2016年6月9日

MGH case 14-2016 その3

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。最後は検査と治療についてです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:このあとの対応としては、まず小腸の生検です。絨毛の障害を見つけたいです。
でも、けっこう大変ですよね。なぜって、この人は周りの人が自分を騙しているという妄想を抱いているわけなので、なかなか信用してもらえません。

かば:検査をさせてくれないんですね。

かわうそ:いちおう、セリアック病には信頼性の高い採血の検査、IgA tissue glutaminase antibodyがあるようです。この方はこれで陽性となっています。
このあとなんとか説得して検査した病理標本が図に載っています。自己免疫疾患なのでか、リンパ球が十二指腸の上皮内や固有粘膜に集まっていて、構造が破壊されているのがわかります。

でも、せっかく診断がついても、このあと治療も難渋してるんですよね。医者が嘘を付いているんだと。グルテンフリーダイエットを拒否しています。
どうやら妄想が延々と続いて、自分に対する陰謀の証拠を発見したとか騒いで、治療を拒否して、そうこうするうちに職を失って、ホームレスになって、自殺企図したりしたみたいです。

かば:なんと。

かわうそ:そのあとなんとか入院して、こんどこそ治療が開始されています。
グルテンフリーダイエットを三ヶ月続けたところ、リスペリドンの内服は必要ですが、妄想は消えたようです。
というわけで、苦労したけど、治療ができました。

かば:よかったですね。すごいですね。

かわうそ:良くなってから生検した結果の病理標本も載っています。すっかり正常の構造になっています。
実は、グルテンフリーダイエットが有効な疾患というのはセリアック病以外にもけっこうあります。セリアック病は他の自己免疫疾患との合併が多く、しっかりと診断する必要があるので、安易にグルテンフリーダイエットしない方がよいとのことです。

さて、この人については、この後切ない展開が待っています。実は、きちんとグルテンフリーダイエットを守っていたのですが、ついうっかり…。

かば:食べちゃったの?

かわうそ:そうなんです。妄想がぶり返し、グルテンフリーダイエットも受け入れてくれないらしく、困っているようです。

かば:やばいですね。診断ついても治療できないのは辛いですね。

かわうそ:こっそりグルテンフリーダイエット食べさせるわけにはいかないんでしょうか。

かば:やっぱり味が違うんでしょうね。ググると、日本ではダイエットのために使われることもあるみたいですけど。
この表をみると、セリアック病の合併症というか、消化管外症状ってたくさんありますね。難しいですね。

かわうそ:やっぱり、日本だけで働いていると、ほんとに診ない病気がたくさんありますね。

ちなみに、このcase recordの直前に載っていた、Image in clinical medicineもけっこう衝撃的な画像ですよ?

54歳の脳性麻痺のある男性が、喀痰による右主気管支の気道閉塞のせいで、Morgagniヘルニアから消化管が胸腔内に迷入しています。胸部聴診でbowel soundがわかったようです。
で、診断のあとどうしたかというと、本人・家族の希望により、外科的な修復は行われませんでした。このあとこの方がどういう暮らしをしたのかが気になるところです。