2016年6月7日

MGH case 14-2016 その2

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。鑑別診断編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その2

その1からつづき


かば:これまでの病歴からすると、鉄、ビタミン不足だけでなく、体重減少もあるんですよね。だから、腸管吸収が問題なのだと思いますけど、疾患が思いつきません。
自己免疫疾患がキーワードっぽいので、SLEかとも思いましたが、ほとんど診断基準に当てはまる症状、所見がないようですし。

かわうそ:確かにSLEは鑑別にあがるべきですね。

ここから鑑別診断に入ります。
まず、成人から突然発症した精神病とのことで、まずは基礎疾患がないかどうかしっかりと精査しましょう。

これまで発見された、鉄欠乏性貧血やビタミン欠乏は、神経障害との関係はありますが、さすがにこれほどの妄想性精神疾患をきたすことはないでしょう。
ビタミンB1のウェルニッケ症候群、ビタミンB3のペラグラは有名ですけど。

体重減少とビタミン欠乏があるので、神経性食思不振はやっぱり考えないといけないですよね。完璧主義というキーワードもありますし、ただし、さきほど触れたようにどれだけ周囲から話を聞いてもそういう証言は得られませんでした。

かば:体重減少と突然の意識障害と捉えると、悪性疾患と脳転移は考えるべきと思います。

かわうそ:そうですね。
でも、この症例では脳の画像検査は得られていないようです。
頭部MRIして脳腫瘍または脳転移の検索をすべきだ、とリコメンドされています。

あとは、橋本病という自己免疫性甲状腺疾患についてですが、これはおそらくたまたま見つかっただけで、精神症状との関係はなさそうとのことです。
むしろ、そのあと、甲状腺ホルモン補充に対して反応しないことが重要です。
あと、自己免疫性疾患があること、家族歴も濃厚であることです。
自己免疫疾患があって、吸収障害がある場合、これを考えるらしいんです。

・・・。実は、セリアック病でした。わかりました?

かば:おお。セリアックスプルーですね。

かわうそ:私はこの疾患は小麦というかグルテンに対するアレルギー反応を有する遺伝性疾患という認識だったのですが、むしろ吸収障害を伴うような自己免疫疾患と捉えるべきなようです。

かば:自己免疫疾患…。

かわうそ:という分類になるらしいです。私には、グルテンフリーダイエットというキーワードぐらいしか反応できないのですが。
ちなみに精神疾患についても、有名ではないものの、セリアック病に合併したという報告がけっこうあるらしいので、矛盾するものではないとのことです。

かば:すごいですね。病歴からここまでたどり着いたんですね。

かわうそ:ここで、精神科の主治医にコメントを求めています。「われわれは病歴でここまでたどり着いたわけだけど、実際みたお前はどうなの?」っていうところでしょうか。いじわるしているわけではないのでしょうが。
回答としては、「統合失調症としては、少しおかしなところはあるにせよ、やっぱり最初は妄想型の統合失調症と診断しちゃうよね」、といってます。

その3へつづく