうかね?

かわうそ:たぶん言われているんでしょうけど、省略されているとか?あと、失笑されてる空気があったとしても、それは活字にしにくいですね。

きりん:ジョークみたいな感じで言ってたんじゃないですか?

かわうそ:そう信じたいし、それなら良いんですが、内輪にとどめておいて欲しいですね。活字にしちゃってますので、これが著者の悪意なのかプレゼンターがマジテンションだったのかわかりませんね。
でも、時代の移り変わりを感じます。私が学生の時読んでいた時は、MGHケースカンファレンスでこんなに盛り上がれませんでしたから。

かば:成人スティル病ってやっぱり難しいんですね。不明熱の鑑別で絶対上がってきますよね。

かわうそ:フェリチン取ってますので、最初から疑っていたのかもしれません。話を面白くするために、順番を前後してたとか。本来は私なんか足元にも及ばないような優秀な先生方なのに、こんなにネタにしてしまい申し訳ないです。
前回とりあげた症例(Case 9-2015)もけっこう面白い回でした。患者の家族やカンファレンスの出資者(?)が出てきたりとか。まさか2回続けてこんなお宝に出会えるとは、うれしいですね。
楽しかったんですが、でもさすがにMGHは疲れます。しばらく間隔開くと思います。


かわうそ振り返りコメント:
録音を聞き返してみて、自分の話の進め方が拙すぎて、非常にもったいなかったなと思いました。もうちょっとみんなの意見を聞きながら進められると、もっと面白くなるのに、と忸怩した思いがあります。喋り過ぎでした。
ただ、この回はいろいろツッコミたいところが多すぎて、思い入れが強すぎたというわけなので許してください。


2015年8月17日

MGHケースカンファ(22-2015) その1

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1

かわうそ:最近また自分の中でブームが復活してきたMGHのケースカンファレンスです。夏休みで1週間暇でしたので、調子に乗って読んできました。
生来健康な20歳の男性が、喉の痛み、発熱、倦怠感、全身の筋肉痛、心嚢水貯留で入院したという話です。最初は喉頭炎を疑われて抗生剤を出されています。えらいもので、ちゃんとペニシリンが出されていますね。
しかしさっぱりよくならず、その後も何度も受診されています。やっかいなことに、喉からβ溶血性連鎖球菌なんかが検出されたりもしているので、やっぱり感染症なのかな、とか言って、レボフロキサシンに変更して加療とかもされています。
でもやっぱり調子よくならない。今度は息切れもあるし、胸も痛いし、ということで受診されました。痛みはけっこう強くて(6/10)、呼吸で痛みが増強して、という性状です。WBCが23000、CRPが30、赤沈が96と亢進していました。ちなみに、赤沈が出てきましたので、ここで前回の赤沈0事件を思い出しました。

きりん:GIMカンファレンスのやつですね。

かわうそ:あれは何だったんでしょうかね?ちょっと考えたんですけど、あれは時間経過の問題なのかなって思ったんです。赤沈ってのはCRPよりもさらに臨床症状から遅れて亢進したりするはずなので、今回の症例のように赤沈がしっかりと亢進しているものでは比較的亜急性~慢性の経過をたどっていて、前回のように赤沈がしょぼければ、急性の経過であることを意味しているのかな、と思いました。

きりん:うーん。でも、0ですからねぇ。

かわうそ:そうか。さらになんらかの機序が重なってるんですかね。
さて、ここでようやく入院を許してもらえました。家の近くの病院ですけど。発症からは、3週間は経過していますね。CTとかは異常なし。この時点でもまだ感染症を疑ってるんですね。AZMとVCM、CTRXを使っています。痛みに対しては、モルヒネを使ったということです。

かば:CTは首みたいですね。あと経胸壁エコー。

かわうそ:あ、そうですね。すいません。でも、次のページですぐに他のところもCTとっています。こういう治療で痛みはよくなったけど、発熱や息切れは変わらない。で胸のCTを撮ったところ、右肺門縦隔リンパ節は腫脹していて、両側胸水があって、おそらくpassiveな無気肺があって、という所見はあるみたいですが、肺塞栓などはっきりとした所見はなかった、ということです。
で、免疫異常や免疫不全についてもこのへんで抗体を調べていて否定的ということです。
さらにお腹も痛くなってきたということで、2日後にCTを撮影されています。入院してからなら5日目です。お腹のCTでは異常なしなんですけど、胸水が増えているということと、心嚢水貯留が出てきているということが偶発的に発見されたということなんです。
でもねぇ、たぶんというかなんというか、このヒト結構前から胸が痛いとか呼吸が苦しいとか言ってますよね。ということは、経過からするとですよ、MGHの先生には失礼な話だということは重々承知してますが、この時点で初めて心嚢水が出てくるってのは、理屈にはあわないですよ。個人的に思ってるんですが、見逃しなんじゃないですか?(・∀・)

きりん:え?

かば:またまた。

かわうそ:私がそう考えてしまう理由というのも、読み進めていくとわかってもらえると思います。
心エコーしていて、胸水貯留と心嚢水の貯留があって、でも疣贅はなく、心機能も保たれています。次に肩の痛みのこととかも触れています。で、ここで突然、Rashが顔とか腕とかにでてきた、ということが書いてあります。写真も載っています。発熱の時だけ出てきて、1時間位で消えてしまうということです。

かば:このワード聞いたことありますね。

かわうそ:特徴的みたいですよね。
リウマチ熱関連の検査についてもここで出てきます。最初のどからストレプトコッカスが検出されていますので。ASOがぱっとしないとか。
とにかく、入院しているのにどんどん悪くなっていると。どんな治療しているのかいまいちわかりにくいんですけど。特に、どんどん心嚢水が増えてきている、呼吸性のTRが目立つ、と記載してあって、こっちまでドキドキしてきますよね。このヒトたち、なんかのんびりしてません?早く何とかしてやってって感じです。

かば:不明熱の検索をやってないんでしょうか?感染症ばっかり気にしているみたい。

かわうそ:すみません。言っていませんでしたが、いちおう抗体とかいろいろ調べているようです。

かば:このあたり、ドラマ「Dr. ハウス」を彷彿させますね。患者さんが死にかけるパターン。

かわうそ:安心して下さい…。生きてますよ!( ̄ー+ ̄)

かば・かわうそ:…。

かわうそ:…(このスルースキルの高さにシビれるわ~。ありがとうございます)。
さて、ここでようやくCCUに入室しますので、話が展開すると期待していいです。
生活歴が載っています。大学生で、危険な性行為や、外国旅行、動物との接触はないようです。喫煙はないが、マリファナを吸うことはある、飲酒は「drank five or six beers once per week」とありますので、週に1回5-6杯のビールですかね?量がいまいちわかりませんが、アメリカ人ならたいしたことなさそうです。みなさんの方が多いくらいですよね?兄弟に違法ドラッグ使用による感染症で亡くなった人がいるとこも面白いですね。アメリカっぽくてワクワクしますが、関係はなさそうです。
身体所見についても、これまでのまとめっぽいことが書かれています。
次のページにラボデータの表があります。WBCは当然高いし、慢性の経過で貧血になってて、反応性に血小板が多い。20歳でAlbが2.6っていうのは、けっこうおおごとだなと思います。心臓のことなので、CK、トロポニンT、BNPなんかも載っています。で、CRPは高い、と。
で、ここから先は見てしまうと答えがわかってしまうので、できれば見ないふりをしていただきたいんですが。

きりん:見てしまいました…。

かわうそ:見てしまいましたか…。まあ、しょうがないですよね。書いてありますもんね。(´・ω・`)
レントゲン写真では、ご覧のとおり心嚢水貯留と胸水貯留ですね。心電図はあまり詳しくないので説明しにくいですが、心嚢水貯留に特徴的なもののようです。心エコーは先ほど触れたのでもうご存知ですよね。右心房が圧迫されているようです。
ここから鑑別診断に入ります。

その2へつづく