2015年7月29日

成人気管支拡張症の管理 その3

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

(その2からつづき)

その3

かわうそ:個人的に一番おもしろいと思ったのは、重症度スコアです(下図)。年齢、BMI、1秒量、増悪入院、増悪回数、呼吸困難、細菌コロナイゼーション、特に緑膿菌、画像異常、とあります。でも、ふつう気管支拡張症の患者さんを診療していて、よく訴えがあって困るのは咳とか痰とかの自覚症状ですよね。あるんだかないんだかよくわからないような。でも、それはそもそも項目に入ってすらいないんです。ということは、ほとんど無視しちゃっても構わないということなのかな、って思ったりします。



かば:咳のスコアと一緒にとって比べてみて、ほんとうに咳は重症度と関係がないということが言えたら面白いですね。もしくは、実は自覚症状を入れたほうが予後が悪いとか。

かわうそ:個人的には、こういう咳とか痰とか違和感とかの症状は、疾患の重症度というよりは性格と捉えたいですけどね。

かば:それが言えればいいですけど、やってみないとわからないとこです。これくらいなら簡単に研究できそうじゃないですか?前こういうことやってませんでした?

きりん:データを入れるとスコアが計算できるホームページがあって、密かに自分の患者さんでやってました。入院してきたら、Severity indexを入れて重症なことをカルテに入れて、死亡率いくらとか計算して一人嬉しがったり。でも、うちで実際に研究をやろうとすると、肺機能とか喀痰検査が出ていない…、ってなるんですよね。

かば:外来から肺機能検査の部屋までが遠いですからね。ちょっと躊躇しちゃっています。
やっぱり電子カルテのテンプレート機能をもっと活用しないといけないですね。テンプレートがあれば、そこに記入しないといけないような検査をオーダーするきっかけになりますし。

かわうそ:(こんなマイナーなインデックスをすでに知っていてさらに活用していたとは…。)
まあ、肺炎を繰り返すような方は、本当の気管支拡張症できちんと治療しないといけないと思うんです。でも、すごく多いのは、画像異常だけで自覚症状のない患者さんじゃないですか?でも画像異常が3葉にあったとしても、それだけではこのスコアは非常に点数が低いんです。

かば:それでもずっとフォローされて、しつこくクラリスが出ていたりしますよね。

きりん:それだけならまだいいです。私が引き継いだ患者さんは、ユナシンが14日ごとに出ていた人とかいました…。
あと、非結核性抗酸菌症の気管支拡張症と思って気管支鏡検査したら、実は緑膿菌だったという人がいました。よく聞いてみたら、ちょっと前に肺炎で他院に入院してたということもわかって。それだけで結構重症度高くなります。

かば:こういう点数配分って面白いですね。入院と増悪って足すんでしょうか?増悪って肺炎もはいるんでしょうか?

きりん:たしか、痰が増えたとかで外来で治療したというのが増悪と判断されるんだと思います。COPDの増悪と同じかと。

かわうそ:というわけで、役に立つかどうかわかりませんが、この治療ステップの表で自分の話は終わりです。でも、結局鎮咳去痰薬については触れられていないっていうのが、面白いですね。

かば:ほぼ日本だけの薬ですよね。あっちの人は嫌いなんだと思う。


2015年7月28日

登場人物紹介

このブログの登場人物の紹介です。

かば(リーダー的存在、とみせかけてモブ)
・10年目+α
・好きな医学雑誌:Thorax、Chest、CCM、日本胸部臨床と画像診断もこっそり好き
・趣味:海外ドラマを見ること、Cold CaseとCSI(とくにMiami)、LOW&ORDER
    ジグソーパズル
・好きな薬味;茗荷 おかげで物忘れが激しい

きりん(勉強中)

・後期レジデントを卒業したばかり
・好きな医学雑誌:NEJM, CHEST, JCO 
・心の中の趣味は楽器を吹くことです(現在休業中...)
・好きな色はネイビー

かわうそ(新参者)

・10年目くらい。
・好きな医学雑誌:NEJM
・趣味:史跡巡り(最近、逢坂山の名前の由来を知り密かに喜んでいます)
・好きな時間は、録音した深夜ラジオを一人でニヤニヤ聞いている時


基本的にこの3人でやっています。
その他にも時々いきなり登場するかもしれません。


2015年7月24日

成人気管支拡張症の管理 その2

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

(その1から続き)

その2

かわうそ:さて、次は治療についてです。治療としてエビデンスがしっかり確立しているといえるのは、まずは理学療法です。効果は限定されますが、安全でまあ有効ということです。ここで久しぶりにAcapella®っていう名前を見ました。これはどんなものでしたっけ?

かば:もともとは採痰用の器具です。震えさせて痰を出しやすくするらしいです。前働いていた病院でベンチャー企業の人がきて説明受けました。スタディとかあったんでしたっけ?学会とかでも見たことないんですが、ここに載っているってことはエビデンスとかあるんでしょうか?

かわうそ:ちょっと興味ありますね。研究ネタにいいかもですね。
次の段落は、inhaled hyperosmolar agents and mucolyticsについてです。気道クリアランスのため、高張食塩水とか去痰剤なんかを吸入するわけです。あと、ドライパウダーマンニトール、っていうのも海外では使われているみたいです。ドライパウダーって書いてあるので、パルミコートみたいに吸うんでしょうか?ただ、臨床試験では効果はいまいちみたいですね。さっきも言いましたが、やっぱりこういうトライアルって、数を集めるためにあんまり効果がでなさそうな人も入れちゃうような気がしません?

かば:MACの人とかの咳とか痰とかの訴えを診てる経験からすると、何かやってよくなったようにみえても症状が少し残ってるって言われ続けることが多いように思います。症状になかなか満足していただけないというか。

かわうそ:ある疾患になりやすい性格っていうのは、やっぱりあるんでしょうね。
次は経口の抗生剤と抗炎症剤についてです。マクロライドのトライアルが表になっています。大きな、って言っても100人くらいの試験です。けっこうがっつり飲んでます。AZM500mg週3回とか。耐性菌、心血管系副作用、消化管症状に注意ですね。ただ、マクロライドはやっぱり効果あるみたいです。

かば:エリスロマイシン400mgくらいならあんまり副作用でやめることないですよね。

きりん:ずっと飲んでる方多いですよね。

かば:ドライシロップであまいんで、糖尿とか心配になりません?

きりん:薬局によりますけど、処方箋に書いておけば錠剤に変えてくれるところもありますよ。錠剤は相当大きいですけど。基質減らしたり出来ないんでしょうかね。

かわうそ:それいいですね。エリスロシンDSは子供用なんでちょっと抵抗ありますね。
次はICSですね。ICSは一定の評価を得ているようです。肺炎が増えないか、という懸念はやっぱりありますが。最後に喘息治療みたいな感じで治療ステップの提案がありますが、そこでも中等症以上には推奨とされています。
最後は、吸入抗生剤です。流行りなんでしょうか。全身投与よりは副作用が少ないし、高濃度投与ができるという理論のもと、けっこうたくさん試験されています。アミノグリコシド以外にもアモキシシリンとかシプロキサンとかも使われようとしているんですね。残念ながらネガティブデータが多いみたいですが、やっぱり創薬にはお金が動くからなんでしょうか、かなり精力的に行われていることが、この段落の文章の多さから垣間見ることができました。すいません、このあたりは読み流しています。なにせすぐに臨床に役立つ内容ではないので。
かなりショックなのが、Eradication、つまり、根絶という項目です。緑膿菌が検出されてはだめ、というスタンスです。BTSのガイドラインで緑膿菌根絶のためのユースフルなアルゴリズムを提供している、とあって、ちょっと興味あります。といっても読んでないです、すいません。

かば:嚢胞性線維症があるからなのか、向こうの人は緑膿菌に対して鬼のように厳しいですよね。緑膿菌以外はなんとかなるので、ラスボス的な存在になってるというのもあるかもしれませんが、知り合いのブルガリア人の研究者の業績は、緑膿菌関連のが多かったです。

かわうそ:負け戦になりませんか?いたらしょうがないとおもっていたんですが、ちょっとショック受けました。反省して考えを改めます。
あとは、増悪・手術・合併症についてちょっと書いてあります。

その3に続く


2015年7月21日

成人気管支拡張症の管理 その1

Management of bronchiectasis in adults.
Chalmers JD, Aliberti S, Blasi F.
Eur Respir J. 2015 May;45(5):1446-62.

2015年7月8日

その1

かわうそ:今回はちょっと役に立つ文献を読みたいなという期待を込めて選んでみました。

嚢胞性線維症以外の気管支拡張症の管理についての総説です。すぐに臨床に役立つものではなかったのですが、興味深いところはいくつかありました。

まず、アブストラクトのところに、気管支拡張症はいろいろな疾患が進行して最後にたどり着くものってことが書いてあります。つまり、感染、遺伝性、自己免疫、アレルギー、COPDなどが基礎にあるかなりヘテロジーニアスな疾患で、経過が様々ということです。これだけ雑多だと、なかなか研究するのも難しいんだろうな、って思いました。もともとはorphan disease、まれな疾患として無視されていたのですが、最近陽の目を浴びつつあるようですね。

治療の中心としては、airway mucus clearance、eradication and prevention airway bacterial colonisation、reducing airway inflamationとなっていて、肺機能だとかQOLを改善すること、となっています。このあたり、具体的にどんな治療がいいのか、というところを教えてくれると期待して読みすすめましたが…。

かば:もともと日本でしか認識されてなかったんですよね。マクロライド治療がいいんだとか。

かわうそ:あとでもマクロライド治療のRCTについて触れられているんですが、残念ながら日本からの報告ではないんですよね。ニュージーランド、オーストラリア、オランダでされています。

かば:日本ではじめられたのに、RCTは先をこされちゃった、と。

きりん:マクロライド研究会とかあるんですけどね。

かわうそ:そんなのあるんですか?知らなかったです。
頻度とかもあまりはっきりしたことはわからないようですが、アメリカでは52/100000人くらいと書いてあります。本物の気管支拡張症は、かなり予後が悪いものと認識されているようで、特に気道感染の頻度がけっこうえげつないです。年1.8-3回とか、2年で3割が増悪を経験するとか報告されています。COPDよりも断然多いですね。

かば:たしかに気管支拡張の方は、定期受診以外の受診が多い印象はありますよね。

かわうそ:予後も厳しく、半数が呼吸器疾患が原因で亡くなるらしいです。本物の気管支拡張はシビアですね。今のところ外来で診てるのは、CT画像で異常なだけで動きのない方ばっかりなので、ちょっと油断してました。一度病歴見直してみようと思います。
続いて病理についてつらつら述べられています。気管支拡張症で難しいところは、好中球炎症が原因であるというところみたいで、それを抑える薬がないのが、治療を難しくしているというわけみたいですね。

かば:好中球炎症ってところはCOPDに似てますね。

かわうそ:実際COPDにも新しくそういう好中球炎症を抑えるような薬ができつつあるみたいなので、気管支拡張症にも使われるようになるのかもしれません。でも、気管支拡張症の原因が様々である以上、ひっくるめて検討してしまうと、効果なし、っていわれてしまわないか心配です。ヘテロな疾患の中でも、比較的機序が同じそうな症例を集めたほうがいいと思うんですが、まれな疾患というところで集めるハードルが高くなりますし。
最近、体内の細菌叢を、培養でなくゲノムで研究できるようになったというところも、期待できるところです。個人的にはけっこう注目してる分野です。これまで無菌と思われていた肺内も、けっこういろいろ住み着いてて、その変化が疾患に影響しているのではないかという話ですね。
Figureに気管支拡張症の病理が治療方法にからめて描いてあります。構造が壊れて、痰がたまり、細菌が住み着き、炎症が惹起される。また構造が壊れ、という悪循環が続いていく、ということみたいです。それぞれの段階での治療法という触れ込みでいくつか書いてありますが、どうなんでしょうか。あんまり有効に思われないんですが。

かば・きりん:ふふふ。

かわうそ:治療は一般的には、まずは禁煙とワクチンを薦めるというとこです。で、基礎疾患についての検査をするべきらしいです。ABPA、COPD、NTM、CF、喘息、GERDなどです。気管支拡張の原因で、NTMとか細菌感染以外はあんまり意識したことありませんでしたので反省しました。で、ここがよくわからないんですが、Immunoglobulinとか、ワクチンに対する特異的抗体反応を調べるように書いてあるんですよね。

かば:COPDで増悪するひとは、免疫反応がにぶくなる、っていうのがあるんです。それと似たような感じで、免疫反応を調べて増悪しやすい群を特定するっていう意図があるんではないでしょうか。

かわうそ:残念ながら、しらべろって書いてあるだけで、亢進していてどうか、減弱しているからなんなのかは書いてないんですよね。

きりん:BTSには気管支拡張症のガイドラインていうのがあるんですね。

かわうそ:そうみたいですが、ここまで調べてないです。すいません。
(後日調べたところ、Thoraxみたいな形式のガイドラインがフリーで利用できました。そのうち読んでみます。)

その2に続きます。


はじめに

私たち有志が非公式にほそぼそとそしてゆるゆると続けている勉強会があります。
すでに1年以上続けていて、ファイル3冊にもおよぶ文献に少なくとも触れたことになっています。印刷代を自腹で負担しているにも関わらず、これだけ続けてこられたことに感激しています。

せっかくですので、その記録を残すことにしました。

ただ、世の中に医学論文を紹介するブログやサイトはすでにたくさんあります。更新頻度も内容も非常に高度なので、普通にやっていては全く対抗できる気がしません。諸先輩方に敬意を評しつつ、しかし私達も何とか新しいことを始めてオリジナリティーを出したいと思っています。

この勉強会では、毎朝その日の担当が自分の興味のあるテキストを持ってきます。英語、日本語、論文、教科書、参考書いずれも不問です。科が同じだからといって、似たような論文が選ばれるわけでなく、思いもよらない話題が出てくることもあってけっこう刺激的です。そして、一人で読んでいては思いつかないような、いろんな感想や発想がいつも出てきて感心しています。

というわけで、単に医学論文の内容を紹介するだけでなく、勉強会の記録という形式にして、人によって様々な見方受けとめ方があることを示せればと思います。

こういう私たちの勉強会の雰囲気を伝えて、一緒に働いてくれるような(精神的に)若い先生が来てくれればいいな、と思っています。