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2015年11月9日

2万5千年の荒野? その4

放射線被曝以外にも問題があります。

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima.
Lancet. 2015 Aug 1;386(9992):479-88.
Hasegawa A, Tanigawa K, Ohtsuru A, Yabe H, Maeda M, Shigemura J, Ohira T, Tominaga T, Akashi M, Hirohashi N, Ishikawa T, Kamiya K, Shibuya K, Yamashita S, Chhem RK.

2015年10月21日

その4

その3からつづき

さて、長期の影響については、食事からのセシウムに多くのスペースが割かれています。汚染されたものを流通させないように涙ぐましい努力をされたようですね。
ただ、やっぱりプルトニウムとかウランについてはノーコメントを貫いています…。影響ないってことで検討にも値しないんでしょうか?なんか納得しかねますけど。
さて、ここから先は放射線被曝とは関係ないものの、人々に影響を与えていることについてのお話です。
まずは避難生活についてです。震災以来、170000人が避難生活を送っています。避難3ヵ月以内では、死亡率が3倍、その後も1.5倍という数字が載っています。入院患者や施設入所者はもっと影響が大きいです。
PTSDや鬱、不安障害も問題になっています。筆者の一人が、東京電力の人の精神状態を診る仕事をしているようです。COIも開示されています。で、原発事故後の対応についてかなり批判されていることで、精神的に参ってる従業員がけっこういるとかわざわざ書いてあります。

家族や地域社会の人間関係にも、影響があります。子どもへの被爆を心配して引っ越ししたい妻と、仕事の都合で反対する夫の確執とか、それまで仲良かった隣人でも、保障額の違いでいがみ合ったりする事例が報告されているとのことです。恐ろしいですね。
最後にStigmaについてです。例えば、福島の若い女性が、将来の妊娠や遺伝の影響について心配したりとか、そのため、震災時に福島に住んでいたことを隠さざるをえないような状況もありえるということです。
こういうのは、広島や長崎の被爆者などでも報告されているようです。「夕凪の街 桜の国」というマンガにそういう描写があったと思います。
自分のライフヒストリーを隠さざるを得ないということは、これに伴う悩みなんかも人に話せないということなので、やっぱり傷が深いですよね。悲劇的なことだと思います。

あと、美味しんぼ事件とかいろいろ言いたいこともあるんですけどね。やっぱり私は美味しんぼがけっこう好きなので。とはいえ、今回は長いことお付き合いいただきましたので、この辺で。

ありがとうございました。

2015年11月7日

2万5千年の荒野? その3

急性期の被爆問題についてです。

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima.
Lancet. 2015 Aug 1;386(9992):479-88.
Hasegawa A, Tanigawa K, Ohtsuru A, Yabe H, Maeda M, Shigemura J, Ohira T, Tominaga T, Akashi M, Hirohashi N, Ishikawa T, Kamiya K, Shibuya K, Yamashita S, Chhem RK.

2015年10月21日

その3

その2からつづく

この次の項では、原子炉爆発時の日本の対応についてあります。日本政府が、2011/3/11から3/13にかけて、原発から半径3km、10km、20kmと段階的に避難させています。ただし、原子炉が水素爆発したのは、3/12と3/14ですけどね…。

 次が従業員の被爆についてです。対応が良かったので、放射線障害による被爆者は0と誇らしげに書いてあります。Table2が、東京電力の技術者と下請けの被曝量の違いです。東京電力の技術者の方が、数は少ないけど被曝量が多い人の割合が大きく、危険な仕事に従事しているということを示したいようです。あと、急性の障害がでるほどの大量の放射線被曝はなかったことも強調されています。

地域住民の被曝については、急性期とそれ以降に分けられています。
急性期については、まずは推定の値が書いてあります。2011年の3月から6月までのexternal effective dosesはほとんどで2mSv以下、平均で0.8mSvとのことです。事故直後に最大25mSvという推測があります。ちなみに、放射線ヨードが体内に入る経路としては、食品の流通制限がかなり厳しかったので、経口摂取はほとんどなく、吸入がメインとのことです。それでも、生後1ヶ月の乳幼児で最大80mSvの甲状腺への影響があるかもと予測されています。
限られた症例で直接測定が行われていまして、それも書いてあります。30kmゾーンの62人の避難者で甲状腺のモニターをしたところ、大人では最大33mSv、平均3.6mSvで、子どもでは最大23mSv、平均4.2mSvでした。ホールボディーカウンターでも測定しており、こちらは20-30kmの屋内にいた人62人です。甲状腺への実効線量は最大18.5mSv、平均で0.67mSvです。
予測と実際に測定されたものを比較して、それほど乖離していないという理解でいいのでしょうか。
あと、これはさすがに原発から遠い人たちが対象ですね。そして、これが重要なのですが、この被曝量が多いのか少ないのか、少なくともこの文献を読むだけではわからないというのが問題なんです。準備不足ですみません。

そして、ここはちょっとおもしろいなと思うんですけど、WHOから、特に福島の汚染の強い地域では女の子で甲状腺癌のリスクがわずかだが上がるという警告がだされているんですが、それに対してかなりキツくこの筆者が反論してるんですよ。
…、まあ聞いて下さい。まず、この予測は、放射能汚染を過大評価している報告に基づいているのでちょっと差し引く必要があるというわけです。そうなのかもしれません。次に、たしかに放射線から防御するためにはヨード剤を飲むのが唯一の方法であると。そこは認めています。実際、飲むかどうか混乱と遅れが生じていたと。だがしかし、予測上の甲状腺被曝はヨード内服の必要のないくらいだったし、日本人はもともと海藻の摂取量が多いので、やっぱり必要はない。だから心配する必要はないと。
にもかかわらず、無知のため心配する人が多いので、批判があるのは十分承知していますが、甲状腺エコーでスクリーニングしています。
 …、たしかに曲解してる部分があるのかもしれませんが、何かそういうニュアンスを感じたんですよね。
ただ、福島医大の関係者がヨード剤内服が必要ないと言うのは、違うと思います。というのもですね、ご存知でしょうか?彼らは自分たちと家族にはヨード剤を配っていたという話を。
これは、私が実際に学会で福島医大の先生に質問して聞いたことですので事実だと思います。あんまり話題にはなっていませんけど。たしか、福島医大は、ヨード内服についての判断や助言をするような役割ではないということらしいです。だから、自分たちの責任で、自分たち用に備蓄していたヨード剤を関係者に配布したということのようです。まあ、それはそれでなるほどと納得できますけど。ただ、不必要な人に配布してもし副作用が出た場合のことを考えると一般の人へのヨード配布は難しいのではないか、という話もありました。でも、NEJMにのってた総説では、ポーランドでチェルノブイリの時に1千万人にヨード投与を行って特に副作用はなかったと報告されているようなんですけどね。私は、うかつにもこういう情報を知らずに質問しているので、ふみこんだ切り返しとかできずにいました。けど、今なら聞いていますよね、「でもNEJMにはヨード内服による副作用はなかったといわれていますど。いったい何の副作用を危惧して内服させなかったんですか?」とか。
私としては、こんなところで日本独自のエビデンスを作り出そうとこだわりをみせるようなことはしてほしくないんですよね。
もちろん、福島の住民と原発事故と全く関係ない遠くの地域の住民での、甲状腺スクリーニングの比較は必要でしょうけど、内服のありなしで甲状腺癌に変わりがあるのかってことを、せっかく比較対照があるんだから、是非報告が聞きたいです。でも、これもその学会で聞いたんですけど、どうやら研究に制限がかけられているといううわさもあるんですよね…。うわさであって欲しいですけど。

その4へつづく


2015年11月5日

2万5千年の荒野? その2

福島原発事故と他の大きな原発事故の比較についてまとめています。

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima.
Lancet. 2015 Aug 1;386(9992):479-88.
Hasegawa A, Tanigawa K, Ohtsuru A, Yabe H, Maeda M, Shigemura J, Ohira T, Tominaga T, Akashi M, Hirohashi N, Ishikawa T, Kamiya K, Shibuya K, Yamashita S, Chhem RK.

2015年10月21日

その2

その1からつづく

次に過去70年の間に起きた大きな事故のことが表にまとめられています。440以上の事故が起きていますが、そのうち大事故は5つです。旧ソ連のKyshtym、イギリスのウィンズケール、アメリカのスリーマイル島、また旧ソ連のチェルノブイリ、そして福島です。
表を見てみると、さすがにチェルノブイリは圧倒的に大きな事故です。放射性物質の量だとか、汚染区域だとか。しかし、避難された方の人数では、福島がチェルノブイリを逆転しています。人口密度の問題なんでしょう。後、気になる点としては、Release of radioactivityの項目で、他の4つは概算が出ているのに対して、福島だけかなり幅があります。131Iが100000ー500000TBqで137Csが6000ー20000TBqです。これは把握できていないのか、または現在進行形で排出されているのか、それとも他に理由があるんでしょうか。

ただ、原発事故、とくに福島のような原子炉が水素爆発を起こして破壊された場合、問題になるのはウランとかプルトニウムなんじゃないかと思うんです。半減期が長いので。それについては全く触れられていないのは、なんとしても不可解ですね。
というのもですね、私が今回準備するにあたって最も参考にした資料は、実はゴルゴ13なんです。ご存知でしょうか、ゴルゴ13が原発の水素爆発をギリギリで防ぐ神業的な狙撃をする傑作「2万5千年の荒野」を。((o(´∀`)o))
…あ、ご存じない?すいませんでした。(´・ω・`)
でも、当直室で見かけたらぜひ読んでみてください。原発について勉強になりますし、ゴルゴ13と一緒に最悪の事態を防ごうと奮闘する技師の姿に胸が打たれますし、何よりその技師に対するゴルゴ13が見せる敬意みたいなものも感じられて、すごくいいんです。ちなみに、私が一番好きな話は、「AT PIN-HOLE」ですが、これもご存じないんでしょうね…。昔のゴルゴ13では、ほんのたまにですが友情めいたものを見せる話があって、私はそれが好きなんです。

また脱線した話が長くなっていますが、この話の中で、原子炉が吹き飛んだ場合の影響について対策室で語っている場面があります。引用します。

「最悪の場合、どれほどの被爆が出るのだ?」
「はあ…。爆発した場合、風下の地点について申し上げますと…、炉から2マイル以内は全員1日目に脳をやられて全員死亡…。20マイル離れた地点にとどまった人は…重症の放射線障害が出ます。急性白血病で髪は抜け落ち、50%が1週間以内に死亡。50マイル離れていても1週間で発病するものもいます。その後も、白血病、甲状腺ガン、遺伝子への影響で子々孫々までも長期の影響が現れます…。誰も住めないでしょう…。」
「わずか1%の放射線で大げさな…。ヒロシマも百年は草木も生えないと言われたが、あのとおりだ!」
「ケタが違います!原発はヒロシマの原爆の200倍から400倍あるんです!それに死の灰で、地表や海、川、大気…、あらゆるモノが汚染されます!数百マイル離れでも、農作物は作れなくなります。…死の世界です…。」
「ロスが死の世界になる!…それはどのくらいの期間かね!?百年、いや千年?」
「いえ…。原子炉のウラン235は分裂してプルトニウム239という毒性の強い同位体となります…。その半減期は2万5千年…」
「2万5千年の荒野か…」

さて、この後、各事故について少しまとめてあります。福島第一原発の項目を読んでみましょう。ゴルゴ13が狙撃してくれなかったので、福島第一原子力発電所では冷却水の循環が改善せず、メルトダウンと原子炉の水素爆発を起こしました。まさに先ほどの会話で恐れられていたのと同じ状況ですよね。
 でも実際は、福島はそんな荒野になっていません。むしろ、うわさでは「風の谷のナウシカ」に出てくる腐海みたいになっていると。
…すいません、腐海は言い過ぎでしたね。
マンガに書かれていることを信用するなんてバカみたい、とお思いでしょう。ただ、ゴルゴ13についていえば少し別格だと思います。作家の佐藤優氏も、外交官の時に取り寄せて読んでいたと言ってました。あと、谷垣禎一衆議院議員も「BEST 13 of ゴルゴ13」にコメント載せているくらいですよ。社会情勢を知るための入門として、ゴルゴ13が有用というのは、インテリジェンスの高い方にとってもある程度コンセンサスがあると思います。
なので(?)、少なくとも福島の事故が起きる前までは、一般的には原子炉が爆発した場合にこういう状態になりうるという認識があったはずです。
もちろん現時点ではこの予想は外れていることになります。このあたり、誰かに検証してほしいんですけど。ただ、なんといっても2万5千年という悠久の時に渡る予想です。ここ4-5年で荒野にならなかったことで決めつけるってことはできないと、私は思うんですけどね。

その3へつづく


2015年11月3日

2万5千年の荒野? その1

Lancetの福島原発事故についての総説のまとめです。

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima.
Lancet. 2015 Aug 1;386(9992):479-88.
Hasegawa A, Tanigawa K, Ohtsuru A, Yabe H, Maeda M, Shigemura J, Ohira T, Tominaga T, Akashi M, Hirohashi N, Ishikawa T, Kamiya K, Shibuya K, Yamashita S, Chhem RK.

2015年10月21日

その1

今回は録音機器(旧式のipod touch)の不調により、勉強会の様子が録音されていないため、かわうその準備原稿(というほどたいしたものはありませんが)から再構成します。というわけで、合いの手はありません。ご了承下さい。かば、きりん両先生の発言は想像して補っていただければと思います。
今回は非常に好き勝手語っていますが、文責は、すべて私、かわうそにあるということです。

かわうそ:今回は、Lancetの福島原発特集からです。つい最近、Epidemiologyに福島で甲状腺癌が増加しているという論文が出てましたね。恐ろしいことに一部を除く世間では全くニュースにはなっていませんが。とにかく、それをきっかけにして以前コピーしておいたこの文献を読みなおしましたので報告したいと思います。
"From Hirosima and Nagasasi to Fukushima"という3回シリーズのうち、2を取り上げます。筆者は主に福島大学の先生方です。

まず、現在全世界で437の原発が稼働しており、さらに発展途上国で建設が進んでいます。これは増加するエネルギー需要があるためある程度仕方がないこと、と書いてありますが…。
これについてちょっと言わせて下さい。もちろん私はこの分野の専門家ではありませんので、かなり的はずれな意見になっているのかもしれませんけど、私は化石燃料だけでは足りないから原子力エネルギーを使わないといけないとか、地球温暖化を防ぐためにCO2を削減しないといけないから原発の方がいいとかいう意見には懐疑的なんです。何処か変です。つじつまがあわない。
まず、こういうのって、施設の建設費とか維持費とか、燃料がいくらで購入できるとか、発電の時にどれだけCO2が排出されるとかだけの問題ではないはずですよね。結局、原子力エネルギーだといっても、燃料の発掘や運搬、精製などのどこかの段階で化石燃料に依存しているはずですよ。そういうものをトータルで見た場合、本当に原子力エネルギーがいいのかなって、私は疑問に思います。だいたい、放射性廃棄物をどうするのかという問題も全く解決されていないので、そもそもそのコストを算出することってできないんじゃないかと思うんですけど。
…化石燃料が枯渇するから?そうかもしれないですけど、放射性物質の方が少なくないですか?
…いやいや、やめて下さいよ。高速増殖炉とか夢物語ですよ。
かといって、再生可能エネルギーがあるじゃないか、というわけでもありません。例えば太陽電池を作るときに必要なエネルギーが、その後きちんと回収されるんでしょうか?水力発電のダム建設で壊された環境とか、水没した村に伝わる不思議な慣習とかはコストでは表せなくないですか?まあ、これも門外漢なのでわかりませんが。
…そうですね。たしかに、どこまでを含めてトータルとして考えるのか?という定義の問題なのかもしれません。

脱線しましたが、とにかく原発は必要なので使われているわけで、我々医療従事者としては、nuclear accidentが起きた時の健康リスクについて、広い範囲で理解しておく必要があります、と書いてあります。

その2へつづく


2015年10月10日

雲の中の急変 その3

In-Flight Medical Emergencies during Commercial Travel.
N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):939-45.
Nable JV, Tupe CL, Gehle BD, Brady WJ.

2015年9月16日

その3

その2から続き

かわうそ:呼吸困難もあります。1割位と報告されているようです。COPDよりも肺高血圧症の方がシビアな低酸素を起こしやすいので要注意です。酸素投与、高度を下げる、SABA吸入くらいしかやりようがありません。
気胸も報告されていますが、トロッカーキットが入っているわけではないので、できるものでやってくださいとあります。留置針とシリンジで脱気するってことでしょうか。よく英文の意味がわからないんですけど、Non medical equipmentを使えと書いてあるんです。

かば:酸素チューブとか尿道カテーテルにハンガーの針金をスタイレットのように入れて使うという話を聞いたことあります。

かわうそ:マンガとかではボールペンも使いますよね。芯が内筒役ですよね。

きりん:ひゃー。

かわうそ:ただですよ、聴診と打診で気胸を診断できます?レントゲンもエコーもないですから、機内のしょぼい聴診器でできますかね?

かば:聞こえないらしいですよ。
この場合、気胸なのか肺梗塞なのかを迷うと思いますけど、挿管と脱気を両方ともするのが正解という話を聞いたことあります。

きりん:ええー。それって挿管して強制換気して、緊張性気胸を作った上で脱気するってことですよね…。しかも手製のトロッカーで…。

かば:さらに、ウォーターシールももペットボトルで作るらしいですよ。

きりん:私なら、もし居合わせても、「高度を下げて下さい…」としか言えないです。

かわうそ:あ、あとけっこう大事なことが一番初めの方に書いてありました。まず、通訳を探せと。

きりん:ふふっ。それは大切ですね。

かわうそ:たぶんCAさんがやってくれるんでしょうけど。ただ、プライバシーとか守秘義務とかのことがあるので注意だそうです。
次に、伝染病についてです。とりあえず疑ったら隔離です。機内のどこにそんなスペースがあるのでしょうか?かなり心細いんですけど。まあ、せめて接触感染、飛沫感染で広がらないように注意して下さい。地上のスタッフと協議して、対応を相談しましょう。場合によっては検疫が必要になるかもしれません。
最後に、Psychiatric emergencyについてです。頻度は5%以下です。空港も機内でもありとあらゆることが精神的な負荷をかけてくるので、例えば怒り出す乗客なんかがけっこういるようです。鎮静薬はないので、とりあえず自分の身を守ることを第一に考えてくださいとのことです。
結論としては、けっこうな頻度でよばれる可能性があるということ、でも、できることは非常に限られているということ、その割にはしっかりと責任問題が発生するということ、でしょうか。

かば:おそろしいですね。日本だと、こういう時に医療者を守る法律がないので、不幸な結果になった場合に訴えられるリスクはやはりありますよね。どこの国籍の飛行機かっていうのが重要かもしれません。

かわうそ:医療者側に過失がない、よくがんばったと言われても、裁判に巻き込まれるだけでストレスですからね。手を挙げないのも仕方ないですね。
ただ、自分はこれを読んで、結局やれることがこれくらいしかないのなら、けっこう気楽に手を挙げられるかも、と思っちゃいましたけどね。だれがやってもあんまりかわらなくないですか?

かば:内科医なので、外傷がなかなか対応できないのがネックですけど。
エピネフリン2種類ありますけど(千倍希釈と万倍希釈)、これどう違うんでしたっけ?
あと、抗ヒスタミン剤がけっこう手厚いので、アレルギーも多いのかもしれないですね。
でも、生食がなくなったらどうしましょう?何パックあるのか気になりますね。

かわうそ:いろいろ考えるとますます動けなくなりますね…。
とにかくお気をつけて行ってきて下さい。


2015年10月7日

雲の中の急変 その2

In-Flight Medical Emergencies during Commercial Travel.
N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):939-45.
Nable JV, Tupe CL, Gehle BD, Brady WJ.

2015年9月16日

その2

その1から続き

かわうそ:ここからは、機内の急変にはどんな疾患がありうるのか、それにどう対応すべきかについて各論です。
まずは心停止です。ありそうですけど、0.3%くらいと言われていますので、あんまり巡りあうことはなさそうです。9割位の死亡率とのことでシビアですね。やれることも限られています。救急のABCとAEDくらいです。ふだんの蘇生処置と同じように、20~30分で反応がなければ死亡宣告を考えて下さい。ただ、よく考えてみたら先ほどの救急セットに心電図とかモニターとかが入っていないのでけっこう大変だなって思いますね。
次は急性冠症候群、ACSです。8%くらいらしいです。症状としては、失神、Presyncopyだとか呼吸困難だとかたまには心停止だとかで発見されます。手に入る情報は非常に少ないので、病歴、既往、主訴、身体所見で診断しなければなりません。

かば:無理です。

かわうそ:まあまあ。喰い気味のツッコミありがとうございます。診断も無理ですが、治療も無理っぽいんですよ。まずはアスピリンです。ただ、アレルギーだとか出血だとかがもしあったらと思うと…。院内でするほど安易には出せませんね。あと、ニトロがあります。ただ、もし右室梗塞の場合だと、血圧下がってショックになるのでニトロ禁忌とあります…。

かば:ありがたいことに、「機内では診断できない」とはっきり書いてありますので、これはさすがに免責されますよね?

かわうそ:そうだと信じていますけど…。あとできることといえば、酸素投与です。虚血した組織に少しでも酸素をあげましょう。ただ、これも機内にある量が限られているので、シビアに流量を調節して下さい。一番いいのは飛行高度を下げることのようです。機長に頼んでみましょう。あとは、目的地変更について機長と相談です。
次は、Stroke、脳卒中です。これも大変ですよね。症状が様々ですし、神経学的所見がとれればいいですが、機内でそういう場所があるかどうか。そういえば、ハンマーが入ってないです。ライトはあるかもしれませんが。
治療をどうするかも大問題です。まずは酸素投与と飛行高度を下げることです。組織障害を抑えるためにはこれくらいしかありません。薬としては、先ほどのセットを見なおしてみると…。しめしめアスピリンがありますよ。これを使ってみちゃいましょう、とよろこんで飛びつくなと書いてあります。禁忌です。よく考えたら当然ですよね。梗塞なのか出血なのかわかりませんから。
私はこの情報けっこう身にしみました。この限られた医療資源の中で、何かできることは、と想像した時に、自分ならけっこうすぐに飛びついていましたので。
あと、低血糖は鑑別にあがります。ただし、ここでも問題が…。何とキットの中に血糖測定器が入っていないんですよ。_| ̄|○

かば:低血糖があろうとなかろうと、ブドウ糖をのませてあげてもいいんじゃないですか?

かわうそ:そのとおりですけど、ここでは別の提案がされています。乗客にきっと糖尿病患者がいますので、それを探しだして使わせてもらおうというわけです。CAさんに聞いてもらいましょう。「お客様の中で糖尿病の方はいらっしゃいませんか?」って。

かば:ひどい(笑)

きりん:自分なら父親のを差し出します。測定器も針もブドウ糖も。

かば:はははっ。

かわうそ:それなら安心ですね。でも、針とかあるし機内に持ち込めるんでしょうか?
ここはすごく実践的でリアルな感じで、とてもいいですね。
次は、意識状態の変化です。5%くらいの発症率らしいです。けいれんとか低血糖とか、非常に多岐にわたる原因が考えられます。代謝性、感染性、脳血管疾患、毒、酔っぱらい、低酸素、外傷などなど、なかなか原因診断に至りませんので対症療法にならざるを得ないということになります。相変わらずできることは限られていまして、酸素投与と血糖測定ぐらいです。
失神は非常に多いです。3-4割みたいです。飛行機の中は乾燥して気圧が低いので脱水状態になりやすいので。まずは脱水として、寝かせて足上げて水分を摂らせるというのが、まずするべき、というか唯一の対応と書いてます。

かば・きりん:はははっ

かわうそ:ここまで読んで思ったんですが、これって必ずしも医者が行かないといけない対応なのかどうかって思いますよね。これくらいなら訓練を受けたCAさんがしても十分対応できそうだなってちょっと思ったりします。
外傷も多いです。これもやれること限られています。冷やして、鎮痛薬をあげて、負荷をかけないようにして挙上しておく、ということです。添え木や包帯はあるはずです。ただし、責任問題を考えると、これは疾患だろうが外傷だろうが同じなんですが、頻繁にアセスメントして、悪化しないかどうかをチェックしろ、ということです。ここでミスると法的な責任問題に発展しかねません。つまり、一度診てしまうと、その後何時間も拘束されるということです。短時間のフライトならいいですが、12時間のフライトで最初の方に呼ばれてしまうと…。

きりん:よし、お酒飲もう!

かわうそ:まあ今回のように学会へ行く飛行機なら、他に医療関係者が乗り合わせているんでしょうから、協力しあってもいいかもしれませんね。
あと、家族とか友達とかと一緒の時の場合、「お前なんで行かないの?」みたいなプレッシャーがあったり、かっこいいとこ見せたいな、とかいう邪念がからんだりして、ちょっと複雑な様相を呈しそうですね。

その3へ続く


2015年10月5日

雲の中の急変 その1

In-Flight Medical Emergencies during Commercial Travel.
N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):939-45.
Nable JV, Tupe CL, Gehle BD, Brady WJ.


2015年9月16日



その1



かわうそ:お二人の海外学会出張に合わせたかのように、ちょうどタイミングよく飛行機の中でのMedical Emergencyというのが載っていましたので紹介したいと思います。NEJMです。意外ですが、実はけっこうな数が発生しているようなんです。ある報告では604回のフライトにつき1回のMedical emergencyがあるようです。軽度なものも含めると実際はもっと多いかもしれません。また、入院する人が意外に多いんですが、その判断がなかなか難しいですよね。なんといっても緊急着陸させることになるわけなので。それと何より、責任問題や訴訟の恐れがややこしい状況を作り出していますよね。
さて、まず飛行機の中にあるFirst Aid Kit、救急箱を確認しましょう。包帯だとか添え木だとか、AEDが入っているはずです。Table 1にアメリカの航空会社では一般的にはこれくらいあるはずだというセットがまとめてあります。血圧計、聴診器、手袋、エアウェイ、バッグバルブマスク、CPRマスクとあります。でもCPRマスクってなんでしょうね?

かば:心肺蘇生でマウスツーマウスの人工呼吸する時に使うやつ?

かわうそ:そう思いましたけど、でも、それならバッグバルブマスクあればいらなくないですか?

かば:そうですね。よくわからないですね。

かわうそ:あとは、点滴セット、生食500ml、針、シリンジがあります。薬は、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬の注射と錠剤、アスピリン、アトロピン、SABA、ブドウ糖、エピネフリン、リドカイン、ニトロとなっています。ちょっと心もとないですね。
SPO2モニターあったらいいのに、とか思いましたが、飛行機の中で測るとあまりに低くてパニクる自信がありますからね。正常が低いんですよね、確か。

かば:だからのせてないんですか?

かわうそ:わからないです。
あと、けっこう心強いのは、地上に相談できる人が常駐しているみたいなんです。機内に乗り合わせたボランティアの医師でも当然利用できますので相談してみて下さい。あとCAさんはこういうことを想定した訓練を受けているようなので、頼りにしましょう。

かば:すごいね。

かわうそ:個人的には一番気になる責任問題なんですけど、やっぱり診察した以上は、ある程度責任を引き受けなければいけません。基本的には、状態が安定して経過観察が必要ないと判断するか、プロフェッショナルに引き継ぐまではきちんと見続けなければなりません。
アメリカでは法的には応召義務みたいなものはないようですが、倫理的な責任感から診察しているようです。ヨーロッパでは法的に診察する義務があるようなので、居合わせた医師は対応しないといけないみたいです。日本ではどうだか書いていないんですが、どうなんでしょう?応召義務っていうのがあるのは知っていますが…。

かば:どうなんですかね。あれは病院とか診療所で働いている時のことであって、飛行機や新幹線の中は関係ないと思っていたんですけど。

かわうそ:倫理的にはあるんでしょうけどね。
で、訴えられるリスクについては、これによるといちおう基準みたいなのがあるようです。1998年のAMMAによると、患者側が対応した医師があまりにひどかったということを立証できれば訴えることができる、とされているようです。あまりにひどいとはどういうことかというと、すごく怠慢だったとか、意図的に悪いことをしたとからしいです。けっこうハードルが高いように思います。でも、一つだけ気になる点があります(・∀・)

きりん:なんですか?

かわうそ:実は、酔っている医師が治療していたというのが立証されればやばいらしいんですよ。怠慢とされて訴えられることがあるみたいです。

かば:なんと!じゃ、酔っていたら行かないほうがいいんですね。

かわうそ:そうですね。ていうか、逆にお酒飲んおくと行かなくていいってことですね。

かば:行かない。飲む。

きりん:ふふっ。

かわうそ:行かないと決めているなら、お酒を飲んでおくというのも自分を守るためにはよい方法かもしれませんよ。
あと、診察したあとは所定の書類に記載して報告しないといけないようなので、これも少し面倒ですね。
このあとは個別の疾患に対してどういう対応すべきかが書いてあります。ただ、結局一番重要なのは、搬送のために目的地変更・緊急着陸をするかどうかの判断ということになります。で、これを判断するのはわれわれボランティアの医師ではなく、あくまで機長です。こちらは患者の容態について把握した上で正確に伝えて、あとは地上の医療スタッフと機長の判断に任せましょう。そうとわかればちょっと気が楽になりませんか?


その2へ続く


2015年7月29日

成人気管支拡張症の管理 その3

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

(その2からつづき)

その3

かわうそ:個人的に一番おもしろいと思ったのは、重症度スコアです(下図)。年齢、BMI、1秒量、増悪入院、増悪回数、呼吸困難、細菌コロナイゼーション、特に緑膿菌、画像異常、とあります。でも、ふつう気管支拡張症の患者さんを診療していて、よく訴えがあって困るのは咳とか痰とかの自覚症状ですよね。あるんだかないんだかよくわからないような。でも、それはそもそも項目に入ってすらいないんです。ということは、ほとんど無視しちゃっても構わないということなのかな、って思ったりします。



かば:咳のスコアと一緒にとって比べてみて、ほんとうに咳は重症度と関係がないということが言えたら面白いですね。もしくは、実は自覚症状を入れたほうが予後が悪いとか。

かわうそ:個人的には、こういう咳とか痰とか違和感とかの症状は、疾患の重症度というよりは性格と捉えたいですけどね。

かば:それが言えればいいですけど、やってみないとわからないとこです。これくらいなら簡単に研究できそうじゃないですか?前こういうことやってませんでした?

きりん:データを入れるとスコアが計算できるホームページがあって、密かに自分の患者さんでやってました。入院してきたら、Severity indexを入れて重症なことをカルテに入れて、死亡率いくらとか計算して一人嬉しがったり。でも、うちで実際に研究をやろうとすると、肺機能とか喀痰検査が出ていない…、ってなるんですよね。

かば:外来から肺機能検査の部屋までが遠いですからね。ちょっと躊躇しちゃっています。
やっぱり電子カルテのテンプレート機能をもっと活用しないといけないですね。テンプレートがあれば、そこに記入しないといけないような検査をオーダーするきっかけになりますし。

かわうそ:(こんなマイナーなインデックスをすでに知っていてさらに活用していたとは…。)
まあ、肺炎を繰り返すような方は、本当の気管支拡張症できちんと治療しないといけないと思うんです。でも、すごく多いのは、画像異常だけで自覚症状のない患者さんじゃないですか?でも画像異常が3葉にあったとしても、それだけではこのスコアは非常に点数が低いんです。

かば:それでもずっとフォローされて、しつこくクラリスが出ていたりしますよね。

きりん:それだけならまだいいです。私が引き継いだ患者さんは、ユナシンが14日ごとに出ていた人とかいました…。
あと、非結核性抗酸菌症の気管支拡張症と思って気管支鏡検査したら、実は緑膿菌だったという人がいました。よく聞いてみたら、ちょっと前に肺炎で他院に入院してたということもわかって。それだけで結構重症度高くなります。

かば:こういう点数配分って面白いですね。入院と増悪って足すんでしょうか?増悪って肺炎もはいるんでしょうか?

きりん:たしか、痰が増えたとかで外来で治療したというのが増悪と判断されるんだと思います。COPDの増悪と同じかと。

かわうそ:というわけで、役に立つかどうかわかりませんが、この治療ステップの表で自分の話は終わりです。でも、結局鎮咳去痰薬については触れられていないっていうのが、面白いですね。

かば:ほぼ日本だけの薬ですよね。あっちの人は嫌いなんだと思う。


2015年7月24日

成人気管支拡張症の管理 その2

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

(その1から続き)

その2

かわうそ:さて、次は治療についてです。治療としてエビデンスがしっかり確立しているといえるのは、まずは理学療法です。効果は限定されますが、安全でまあ有効ということです。ここで久しぶりにAcapella®っていう名前を見ました。これはどんなものでしたっけ?

かば:もともとは採痰用の器具です。震えさせて痰を出しやすくするらしいです。前働いていた病院でベンチャー企業の人がきて説明受けました。スタディとかあったんでしたっけ?学会とかでも見たことないんですが、ここに載っているってことはエビデンスとかあるんでしょうか?

かわうそ:ちょっと興味ありますね。研究ネタにいいかもですね。
次の段落は、inhaled hyperosmolar agents and mucolyticsについてです。気道クリアランスのため、高張食塩水とか去痰剤なんかを吸入するわけです。あと、ドライパウダーマンニトール、っていうのも海外では使われているみたいです。ドライパウダーって書いてあるので、パルミコートみたいに吸うんでしょうか?ただ、臨床試験では効果はいまいちみたいですね。さっきも言いましたが、やっぱりこういうトライアルって、数を集めるためにあんまり効果がでなさそうな人も入れちゃうような気がしません?

かば:MACの人とかの咳とか痰とかの訴えを診てる経験からすると、何かやってよくなったようにみえても症状が少し残ってるって言われ続けることが多いように思います。症状になかなか満足していただけないというか。

かわうそ:ある疾患になりやすい性格っていうのは、やっぱりあるんでしょうね。
次は経口の抗生剤と抗炎症剤についてです。マクロライドのトライアルが表になっています。大きな、って言っても100人くらいの試験です。けっこうがっつり飲んでます。AZM500mg週3回とか。耐性菌、心血管系副作用、消化管症状に注意ですね。ただ、マクロライドはやっぱり効果あるみたいです。

かば:エリスロマイシン400mgくらいならあんまり副作用でやめることないですよね。

きりん:ずっと飲んでる方多いですよね。

かば:ドライシロップであまいんで、糖尿とか心配になりません?

きりん:薬局によりますけど、処方箋に書いておけば錠剤に変えてくれるところもありますよ。錠剤は相当大きいですけど。基質減らしたり出来ないんでしょうかね。

かわうそ:それいいですね。エリスロシンDSは子供用なんでちょっと抵抗ありますね。
次はICSですね。ICSは一定の評価を得ているようです。肺炎が増えないか、という懸念はやっぱりありますが。最後に喘息治療みたいな感じで治療ステップの提案がありますが、そこでも中等症以上には推奨とされています。
最後は、吸入抗生剤です。流行りなんでしょうか。全身投与よりは副作用が少ないし、高濃度投与ができるという理論のもと、けっこうたくさん試験されています。アミノグリコシド以外にもアモキシシリンとかシプロキサンとかも使われようとしているんですね。残念ながらネガティブデータが多いみたいですが、やっぱり創薬にはお金が動くからなんでしょうか、かなり精力的に行われていることが、この段落の文章の多さから垣間見ることができました。すいません、このあたりは読み流しています。なにせすぐに臨床に役立つ内容ではないので。
かなりショックなのが、Eradication、つまり、根絶という項目です。緑膿菌が検出されてはだめ、というスタンスです。BTSのガイドラインで緑膿菌根絶のためのユースフルなアルゴリズムを提供している、とあって、ちょっと興味あります。といっても読んでないです、すいません。

かば:嚢胞性線維症があるからなのか、向こうの人は緑膿菌に対して鬼のように厳しいですよね。緑膿菌以外はなんとかなるので、ラスボス的な存在になってるというのもあるかもしれませんが、知り合いのブルガリア人の研究者の業績は、緑膿菌関連のが多かったです。

かわうそ:負け戦になりませんか?いたらしょうがないとおもっていたんですが、ちょっとショック受けました。反省して考えを改めます。
あとは、増悪・手術・合併症についてちょっと書いてあります。

その3に続く


2015年7月21日

成人気管支拡張症の管理 その1

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

2015年7月8日

その1

かわうそ:今回はちょっと役に立つ文献を読みたいなという期待を込めて選んでみました。

嚢胞性線維症以外の気管支拡張症の管理についての総説です。すぐに臨床に役立つものではなかったのですが、興味深いところはいくつかありました。

まず、アブストラクトのところに、気管支拡張症はいろいろな疾患が進行して最後にたどり着くものってことが書いてあります。つまり、感染、遺伝性、自己免疫、アレルギー、COPDなどが基礎にあるかなりヘテロジーニアスな疾患で、経過が様々ということです。これだけ雑多だと、なかなか研究するのも難しいんだろうな、って思いました。もともとはorphan disease、まれな疾患として無視されていたのですが、最近陽の目を浴びつつあるようですね。

治療の中心としては、airway mucus clearance、eradication and prevention airway bacterial colonisation、reducing airway inflamationとなっていて、肺機能だとかQOLを改善すること、となっています。このあたり、具体的にどんな治療がいいのか、というところを教えてくれると期待して読みすすめましたが…。

かば:もともと日本でしか認識されてなかったんですよね。マクロライド治療がいいんだとか。

かわうそ:あとでもマクロライド治療のRCTについて触れられているんですが、残念ながら日本からの報告ではないんですよね。ニュージーランド、オーストラリア、オランダでされています。

かば:日本ではじめられたのに、RCTは先をこされちゃった、と。

きりん:マクロライド研究会とかあるんですけどね。

かわうそ:そんなのあるんですか?知らなかったです。
頻度とかもあまりはっきりしたことはわからないようですが、アメリカでは52/100000人くらいと書いてあります。本物の気管支拡張症は、かなり予後が悪いものと認識されているようで、特に気道感染の頻度がけっこうえげつないです。年1.8-3回とか、2年で3割が増悪を経験するとか報告されています。COPDよりも断然多いですね。

かば:たしかに気管支拡張の方は、定期受診以外の受診が多い印象はありますよね。

かわうそ:予後も厳しく、半数が呼吸器疾患が原因で亡くなるらしいです。本物の気管支拡張はシビアですね。今のところ外来で診てるのは、CT画像で異常なだけで動きのない方ばっかりなので、ちょっと油断してました。一度病歴見直してみようと思います。
続いて病理についてつらつら述べられています。気管支拡張症で難しいところは、好中球炎症が原因であるというところみたいで、それを抑える薬がないのが、治療を難しくしているというわけみたいですね。

かば:好中球炎症ってところはCOPDに似てますね。

かわうそ:実際COPDにも新しくそういう好中球炎症を抑えるような薬ができつつあるみたいなので、気管支拡張症にも使われるようになるのかもしれません。でも、気管支拡張症の原因が様々である以上、ひっくるめて検討してしまうと、効果なし、っていわれてしまわないか心配です。ヘテロな疾患の中でも、比較的機序が同じそうな症例を集めたほうがいいと思うんですが、まれな疾患というところで集めるハードルが高くなりますし。
最近、体内の細菌叢を、培養でなくゲノムで研究できるようになったというところも、期待できるところです。個人的にはけっこう注目してる分野です。これまで無菌と思われていた肺内も、けっこういろいろ住み着いてて、その変化が疾患に影響しているのではないかという話ですね。
Figureに気管支拡張症の病理が治療方法にからめて描いてあります。構造が壊れて、痰がたまり、細菌が住み着き、炎症が惹起される。また構造が壊れ、という悪循環が続いていく、ということみたいです。それぞれの段階での治療法という触れ込みでいくつか書いてありますが、どうなんでしょうか。あんまり有効に思われないんですが。

かば・きりん:ふふふ。

かわうそ:治療は一般的には、まずは禁煙とワクチンを薦めるというとこです。で、基礎疾患についての検査をするべきらしいです。ABPA、COPD、NTM、CF、喘息、GERDなどです。気管支拡張の原因で、NTMとか細菌感染以外はあんまり意識したことありませんでしたので反省しました。で、ここがよくわからないんですが、Immunoglobulinとか、ワクチンに対する特異的抗体反応を調べるように書いてあるんですよね。

かば:COPDで増悪するひとは、免疫反応がにぶくなる、っていうのがあるんです。それと似たような感じで、免疫反応を調べて増悪しやすい群を特定するっていう意図があるんではないでしょうか。

かわうそ:残念ながら、しらべろって書いてあるだけで、亢進していてどうか、減弱しているからなんなのかは書いてないんですよね。

きりん:BTSには気管支拡張症のガイドラインていうのがあるんですね。

かわうそ:そうみたいですが、ここまで調べてないです。すいません。
(後日調べたところ、Thoraxみたいな形式のガイドラインがフリーで利用できました。そのうち読んでみます。)

その2に続きます。