2015年10月5日

雲の中の急変 その1

In-Flight Medical Emergencies during Commercial Travel.
N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):939-45.
Nable JV, Tupe CL, Gehle BD, Brady WJ.


2015年9月16日



その1



かわうそ:お二人の海外学会出張に合わせたかのように、ちょうどタイミングよく飛行機の中でのMedical Emergencyというのが載っていましたので紹介したいと思います。NEJMです。意外ですが、実はけっこうな数が発生しているようなんです。ある報告では604回のフライトにつき1回のMedical emergencyがあるようです。軽度なものも含めると実際はもっと多いかもしれません。また、入院する人が意外に多いんですが、その判断がなかなか難しいですよね。なんといっても緊急着陸させることになるわけなので。それと何より、責任問題や訴訟の恐れがややこしい状況を作り出していますよね。
さて、まず飛行機の中にあるFirst Aid Kit、救急箱を確認しましょう。包帯だとか添え木だとか、AEDが入っているはずです。Table 1にアメリカの航空会社では一般的にはこれくらいあるはずだというセットがまとめてあります。血圧計、聴診器、手袋、エアウェイ、バッグバルブマスク、CPRマスクとあります。でもCPRマスクってなんでしょうね?

かば:心肺蘇生でマウスツーマウスの人工呼吸する時に使うやつ?

かわうそ:そう思いましたけど、でも、それならバッグバルブマスクあればいらなくないですか?

かば:そうですね。よくわからないですね。

かわうそ:あとは、点滴セット、生食500ml、針、シリンジがあります。薬は、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬の注射と錠剤、アスピリン、アトロピン、SABA、ブドウ糖、エピネフリン、リドカイン、ニトロとなっています。ちょっと心もとないですね。
SPO2モニターあったらいいのに、とか思いましたが、飛行機の中で測るとあまりに低くてパニクる自信がありますからね。正常が低いんですよね、確か。

かば:だからのせてないんですか?

かわうそ:わからないです。
あと、けっこう心強いのは、地上に相談できる人が常駐しているみたいなんです。機内に乗り合わせたボランティアの医師でも当然利用できますので相談してみて下さい。あとCAさんはこういうことを想定した訓練を受けているようなので、頼りにしましょう。

かば:すごいね。

かわうそ:個人的には一番気になる責任問題なんですけど、やっぱり診察した以上は、ある程度責任を引き受けなければいけません。基本的には、状態が安定して経過観察が必要ないと判断するか、プロフェッショナルに引き継ぐまではきちんと見続けなければなりません。
アメリカでは法的には応召義務みたいなものはないようですが、倫理的な責任感から診察しているようです。ヨーロッパでは法的に診察する義務があるようなので、居合わせた医師は対応しないといけないみたいです。日本ではどうだか書いていないんですが、どうなんでしょう?応召義務っていうのがあるのは知っていますが…。

かば:どうなんですかね。あれは病院とか診療所で働いている時のことであって、飛行機や新幹線の中は関係ないと思っていたんですけど。

かわうそ:倫理的にはあるんでしょうけどね。
で、訴えられるリスクについては、これによるといちおう基準みたいなのがあるようです。1998年のAMMAによると、患者側が対応した医師があまりにひどかったということを立証できれば訴えることができる、とされているようです。あまりにひどいとはどういうことかというと、すごく怠慢だったとか、意図的に悪いことをしたとからしいです。けっこうハードルが高いように思います。でも、一つだけ気になる点があります(・∀・)

きりん:なんですか?

かわうそ:実は、酔っている医師が治療していたというのが立証されればやばいらしいんですよ。怠慢とされて訴えられることがあるみたいです。

かば:なんと!じゃ、酔っていたら行かないほうがいいんですね。

かわうそ:そうですね。ていうか、逆にお酒飲んおくと行かなくていいってことですね。

かば:行かない。飲む。

きりん:ふふっ。

かわうそ:行かないと決めているなら、お酒を飲んでおくというのも自分を守るためにはよい方法かもしれませんよ。
あと、診察したあとは所定の書類に記載して報告しないといけないようなので、これも少し面倒ですね。
このあとは個別の疾患に対してどういう対応すべきかが書いてあります。ただ、結局一番重要なのは、搬送のために目的地変更・緊急着陸をするかどうかの判断ということになります。で、これを判断するのはわれわれボランティアの医師ではなく、あくまで機長です。こちらは患者の容態について把握した上で正確に伝えて、あとは地上の医療スタッフと機長の判断に任せましょう。そうとわかればちょっと気が楽になりませんか?


その2へ続く