2015年8月20日

MGHケースカンファ(22-2015) その2

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1からつづき



その2

かわうそ:ここから鑑別診断に入ります。ここまでの経過で5週間です。胸痛、呼吸困難、筋肉痛、倦怠感、発熱という「とらえどころのない症状の集まり」と言っていて、診断に苦労したんでしょうね。「とらえどころのない症状の集まり」というのも、診断を絞る上でのキーワードになるようにも思いますけどね。
とりあえず、一番ハデで生命に脅威を与えている症状であるところの、心嚢水貯留に着目して、病態にせまろうではないか、ということで話が進んでいきます。でも、とかいっているわりにはこれまでなんやかんや理由をつけて頑なに心嚢穿刺をしてこなかったじゃないか、って思いません?早く胸水穿刺をして症状をとってあげればいいのに…。
鑑別診断としては、まずKussmaul徴候に着目しています。このあたりはマニアックなんであんまり良くわかりませんでしたが、Kussmaul徴候は心タンポナーデでは出現しないが、収縮性心膜炎では出現するそうです。つまり、Effusive-constrictive pericarditisという診断になるようです。ただし、このEffusive-constrictive pericarditisという診断は、いろんな疾患で出てくるので、「does not lead us closer to a diagnosis」なんですって。なんか不安になってきます。
でも、全身状態の管理としては、心嚢水穿刺は絶対必須ですよね。死にかけて苦しんでいるんですから。ここでようやくとうとう自分でもそれを認めてくれました。ところがですよ、この主治医団(?)は、この段階での「心嚢水の検査では診断に結びつかないと信じている」とか言ってて、やっぱりやらない理由を言い続けているんです。

かば:反応性の心嚢水がたまっているんだろう、って考えているんですね。
この時点では誰がプレゼンしているんですか?最初のヒトとは違いません?

かわうそ:たしかに。変わっているかもしれません。まあ所属とか何も書いていませんので、私の想像で言わせてもらえば、これは最初研修医がプレゼンしていて、会場の誰かが「なんで心嚢水つかないの?」とか聞いてきて、収集つかなくなるほど炎上したので、上級医が出てきたっていう可能性を考えています。そう想像して笑ってしまったということです。
でも、このヒトなかなかかっこいいことを言っているんですよ。検査結果で診断が絞り込めるまで鑑別診断を上げていく、というのは今後心がけたいですね。かっこいいなと思いながらも、何いってんのコイツ?という思いが拭えませんが。
というところで、次のページには答えが出ているので、ここでみなさんに鑑別をあげていただきたいんです。どうですか?

チンパンジー:最初、筋肉痛とか息切れとかがありますね。呼吸器科回ってて見てた患者さんに似ているので、筋炎とか膠原病関連の間質性肺炎などを考えました。次に吸気時の胸痛とか心嚢水あると、心膜炎からSLEなんかを考えますが、ちょっと合わないところもありますね。血球減少ないですし。
しかも、僕もラボデータ見た時に、ぱっと目につく高い数値を見てしまいました。フェリチン著増ですよね。あと関節痛があることと、サーモンピンク疹があるということから、診断はついてしまいますね。

かば・きりん:(深く頷く)

かわうそ:みなさん、さすがですね。もう診断ついてるんですね。私はここまで読んできてまだピンときていませんでしたが…。
で、答えは?

チンパンジー:成人スティル病です。

かわうそ:大正解です。さすがとしかいいようがありませんね。
もう言うことないとお思いでしょうが、ここからが実はこの回で一番重要なところです。

かば:あ、いちおう不明熱の鑑別はしっかりやっているんですね。

かわうそ:そうなんです。感染や膠原病、悪性腫瘍についてはここで鑑別して否定しています。あと、急性リウマチ熱についても考えていますが、これは弁膜症が有名ですので、心臓の症状が合わないようです。
で、Adult onset Still’s diseaseについてなんですが、問題はここなんですよ。
ここには、「チャレンジングな症例にあたったとき、我々はしばしばインターネットで検索して、診断の仮説をたてる」、そう豪語しているんですよ!(`Д´)

かば・きりん・チンパンジー:ははははは。

かわうそ:そりゃそーだけど、それはいっちゃあダメでしょって話ですよ。
このセリフを聞いてから、これまでの話を振り返ってみると、私のこれまでの失礼な態度もご理解いただけるのではないでしょうか。

きりん:ふふっ。しかも、どんな単語で検索したのかも正直に言ってますね。言わないでいいのに…。

かわうそ:偉いことに検索結果の最初の10個がadult onset Still's diseaseだったようです。で、安心したと。

かば:インターネットはすごいですね。でも、これ活字になっているんですね。

かわうそ:活字にしちゃだめなところですね。この会をブログに上げるところだって、けっこう修正とかしてますから。

きりん:これ言ったの誰だ?って前を振り返って見ちゃいますね。本名出てますし。

かわうそ:同級生とかどう思うんでしょうか?「あれは言っちゃダメでしょ?自分もやってるけど。」とか言われてますよ。
とにかく、ここを電車の中で読んでいて、つい大笑いしてしまいました。今回私が一番言いたかったのはここです。これを伝えられて満足しました。
adult onset Still's diseaseが鑑別に上がって、これまでの症状とか検査所見とかを当てはめてみると、全てちゃんと合うということです。ここらへんで疾患のまとめが書いてあります。興味があれば読んでおいて下さい。
で、ようやく心嚢穿刺をしてくれて、でもあんまりよくならなかったんですね。まだリウマチ熱と考えてアスピリンとペニシリンで治療していたと。で、adult onset Still's diseaseと診断して、ステロイドを入れて、すみやかに改善したようです。今は元気に大学に戻って、バスケとかしているそうです。でも、IL1受容体アンタゴニストが始まっていますね。adult onset Still's diseaseの治療として最近行われているようです。

かば:ほんとに5週間1回もステロイドださなかったんでしょうか?NSAIDSも。気の毒に。
Dr. ハウスみたいな話ほんとにあるんだ。こわいこわい。

かわうそ:今となっては、Dr. ハウスの知恵に頼らなくても、インターネットに答えがあるんですよ。

かば:検索しているとかいうところ、だれも何もつっこまなかったんでしょうかね?

かわうそ:たぶん言われているんでしょうけど、省略されているとか?あと、失笑されてる空気があったとしても、それは活字にしにくいですね。

きりん:ジョークみたいな感じで言ってたんじゃないですか?

かわうそ:そう信じたいし、それなら良いんですが、内輪にとどめておいて欲しいですね。活字にしちゃってますので、これが著者の悪意なのかプレゼンターがマジテンションだったのかわかりませんね。
でも、時代の移り変わりを感じます。私が学生の時読んでいた時は、MGHケースカンファレンスでこんなに盛り上がれませんでしたから。

かば:成人スティル病ってやっぱり難しいんですね。不明熱の鑑別で絶対上がってきますよね。

かわうそ:フェリチン取ってますので、最初から疑っていたのかもしれません。話を面白くするために、順番を前後してたとか。本来は私なんか足元にも及ばないような優秀な先生方なのに、こんなにネタにしてしまい申し訳ないです。
前回とりあげた症例(Case 9-2015)もけっこう面白い回でした。患者の家族やカンファレンスの出資者(?)が出てきたりとか。まさか2回続けてこんなお宝に出会えるとは、うれしいですね。
楽しかったんですが、でもさすがにMGHは疲れます。しばらく間隔開くと思います。


かわうそ振り返りコメント:
録音を聞き返してみて、自分の話の進め方が拙すぎて、非常にもったいなかったなと思いました。もうちょっとみんなの意見を聞きながら進められると、もっと面白くなるのに、と忸怩した思いがあります。喋り過ぎでした。
ただ、この回はいろいろツッコミたいところが多すぎて、思い入れが強すぎたというわけなので許してください。