この題名は、英語の掛詞的なものみたいでして、ちょっと意味がとりにくいです。
鑑別診断までの部分です。
CLINICAL PROBLEM-SOLVING.
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.
2016年1月27日
その1
かわうそ:57歳男性、呼吸困難、倦怠感で受診されています。労作時呼吸困難ということなので、我々だとすぐにCOPDとか間質性肺炎とかを考えてしまいますが、一般的には当然別の疾患も考えないといけませんよね。
かば:とりあえず心不全、腎不全、筋力低下、神経筋疾患とかですかね。
かわうそ:そうですね。ここではあと貧血なんかも上がっています。
どうやら労作時呼吸困難だと、ちょっと鑑別診断に上がってくる疾患が多すぎて絞り込めないようです。
ただ、起座呼吸ならもうちょいダイレクトだ、と書いてあります。そんなに疾患特異性ありますかね?ちょっとピンときていません。
かば:心不全ですね。肺うっ血みたいになる疾患。
かわうそ:ですかね。この人の病歴に戻りますが、シェーグレン症候群がもともとあって、あとは治療するまでもない高血圧、アレルギー性鼻炎、痔核、偏頭痛などがあります。で、ハイドロキシクロロキンという膠原病の薬とか、点鼻ステロイド、鎮痛薬を内服しています。事務職で旅行なし、喫煙飲酒なし。家族歴では膠原病の人がけっこういます。
この病歴、つまり、シェーグレン症候群の人の労作時呼吸困難で、疾患をさらにしぼれますか?
かば:間質性肺炎ですかね?あんまり心臓や腎臓の合併症は有名でないと思いますし。
かわうそ:そうですね。シェーグレン症候群といえば、基本的には涙腺、唾液腺がメインに障害されますが、あとは肺です。呼吸器疾患としては、間質性肺炎と気管支拡張症が多いように書いてあります。
この方は20年くらい前から診断されています。耳下腺の生検で確定診断されています。レイノー症状、関節炎、齲歯、GERD、腎結石などの既往があります。身体所見では、高血圧(150/80mmHg)、ドライアイ、ドライマウスくらいです。呼吸音はclearでfine cracklesは目立たないようです。ここはちょっとポイントですね。
で、検査なんですけど…。
かば:レントゲン、採血、尿検査とかですか?
かわうそ:呼吸音正常でもやっぱり胸部の画像検査はしますよね。
心機能については、トレッドミルして虚血性心疾患は否定的です。
ここでは、とりあえず高血圧に対して、サイアザイドとトリアムテネロンの合剤を処方されて帰りました。
やはり日本以外ではファーストチョイスはサイアザイドですよね。ただし、腎機能障害がある場合は要注意、と伏線が張られています。ちなみに採血検査はこの時はしていません。だからあとでちょっともめているんですけど。
で、7日後の次の受診時に採血してみたところ、Cre=1.6、BUN=43でした。たまたま7ヶ月前の記録があったんですが、そのときはCre=0.9、BUN=16ですので、急激に変化しています。
かば:あら。でも、薬出す前から腎機能が悪くなっていた可能性もありますよね。
かわうそ:そうなんですよね。薬剤性かどうかで対応が変わってきます。
いちおう、シェーグレン症候群でも腎障害が来るようです。自己免疫性のglomerular diseseと尿細管間質性腎炎が有名です。
腎結石の既往もありますので、腎後性腎障害の可能性も捨て切れません。
かば:ふんふん。
かわうそ:実は症状も悪化していました。呼吸困難が進行し、皮疹が出現しています。写真がのっています。赤い丘疹が体幹、大腿、上腕などに出現しています。
で、この皮疹が診断の決め手になるようで、全身性の血管炎をこの時点で考えないといけないのです。
かば:とすると、ANCAを測定するってことですか?
かわうそ:シェーグレン症候群にそういうANCA関連血管炎が合併するというのは考えにくいんですって。
かば:あ、そうか。シェーグレン症候群に発症する血管炎を考えるんですね。
かわうそ:そうなんです。知らなかったのですが、シェーグレン症候群に、最も多い合併症はleukocytoclastic angiitisだそうです。ただ、これは下肢にできやすいという特徴があるので、ちょっと考えにくいとのことです。
あとは、クリオグロブリン血症やHenoch-Schonlein紫斑病とかを挙げるべきです。実は、サイアザイドもこのような血管炎を引き起こすことがあるということでちょっとややこしいですが。
かば:なるほど。
かわうそ:血液検査の結果をみると、ヘマトクリットが23%で相当下がっています。で、MCVが86なので正球性貧血です。
あとは、やっぱり腎機能障害があります。肝臓は特に問題ありませんが、アルブミンとか総蛋白が減っていて、だいぶ疲弊していることがうかがわれます。
尿検査では、潜血と尿蛋白があって、腎機能障害が示唆されます。
あとは、超音波検査をやっていますね。水腎症はないし、腎萎縮が認められています。
つまり、やっぱり腎後性腎不全ではないし、薬剤性の急性の腎障害でもないですね。慢性の経過で腎障害があって、そのせいで高血圧になったのかな、と考察されています。
というわけで、ここまで考えると、シェーグレン症候群に関連したクリオグロブリン血症、その関連の腎疾患と考えます。
その2へつづく
鑑別診断までの部分です。
CLINICAL PROBLEM-SOLVING.
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.
2016年1月27日
その1
かわうそ:57歳男性、呼吸困難、倦怠感で受診されています。労作時呼吸困難ということなので、我々だとすぐにCOPDとか間質性肺炎とかを考えてしまいますが、一般的には当然別の疾患も考えないといけませんよね。
かば:とりあえず心不全、腎不全、筋力低下、神経筋疾患とかですかね。
かわうそ:そうですね。ここではあと貧血なんかも上がっています。
どうやら労作時呼吸困難だと、ちょっと鑑別診断に上がってくる疾患が多すぎて絞り込めないようです。
ただ、起座呼吸ならもうちょいダイレクトだ、と書いてあります。そんなに疾患特異性ありますかね?ちょっとピンときていません。
かば:心不全ですね。肺うっ血みたいになる疾患。
かわうそ:ですかね。この人の病歴に戻りますが、シェーグレン症候群がもともとあって、あとは治療するまでもない高血圧、アレルギー性鼻炎、痔核、偏頭痛などがあります。で、ハイドロキシクロロキンという膠原病の薬とか、点鼻ステロイド、鎮痛薬を内服しています。事務職で旅行なし、喫煙飲酒なし。家族歴では膠原病の人がけっこういます。
この病歴、つまり、シェーグレン症候群の人の労作時呼吸困難で、疾患をさらにしぼれますか?
かば:間質性肺炎ですかね?あんまり心臓や腎臓の合併症は有名でないと思いますし。
かわうそ:そうですね。シェーグレン症候群といえば、基本的には涙腺、唾液腺がメインに障害されますが、あとは肺です。呼吸器疾患としては、間質性肺炎と気管支拡張症が多いように書いてあります。
この方は20年くらい前から診断されています。耳下腺の生検で確定診断されています。レイノー症状、関節炎、齲歯、GERD、腎結石などの既往があります。身体所見では、高血圧(150/80mmHg)、ドライアイ、ドライマウスくらいです。呼吸音はclearでfine cracklesは目立たないようです。ここはちょっとポイントですね。
で、検査なんですけど…。
かば:レントゲン、採血、尿検査とかですか?
かわうそ:呼吸音正常でもやっぱり胸部の画像検査はしますよね。
心機能については、トレッドミルして虚血性心疾患は否定的です。
ここでは、とりあえず高血圧に対して、サイアザイドとトリアムテネロンの合剤を処方されて帰りました。
やはり日本以外ではファーストチョイスはサイアザイドですよね。ただし、腎機能障害がある場合は要注意、と伏線が張られています。ちなみに採血検査はこの時はしていません。だからあとでちょっともめているんですけど。
で、7日後の次の受診時に採血してみたところ、Cre=1.6、BUN=43でした。たまたま7ヶ月前の記録があったんですが、そのときはCre=0.9、BUN=16ですので、急激に変化しています。
かば:あら。でも、薬出す前から腎機能が悪くなっていた可能性もありますよね。
かわうそ:そうなんですよね。薬剤性かどうかで対応が変わってきます。
いちおう、シェーグレン症候群でも腎障害が来るようです。自己免疫性のglomerular diseseと尿細管間質性腎炎が有名です。
腎結石の既往もありますので、腎後性腎障害の可能性も捨て切れません。
かば:ふんふん。
かわうそ:実は症状も悪化していました。呼吸困難が進行し、皮疹が出現しています。写真がのっています。赤い丘疹が体幹、大腿、上腕などに出現しています。
で、この皮疹が診断の決め手になるようで、全身性の血管炎をこの時点で考えないといけないのです。
かば:とすると、ANCAを測定するってことですか?
かわうそ:シェーグレン症候群にそういうANCA関連血管炎が合併するというのは考えにくいんですって。
かば:あ、そうか。シェーグレン症候群に発症する血管炎を考えるんですね。
かわうそ:そうなんです。知らなかったのですが、シェーグレン症候群に、最も多い合併症はleukocytoclastic angiitisだそうです。ただ、これは下肢にできやすいという特徴があるので、ちょっと考えにくいとのことです。
あとは、クリオグロブリン血症やHenoch-Schonlein紫斑病とかを挙げるべきです。実は、サイアザイドもこのような血管炎を引き起こすことがあるということでちょっとややこしいですが。
かば:なるほど。
かわうそ:血液検査の結果をみると、ヘマトクリットが23%で相当下がっています。で、MCVが86なので正球性貧血です。
あとは、やっぱり腎機能障害があります。肝臓は特に問題ありませんが、アルブミンとか総蛋白が減っていて、だいぶ疲弊していることがうかがわれます。
尿検査では、潜血と尿蛋白があって、腎機能障害が示唆されます。
あとは、超音波検査をやっていますね。水腎症はないし、腎萎縮が認められています。
つまり、やっぱり腎後性腎不全ではないし、薬剤性の急性の腎障害でもないですね。慢性の経過で腎障害があって、そのせいで高血圧になったのかな、と考察されています。
というわけで、ここまで考えると、シェーグレン症候群に関連したクリオグロブリン血症、その関連の腎疾患と考えます。
その2へつづく