2015年9月29日

まさかの臨死体験前向き研究 その3

Lancet. 2001 Dec 15;358(9298):2039-45.
Near-death experience in survivors of cardiac arrest: a prospective study in the Netherlands.
van Lommel P, van Wees R, Meyers V, Elfferich I.

2015年8月25日

その3

その2から続き

かわうそ:で、次は筆者が最も大切と考えている、臨死体験による性格の変化についてです。Table 4です。臨死体験をした群の方が、自分の感情をより表すようになり(これがいいことかどうかはわかりませんが)、より共感的になったり、人の意見を受け入れるようになったり、人生の深い意味を理解したとか、死後の世界を信じて死を怖くなくなったとかいう変化があります。これを2年後と8年後にやっていて、時間が経つほどこの傾向はより顕著になります。臨死体験って、いいものですね。
ちなみに、あとで臨死体験を思い出した人もいました。2人ですが。
というわけで、すごい、としかいいようがないっていうのが私の結論というか感想なんですが…。

かば:どうコメントしていいのかわからないですね。研究として前向きにちゃんとやっているのはすごいことですけど。例えば質問票の妥当性とかどうなんでしょうか。

かわうそ:いちおう、インタビュアーを訓練して同じようにやっているようです。そういえば、それについてはDiscussionで書いてありました。この研究、多施設共同でやっているんですが、そのうち、けっこう長いこと熱心にやっていた施設では、臨死体験の報告が10%未満だったので、やっぱり聞き方とか、どこかでバイアスが入っているのかもしれない、話を誘導してしまっているかも、という話がありました。
まあただ、これは最初の研究ですからね。今後の課題ですよね。

かば:やらないよりずっといいですけどね。

かわうそ:そうですよね。これ、私のあこがれの研究になりました。

きりん:すごいですね。ところで、この質問票は前の文献を参考にしたりとかはあるんですか?

かわうそ:臨死体験の定義には、そういう引用はなかったと思います。一応、Near death experience scaleとありますが、自分で作ったんだと思います。ただ、性格変化は引用文献がありますので、一応validateされたものだと思います。

かば:やってみた人がいるってのはすごいですね。

きりん:蘇生した後、聞いてみたくなりますね。「何か見ましたか?」とか。

かば:誘導しないように聞くのが難しそうですよね。

かわうそ:患者さんから言ってくれればいいですけど、やっぱり医者にはそういうことは言わないだろうなと思いますね。家族には言っているかもしれないですけど。

きりん:入れ歯の場所とか当てられたら、「ひーっ」ってなりますよね。

かわうそ:意識がない時で、知らないはずのことを知っている、というのは、臨死体験でよく言われているんですよね。

かば:患者背景で宗教も聞いているんですよね。信心深さの定量化は難しいと思いますが。ていうのも、臨死体験で光をみるというのを、天使に会うという風にとらえるかどうかは、宗派とかが関係してくるんじゃないかと思いますが。

かわうそ:たしかに。いちおう、その体験については、どうやらあんまり個別の宗教とか文化には影響されない、という報告があるみたいなんです。だから、酸素濃度、二酸化炭素濃度、脳内麻薬などの脳の生理学変化が原因とかいう説がある程度支持されているという面があるようです。
その辺りのことにもし万が一ご興味をお持ちなら、添付資料「学研まんが 大人のひみつシリーズ 臨死体験のひみつ」を御覧ください。以前ネットで見つけたものです。著作権の問題がありそうなので、ここには載せられませんが。

きりん:マンガはアレですけど、研究についてすごく真面目な内容が書いてありますね。

かわうそ:この元ネタのマンガはご存じですか?平松伸二の「ブラックエンジェルズ」ですけど。

かば:名前は聞いたことあるけど、読んだことはないです。

かわうそ:ところで、前の病院から変わる直前の抄読会の論文を思い出しました。「最後だし、いいかな」とか思って調子に乗って読んだのが、終末期のがん患者に、死の恐怖を和らげるためと称して覚醒剤の一種を投与するという内容でした(Arch Gen Psychiatry. 2011 Jan;68(1):71-8. Pilot study of psilocybin treatment for anxiety in patients with advanced-stage cancer)。当然どんびきされましたけど。
覚醒剤って、キマると神の存在を感じたり、全能感を感じたりする幻覚になるっていう噂じゃないですか。けっこうこの臨死体験後の性格変化と似た印象を受けます。それで満足して死を迎えるっていう内容なんですけど。

かば・きりん:ははっ。

かわうそ:最後だし、ちょっときわどい内容でもいいかな、と思ったんですけどね。しーん、てなってしまいました。
この臨死体験論文のDiscussionでも少し触れられているのですが、今後、薬とか脳の手術や電気刺激でこういう臨死体験のような感覚を起こすことはできるようになると思うんです。それを、性格を変えたり、死の恐怖を和らげたりするための治療に応用できないか、というようにつながっていきます。そういう考え方もありかな、と思いますが、やっぱりそれはダメなんじゃないかな、とか思いました。

かば:これに対するLetterでの反論とかあるんでしょうか?

かわうそ:そこまでは調べていないです。すいません。でも、これに真面目に反論したら負けなような気しませんか?
ただ、こういうのも研究に値する点があるということが言えただけでもいいんじゃないでしょうか?

きりん:ふふっ。倫理委員会をどうやって通したのかも気になりません?

かわうそ:そうですね。やっぱり臨死体験っていうことは表に出さず、蘇生後の性格変化、みたいなところを押し出したとかでしょうか?臨死体験を研究したいとか言うと、やっぱり怒られそうですからね。

かば:面白いのは、日本でも三途の川だし、ギリシャでもカロンが渡し守しているし、エジプトにもそんなのがあるみたいで、みんな川を渡ってあの世に行くのは面白いですね。
ていうのが「鬼灯の冷徹」にありました。全く関係のないところで、同じようなイベントになっているのは不思議ですね。
あと、死んで別のところに行くっていうのを川を渡るってことで表しているんだと思うんですが、別に山を越えるでもいいはずなのに、必ず川が出てくるのは面白いですね。

かわうそ:実は、山越阿弥陀図っていうのがあって、臨終する人を阿弥陀如来が山を越えて迎えに来るっていうのがあるにはあります。京都の永観堂で見て印象に残っています。けっこうビジュアル的にはかっこいいんですけど、あんまりメジャーではないと思いますね。