後半は、検査と診断、治療経過です。
CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.
2016年5月30日
CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.
2016年5月30日
その2
その1からつづき
かわうそ:実臨床では、この段階で脳生検に突き進んでいます。でも、鑑別診断の検討ではこのあたりでサルコイドーシスなんじゃないのって疑っているらしいんですよね。
clinical diagnosisだと、脳腫瘍となっていますが、この解説の先生の診断では肉芽腫で、たぶんサルコイドーシスなんじゃないか、となっています。
だから、例えば採血でACEしたりとか、肺のCTを撮影したほうがよかんたんじゃないの、みたいなコメントを頂いています。
かば:もうちょっと侵襲の少ないところで生検できたんじゃないの?と考えてるわけですね。後出しですけどね。
かわうそ:主治医からすると、ぶどう膜炎や皮膚・関節症状、涙液・唾液の乾燥症状なんかの全身症状がないから、脳腫瘍だけと思ったんだ、ってコメントしています。
かば:あんまりサルコイドーシスっぽい症状がなかったんでしょうがないですね。
PET-CTの所見はどうだったんでしょうか?
かわうそ:そういえば、脳のPETについてコメントありましたよね。でも、胸部については触れられていません。
次は脳神経外科の先生のコメントです。glial tumorと思って開頭手術したわけですが、見た目がそれっぽくありません。固くて、ゴムみたいで、紫色っぽかったとのことで、想像と違ったと言ってます。
で、病理標本の写真をみてみると…。
かば:これは立派な肉芽腫ですね。サルコイドーシスですね。
かわうそ:そうなんです。非乾酪性肉芽腫ということがわかりました。
そういう目でレントゲンを撮り直してみると、やっぱり肺門部が腫れていることが確認されました。
造影CTでも肺門リンパ節腫脹がはっきりします。
かば:肺門部も分岐部も腫れていますし、EBUSの良い適応です。
かわうそ:VATSでもよさそうです。
でも、我々だとそう思うだけで、脳外の先生からすると、脳生検なんて簡単ですよ、とかなりませんかね?
かば:どうでしょう?わかりません。
かわうそ:サルコイドーシスについていくつか新たな知見があります。
最近では、あのワールド・トレード・センターの粉塵に巻き込まれた方の中に発症が増えたという報告があるんですって。
サルコイドーシスは非結核性抗酸菌症や真菌の感染で誘起されるのではないか、という噂がありますので、きっかけにはなるのかもしれません。
かば:それはほんとなんでしょうか?
その後のフォローがしっかりしていて、細かく見ているから、たまたま発見される可能性が高いのかもしれませんけどね。
かわうそ:なるほど。
神経サルコイドーシスについては、我々はあまりみないと思っていましたが、剖検の報告では、5-15%くらいはあるようです。
もう少しまじめに調べたほうがよいのかもしれません。MRIとかして。
かば:胸部CT、心エコー、眼科フォローするくらいですね。たしかにあんまり頭は調べませんね。
かわうそ:この症例の場合でも、年単位で徐々に症状出現、というくらいなので、心臓やブドウ膜のようにあえて積極的に探しに行かなくてもよいのかもしれません。
治療についてですが、なかなか攻めてるな、と思いますね。たぶん体格がよい人なのでしょう。80mgのプレドニンで治療しているンですが、外来で初めているンです。
かば:おおっ。さすがアメリカですね。
かわうそ:ただ、抗てんかん薬はやめられないようですし、幻覚については残っているようです。ステロイドの影響もあるのでしょうか、気分変動や物忘れで悩んでいるらしいです。さらに、けいれんの大発作も起こして搬送されたりしています。
サルコイドーシスって、ステロイド使ってほんとに治療効果あるのかな、とは疑問に思いますね。
かば:ステロイドパルスとかしないんでしょうか。
かわうそ:インフルキシマブとかも使わざるをえないかも、とは書いてます。
こういう風に、ステロイドの副作用の精神症状などで困った場合には、倍量にして隔日投与にするのがけっこううまいこといっていいんだ、みたいなトリビアというか小技が披露されてます。
で、最後に患者さん本人が来てコメントしています。
でも、今回みたいに、診断も治療もイマイチすんなり行ってない場合だと、本人がいる前では、活発な議論できないですよね。最初からサルコイドーシスを疑って全身検索したほうがいいとか、強く言い難いです。
以前読んだエボラ熱疑いならいいんですけど。
かば:ただ、肺門部リンパ節腫脹が見つかったからといって、脳生検がほんとに必要ないかどうかわかりませんよね。サルコイドーシスと脳腫瘍の合併の可能性を考えたら、やっぱり脳生検をしちゃうかもしれません。
それにしても、症例報告でサルコイドーシスが話題になることってけっこう多いですよね。やっぱり症状や経過が多彩で、診断が難しいんでしょうね。