2016年4月28日

Too Much of a Good Thing その1

何かよいものが過剰なようです。
問題篇です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Too Much of a Good Thing
N Engl J Med 2016; 374:873-878
Lauren A. Beste, M.D., Richard H. Moseley, M.D., Sanjay Saint, M.D., M.P.H., and Paul B. Cornia, M.D.

2016年3月16日

その1

かわうそ:54歳男性。下肢の浮腫と腹痛です。腹痛はあんまりはっきりとした訴えではないんですけど、上腹部に帯状に痛い部分があるようです。

この段階で、腹部臓器のどのあたりの疾患かを鑑別にあげています。このへんの診断学というのがすごいですよね。普通は、とりあえず検査でなんとかならないかと考えてしまいがちですけど。

まず、上腹部の帯状の鈍痛は、腹膜そばの内臓疾患を示唆します。心窩部痛なら胃・十二指腸または膵臓の疾患、右季肋部なら肝胆あたり、食後の症状なら胃潰瘍または胆嚢の痛みなどなどです。
あれ、けっこう当たり前のことでしたね?

とにかく、今回の症例では下肢の浮腫があるので、腹水の存在は?とか肝疾患では?とコメントされています。

あと、この方は強迫性障害で20年以上薬を飲んでいるとのことです。ビタミンAもサプリとして飲んでいます。この情報、実はあとでジワジワ効いてきます。

かば:アメリカではサプリメントはけっこう問題になってますよね。市販でいろいろ大量に買えちゃいますからね。

かわうそ:ビタミンAは1日25000単位まで大丈夫らしいので、自己申告の量では大丈夫みたいです。

身体所見では、かなりカヘキシアがあるように見えました。あんまりよくないですよね。
あと、下肢浮腫だけでなく、やっぱり腹水の所見があります。腹部膨満していてfluid waveも認められました。黄疸はありません。また、腹水がたまるほどの肝硬変ならくも状血管腫とか手掌紅斑とかあってほしいんですが、そういうのはないようです。

かば:いわゆる肝硬変ぽくはないってこと?

かわうそ:そうみたいです。なら、悪性疾患とかネフローゼとかかな、とか鑑別を挙げています。

血液検査では、低Na血症と軽度の肝逸脱酵素上昇です。PT延長、血小板減少があります。これは肝硬変っぽいといえそうです。
で、Albは下がっていません。3.6です。低たんぱくで腹水がでているわけでもないようです。やっぱり尿蛋白も陰性でした。
A肝、B肝、C肝はそれぞれ陰性でした。実は、C型肝炎の抗体は陽性でしたが、ウイルス量がnegativeなので、C型肝炎が治癒したものと考えられました。

かば:しかし、不思議な症例ですね。ウイルスでも肝硬変でもないのに、腹水貯留で悪液質に生ってしまっているんですよね?

かわうそ:ほんとそうですね。
ところで、以前腹水の症例をやったときに、SAAGというのを知りましたよね。

かば:胸水は血液と胸水の比だけど、腹水は差だとかいうやつですね。

かわうそ:それを調べたところ、2.7g/dlだったということで、漏出性の腹水を示唆するということです。
こういう場合はフロセミドとかスピロノラクトンで治療が始まっています。あと、水分制限、Na制限です。この人は低Na血症があるんですけど、それでもNa制限です。

かば:けっこうきついですね。

かわうそ:なかなかできないです。あと、SAAG>1.1g/dlのときは、門脈圧亢進症を示唆するとのことですので、今後はそのへんの鑑別をしていくことになります。
ウィルソン病とか、自己免疫性肝炎、ヘモクロマトーシス、住血吸虫などを鑑別に挙げています。なかなか馴染みのない病気ですが。

かば:うーん。

かわうそ:また、hapatic venographyというものをやっています。どうやら肝臓の静脈の血流をみているようです。門脈圧亢進の原因がどのあたりにあるのか鑑別するみたいです。全然知らない検査ですね。Figureにも載っていますが、門脈の血栓とか、肝内の血栓とか、類洞の問題とか、バッドキアリ症候群とかがわかるみたいです。

かば:あとはやっぱり肝生検でしょうね。

かわうそ:そうですね。場合によっては、経皮針生検だけでなく、開腹してせよ、ということです。

今回は経皮針生検の結果が載っています。この辺りで主治医はどうやらビタミンAの過剰摂取を疑っていたようですが、組織診ではそういう所見はなかったようです。
もし、ビタミンA過剰があった場合の所見がFigureに出ています。ビタミンAが肝細胞内に溜まって細胞質が白っぽく抜けます。で、肝細胞が腫大する結果、類洞の流れが悪くなり、門脈圧亢進症をきたします。ま、今回はそういう所見はなかったんですけど。

かば:じゃあ、なんなんですか?どうするんですか?

その2へつづく