Near-death experience in survivors of cardiac arrest: a prospective study in the Netherlands.
van Lommel P, van Wees R, Meyers V, Elfferich I.
2015年8月25日
その1
かわうそ:ちょっと古いんですけど、2001年の論文です。Near death experience、つまり、臨死体験についての論文です。なんとLancetです。心停止でCPRをして蘇生をした人の臨死体験を、驚くべきことに前向きに研究したものです。
きりん:ふふふっ。
かば:すごいね!
かわうそ:すごいですよね。さて、イントロには、最近の治療・技術の進歩により臨死体験の報告が増えている、とこの人たちは言っています。ただ、あんまり引用文献が書いていないので、ちょっと検証のしようがないんですよね。心停止、アナフィラキシー、感電、溺水とか、そういう病態で臨死体験が報告されている、と書いてありますが、全然引用文献が載っていません。一応、引用文献の一覧を見てみると、LancetとかBMJとかあって、まじめに研究されている人もいるようなんですけど、医学論文ではなく、本が多く引用されているようにも感じます。
臨死体験の機序の研究についても少し書いてあります。低酸素などによる脳の生理学的変化が幻覚をみせているのでは説、死に直面した時に恐怖を和らげるための本能的に備わっている精神の防御機構なんじゃないか説、とかが言われているようです。
ここでは、臨死体験の最も大切なことは、臨死体験をすること自体ではなく、そのあとでその人の生き方・性格が変わること、という前提で研究を行っています。
これまでの研究と違うところは、なんといっても前向き研究というところです。この試験の前にも、後ろ向き研究はあります。って、あるのもけっこう驚きですが、これではバイアスが入ってしまい頻度がバラバラなんですって。というわけで、前向きにやらざるをえまい、という筆者の覚悟が感じられます。これはすごいですよ。ちょっと興奮してきます。
Methodsに入ると、オランダの複数の病院で、4ヶ月から4年間かけて患者を集めています。とりあえずCPRの患者さんをすべて入れています。ちゃんと文書で同意も得ていますし、倫理委員会も通しています。通るもんなんですね。
かば:すごいなぁ。
かわうそ:臨死体験の定義をしっかりしようということで、次のような要素に当てはめています。一般的に臨死体験といって想像するようなエピソードになりますが、死んだということを自覚している、それでも悪くない、ていうかむしろポジティブな感情があります。さらに、幽体離脱とか、トンネルのような場所を通るとか、光(天使?)を見たとか話をしたとか、綺麗な景色を見たとか、三途の川を見たとか、亡くなった親族にあったとか、人生の走馬灯を見るとか、そういう記憶を臨死体験としています。臨死については、心肺蘇生処置をしないとなくなってしまう状態という定義みたいですね。蘇生後、けっこうすぐインタビューしています。だいたい蘇生後5日後にやっています。相関関係を調べるため、患者背景もしっかり取っています。特に薬については詳しいですね。やっぱりモルヒネとかの影響を危惧しているようです。
ここまででも十分なんですが、この研究で一番すごいのは、フォローの期間ですね。2年後と8年後まで追っかけています。34項目にも上る、けっこう細かい質問票を送りつけています。性格がどう変わったかということについてです。
こういう、まじめな人からするとバカバカしいと思われるようなことをきちんと検証しようという姿勢はすごいとしかいいようがないです。感動します。私にできないことを平然とやってのけています。そこにシビれますし、あこがれます。これが今後この分野の研究のゴールドスタンダードになるんでしょうね。
きりん:うん?
その2へつづく