2016年6月3日

MGH case 14-2016 その1

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。前半は問題編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その1

かわうそ:妄想で精神科を受診されました。自分のまわりで大きな陰謀が進行しているというよくある妄想です。家族や友達が、自分に対して嘘ついているというような妄想を突然抱くようになってしまいました。妄想の他には幻覚などの精神症状はありません。
たまたま家に泥棒がはいったという事件をきっかけにして、さらに妄想が進行します。合鍵を持っていたのが家族だけなので、家族に対する疑惑が爆発、暴力沙汰になってしまったようです。
やや発症年齢が高く、典型的ではないように思われましたが、一応スキゾフレニア、統合失調症として入院加療となっています。アメリカでどうかはわかりませんが、日本なら自傷他害の恐れあり、で医療保護入院とか措置入院のレベルでしょうか。

かば:単なる統合失調症では、MGHのケースレコードにならないように思いますけど。

かわうそ:そうですね。やっぱり病理所見との対比が売りですからね。実は器質的な疾患がありました。
まず、採血結果、鉄欠乏性貧血がわかりました。その他ビタミンB12、D2の欠乏もありました。あとはほとんど正常です。栄養状態については、あれ?記載ありませんね。

既往歴は特にありません。足のケガとか、あと、卵巣腫瘍で卵巣摘出していますが、その後ホルモンバランス異常などは指摘されていないようです。
ただ、性格は異常というわけではないのですが、ちょっと変わっているようです。10代のころから完璧主義者で鳴らしていたようです。

かば:自閉症スペクトラムですか?そういえば、最近ADHD多くありませんか?偏食で肝障害とか、サプリで肝障害とか。

かわうそ:私もそう思いますが、この時点でそこまで言えるかどうかは書いてありませんでした。
あと、よく聞いてみると体重減少があります。期間は不明ですが9kgも減少しているらしいです。
過食症や嘔吐、下痢、髪の毛が薄くなるなど、神経性食欲不振を疑うようなエピソードはありません。利尿薬や下剤の使用もなしです。頭部外傷なし。引きこもり歴なし。
さて、家族歴はけっこう注目です。

かば:ほう。

かわうそ:母がSLE、姉妹に甲状腺機能異常、祖母に糖尿、おばが乳癌。ただし、精神疾患はありません。
食事はペスクタリアンダイエットをされています。知ってます?

かば:しらない。

かわうそ:調べたところ、動物の肉は食べないものの、魚介類は食べるというこだわりのようです。
あとは、卵を結構食べるとか、サラダ毎食食べてるとか、けっこう詳しく述べられています。
アルコールは機会飲酒程度、喫煙はないがマリファナ使用歴あり。
コーヒーは一日二杯でよいとも悪いとも書いてありませんが、自分は四杯くらいなので、これが問題だとしたらけっこうやばいですね。

一ヶ月入院して退院されました。リスペリドンだとか抗鬱薬、ビタミン薬などを出されています。ただ、あまり症状はよくなっていないようです。
フォローの外来受診時に、入院担当医が見たところ、さらにガリガリにやせていることを発見されました。

かば:甲状腺機能亢進ですか?

かわうそ:主治医もそう疑ったのでしょう、あらためて所見をとったら、甲状腺腫脹が発見されました。精査したところ、橋本病と甲状腺乳頭癌でした。
橋本病って基本的には甲状腺機能低下になるはずですが、機能亢進状態にもなりえますので、そのための精神症状なのかな、とも思いましたが、ちょっと病歴とは合わない印象ですよね。この方はほかにもキーとなる症状がありますし、それは甲状腺機能異常では説明できないようです。

とりあえず橋本病と甲状腺乳頭癌に対する治療として、甲状腺摘出術後、甲状腺ホルモン補充療法を行いました。
この経過が診断に結びつきます。実は、補充しても、なかなか有効血中濃度にならないんです。

これで思い浮かぶ病気あります?ていうか、これが精神疾患につながるという印象が私にはありませんでした。

その2へつづく