2016年2月25日

9歳女児、繰り返す腹痛 その2

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 3-2016. A 9-Year-Old Girl with Intermittent Abdominal Pain.
N Engl J Med. 2016 Jan 28;374(4):373-82.
Guglietta PM, Moran CJ, Ryan DP, Sagar P, Huck AE.

2016年2月3日
その2

その1からつづき

かば:やっぱり心療内科的なもの、と考えちゃいますけど。でも、IBSとかは除外しておきたいです。

かわうそ:たしかに、でも、便秘はいつも言っていますが、下痢はないんですよね。

かば:そうですね…。
あ、腹部CTを撮っていないんですよね?いくら子どもでも、1回くらいしてもよくないですか?胃カメラしているのに。胃カメラのほうが躊躇しません?

かわうそ:そうなんですよね。まったくその通りです。
発汗して倒れた、顔面蒼白でした、とかいうエピソードもあるくらいですし。けっこう重病ですよね。

かば:そういうエピソードがあるなら、自律神経障害とかは?

かわうそ:なるほどね。でも、あれ、検査で調べられるんですか?心電図のRR間隔とか?
まあ一応、鑑別診断としてあがっているのは、便秘、機能性腹痛症だとかです。これはゴミ箱診断ですね。経過にも合いません。

やはり、これだけシビアな経過をたどっているわけですので、器質的な原因があるかもしれないのに、このような機能的な疾患に飛びつくのはよくないように思います。

あと、GERD、ヘリコバクター・ピロリ感染なども鑑別に上がっていますが、いまいちパンチに欠けますね。
内視鏡検査でGERDの徴候はないんですが、それでも油断するなと書いてあります。NERDってやつでしたっけ?まあ、PPIが効果ないのでいずれにしても違うのでしょう。
セリアック病、胃潰瘍、炎症性腸疾患なども、一応鑑別にあがった上で否定されています。

かば:あと、アレルギーですか?下痢になりそうですけど。

かわうそ:病歴からすると食事とは関係なさそうです。これまで、食事制限したことありませんし。同様の理由で乳糖不耐症なども違うようです。
あと、先天性の疾患として腸の軸捻転なども挙がっています。もっと小さい時から症状が出るものらしいですけど、この症例の年齢でも矛盾はしないようです。

とかなんとかいろいろ考えた上で、やっぱり機能性腹痛症または腹部偏頭痛という診断になっています。
しかし、どちらの疾患だとしても満足できるような、そして簡単な治療法がないんです。精神的なもの、ストレスによるものということで、認知療法くらいしかエビデンスがないのです。

ただ、効果がないので、医療従事者も家族も、本人が腹痛で苦しんでいるのをみて、心を痛めていました。
さらに親がいうにはですね、「腹部偏頭痛という診断は意味が無い、診断されても治療がないならしょうがない」。

もっともだと思った主治医の先生が、CTをしましょうと提案したらしいんですよね。
長い通院で培われた良好な医師患者関係が、診断に役に立った、と豪語しています。

かば:もっと早くやったらいいのに。そんなにCTは敷居が高いんでしょうか?お金の問題なんでしょうか?あとはやっぱり子どもへの被爆の問題でしょうかね?

かわうそ:エコーで異常ないのに、CTでなにか見つかるとは思われないということなのかもしれませんけど。

かば:たしかに。

その3につづく