2016年12月30日

27歳女性、突然の意識障害 その2

追加の検査と経過についてです。


CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Scratching Below the Surface
N Engl J Med 2016; 375:2188-2193
Mathai SK, Josephson SA, Badlam J, Saint S, Janssen WJ.

2016年12月13日


その2

その1からつづき

かば:まだ採血の結果出ていませんよね。あと、やっぱり細菌性とウイルス性の髄膜炎としての治療が必要ですよね。治療開始が遅れるのは禁忌ですし。
あと、結核性髄膜炎はどうですかね?

かわうそ:除外できないとは思いますけど、もうちょっと亜急性から慢性の経過であって欲しいという思いはあります。
あと、結核の薬って点滴ありましたっけ?胃管入れてまでするべきなんでしょうか?

ここでは、さっそくアシクロビルとバンコマイシンとセフトリアキソンが入っています。
検査も外さないようにしないといけないですけど、治療も遅れてはだめなところが、神経系の病気の怖いところですね。

血液検査の結果としては、生化学、肝機能、甲状腺、CBC問題なしです。尿のトライエージでも陰性でした。
こういうときいつも、何かしら異常が見つかってくれと、祈るように検査結果を待っているんですけど、残念ながら頭部CTは明らかな異常を指摘できませんでした。

かば:やっぱりまだここではMRI撮れないんですね。じゃあ、CSFはどうですか。

かわうそ:CSFでは、白血球は多いくらいなんです。糖は下がっていなくて、蛋白は正常。グラム染色では最近検出されませんでした。

かば:リンパ球に白血球が多くて、糖が下がっていないならウイルス性髄膜炎でいいんではないでしょうか?

かわうそ:なるほど。でも、アシクロビルがどれくらい即効性があるのかどうかわかりませんが、残念ながら少なくとも12時間後には、さらに話し方に知性が感じられなくなり、興奮状態も悪化しています。

かば:大変ですよこれは。

かわうそ:ベンゾジアゼピンやハロペリドールを使ってみましたが、さらに精神症状が悪化して攻撃的になっています。
仕方がないので、鎮静して挿管人工呼吸管理をしています。

CSFでの白血球増多はたしかに大切な所見です。薬剤性や代謝性の脳症は可能性が低くなるかもしれませんが、感染が確定するわけでなく、自己免疫性や傍腫瘍神経症候群については除外できません。

挿管できればMRIも撮影できますが、ここにMRI画像が載っていないことからも分かる通り、異常なしでした。

かば:泣きそうになりますね。

かわうそ:でも、こんなに派手な症状を呈しているにも変わらず、画像に異常が出ていないというのは、これはこれで参考になる所見といえる訳です。
とはいえ、私はこの病気知りませんでしたけど。

かば:となりに腹腔鏡とか経膣エコーの写真が載ってますからね。推測できます。

かわうそ:ホントですか?すごいですね!
卵巣の中にハイエコー病変があります。さらに腹腔鏡で卵巣を見ていますが、表面には異常ありません。エコーで分かる通りだいたい1cmくらいの結節ですし。
その病理標本も載っていますけど…。

かば:いろんな組織が見えますよね。まあ、テラトーマ、つまり奇形腫ですよね。というわけで、抗NMDA受容体抗体脳炎ですよね。

かわうそ:この病気はそんなに有名なんですか?全然知らないんですけど。
でも、こういう派手な神経症状にもかかわらず脳の画像検査で明らかな異常が見つからない場合は、この病気を疑って経膣エコーで卵巣を調べるのがほぼルーチンみたいなノリで書いてます。ここでも、1cmしかない病変を探しに行っていますし。

かば:調べたら新しい疾患みたいですね。2007年提唱とされていますので、大学では習っていないはずです。
内科専門医試験の勉強でみましたけど。

かわうそ:さすがですね。治療は知っています?

かば:卵巣切除ですね。

かわうそ:そうですね。まずそれで抗体の産生を減らします。あとは血漿交換やステロイドまたはイムノグロブリン投与で抗体を減らします。
これで基本的には完全に回復するはずです。それでも回復しない場合はシクロホスファミドとかリツキシマブを使うようです。

かば:ここでもリツキシマブ出てきますね。

かわうそ:ちなみに、この症例では血清中には抗体を検出できませんでしたが、CSF中から出てきて診断できました。
この症例では、いまいち治療の反応が良くなかったようですが、諦めずに治療して、最終的には劇的に完全に回復しました。

かば:よかったですね。でも、怖い病気ですね。
奇形腫の組織に脳の神経細胞を思わせるような部分がありますね。mature ganglion cellとあるので、このあたりが抗体産生に関係しているのでしょうか?

かわうそ:なるほど、そのあたりが、この回の題名の「scraching below the surface」と関係しているのかもしれませんね?
やっぱり英語の素養がないので、いまいちしっくり来ませんが。

かば:傍腫瘍神経症候群も、そういえば画像では明らかな異常がでないはずなので、似ていますね。そういえば、最近一人いましたね。
原因不明のふらつきで受診して、頭部画像検査でも異常なし、ビタミン不足なんかもなかったみたいです。で、胸部CTで肺に腫瘍が発見されて紹介されていました。


2016年12月28日

27歳女性、突然の意識障害 その1

映画エクソシストのモデルになった疾患らしいです。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING
Scratching Below the Surface
N Engl J Med 2016; 375:2188-2193
Mathai SK, Josephson SA, Badlam J, Saint S, Janssen WJ.

2016年12月13日


その1

かわうそ:27歳日本人女性。5日前からのせん妄なんですけど。
7日前からちょっとお腹の調子が悪かったようです。その2日後から、記憶障害、不安、興奮、幻視、幻聴、手足の拘縮、けいれんなどが出現しています。

この段階で、どんなこと考えますか。まだ病歴とかぜんぜんわからないんですけど。

かば:突然なので、感染とか薬物ですかね。

かわうそ:このあたりがどれくらいの都会か、とかによりますけど。まあ、トライエージはしますよね。

かば:田舎のほうがはびこる可能性もありません?

かわうそ:そうかもしれません。田舎だからと言って、ないわけではないでしょうね。

とりあえず、大きくはせん妄という状態として捉えて、せん妄の鑑別診断を体系的にアプローチするべきなんでしょう。
せん妄とは、急性の精神状態の変化でして、特に注意や認知が障害されます。この症例でも十分あてはまります。

まず最初に胃腸症状があって、それから精神症状が出現しています。
興奮して幻覚があって、さらに四肢の拘縮があることから、広い範囲の脳の障害があるということが読み取れます。

記憶障害とか幻覚からは側頭葉の、幻視からは後頭葉の、拘縮からは大脳基底核の、それぞれ障害があると推定しないといけません。

かば:こういう風に論理的に考えていけるのはすごいですよね。

かわうそ:この広範囲の障害は単純な脳梗塞や脳出血とかの巣病変では説明がつきません。
薬物とか、橋本病の脳症状とかの内分泌疾患、感染性の脳炎、髄膜炎とかを考えるべきです。あと、ヘルペスは外せませんね。あとは季節的に西ナイル熱なども鑑別に上がっています。自己免疫性疾患も当然考えます。

さて、ここで配偶者が来て、ようやく病歴がとれました。本人からは全く問診できませんので。
5年前からコロラド州に住んでいます。病人との接触なし、旅行歴なし。違法な薬物の使用もないようです。妊娠に向けて葉酸か何かのサプリを飲んでいます。

最近ちょっと熱があったようだという情報を得ました。

さて、ここでどう考えますか?

かば:熱があるなら感染が考えやすくなりますけど、自己免疫疾患とか傍腫瘍性の疾患の除外もできませんよね。

かわうそ:自分としては、家族が薬物使用歴はないっていう話をしたとしても、トライエージするまでは信じないと思いますけど。薬剤性で熱があがることもなくはないそうです。
あと妊娠も。子癇以外で妊娠と意識障害の関係があるのか知りませんけど。

日本からの移住ということですので、一応日本脳炎も鑑別に上がるようです。ただ、5年間アメリカに住んでいれば、そこまで心配しなくていいと言っています。
あと、日本人ならきちんとワクチン接種されているはずだし、日本脳炎以外でも、ワクチンで予防できる感染症については可能性は低いと言っていますけど、これってちょっと日本の医療を過大評価しすぎじゃないですか?

かば:一応定期接種ですし。長期滞在するなら、ワクチン接種の証明も要求されるんじゃないですか?

かわうそ:ならいいんですけど。まあ、麻疹とかのこともありますし。ちょっと日本の医療を信じ過ぎでは?と思ってしまったわけです。
バイタルとしては、微熱があって、脈が早くて、血圧が高くて、呼吸数が多いです。見当識障害があって、興奮して叫んでいます。手足もゆらゆらしています。かなり音や光による刺激がるようです。話は全く通じません。えらいことになりましたね。こんなの引いた日には、「なんて日だっ!」って言ってますよ。

かば:どうしたらよいかわからないですね。

かわうそ:そんな中でも、眼底初見を取って乳頭浮腫がないことを確認しています。脳浮腫はなさそうだということで、やっぱり脳脊髄液、CSFを取る気みたいですね。これだけ興奮していて、実行可能かどうかは不明ですが、とりあえず速やかにとるべき、と何度も書かれています。
また、項部硬直も筋力低下も深部腱反射の異状もなし、とのことです。

かば:つくづくすごいですね。こんな状況でも身体所見きっちり取ってますね。

かわうそ:CSF取るためにも、画像検査するためにも、やっぱり鎮静しないといけませんよね。とりあえず、なんとかCTまでは取れたようです。
で、追加の検査と治療として何しますか?


その2へつづく


2016年12月22日

62歳男性、食事がのどを通らない。その2

幸運な症例の続きです。治療経過です。
この治療が早く広まるといいと思います。


Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.

2016年11月28日

その2

その1からつづき

かば:扁平上皮癌でも腺癌でも同じメニューでよいんですか?どちらが予後が悪いんですかね?
たしか、日本は扁平上皮癌が多くて、外国は腺癌が多いんでしたっけ?
でも、うちなら多分CDDP+S1とかが多いように思います。

かわうそ:なるほど。すいません。経験ないので何も言えません。
ここではEOXというのを最初に検討しています。けっこうエビデンスはあるようなんですが、いかんせん、休薬期間がないらしいんです。よく知りませんが、けっこう恐怖を覚えます。epirubicin、oxaliplatin、capecitabineと、けっこう緊張感のある薬が並んでいますし。
あとは、FOLFOXかなっていっています。

かば:大腸がんでつかうのかと思ってました。

かわうそ:ほかにはCDDP+CPTも候補に上がっています。
このあたりの選択についても、きちんと論文を参照しています。これらを比較したRCTで、効果は同じくらいだけど副作用が少なかったという理由で、FOLFOXがよいのではないかと言っています。

放射線との併用もしやすいみたいです。FOLFOXとCDDP+FUの比較の論文が引用されています。さらに、放射線治療のスケジュールについても、いろいろ論文を引いた上で、計画したと言っています。

かば:えらいですね。

かわうそ:この態度は見習いたいですね。
しかし、治療完遂後、フォローアップのPET-CTで遠隔転移再発がありました。で、2nd lineの治療についてなんですけど、どうしますか?

かば:そもそも食道の腺癌ってほとんど見たことありませんし。
肺癌でも、2nd lineの治療ってあんまりガイドライン通りやっていませんよね?

かわうそ:DTX単剤くらいですけど、若くて元気だからという理由で1st lineと同じようにプラチナダブレット使いますしね。
ここでは、CPTとかDTXの単剤治療かな、とか書いてあります。最近では、PTXとサイラムザの併用が話題らしいですけど。
ただし、BSCとこれらの治療を比較した論文によると、1.5ヶ月の生存期間延長が期待できるくらいらしいんです。サイラムザのレジメンでも、生存期間を約2ヶ月伸ばすくらいです。

かば:…。やっぱりかなり厳しいですよね。

かわうそ:でも、これだけではたぶんこのケースレポートになりません。
ここでは何をしているかというと、一か八か遺伝子変異の検索をしているんです。
胃癌では、HER2過剰発現があれば、乳がんの治療薬のトラスツマブの効果が期待できるなんていう知見もあるし、とかいろいろ書いてあります。

かば:胃癌なら必ずHER2は調べていますよ。

かわうそ:このあたりは何をやってるのかよくわかりませんので、結論だけ言うと、PIK3CAという遺伝子変異がみつかったということと、METの増幅があることがわかりました。

かば:どちらも知りませんけど。でも、ふたつの遺伝子変異があるのって珍しくないですか?

かわうそ:そうですね。そのあたりは後の質疑応答でツッコまれていますが、そもそも、こんな症例ないのでコメントのしようがないって言ってます。
PIK3CAの方については、食道領域では胃癌での報告があるくらいだそうです。乳癌では、トラスツマブに対する反応がよくないものの、予後はよいという報告があるようです。肺癌では、EGFR遺伝子変異陽性のうち、少数で見つかることがあって、EGFR-TKIに対する耐性の獲得に関係するようです。

METの増幅については、とくにhigh-gradeの食道腺癌に認められて、アグレッシブな経過をたどることが多いそうです。この症例でも、放射線化学療法に対してPDでしたし、当てはまりそうですね。

で、クリゾチニブを使っています。

かば:え?ザーコリですよね。あれはALK融合遺伝子だと思っていましたが、そういえば関係あるんでしたっけ?

かわうそ:よくご存知ですね。ネットで調べてみたところ、もともとc-Met遺伝子の阻害薬として開発されていたらしいんです。
MET増幅って、消化器系の悪性疾患では多いような気がしますけど、あんまりクリゾチニブを使うって聞かないですよね?

かば:適応ないですよね。

かわうそ:で、内服開始してからのPET-CTをみると、原発巣も転移巣も全く取り込みなくなっています。

かば:すごいですね!

かわうそ:この症例では四年間のみつづけてまだ効果が持続しているようで、めでたしめでたし、といえるかどうかわかりませんが、かなり幸運だと思います。

最近、ザーコリって、アレセンサとかとの比較でいいところがあまりないように思っていましたので、これでちょっと見直しました。

2016年12月19日

62歳男性、食事がのどを通らない。その1

非常に幸運な症例と思います。
まずは病歴と診断までです。

Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.


2016年11月28日

その1

かわうそ:今回はわりと珍しいんですけど、早速病名が書いてあります。食道腺癌です。
ゴルフボールが喉に詰まっている感覚が2ヶ月続くということで受診されました。胃食道逆流が疑われ、PPIを処方されましたがよくなりません。

かば:次の手としては、梅核気ってことで半夏厚朴湯を試してしまいそうです。たしかに、食道癌のもありえますし、早めに胃カメラが必要でしたね。

かわうそ:怖いですよね。感覚だけなのか、実際に飲み込めないのか、きちんと聞かないと、ですね。この症例では実際に通らなかったようです。
ここではまずバリウムをされています。Fig 1Aでは、胃食道接合部のあたりの粘膜が不整な感じになって狭くなっているのがわかります。口側が拡張しているようにも見えます。
次がPET-CTです。

かば:内視鏡じゃないんですね?

かわうそ:ちょっと不思議ですが、検査のハードルもいろいろありますし。
CTでも、胃食道接合部のあたりの食道が全周的に肥厚していることがわかります。PETでFDGの取り込みもあります。この図ではわかりませんが、腋窩リンパ節なども腫脹しているようです。
血液検査では、CEAとCA19-9が上昇しています。

かば:なるほど、腺癌っぽいですね。

かわうそ:上部消化管内視鏡検査では、遠位食道から胃食道接合部にかけて、周囲がやや隆起して、中心に潰瘍を形成している病変がありました。食事ものどを通らないくらいですので、内視鏡もなかなか通りません。拡張させてから胃・十二指腸までのぞいています。そこには病変を認めなかったようです。
超音波内視鏡の画像も載っています。粘膜下まで浸潤していること、リンパ節腫脹があることが確認できました。

そして、さっそく生検しています。

かば:検体が大きいですね。

かわうそ:気管支鏡検査の検体とは違いますね。消化管内視鏡では、生検の検体だけで粘膜下まで浸潤しているということがわかるらしいです。

かば:で、これは腺癌でいいんですか?

かわうそ:HE染色で青っぽく染まっている部分がムチンらしいです。そのあたりから腺癌を伺わせますが、なかなか腺管形成がはっきりしません。

かば:低分化型なんでしょうね。
細胞診のパパニコロウ染色で、扁平上皮癌は黄色っぽくなるんでしたっけ?
これをみると青色ばっかりなので、やっぱり腺癌が疑わしいですね。

かわうそ:ちなみに、細胞診の検体でセルブロックを作成すると、少し腺管形成らしいものができてくるのが不思議です。

というわけで、低分化型腺癌、リンパ節転移あり、というところまで診断できました。

ここから病歴がはじまります。
嚥下困難と嘔吐のため食欲がなく、2ヶ月間で9kg減っています。

かば:それは大変ですね。

かわうそ:と思うのが日本人の限界でしょう。あとでこの人、体重が111kgだとでてきまので、本当に大変なんでしょうか?

かば:それでも1割減っていますし…。

かわうそ:たしかにそうですね。
そういえば、胃カメラのあとは食道が少し広がったためか、ごはん食べられるようになったような記載もありました。
既往としては、高血圧、高脂血症、脊椎の変形があります。子供の頃の虫垂炎の手術のときに小腸を切除して短くなったため、下痢をしているようです。

かば:慢性的に下痢をしていて、それでも111kgですか。

かわうそ:これらでけっこう大量の薬を内服しています。喫煙歴もしっかりあります。
さて、こういう人にどういう治療をしましょうか?

その2へつづく



2016年11月29日

泳いだ後に血を吐く人

こんなことってあるんですね。想定外の主訴ですので、外来で遭遇したら確実に慌てる自信あります。

Exercise-induced haemoptysis as a rare presentation of a rare lung disease.
Thorax. 2016 Sep;71(9):865-8. 
Mihalek AD, Haney C, Merino M, Roy-Chowdhuri S, Moss J, Olivier KN.

2016年10月7日

かわうそ:特に既往のない若い患者が来院されます。アフリカ出身です。なぜか、頑なに「Patient」と書かれており、性別不明です。多分男性だと思うんですけど、最後まではっきり言ってくれないんです。

かば:すごいな。なぜ隠すんでしょう?

かわうそ:なにか意味があるんでしょう。
主訴は4年間続く、運動誘発性の喀血ということで来院されました。しかも、2マイルの水泳したあとに必ず喀血します。量も結構多くて100-200mlとのことです。自然に治るらしいんですけど、けっこう大変なことと思うんですけど、発症から4年目でようやく来院です。

かば:2マイルって3kmだから、すごくないですか?アスリートですか?
でも、日常的にそれだけの症状があればもっと早く受診しそうですよね。最初に泳いだときには何ともなくて、だんだん症状が出てきたということですか?

かわうそ:そのあたり気になりますけど、あんまり詳しい情報はないようです。謎が多いですね。これ以外の症状、例えば胸痛、呼吸困難などの呼吸器症状はありません。また、水泳以外の運動は、普通に楽しくできるようです。

こういうわけのわからない不思議な症例がやってきた場合、先生はどうしますか?自分なら、そんなことあるわけないと思っちゃうので、冷たい態度をとってしまう可能性ありますね。特に忙しい日なら。

かば:さすがに喀血が主訴なら、ちゃんとみると思います。100mlはすごいですよ。

かわうそ:そうでしょうね。
実は、こういう症状があるわけがないと思ってしまうのは、自分の勉強不足なだけなんです。世の中は広いです。こういうclinical entityがちゃんとあると書いてあります。swimming induce pulmonary edemaというらしいです。水泳している人や軍隊では、わりと知られた疾患らしいです。

かば:へー。防衛医大とかでは習うんでしょうか?

かわうそ:たぶんそうなんでしょう。
機序もしっかりと書いてあります。運動して心拍出量が増えて、肺血流が増えて、肺動脈圧が高くなるわけですが、水の中だと血管が広がりにくくなるので、なにやらこのあたりのバランスが崩れて、肺水腫になる、とのことです。
ただし、これだけで喀血をきたすかどうかと言われると、それは疑問でして、おそらく、血管内皮細胞が破綻するような、別の基礎疾患があるのではないかということが疑われます。

とまあ、後付ならこういうことを思うわけですが、この人はアフリカではずっと抗生剤を投与されたりして治療されていました。当然無効ですし、喀痰検査で有意な菌が検出されることもありません。
アメリカに移住してきてから、病院も変わって、改めて評価されています。

かば:やっぱりプロのアスリートではないみたいですね。レストランで働いていると書いてありますし。

かわうそ:そうかもしれません。でも、マイナースポーツなら、トップクラスの選手でもそれだけでは食べていけない可能性もありますよ?

さて、この病院でとった、現病歴が詳しく述べられています。
アメリカにきても水泳して、やっぱり水泳するたびに喀血しています。その他の呼吸器症状は全然ありません。喫煙はほぼなし。危ない薬はやっていません。兄弟には結核がいるようです。
身体所見では、口腔内衛生が少し悪い以外は突起すべき異常所見ありません。血液検査、喀痰検査、心エコー、気管支鏡検査では特に異常ありませんが、胸部CTでは異常ありです。どうみます?

かば:壁の薄くて不整なところのない嚢胞が多発していますね。

かわうそ:こういうcystic lung changeのある疾患は少ないので、鑑別もだいぶ少なくなります。

かば:多分、ここでLAMを考えてほしいので男女の区別を曖昧にしていたんでしょうね。

かわうそ:おそらくそうだと思います。この人は男性ですので、否定していただいて良いです。

かば:ランゲルハンス組織球症と嚢胞性線維症はどうですか?

かわうそ:嚢胞性線維症は、どうやらもう少し壁が厚かったり、気道に沿った分布がはっきりしてほしいみたいです。ただ、見たことないので…。
ランゲルハンス組織球症は、喫煙との関係が明瞭ですので、この人のように、あんまり喫煙していないなら、可能性は低くなります。

かば:あと、結節影もありませんし、合いませんね。
そういえば、BHD(Birt-Hogg-Dubé)症候群はどうでしょうか。

かわうそ:それは言及ありませんでした。でも、たしかに画像的にも鑑別に上がりそうですね。

かば:あれは気胸が反復するので、症状としては合わないかもしれませんが。あとは丘疹、腎腫瘍などがあるかどうかですね。遺伝性疾患なので家族歴も参考になると思います。

かわうそ:あと、ここで思いつかないといけないのは、アミロイドーシスです。
さて、気管支鏡でも診断がつかなかったので、この人はVATS生検が行われています。白黒写真なのが残念ですが、間質、血管周囲に好酸性で無構造な物質が沈着しています。コンゴレッド染色もして、アミロイドと確定しました。

というわけでアミロイドーシスだったんです。アミロイドーシスにはAAとALがあります。ALの方が、リンパ腫などの基礎疾患があって重症になるようです。
この人は4年間症状が変わらないので、二次性のAAアミロイドーシスなんだろうな、と予想されます。この辺も少し詳しく記載ありますが、割愛です。

ただでさえアミロイドーシスは珍しいんですけど、さらに水泳誘発性肺水腫を合併しているというわけで、ものすごくレアですね。
ただ、診断できても、治療の方法がないんですよね。水泳やめるしか。結局、フォローからは脱落してしまいました。

ちなみに、この論文はイギリス英語なので、edemaがoedemaと表記されています。だからか、swimming induce pulmonary oedema、略語はSIPOと書いてあります。

かば:esophagealがoesophagealと綴られるみたいですね。GERD(Gastroesophageal Reflux Disease)もGORDとかいてあるのを見たことあります。
そういえば、この報告では、SIPOとSIPEが混在していますね。たぶんアメリカ英語で書いてて、校閲をすり抜けてしまったんですね。

かわうそ:内幕が見えたような気がして、少し面白いですね。


2016年11月18日

31歳女性、不妊症 その2

診断と経過についてです。



2016年9月28日

その2

その1からつづき


かば:子宮内膜に肉芽腫ができる疾患ですよね。…、結核とサルコイドーシスしか思い浮かびませんね。

かわうそ:普通はそうですよね。親切なことに、Table 2にまとめてあります。まずは感染か非感染で考えます。感染なら、結核、真菌、寄生虫などです。
非感染なら、サルコイドーシス、異物、手術後、血管炎などです。
この中で何が一番考えられるか、ということなんですが…。

やっぱり、結核の蔓延国からやってきた人、というのが一番ひっかかるらしく、外せないです。ほとんど決まり、みたいなテンションで書かれてあるように感じました。

卵管の狭窄と子宮内膜の肉芽腫がある、ということも結核なら矛盾しません。

かば:オッカムの剃刀ですね。

かわうそ:とはいうものの、結核を否定する要素もいろいろあります。まず、BCGをしっかり接種されています。そして、乾酪壊死がありません。また、他の臓器症状がありませんし、熱や咳など結核の症状がそもそもありません。画像上、肺の病変もありませんし。血液検査で炎症のない健康な若い女性なんです。

でも、ネパールでは人口の45%が感染しているわけですし、その大多数が子どもを産んで育てるべき人が罹患している、と書いてあるんです。

かば:なんと。

かわうそ:BCGって、髄膜炎を予防する程度なのかと思っていましたが、子どもの感染のリスクを5割くらい下げると書いてあります。すいませんでした。認識を改めます。

かば:BCGは大事ですよね。

かわうそ:そうなんですね。
活動性の結核に進行するのも8割近く減らします。ただ、10-15歳で効果がなくなってしまうんです。それ以降の感染は予防できません。

性器結核は、ネパールでは不妊に悩む女性には珍しくないらしいです。呼吸器の結核がないのは別に珍しくなく、この人の症状はまさに典型的なようです。

結核性子宮内膜炎についての病態生理もけっこうわかっているらしく、まず、もともとの感染巣から血行性またはリンパ行性に卵管に感染巣をつくります。そこからは卵管を通って子宮内膜にドレナージされます。だから、卵管狭窄はほぼ必発です。

子宮内膜生検で非乾酪性肉芽腫になる理由もちゃんとあります。子宮内膜は周期性に剥落しますので乾酪壊死を形成するまで成長しない、ということだかららしいです。脱落直前に採取すればあるかもしれません。また、卵管の病変を調べてみたら、乾酪壊死が見つかることも多いそうです。

かば:こうみてみると、まさに典型的ですね。
抗酸菌染色で陰性でしたが、PCRなども調べるべきなんでしょうね。

かわうそ:鑑別診断を否定していきます。
真菌ならもっと全身性になりそうです。ウイルスなら核内封入体などが見つかってほしいですし、ヘルペスやパピローマウイルスならもっと性器に皮膚症状が出てほしいです。これらは血行性ではなく上行性感染なんでしょうし。

サルコイドーシスもGPAも他の臓器に病変が出てほしいですね。性器だけってのはまれです。

というわけで、診断確定のためには、何度も生検をするべきであり、できれば卵管切除が必要なようです。
月経血培養で抗酸菌を検出するべき、と書いてあります。治療効果の確認用いるようです。培養の陰性を確認します。

かば:卵管切除したら自然妊娠しにくくなると思いますけど。でも、もう狭窄しているから働かないんでしょうね。

かわうそ:うそかほんとか、こういう場合、逆に切除したほうが人工授精の確率が上がると書いてあります。

さて、この症例の経過ですが、月経血と子宮内膜生検の培養から結核菌が検出されて診断され、治療に移ります。なんと、リファンピシンとイソニアジドの血中濃度の測定までしています。

かば:やったことないですね。

かわうそ:結核の治療は無事終わり、そのあとは人工授精でなんとか妊娠しています。

かば:子癇前症になったり、34週で帝王切開など書いてありますので、大変だったみたいですけど。

かわうそ:まあ今は母子ともに元気なようで、よかったですね。

時代小説とか読むと、子どもができないから離縁とかで事件が起きたりするのが定番だったりしますけど、結核も一因だったんですね。
ネパールで5割だったら、昔の日本でも似たようなものでしょうしね。

ちなみに、この号の「Images in clinical medicine」は、尿管結核でしたので、奇しくも結核つながりが見られました。


2016年11月16日

31歳女性、不妊症 その1

呼吸器科ではあんまり関係ない主訴ですが、実は馴染みのある疾患が原因です。


2016年9月28日

その1


かわうそ:31歳女性。不妊症で受診されました。そのほかは元気な方です。

かば:副鼻腔気管支症候群ですか?

かわうそ:なるほど。残念ですが違います。
子宮卵管造影検査を早速しています。Fig 1です。
見たことないのですが、キャプションによると、子宮の形は問題ないようです。
ただし、卵管は、中枢部分は問題ありませんが、末梢の方では拡張していたり、欠損しているように見える部分があるようです。
また、卵管采から腹腔内に漏出するはずの陰影が見えません。
つまり、排卵はあるかもですが、卵管を通っていかないのではないかと予想されます。

とにかく人工授精を2回施行されています。しかし妊娠しません。これはおかしいということで、さらに精査されました。

ここで最近の人工授精事情について、けっこうスペースとって説明しています。生きのいい(?)卵子を探す技術みたいなのも発達しているようなので、かなり成功率は高いはず、2-3回の失敗でおかしいと思うべき、みたいなことが書いてあります。なれない分野の英語でしたので、言葉の意味はよくわかりませんが。

かば:とにかくすごい自信ですね。

かわうそ:どの時期にどういう処置するのかについても、けっこういろいろマーカーがあるらしいです。ふーんって感じですけど。

さて、これから、どのような情報が知りたいですか?

かわうそ:受精卵ができたということは、卵子には問題ないのだと思います。戻したはずなのに妊娠しないわけですから、着床しないのが問題なんですよね。子宮内膜の問題でしょうか。
あとは、凝固系とか?それくらいしか思いつきません。

かば:そうですね、抗リン脂質抗体症候群は思い浮かびます。不規則抗体とか血液型不適合とかもでしょうか。

かわうそ:卵管の狭窄がどれくらい影響しているのかはわかりませんが、骨盤内感染ということで、性感染症とかは聞いておくべきでしょう。ここでも、B型肝炎、C型肝炎、淋病、クラミジア、HIVなどは調べられており、全部陰性でした。
さらに、人工授精にふさわしい卵子が得られているようですので、それほど心配しているわけではないのでしょうが、月経のサイクルなども聞いています。ちょっと月経困難症があるようですが、基本的には問題なし。なぜかpap染色しています。これも問題なし。たぶん産婦人科のお作法なんだと思います。

かば:拒食症とかはどうでしょう?

かわうそ:なるほど。それも聞いていて、ありませんでした。

生活歴としては、ネパール生まれ、インド育ち、アメリカに渡ってからはサウスウェストに住んで、それからマサチューセッツに来ています。
ネパール、インドは結核が蔓延していますので、アメリカ人にしては珍しくBCGワクチンを打っています。結核の家族歴ありません。

また、自覚症状や身体所見、血液検査では特に問題ありません。

かば:ホルモン検査は?

かわうそ:いろいろやられていますが、ちょっとコメントできないですね。月経周期によって正常値が変わるんでしたよね…。正直手におえません。
とりあえず、問題なしということで勘弁してください。

かば:卵子を作るところまでは正常なんですし、この症例ではあまり関係なさそうですね。
卵管を通らないところ、子宮内膜に着床しないところが問題なんですね。

かわうそ:そこで、次は子宮鏡をしています。子宮内膜にはポリープや線維化、瘢痕などはなく、見た目は正常だったようです。
子宮内膜生検をしました。その結果がfig 2ですけど、どう思います。

かば:…。あ、肉芽腫がありますね。

かわうそ:これらは全部肉芽腫らしいです。乾酪壊死はありません。抗酸菌や真菌などは、染色してまして認められなかったようです。
鑑別診断としては、どうでしょうか?

その2へつづく


2016年10月31日

鏡は横にひび割れて

NEJMのImages in clinical medicineからです。
写真をそのまま載せると問題ありそうですので、リンクしておきます。
ぜひ見て下さい。


2016年10月28日


かわうそ:8ヶ月の子どもの眼の写真です。黒目の真ん中に白いモヤッとしたものが写っています。
親御さんによると、4ヶ月前から両方の眼に白い不透明な物質ができて、眼振も目立ってきたとのことです。

かば:写真見ると白内障ですね。ていうか、題名にデカデカとCongenital Rubellaって出てますからね。

かわうそ:もうちょっと隠して、クイズ形式でもいいかなって思うときがあります。

さらに両側の白内障だけでなく、小角膜・小眼球症が認められました。
眼底所見は正直よくわかりませんが、風疹の網膜症の所見があるとのことです。salt-and-pepper appearanceというらしいです。そういわれるとそうかもしれません。

血液検査でIgMとIgG抗体が陽性でした。というわけでやっぱり先天性風疹症候群でした。母親が妊娠時に風疹に罹患したかは不明なのが怖いところです。少なくともワクチン接種歴はないとのことです。

かば:かわいそうですね。われわれはポリクリとか、小児科研修の前に抗体の有無を確認されますけど、一般的には自分の抗体の有無とか知らないでしょうからね…。

かわうそ:で、白内障の手術をして、リハビリをしています。さらに精査をしたところ、動脈管開存症があって結紮術を必要としました。
発達の程度が気になるところでして、その後もフォローされています。5歳4ヶ月の時点では、眼振が減少しており、視力もまあまあ回復していて、普通に学校生活を送っているようです。

かば:よかったですね。

かわうそ:私は先天性風疹症候群の話を聞くといつも、アガサ・クリスティーの「鏡は横にひび割れて」を思い出すんですよね。映画になるとなぜか「クリスタル殺人事件」なんですけど。
ご存知ですか?

かば:たしか、往年の大女優が毒殺されかかって、代わりにファンの女性が死んでしまう話ですよね。
先天性風疹症候群が動機になってましたね。

かわうそ:アガサ・クリスティーは、薬剤師の経歴がありますから、こういう背景の話があってもいいと思いますけど、少なくても当時の読者も、先天性風疹症候群がどういうもので、殺人事件の動機になりうるということを理解していたということになりますよね。

かば:今の日本ではちょっと通じないかもしれません。

かわうそ:だからこの映画を啓蒙活動として勧めるといいと思ってるんです。

…。ちょっと話変わりますけど、アガサ・クリスティーの話って、けっこう医師が犯人とか嫌な役が多いような気がしているんですけど。やはりアガサ・クリスティーの職歴が関係してるのでしょうね。

かば:考えすぎじゃないですか?


2016年10月20日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その3

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:Discussionに入ります。
もう一度結果をまとめます。心血管疾患のある閉塞性睡眠時無呼吸患者における二次予防についての本研究では、通常の治療にCPAP治療を加えたことで、重症心疾患系イベントのリスクは減らせませんでした。ただし、CPAP治療は日中の眠気を減らし、HR-QOLやmoodを改善させるなど、自覚症状については良好な効果が期待できます。

私は知りませんでしたが、実はこの結果はそれほど目新しいものではないようです。
既報について述べられています。これまでに3つ、似たような目的でランダム化比較試験が行われています。
一つ目はスペインで行われた他施設試験で、心血管疾患のない閉塞性睡眠時無呼吸患者725人が対象でした。もう一つは、単施設で冠動脈疾患でカテーテル治療を受けたばかりの閉塞性睡眠時無呼吸患者224人を対象にしています。いずれも数年間のフォローアップで、心血管系の複合エンドポイントで有意差を示せませんでした。しかし、アドヒアランス良好な患者では良好なアウトカムが得られたというサブ解析がなされています。3つ目は最近の虚血性脳卒中140人で行われたもので、CPAP治療は、2年のフォローアップでevent free survialに影響しなかったというものです。

かば:ということは、CPAP治療で心血管系、脳血管系疾患には予防効果がないということは、専門家の間ではあたりまえだったということですか?私も知らなかったんですけど。

かわうそ:みたいです。これはちゃんと言ってほしかったですけどね…。
limitationとしては、この研究を始めた時期には参加した幾つかの地域では、睡眠時無呼吸の診断や治療が一般的ではなかったということがあります。ただし、研究施設に対して説明やモニターを十分にして、質の良い研究になるよう配慮したとのことで、試験の結果に影響するようには思えません。

また、今研究でのCPAPのアドヒアランスは平均で3.3時間/日であり、これが問題なのかもしれないといっています。
これくらいのアドヒアランスのレベルは、既報と同程度なんですが、心疾患系のアウトカムに影響するほど十分ではなかったのかもしれません。

かば:もっとアドヒアランス良好な場合に、はっきりとした治療効果があるかもしれないってことですか?

かわうそ:と、言いたいのだと思います。でも、サブグループ解析の結果を見ると、それもどうなんでしょうかね…。

また、効率的にリクルートして、他施設でのデータに矛盾がないようにするため、conventionalでstandardなPSG検査ではなく、単純なスクリーニングデバイスを用いて被験者を集めています。ここが問題なのかもしれません。
ただし、AppneaLinkは既報によると、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸を診断するのに信頼できるデバイスということですので、やはり結果にそれほど影響するとは思えませんね。

かば:中等症の閉塞性睡眠時無呼吸を含めたからでないですか?重症の人なら違うかも。

かわうそ:それも、いちおうサブグループ解析でやってます。

かば:重症だと人数が少なくなるので有意差が出にくいとか。だから、重症の人だけを2000人集めたら有意差がでるかも。 実臨床でも、中等症の人だとコンプライアンスが悪い印象ありますから。

かわうそ:かもしれませんが、それだけの規模で研究してようやく有意差がでるくらいの結果だとしたら、そんなに熱心に治療しないといけないのかって思いますけど。

かば:自覚症状が非常に改善した人を集めたらどうなんでしょうか?

かわうそ:なるほど。たしかに、そういうサブグループ解析はなかったように思いますが、経験上、睡眠が改善してばっちり眠気がとれたといって満足している人は、やっぱりアドヒアランスが良好な気がします。
だから、アドヒアランス良好群とそれほど異なるグループにはならないのではないでしょうか。

睡眠時無呼吸の人っていろいろいますからね。日中の眠気などの自覚症状がひどい人から、家族からいびきがひどいと言われるくらいで、自覚症状が全くない人とか。
自覚症状の強い人が、CPAPをつけて眠気が改善されたりすれば、モチベーションが上がってつけ続けてもらえることが多いですが、自覚症状のもともとない人は、マスクの不快感が強くて、続けられない人がいますよね。
そういう人につけ続けてもらうために、AHI低下の他に、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防する目的でつけ続けてください、と言っていたんですけどね。こういう事実を知ってしまうと、これから情熱を持って診療続けられないですよ!

かば:そんなにCPAP治療に情熱もってやってたんですか?(;一_一)

2016年10月14日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その2

結果です。なかなかおもしろい結果ですよね。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。15325人あつめて、そのうち5844人が適格基準に当てはまりましたので、アプニアリンクによる検査をしています。3246人が中等症以上になりましたので、run-in periodの1週間、シャムCPAPをしています。2717人が忍容性があり研究に参加しました。これをCPAP+usual care群とusual care alone群に半分ずつにわけていますが、なんやかんやで減って、結局2687人が解析されました。
平均年齢は61歳、81%が男性、BMIが29、ODIは28でした。ESSは7.4でそれほど高くありません。途中で脱落したのは147人でした。フォローアップの中央機関は3.7年です。
Table 1が患者背景になります。

かば:フォローのレベルがハンパないですね。

かわうそ:お金かかってますよね。
アドヒアランスを見てみると、シャムCPAPの段階では5.2時間着用していましたが、1ヶ月後には4.4±2.2時間に減っています。12ヶ月後では3.5±2.4時間で、それ以降は安定していました。AHIは3.7まで減少しており、OSAがCPAPで良好にコントロールされていることを示唆していました。CPAP群1346人中566人、42%は1日あたり4時間以上着用しておりアドヒアランス良好でした。いろいろ批判もあるでしょうけど、実臨床の感覚からするとこれくらいなんじゃないでしょうか?usual care alone群の中でも、90人、6.7%がCPAPを試みられたようです。うち57人のみが治療を継続しているとのことでした。よいのでしょうか?
薬物治療、食事・喫煙などの生活習慣、BMIの推移などには両群間で差がありませんでした。

さて、プライマリーエンドポイントについてですが、全部で436人で心血管系のイベントが記録されています。うちわけをみると、CPAP群で229人、17.0%に対し、usual care alone群では207人、15.4%でした。HRは1.10で、むしろCPAPで治療したほうが、心血管イベントを起こしやすいという結果でした。もちろん、95%信頼区間が0.91-1.32、p値0.34ですので有意差はありませんでしたが。Table 2、Figure 2に書いてあります。

かわうそ:さすがにこれでは困りますので、サブグループ解析を追加していろいろ解析していますが、それでもCPAP群がよかったという結果はでませんでした。
参加者が多様ですので、中国とそれ以外、年齢、性別、OSAの重症度、BMI、日中の眠気の有無、心血管系疾患の既往、耐糖能障害など、いろいろやっています。

かば:涙ぐましい努力ですね。

かわうそ:ただ、CPAP治療のアドヒアランス良好群では、アドヒアランス不良群やusual care群とは異なっていました。

名前だけはおなじみ、で有名なプロペンシティースコアマッチングの結果を、アドヒアランス良好群で見てみましょう。CPAP群でアドヒアランス良好だった561人と、それとマッチするようなusual care alone群を集めてきて比較しました。この集団だと、CPAP群では86人(15.3%)でイベント発生に対してusual care alone群では98人(17.5%)でした。HRが0.80で95%CIが0.60-1.07、p=0.13でしたので、有意差はないもののCPAP治療が良好な結果につながりました。
カプランマイヤー曲線でもこの結果を確かめたとのことです。図はsupplementary appendixです。

かば:想定したよりアドヒアランスがよくなかったんですかね。アドヒアランス良好群がもっといたら、ちゃんと有意差がでたのかもしれませんね。

かわうそ:でも、これくらいギリギリの差しかないなら、苦しくめんどくさいCPAP治療をしたくないと患者さんが考えても、止められないですよ。

セカンダリーエンドポイントでも、ほとんど有意差がついていませんが、唯一、CPAP群で一過性脳虚血発作による入院が増えたという結果がでました。RR=2.09、95%CI=1.05-4.99、P=0.04です。また、アドヒアランス良好群とusual care郡のプロペンシティースコアマッチングの解析結果では、卒中や脳血管イベントの複合アウトカムでCPAP群がよいという結果がでていますが、これも多変量解析では消えてしまいました。

かば:なんならCPAP群の方が悪いですね。この結果って、あんまり話題になっていないように思いますけど。黙殺されてません?

かわうそ:そんな気がしています。
ただ、自覚症状だけはCPAP群で良好でした。Table 3に載っています。
ESSがCPAP群でベースラインとくらべて3減っています。HADSも良くなったと言っていますが、これが臨床的に意味のある違いなのかどうかは知りません。統計的に有意差があっても、臨床的には意味のない違いっていうのは、けっこうこっそりと論文に紛れ込んでいたりしますから、ちゃんと元論文にあたってみる必要があるんでしょう。やっていませんが。SF36もCPAPでよかったと書いてありますし、健康状態が悪くて仕事を休んだ日も少なくなっています。

でも、ESSで3の差って、CPAP治療の劇的な効果からすると、ちょっとしょぼくないですか?

かば:あまり自覚症状のない人を集めたらしいんで、しょうがないのでは?

かわうそ:なるほど。
まあ、ちょっとせつない結果の論文ですので、ここくらいは著者の主張を信じてあげたいと思います。

そういえば、血圧は経過中下がっていませんでした。これは既報と違うところです。

さて、睡眠時無呼吸で気になるのは交通事故との関係ですよね。これは、Table 4に書いてあります。
交通事故だとか、事故による外傷とか、ニアミスとか書いてあります。データのある人数が少ないからなのかもしれませんが、これも有意差ありませんでした。

タクシーとかトラックの運転手が、睡眠時無呼吸で受診したばあい、今後どうなるんでしょうね。何をやっても事故が減らないんですけど。

その3へつづく。


2016年10月11日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その1

これまでの診療を一変させうる、けっこう衝撃的な結果と思いますけど、あんまり話題になっていないように思うんですけど?
イントロから方法までです。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その1

かわうそ:睡眠時無呼吸は、いびきとか日中の眠気が問題なだけではないんですよね。
夜間に一時的な低酸素血症になって、交感神経が活性化され、高血圧になったり、酸化ストレスや炎症反応が亢進、血液過凝固傾向になるとされています。また、胸腔内の陰圧が上がることで、心臓、大血管に強い力学的ストレスがかかるそうです。
これまで報告されているコホート研究では、睡眠時無呼吸と心血管系疾患、特に脳卒中などのイベントには強い相関があるとされてきました。

かば:われわれには特になじみのある分野ですね。

かわうそ:直接的に関与したことはないですが、噂はよく聞いてました。
さて、過去のRCTでは、CPAP治療によって、血圧が低下するとか、血管内皮細胞の機能、インスリン抵抗性の改善などの効果も報告されています。
これまでの観察研究の報告では、CPAP治療により心血管系の合併症や死亡を、特にアドヒアランスの良い人で減らすと言われていました。

心血管系疾患の既往のある人の4-6割で、OSAが合併していると言われています。こういう患者さんでは、十分な薬物治療をしているにも関わらず心血管系のイベント再発のリスクが高いので、CPAP治療を追加することでリスクを予防できるかもしれないと言われていました。

かば:これまで証明はされていなかったんでしょうか?意外ですね。

かわうそ:この確認のため、今回のSAVE study(Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints study)というものをやってみた、ということです。「OSA患者の心血管系イベント発生率の減少の点でCPAPが効果があるかどうかを評価するためにデザインされた二次予防研究」らしいです。

かば:ちょっとEが強引ですね。

かわうそ:方法です。研究デザインとしては、国際的、多施設共同、ランダム化、パラレル、オープンラベルの研究デザインです。シャムCPAPではないので、どちらのグループに入ったかは、医師も患者もわかっているんですが、エンドポイントとなるイベントの評価については、ブラインドされているということです。
Philips Respironics社とResMed社が研究資金と機械を提供しました。

かば:けっこうプレッシャーかかりますね。結果を出さないといけない。

かわうそ:参加者は7カ国、89の施設で集められました。適格基準は、45-75歳で、心血管系または脳血管系疾患があり、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断されていること、です。閉塞性睡眠時無呼吸の診断はPSGではなく、ApneaLinkというResMedの機械をつかって、ODI4>12で診断しています。あと、あんまりにも自覚症状が強い人は除外されています。ESSが15以上、または重症の低酸素血症、チェーンストークス呼吸で居眠り運転事故のリスクが高いと診断された場合は除外されています。

かば:なんで自覚症状が強い人は除外なんでしょうか?

かわうそ:書いてなかったので私の推測なんですけど、自覚症状が強い人に対して、CPAP治療をしないのが、倫理的に問題があると判断されたのかもしれません。

参加者はCPAP治療に対して最低限のアドヒアランスが必要ですので、1週間のrun-in periodを設けてシャムCPAPを着けて寝てもらい、平均3時間以上着用できた人を選んでいます。

CPAP治療は、Philips Respironics社のREMstar AutoのMかPRが使われています。はじめの一週間はオートマチックモードにセットされ、それからは記録されたデータに基づいて計算された90th percentileの圧に固定されます。心血管系リスクを下げるための投薬治療などはガイドラインに従って行われました。また、すべての参加者は睡眠習慣改善のためのアドバイスをうけています。診察は、1、3,6,12ヶ月とそれ以降1年毎に設定されました。年一回の診察以外に半年ごとに電話での調査も行われました。

測定項目は、血圧、脈拍、投薬内容、health behaviorが記録されています。CPAP群では、CPAPのアドヒアランスのデータもです。ランダム化のとき、6ヶ月、2年、4年目に身体測定と、質問票としてESS、SF36、HADS、EQ5Dを取っています。

どちらの群に割り当てられたかを知らないcommittee memberが、心血管系のアウトカムを判定しました。
プライマリーエンドポイントは、心血管疾患の複合アウトカムです。ここには、心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、心不全、急性冠症状、一過性脳虚血発作による入院です。
前もって指定したセカンダリーエンドポイントとしては、カテーテル治療、心房細動、糖尿病発症、全死亡などを追加しています。あとは自覚症状、QOL、気分などを見ています。
安全性についてのエンドポイントには、運転中や仕事中に怪我に繋がったような事故など、参加者の居眠りに関係した項目があり、これも興味あるところです。

統計は省略します。

かば:かまわんよ。

かわうそ:しのびねえな。

その2へつづく。


2016年10月3日

ジャディアンスって何? その2

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その2

その1からつづき


かば:患者背景とかはどうなんです?

かわうそ:65歳前後でBMIが30くらい、A1cが8くらいです。血圧や脂質異常症はコントロールされているようですね。
ACEやARB、メトホルミン、SU剤などの服用率は高いです。

かば:BMIが30って聞くと、これをそのまま日本で当てはめて使っていいのかわからないですね。

Figure 2をみると、もともと腎機能の良くって蛋白尿がない人には、あんまり効果がないんでしょうね。腎機能の悪い人には意味のある薬なのかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。ただ、どういう人に使うべき、ということについては、考察でも触れられていませんでした。なにせ腎機能悪化進行抑制効果が初めて証明されたわけですので、eGFRが低くて禁忌になっていなければ、全員につかうべき、くらいのテンションなんでしょうか。

腎機能について言えば、そもそも尿糖が出ているというのは、けっこうどきっとする検査異常ですよね。薬でそういう状態を作ってしまうというのが、腎機能の予後的にどうなのか、という懸念があります。
で、それについての検討がされています。Figure 3です。
プラセボ群だと、経時的にeGFRが低下しています。それと比較してエンパグリフロジン群では、飲み始めにややeGFRが低下するものの、そのあとは安定して変化ありません。
さらに、内服終了後、エンパグリフロジン群ではもとのレベルまで回復するという結果まで出てしまっています。

まあ、プラセボ群で悪くなったと言っても、3年間でeGFRで4くらいなので、それがどれくらい意味があるのかというのも…。

長期フォローの研究ですので、尿蛋白やeGFRなどの検査結果で差がでたと大騒ぎするのも、ちょっと。あくまでサロゲートマーカーにすぎないんですから。

とはいうものの、こういう結果がでた糖尿病の薬が初めてということなので、期待が大きいんでしょうね。低血糖発作もあまりないようですし。

ちなみに、adverse event、有害事象についても一言いいですか。

かば:どうぞ。

かわうそ:最近の傾向なんでしょうけど、内服中におきたあらゆるイベントをここに入れてしまっているんですけど、なにせやたら多いんです。どちらの群でも9割くらいが副作用を報告されています。severeだとかseriousな副作用ですら、3-5割で報告されたことになっています。ここまで来ると、かえって本当の薬の副作用がわからなくなっちゃうように思いますけど。

かば:ネットで調べると、「エンパグリフロジンは、プラセボと比較すると、心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中のリスクを14%有意に低下させた」だとか「3人に1人の割合で心血管死を抑制した」、らしいんですけど。
ネットでは、素晴らしい結果だ、という好意的な評価が多いみたいです。

かわうそ:ほんとですか?なんか、ここに書いてある数字からは想像できない数字ですけど。有害事象の表に、any deathっていうのがありますけど、5-6%くらいしかないです。腎不全死が少ないんですから、ほとんどが心血管死ってことですよね。なら、そんな華々しい結果になりますかね?
まあ、もとの論文に当たってみないとなんともいえませんけど。

かば:そういえば、エンパグリフロジンの投与量が2種類あって、それを一緒の群として解析するのもどうなんでしょうか?

かわうそ:添付文書を見ると、体格や腎機能で用量を調整するわけではなく、効果不十分な場合は増量らしいですし、たしかにおかしいですね。

とにかく、いろいろツッコミ所のあるよい論文だったと思います。


2016年9月30日

ジャディアンスって何? その1

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その1

かわうそ:薬剤名はジャディアンスっていうんですけど、知ってます?

かば:すいません。知らないです。糖尿病も最近新しい薬が多いですね。

かわうそ:ナトリウム・グルコースの共輸送担体(SGLT)を阻害するという、これまでとは違った機序で血糖を下げます。自分の昔の生理学の知識では、腎糸球体で濾しだされた糖とナトリウムを尿細管で再吸収していたと思うんですけど、ここを止めることで糖の再吸収を抑制します。
つまり、余分な糖を尿糖として排出することで血糖値を下げるという理屈です。そうすると糸球体内圧も減って、糸球体の傷害も抑制されるのではないかと仮説されます。

かば:ちょっと何言ってるかわかんない(笑)

かわうそ:(サンドウィッチマン富澤?)
…。さて、2型糖尿病かつeGFR≧30の人を集めています。で、このエンパグリフロジンを10または25mg、またはプラセボを投与しています。ほかの糖尿病治療や心血管治療はガイドライン通り普通にやっていて、それに上乗せしたときの効果を評価しています。
腎障害としては、顕性アルブミン尿が新たに出現、Creが2倍になる、透析が始まる、腎不全死というものを複合アウトカムとして評価しています。

もともと、エンパグリフロジンの効果を調べる研究として、EMPA-REG試験という大規模な研究がありました。
プライマリーアウトカムは、心血管系の複合アウトカムです。いつもの通り、心血管系疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中になっています。
で、もともとのセカンダリーアウトカムとして、微小血管の傷害発生を設定していました。網膜症で光凝固したとか硝子体出血があったとか失明したとか、それと腎機能の悪化というものを設定しています。ただ、どうやら殆どのイベントが腎機能の悪化だったらしくて、今回はそれだけを取り出して解析したものの報告ということになっています。

結果ですけど、エンパグリフロジン群では4124人中525人で12.7%、一方プラセボ群は2061人中388人で18.8%でした。当然有意差がついて、HRなんかも0.61ということで、非常に効果的でした、と書いてありますけど…、これは、なんと言ったらいいか…。

かば:どうしました?すごい結果じゃないですか。

かわうそ:あんまり糖尿病における蛋白尿の重要性を認識していないだけなのかもしれませんが、顕性アルブミン尿の出現と透析を一緒にして複合アウトカムにしていいんでしょうかね?それに、Creが2倍になるのも確かに問題ですが、透析導入や腎不全死と比べるとちょっと…。

実際、Creが2倍になった症例は、エンパグリフロジン群4645人中70人、1.5%に対して、プラセボ群で2323人中60人で2.6%なんですよ。
腎代替療法についても、エンパグリフロジン群では4687人中13人(0.3%)、プラセボ群で2333人中14人(0.6%)ですからね。5割抑制しました、とだけ言われればすごいですけど、NNTは1/(0.006-0.003)=333ですし。そりゃ、透析ってのは大事ですから、それでもいいんだ、と言われればそれまでですが…。

かば:とにかく、ほとんどのイベントが顕性アルブミン尿ということなんですね。

かわうそ:そうなんです。ここまで一方的なアウトカムの差があるのに、複合アウトカムとして扱っていいのかな、と思います。まあ、ちゃんとアブストラクトに数字が出されているので、読めばいいんでしょうけど。

ちなみに、ネットで検索したら、ベーリンガーとイーライリリーのプレスリリースを見つけました(https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/pressrelease/2016/16-34_co.jp.pdf)。こちらでは、この辺りの違和感は巧妙に隠された形だと言わざるを得ません。うそは言っていないんでしょうけど、ズルいと思います。

あとですね、これはもしかしたら既報で述べられているからなのかもしれませんが、血糖降下薬ならA1cがどれくらい減ったか、くらいは書いてほしいんですけど、どこにもありません。臓器障害の抑制という、絶対的な目標について調べているわけなので、A1cのようなサロゲートマーカーは眼中にないのかもしれませんけど。
都合の悪いことだから書かれていないのか、当たり前だから書いていないのか、不要だから書かれていないのか。ちょっと不自然に感じます。

その2へつづく



2016年9月20日

33歳男性、肛門痛と出血 その2

診断と治療経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その2

その1からつづき

かわうそ:炎症性腸疾患の中では、潰瘍性大腸炎やベーチェット病は少し印象が違います。クローン病が考えやすいとのことです。
感染症としたら、どれっぽいですか?

かば:結核はどうですか?

かわうそ:そうですね。経過が長いですからね。でも、結核性直腸炎というのは、どうなんでしょうか?AIDS発症していればありうるのかもしれませんが、この人はHIVネガティブですし。さらに、直腸だけでなく、肛門にも合併して病変をきたすような結核はさらにまれ、ということらしいので頻度的に除外できそうです。

クラミジアや淋病については、もう少し罹病期間が短いはずです。一応、最後のMSMから半年経っているはずですので。ただ、本当にそうか、という点はきちんと確認すべき、と書いてあります。

かば:じゃあ、ヘルペスは?

かわうそ:もうちょっと皮疹がメインと思いますし、あんまり消化器症状は聞かないですね。

かば:そうか、そうですね。

かわうそ:まあ結局、梅毒が鑑別として外せないところらしいです。会陰部に潰瘍だとか扁平コンジローマだとかの病変をきたしますし、経過も矛盾しないようです。
梅毒といえば、皮疹についてこれまで述べられていないじゃないか、と思うかもしれません。実際、9割の人に出現するはずです。ただ、非常に曖昧な症状なので、患者自身も医師も、きちんと認識するのは難しいようです。

ちなみに、感染症医がしっかりと診察したら、手のひらと足の裏に皮疹を発見しました。場所的になかなか難しいところですね。梅毒を疑わないと診ないかも。

ただ、この症例の場合は、肛門裂傷を診察した際に、直腸鏡をして直腸炎に気がついているわけですので、その標本を調べれば診断できそうです。あとは、血液検査で抗カルジオリピン抗体、抗Treponema 抗体を調べれば完璧でしょう。クローン病との鑑別も問題無くつきそうです。

で、Figure 1が病理所見ですが…。

かば:すごく粘膜にリンパ球が集まっていますね。

かわうそ:そうです。腺組織が減って、リンパ球を中心とした炎症細胞が集まっています。再生している像もあります。このへんは全然知りませんが、キャプチャーをみるとクローン病とは全く違う所見とのことです。免疫染色でスピロヘータの存在も証明できました。

かば:こんなにいるんですか!

かわうそ:怖いですよね。
ただ、一般的な梅毒の染色では全然見つけられず、特殊な免疫染色を用いた、と書いてありましたので、やっぱり臨床所見から梅毒を疑わないと、診断が困難な症例なのかもしれません。

治療は何か知ってます?

かば:ペニシリンです。

かわうそ:ペニシリンGの筋注ですよね。この人もその治療をしていますが、日本には注射剤がなくて延々と内服しないといけないというのもまた有名な話です。
で、抗体価も治療によってきちんと下がっています。

あと、MSMの場合、性感染症に罹患していないか、定期的にフォローが必要です。また、HIVに対して暴露前予防のため、テノホビル・エムトリシタビン(ツルバダ配合錠)の内服をしています。
このあたりはもはや常識なんでしょうか?この記述読んだ時はけっこうビックリしましたけど。

かば:そうですね。国試にもでていると思います。

かわうそ:リンパ球数が減って初めて内服開始と言われていた時代からすると、隔世の感がありますね。まだ数年しか経っていないはずですけど。
こうやって知識をアップデート出来て良かったです。

ただの痔でしょ、と思ったら、クローン病なども鑑別に上がってきて、やっぱり性感染症だったという流れで、けっこう二転三転して面白かったですね。


2016年9月15日

33歳男性、肛門痛と出血 その1

ちょっと微妙な症例なんですけど。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その1

かわうそ:33歳の男性の直腸の痛みと出血です。排便時にお腹が痛い、拭いた時に血がつくとのことです。4ヶ月前からということで結構長く症状続いています。
便自体には血が付いていないようです。

かば:ふーん。普通に聞いたら、ちょっと経過は長いですけど、まずは痔と考えますね。

かわうそ:まず家庭医のところを受診しています。さすがに偉いな、と思うところは、この男性がMSM(Men who have Sex with Men)であることを聞いているということです。というわけで、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどを調べておきましょう。
また、直腸診もしており、外痔核を確認しています。

かば:結果としては、HBV抗体が陰性みたいなので、ここは介入の余地がありますね。

かわうそ:サイリウム(下剤)、NSAIDS、局所ステロイドを処方しています。
しかし、10週間後に再診しました。痛みが全然引かないようです。バイタルなどは初診時と変りなく、特に問題ありませんが、これでもう半年くらい悩んでいることになります。

さて、この時点でなにか考えることありますか?

かば:この分野には、あんまり経験ないので…。

かわうそ:そうですよね。専門科に任せますね。
病歴としては、あまり大したことありません。既往歴も家族歴も問題ありません。
さて、専門科ではさすがにしっかりと身体所見の評価がされています。視診上、前部と後部の二箇所に深い裂肛を認めました。sentinel skin tagなんかもできています。
普通、裂肛は9割後部にできて、残り1割が前部です。このように2箇所できたり、横に裂肛を認めたりすると、即、基礎疾患があると考えるべきとのことです。

というわけで、ここで直腸鏡を施行されています。すると、直腸にも粘膜の炎症が認められました。

ですので、ただの外痔核と思った病変が、ここで急に内科の領域になってきます。

かば:潰瘍性大腸炎なんかの、炎症性腸疾患とかですかね。

かわうそ:さすがですね。ただ、潰瘍性大腸炎は肛門の病変は有名ではないので、鑑別の上位にはこなさそうです。直腸から上行する潰瘍病変がキーワードでしたっけ?

あと、大腸炎ではなく直腸炎というところも鑑別疾患を挙げるのに役立ちます。そもそも、あんまりproctitisという英単語は目にしないですよね。

かば:そういえば。

かわうそ:直腸炎と大腸炎では症状も違います。直腸炎は、典型的には排便障害、切迫感、渋り腹、失便などが典型的です。一方、大腸炎では下痢、腹痛、腹部膨満、体重減少などの症状がでます。当然、大腸から直腸に炎症がまたがることもあるのですが、この症例ではほぼ直腸炎の症状だけと考えられますので、けっこう典型的な直腸炎となります。

あと、炎症性腸疾患だけでなく、この方がMSMであることを考えると、性感染症なども当然考えるべきですよね。あとは、外傷、虚血、アミロイドーシスなどが鑑別に上がってきます。表に一覧が載っています。
ただ、外傷は、ちょっと経過が長いので消えそうですね。
虚血も、このような若年でリスク要素のない人は、消えそうです。

というわけで、やっぱり感染症か自己免疫疾患が残ってきそうです。

その2へつづく


2016年8月10日

ホセ・デ・リベーラの絵画に描かれたPectus excavatum

医学論文とはちょっと違うので、英単語に馴染みがなくて読むのに苦労しました。

Pectus excavatum in paintings by Jusepe de Ribera (1591-1652).
Thorax. 2016 Jul;71(7):669-70.
Lazzeri D, Nicoli F.


2016年8月1日

かわうそ:Pectus excavatumという疾患が描かれているわけなんですが、まず、ホセ・デ・リベーラって知ってます?

かば:知らないです。

かわうそ:カラバッジョのリアリズムの流れを組んだ画家とのことです。この絵のように、明暗を強調して、聖人の衰えた肉体を美化することなく写実的に描いていることなど、たしかに影響がうかがわれますね。

聖人の受難・殉教のシーンをドラマチックに描くことが多いようです。当時はかなり人気だったようです。
私も、カラバッジョの絵が好きですので、けっこう好みの画風ではあります。

で、写実的な画風のためか(?)、解剖学的異常や内科疾患もリアルに描かれています。
有名な絵としては、「えび足の少年」、「髭のある女性」、「盲目の彫刻家」などがあります。

「髭のある女性」については、大塚国際美術館で見た記憶があります。まあ、インパクトのある絵ではあります。

かば:大塚国際美術館行ったことあるんですか?複製が大量に置いてあるんですよね。どんなとこですか?

かわうそ:入場料が高いだけあって、充実してますよ。1日では回れないくらいです。何度か行きましたけど、楽しみました。食事も美味しいし。

かば:「えび足の少年」は見たことありますね。「髭のある女性」は、男性ホルモン過剰でしょうか。

かわうそ:だとすれば、不妊になると思うので、この絵のように授乳しているのはおかしいように思うんですよね。ほんとに写実的なのでしょうか?どこか誇張があるように思います。別にそれでいいと思いますけど。

さて、この絵を見て、描かれた疾患はわかりますか?この号のThoraxの表紙にもなっています。本文には他に2つの絵が載っています。


かば:うーん?

かわうそ:ちなみに、描かれた聖人は、St JeromeとSt Onophriusです。St Jeromeというのは聖ヒエロニムスのことだそうです。St Onophriusについては日本語のWikipediaがなかったので不明です。ただ、どちらも別に殉教した人ではないみたいなんですよね。少なくとも、聖ヒエロニムスは、砂漠で隠遁生活を送った神学者、というイメージなんですけど。あと、自分にとって、ヒエロニムスといえばライオンと一緒に描かれているもの、と考えていましたので、ちょっとこの絵をヒエロニムスと言われても違和感があるんですよね。

かば:で、疾患は?Pectus excavatumってなんでしたっけ?

かわうそ:実は、漏斗胸なんです。

かば:なるほど。そういえば。

かわうそ:ところで、なぜ漏斗胸が描かれているか、なんですが、いまいちはっきりしません。

かば:この聖人にそういう伝承があったわけではないんですか?

かわうそ:ないようなんです。この絵以外には、これらの聖人が漏斗胸として描かれているものはないのです。
ちなみに、漏斗胸自体は、レオナルド・ダ・ヴィンチが初めて解剖学的に考察しているようですし、この時代には医学的にも認識されていたとのことです。

かば:漏斗胸だと、見た目の問題の他に、呼吸機能低下とか呼吸困難などの自覚症状が出てくることがあるので、そういう苦難を聖人の苦悩の象徴として描いたのでは?

かわうそ:なるほど。そうかもしれませんが、真相はもはやわからないです。
ただ、なんとなくですが、光と影を強調したかったのかな、と思います。で、そういうモデルを探してきたのではないでしょうか。


2016年8月4日

GERDと咳の関係

すっきりとわかりやすい論文でした。

The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms.
Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.
Lavorini F, Chellini E, Bigazzi F, Surrenti E, Fontana GA.


2016年7月29日

かば:Deflation coughってわかります?「肺活量測定の時、息を吐き切った時に誘発される咳のような排出努力」という定義らしいんですけど。

かわうそ:なんとなくわかります。聴診のとき、強制呼気で咳き込むってことですかね。

かば:そういうイメージでいいと思うんですが、定義上は、肺活量測定なので、ゆっくり呼出して肺が空っぽになった時に誘発される咳嗽とのことです。なので、強制呼気とは少し違うのかもしれません。とにかく、胃食道逆流、GERDの症状と考えて良さそうです。

そのDeflation Cough、DCとGERDの関係を調べたのが本研究です。

157人で、DCの評価と24時間食道PHモニタリング、MII-pHをしています。

かわうそ:24時間食道PHモニタリングを157人で!

かば:なのでCHESTに載ったんだと思われます。

157人中、93人では慢性咳嗽もありました。
DCは、肺活量測定を2~4回繰り返して、咳込みを耳で測定したとあります。

結果です。表をみてもらう方がわかりやすいですね。2×2表が載っています。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1531
DCなし1596

DCとGERDには関係がありました。P<0.01です。
感度50%、特異度76%、陽性予測率33%、陰性予測率86%ということでしたが、著者はまだ満足していません。

かわうそ:けっこう立派な結果に感じますけど。

かば:そこで、慢性咳嗽のある93人に絞って解析しています。慢性咳嗽についてはVASで評価したとのことです。ちなみに、この中に現喫煙者はいませんでした。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1525
DCなし251

こうすれば、感度88%、特異度67%、陽性予測率38%、陰性予測率はなんと96%ということになりました。

かわうそ:すごいですね!
でも、つまり…、どういうことだってばよ?

かば:つまり、遷延性咳嗽・慢性咳嗽で受診した患者さんで、強制呼気で聴診をしたとしますよね。

かわうそ:うんうん。

かば:その時に、DC、咳込みがなかったとしたら、GERDの可能性が低くなるので、PPIを出さなくてもよいということになると思うんです。

かわうそ:なるほど。
強制呼気時の咳込みって、けっこう喘息に典型的かと思っていましたけど、GERDに関係するんですね。

かば:胸腔内圧が高まることで胃酸逆流につながるんじゃないか、とDiscussionに書いてありました。
この論文は全部で6ページだけで、非常にシンプルですけど美しい結論ですよね。


2016年7月27日

隠れた病変 その3

NEJM、clinical problem-solvingです。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
最終回です。ようやく診断できました。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その3

その2からつづき


かわうそ:案の定というか、3ヶ月後に再診した時に、左足の腫れを訴えています。この時大腿周囲径を測定してみたら4cmもの左右差がありました。

かば:腫れてるとか赤いとか、主観的な記載だけでなく、こういう客観的な指標をカルテに残せればかっこいいですね。

かわうそ:コンサルトしやすいかも、です。
さて、腫脹の原因として、こういう症例で血管が開通した後に一過性に腫脹することもありうる、だから治療失敗ではない可能性もある、と慰めのようなコメントが載っていますが、基本的にはreccurenceと言ってよいでしょう。
ちなみに、我々がこういう疾患を見た場合、圧迫帯とか弾性ストッキングとかでとりあえず対応しがちですけど、予防効果としては限定的だ、と寂しいことが書いてあります。

で、ドップラーエコーをしてみたところやっぱり閉塞しています。血管径の呼吸性変動が消失していて、相当中枢から詰まっていることが予想されました。
さて、次する検査はどうしましょう?

かば:・・・。

かわうそ:もうすでに我々が当直で診るレベルを超えていますので、わからなくて当然ですし結局専門科に任せることになるんでしょうけど。まあ、循環器科なのか血管外科なのかわかりませんけど。

最終的には、総腸骨静脈にステントを入れました。Figureを見てみると、ステントを入れる前後での血管造影の写真が載っています。ステント留置前には、本来あるべきところに総腸骨静脈が全く認められず、代わりに側副血行路が山程見えています。留置後にはきちんと総腸骨静脈が造影されて側副血行路が見えなくなっています。

かば:これ全部側副血行路ですか…。
で、次の図が血管内エコーですね。

かわうそ:まず、総腸骨静脈がなんとか開通した状態で検査しています。すぐ近くに総腸骨動脈があります。やっぱりこれが圧迫していたようです。というわけで、やはりMay-Thurner症候群ということです。
CTの時は、閉塞していたため診断できなかったんでしょう。血管内エコーで診断できた症例でした。

いくつか教訓的なポイントがあると思います。

まず、外傷とか蜂窩織炎とかの診断に飛びつかず、より致命的になりうる深部静脈血栓・肺塞栓を疑っておくこと。
特に、呼吸困難や頻脈という微妙な情報をおかしいと思うこと。
深部静脈血栓症と診断した場合、この人に発症することが典型的といえるかどうか、リスク因子を検討すること。
くらいが挙げられるでしょうか。

そういえば、この人が深部静脈血栓症のリスクが低いといえるほど活動的かどうかという点については、私は少し疑問に思っています。
というのも、このCTの写真をみると、かなり体格がよいと言わざるを得ません。

かば:画面いっぱいに皮下脂肪がありますね。

かわうそ:2日前に5km走ったっていうのも、本当は久しぶりの運動だったのでわざわざ言ったのかもしれません。
だから、1回目に発症した際には、肥満だししょうがないかも、と思ってしまうかもです。
でも、2回目に発症した時にはしっかりと診断して、3回目の発症を防ぎたいところです。

かば:May-Thurner症候群はけっこうこの勉強会で名前出てきますよね。

かわうそ:実際、昔はDVTの数%に見つかるだけ、とされていたのが、血管内エコーをするようになったことで半数以上でMay-Thurner症候群が診断されるという報告も引用されています。
疑って検査しないとわからないわけですし、相当見逃されているんでしょう。血管内エコーという診断器具の出現により、新しくトピックになっている疾患なのではないでしょうか。


2016年7月22日

隠れた病変 その2

NEJM、clinical problem-solvingです。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
やっぱり再発しました。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その2

その1からつづき


かば:それにしても、こんな若い女性に突然発症しますかね?ランニングしているくらいですし、動かないでじっとしているような人ではないと思います。これまでの話ではリスク要因がなさそうです。
凝固能の亢進とか、血栓の原因を探るべきなんじゃないですか?

かわうそ:たしかに。すぐに診断できて治療できてラッキーと思っちゃダメですよね。「妙に変だなー」と思って背景を探りましょう。
では、どんな病歴を聞いたり、追加の検査をしたいですか?

かば:妊娠とかピル内服とかですね。あと、喫煙歴とか。アメリカならこういうときイリーガルドラッグを使っているかどうか熱心に聞いてますよね。

旅行とかも必要ですね。変わったところに行ったかどうかだけでなく、長時間動けないようなイベントがあったかどうかがわかると思います。
血液凝固関係の既往、家族歴も知りたいところです。血管炎など膠原病とかも?

かわうそ:さすがですね。どんどんでてきますね。
実はピルは飲んでいます。喫煙歴ありますが、2年前にやめています。飲酒はほどほどだそうです。
父親が関節鏡での膝の手術のあとでDVTになったということなので、ひょっとしたらこれは遺伝性の血液凝固異常と関係があるのかもしれません。ただ、そうでないかもしれない、という歯切れ悪いコメントが載っています。
どうやら、初回の発症なら、それほど精査は要らないのではなかろうか、というのが筆者の意見のようです。それはそうかもしれません。

ただ、主治医の先生はこの時点でいろいろ検査を追加しています。血液凝固能の検査や遺伝子変異などです。
どうやら、ループスアンチコアグラントが陽性に出たといっています。プロテインCだとかプロテインSだとかも当然のように測定されていますが、このへんは本当に弱い分野ですのでコメント差し控えたいと思います。

そして、残念なことに、退院後5日目に同じ症状で受診しています。エコーでも血栓を確認しました。Fig 2によると、総腸骨静脈から膝窩静脈までずっと血栓が詰まっているようです。

かば:すごい血栓っぷりですね。完全閉塞ですね。ヘパリンが入っているんですよね?それなのにこうなってしまうのは、さすがにおかしいですね。
何か血管の流れを障害させるような腫瘤があるのかもしれません。

かわうそ:でも、CTとっているわけですからね。さすがにそういう腫瘤病変があればわかりそうです。
あと、ヘパリンが本当に治療域に入っているかどうかは調べておくべきですけど、さすがに大丈夫だったと書いてあります。

かば:血管炎はどうでしょうか。

かわうそ:そうですね。あと、抗リン脂質抗体症候群とか、ベーチェット病とか。occult tumorで凝固しやすい状態になっていないかはチェックしておきたいところだと書いてあります。

そして解剖学的異常です。May-Thurner症候群をあげましょう。知ってました?

かば:前、勉強会で出てきましたね。調べた覚えあります。

かわうそ:腸骨動脈が腸骨静脈を圧迫するんですね。ちょっとこの辺りの解剖がよくわからないのですが、「左」総腸骨静脈が「右」総腸骨動脈と交差する部分の問題が一般的なようです。だから左に症状がでることが多い疾患です。
というわけで、ここでもう一度CTをよく見なおしてみました。でも、やっぱり腹腔内、骨盤内に腫瘤病変やリンパ節腫脹、総腸骨静脈の圧迫などはありません。
でも、血管炎なんかは画像で見つけるのは難しそうですね。

しかたがないので(?)、もう一度カテーテルでの血栓除去をして、血管は開通しています。

そうこうしているうちに突然血小板数が15万くらいに下がっています。もともとが30万くらいありましたので、一気に半分になったことになります。

かば:HIT、heparin induced thorombocytopeniaですね。未分画ヘパリンを使っていたんでしたっけ?

かわうそ:実はHITかどうかを診断するための検査というのがいろいろあるみたいです。私は全然知りませんでしたけど。HPF4抗体を測定したり、serotonin release assayとか。ここでは、この辺の検査をしてHITではなかったという診断になっています。でも、なんだかんだでヘパリンから別の薬に変えたところ、血小板数は回復したし、足の腫れも引いてきたのでめでたしめでたし、ということでワーファリンの内服に変えて退院しました。

かば:ここで退院していいのか、というところは疑問ですよね。

かわうそ:そうですよね。治療はうまく行ったのかもしれませんが、原因を追求せず返してしまうと、たぶん3回目がありますよね。
まあ、「要らないんじゃないの」とか言われながらも、下大静脈フィルターが留置されていますので、再発したとしても足が腫れる程度で、肺塞栓など致死的な疾患は回避できると思ったのかもしれませんけど。


その3へつづく


2016年7月20日

隠れた病変 その1

NEJMのclinical problem-solvingを読みました。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
とりあえず前半戦です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その1

かわうそ:2日前に5kmくらいのランニングをしたのでそのせいかとも思ったらしいのですが、こむら返りのような痛みが左足にあって、おなかやおしりにまで広がっているとのことです。
でもよくみると足が腫れているし、労作時の呼吸困難もあるようなんですよね。
発熱、胸痛、安静時呼吸困難はありません。走ったからといって、ケガをしているわけでもありません。
バイタルはほぼ正常ですが、頻脈(102/分)だけがあってちょっと気になります。

足の腫れについては、診察上、ふくらはぎから大腿にかけて、びまん性に発赤、浮腫を認めました。

さて、この病歴を聞いて、どんな鑑別診断をあげて、どんな検査をしますか?

かば:深部静脈血栓症を疑って、下肢静脈エコーです。

かわうそ:もちろんそうですね。
ここのコメントには、片側の足の疼痛、発赤、腫脹ならまずは外傷とか蜂窩織炎を考えろとのことです。
でも、所見とはちょっと合わないですし、この方には胸痛の訴えはないものの、しっかりと呼吸困難があるので、深部静脈血栓・肺塞栓を念頭に置くべきですね。だから、エコー、造影CT、D-dimerをやっています。

さらに、この方は腹痛もあるので、血栓の原因として、腹部の血管を圧迫するような病変があるのでは?と疑っておくべきだ、とされています。ただ、ここまで考えられるのはちょっとレベル高いですよね…。

さて、深部静脈血栓・肺塞栓についてはWell's scoreというものがあって、これをスコアリングして疑わしければ侵襲的検査にうつるようです。
私はこの基準は知りませんでしたが、けっこう常識的なものです。外傷があるとか、長期臥床があるか、血栓傾向やそういう薬剤使用歴があるかとかの項目があります。

さて、次はCTの写真です。読影してもらおうと思いましたが、これはすぐに分かりますね。血栓が両側下葉にいく血管内にたくさん見つかりました。
なんなら、肺野にも肺梗塞を疑うようなwedge shaped infarctionが左の肺底部にあります。

そして、ドップラーエコーで左下肢に血栓がみつかりました。その他、トロポニンT、BNP、血球数、PT、APTTなど含めて血液検査では特に異常なしです。
で、治療はどうします?

かば:抗凝固です。ヘパリンですね。

かわうそ:出血が否定されるなら、検査の結果をまたずにエンピリカルにはじめてもいいくらいだとエキスパートオピニオンで言っています。

この症例では、抗凝固療法だけでなく、下大静脈フィルター留置と、カテーテル下での血栓溶解除去治療をしています。

実はカテーテルでの早期の血栓溶解除去についてはエビデンスがあるようですが、フィルター留置についてはそうでもないというコメントが載っています。
フィルターを留置するのは、状態が悪くて抗凝固ができないような人に予防的に行うものとされているようで、この方の場合は当てはまりません。

とは言え、速やかに診断と治療に成功しており、めでたしめでたしと言いたいとこですが、まだ前半なんですよね。


その2へつづく


2016年7月15日

アドエアとウルティブロ その3

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果後半と感想です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その3

その2からつづき


あと、1秒量の変化率についても書いてあります。1年後、ウルティブロとアドエアでは62mlもの有意な差がありました!
でも62mlって…。肺機能検査して、これくらいは誤差の範囲のはずですよ。

かば:COPDの人って、1年間で150mlくらい1秒量が減っていくはずなので、その中で60ml違うのは大きいかもしれません。

かわうそ:これもマスとして見た時には意味があっても、個人としては意味が無いということですね。
それよりは、デバイスとしての使い勝手とか安い方とかの方が選択の動機としては大きくなりませんか?

その他SGRQなども軒並みウルティブロの方がいいと出ていますし、サブグループ解析でも基本的にはウルティブロの方が優勢でした。
が、これが本当に処方の動機になるかどうか。まあ、みなさんの判断に任せますけど。

安全性のまとめを見てみると、やはりCOPDの研究で死亡をアウトカムにするのは難しいと思います。1年で1%くらいの死亡率です。
ただ、COPDの論文を読むと、いつもCOPDは死亡の原因の4番目、とか高々と掲げられていて、だから治療が大切、薬が大事、と言われているんですけどね。その割には実際論文読んだときに目にする死亡率がしょぼいんだよな、と思わざるをえません。

このまえの降圧剤・高脂血症治療薬の論文では5年間フォローしていましたので、それと比べると…。

あと、副作用は多いことになっています。8-9割で起きています。ただ、COPDの悪化というのが7割くらいあります。これって、本当に副作用なのかというのが疑問です。COPDは進行性の疾患ですし…。

他にもこの辺は謎が多いです。増悪とは別に、副作用として、ウイルス性や細菌性の上気道感染という項目があります。

かば:下気道感染と肺炎がそれぞれ別で計上されていますね。インフルエンザも別に項目作られてますね。

かわうそ:そうなんですよ。謎です。
肺炎については、ウルティブロが3.2%、アドエアが4.8%で、P=0.02ですが、これだけ数を集めたら、このレベルでは有意差がないようにも思いますが…。

かば:この論文みたいにアウトカムが何十個もあると、それだけでもP値の設定は厳しくなるはずですよね。

かわうそ:すいません。実は統計のあたりは、よっぽど気合入れて論文読まないかぎりはすっ飛ばしていまして。よくわかりません。場合によっては、そういう議論を全部すっ飛ばして、「P<0.05でした(だから有意差ありました)」とMRから宣伝されるかもしれませんね。医師がまじめに論文を読み込んでいるとは思われていませんからね。

という感じの論文ですが、先生はウルティブロだしてますか?

かば:けっこうだしてます。

かわうそ:そうですか…。純粋なCOPDと診断できていればいいんです。

まず最初に、咳・痰・息切れできた高齢者に喫煙歴があって、閉塞性燗器障害があって、何ならCTで気腫性病変がしっかりあったとしますよね。で、LABAなりLAMAで治療をしました。それでも症状が残存していたり、増悪を来したりして、追加の治療が必要になったわけですよね。
そこでLABA+LAMAを使えるかどうかですけど…。
普通に考えると、COPDと喘息ってすごく合併しやすいと言われているわけです。とすれば、ここで純粋なCOPDと言い切れるだけの自信が私にはありませんので。
喘息の存在を否定できます?アトピー体質や季節性など、典型的な所見のない喘息の存在ってのも、そんなに珍しいものではないと思いますけど。

かば:喘息があるんだとしたら、吸入ステロイドが入っていないのは最悪ですね。

かわうそ:なので、自分ならやっぱりアドエアなりシムビコートを使いがちです。

かば:でも、吸入ステロイドでCOPDの症状取れますかね?

かわうそ:たしかにそこは弱いんでしょうね。でも、なにせ喘息に気管支拡張剤のみってのは禁忌ですから。
COPDに吸入ステロイドは、肺炎のリスクを高めるんだか高めないんだか、そこはたしかに微妙なとこですが、禁忌ではありませんから。

かば:喀痰細胞診で好酸球を確認したりするのは参考になりますよ。

かわうそ:あんまりそのオーダー出したことないです…。さすがですね。今度やってみます。

あと、こういう合剤の論文読むといつもアドエアが出だした頃を思い出します。あの時代、1つのデバイスで済むので画期的で大流行しましたよね。

フルタイドとセレベントを合剤で吸入することによる相乗効果ってやつも、あの時代は大流行でしたね。

かば:今でも言ってません?
理屈は色々ありましたね。平滑筋がナンチャラで、ステロイドが吸収されやすいとか。

かわうそ:私は、そんなことほんとにあるのかなって思って眉唾と思っていましたけど。いや、まだ医師になりたてくらいで、純粋な気持ちできいていたかも…。

でも、その理論はあれ以降の合剤でお目にかからないように思います。普通に考えたら、服薬コンプライアンスよくなる以上の効果はないですよね。


2016年7月12日

アドエアとウルティブロ その2

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.

2016年6月20日

その2

その1からつづき


かわうそ:3000人以上あつめて、1600人ずつに分けて試験しています。ITT解析だけでなく、per protocol解析もしているようです。途中でいなくなった人が多かったんでしょうか。まあ、どちらでもそれほど結果は変わりません。
吸入薬ってあんまり副作用でない印象ありますが、けっこう脱落者が多いんです。ウルティブロ群で17%、アドエア群では19%です。副作用でなのかどうかはわかりませんが、とにかくやめています。

Table 1が患者背景です。平均年齢は65歳、男性が75%でやや多く、最初の段階で半数以上で吸入ステロイド薬が使われていました。適格基準に呼吸困難の自覚症状があり、増悪の経験があるという条件がありますからこうなるんでしょう。ただ、喘息の除外という点では、どうなんでしょう?
あと、現喫煙者が40%というのは、いかにも多いと思います。

グループ分けについても書いてあります。ABCDと分けて、それぞれ何%くらいいるのかと。詳細は省きますが、定義上、A群の人はこの研究に含まれにくいので少ないです。また、C群は肺機能はいいはずなのに症状が重かったり増悪が多かったりと、あんまり想像しにくいグループなのでやっぱり少ないです。基本はD群が中心です。肺機能も悪くて増悪も多いという最重症です。

でも、実際このグループわけを日常診療で意識することってありますかね?自分では、研究の時にしか使わないような…。

かば:一応これに基づいて治療することにはなっていますよね。C群のような人たちでは、肺機能がよかったとしても、増悪すると予後が悪いので、2剤、3剤での治療が必要です。

かわうそ:1秒量なども群間差がないように分けられています。%FEV1も45%くらいですのでしっかりと悪いです。

アウトカムについてはFig 2を見てください。ウルティブロ群の方が増悪率が低くなっています。HRだかORだかが0.88ですので、薬の広告では、「増悪の発生率が1割下がりました」とか、大々的に宣伝されるんでしょうね。

かば:「非劣性を確認するつもりが優越性が証明されました!」とかも言われそうですよね。

かわうそ:うーん、って感じですね。

1年間でどれくらい増悪するか、というのがグラフになっています。とりあえず「any」のラインを見てみましょう。どんなレベルの増悪でもよいというくくりにすると、52週のところをみてみると、なんと8-9割の人が最終的には増悪しています。で、さすがにウルティブロ群の方が5ないし10%くらいは増悪した人が少ないように見えます。でも、健康な人でも1年に1回くらいは調子崩しますよね…。

もうちょい重症な群、「moderate + severe」を見てみます。つまり病院にいって抗生剤やらステロイドやらをもらうとか、入院を考える群ということになります。こういう人たちも1年間で50%くらいあって、ウルティブロ群の方が10%くらい低くなっているように思います。このレベルのイベントを10%抑えるというのは、けっこう大したものだとも思いますが…。

secondary outcomeに、最初の増悪までの日数の中央値が比較されています。ウルティブロで70日、アドエアで56日くらいで起きているようです。2ヶ月に1回くらいは起きているんでしょうか?

かば:日本の研究だと、年の増悪が1回以下、何なら0.5回以下だと思いますけど。多すぎじゃないですか。

かわうそ:まあ、けっこう重症群を集めてきたからでしょうか。
あ、moderate or severeな増悪の年間発生回数はここに載っていました。ウルティブロ群で0.98回なところが、アドエアでは1.19回となっています。…、これ、差ありますか?

そもそも、増悪時には主治医の判断で抗生剤なりステロイドを出すことになっていますけど、でも、ガイドライン上ではここのしきいはすごく低いはずですよね。
だいたい、これくらいの重症度の人が調子悪いと病院にきて、風邪薬とか鎮咳去痰薬とかだけで帰しますかね?レントゲン撮って、肺炎の所見があってもなくても、どっちにしても基本出しますよ?

やっぱりアウトカムの設定がゆるゆるなのでは?

前に降圧剤・高脂血症治療薬の論文を読みましたけど、あのときは複合エンドポイントだからどうこうといちゃもんを付けてしまいました。
でも、個々のエンドポイントは、死亡率とかカテで診断してたりとかしっかりとしています。あんまり判定が変わる要素がありません。

それと比べると、この論文の、というかCOPD系の論文って、病気以外の要素が影響される部分が大きすぎると思うんです。
たとえば、病院へのアクセスとかですよ。同じような症状だとしても、病院に行こうと思うかどうかでmildとmoderateが別れるというのは、どうなんでしょうか。自分としては納得いきません。

入院かどうか、というのも同じです。もともとのADLとか、独居か同居家族がいるか、とか、増悪の重症度と違うところで対応が別れ得ますよ。
想像してみてください。これはやばい、入院かもしれないな、と思ったとしても、同居家族がいてちょっと悪くなれば連れてこれる人と、独居で悪くなったら孤独死しそうな人では、同じレベルの症状・検査結果でも対応が変わってきますよ。
この辺が、1000人単位で人数を集めたんだから統計学的には意味があると言われても、感情としては納得できません。

というわけで、先生がさっき触れた日本のCOPDの増悪の影響を調べた論文だって、あの大学という異常にしきいの高い外来に増悪でわざわざ受診するストレスを考えると、そのまま受け取っていいのかどうか、非常に疑問です。日本人は、自分たちの管理が海外と比べて良いから増悪が少ない、と自賛しているのかもしれませんが。

あと、これは大規模な研究になるとどれでも言えることなんですが、1年間の増悪回数が0.98回と1.19回で、P値が0.001以下だから統計学的に有意差があると言われて、だからウルティブロを使いなさいと言われてもですよ…。数字の上では差があったとしても、実臨床で差があるのでしょうか?

かば:自分1人で考えるのではなく、日本全体とか大きな単位で考えてみんながみんなウルティブロを出せば、医療経済的に変わってくるという話をきいたことありますけど。

かわうそ:なるほどそうかもしれません。
まあとにかく、こういう風にいろいろ考えて読めば読むほど、どうしたらいいかわからなくなってきます。

その3へつづく



2016年7月4日

アドエアとウルティブロ その1

薬の比較の論文は好みではないのですが、勉強会の題材としてはけっこういいかもしれません。突っ込みどころが多くて割りと盛り上がりました。
まずはMethodまでです。


Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その1

かわうそ:NEJMに載っていたインダカテロール+グリコピロリウムとサルメテロール+フルチカゾンの比較です。

かば:オンブレス+シーブリ=ウルティブロとセレベント+フルタイド=アドエアですね。

かわうそ:アドエアは1日2回、ウルティブロは1日1回投与なんですよね。それを比較するってどうなのかな、と正直思います。

かば:デバイスの形もけっこう違いますよね。

かわうそ:とにかく、LAMA/LABAとICS/LABAの比較です。
LABAまたはLAMAの単剤で治療を開始して効果不十分な患者さんに、次に何を使うのか、という疑問に対する研究という位置づけでよいのでしょうか。

かば:純粋なCOPDなら、ICSを使うのは最後の手段という感じですけど。自分ならLAMA/LABA使うことが多いと思います。

かわうそ:なるほど。
あと、これはCOPDの研究論文を読むとたいてい書いてあるのですが、急性増悪が非常に重大な意味を持つという…。
個人的には、本当に増悪を予防することがそんなに重要なのかな、という疑問が残るところなんですけど。いちおう、肺機能低下が進行するとか、QOLが下がるとか、入院が増えるとか、さらに死亡が増えるとか、まあ、お金がかかるし、健康の面でも問題なので、なんとかこれを食い止めることが大切だ、とか書いてあります。たいていこの手の論文にはこうやって書いてありますよね。こう書いときゃ間違いないみたいな。

というわけで、増悪を抑えるということをアウトカムに持ってきて解析していますけど、このあたりいつもひっかかります。
まあ、薬を投与するのは症状を軽減させたり、なんなら数値を改善させるということを目標にしてしまいがちですけど、本来はこういうふうな真のアウトカムを目標にするべきなんでしょうね。増悪が真のアウトカムかどうかはともかくとして。

かば:一番重要なのは予後とかなんでしょうけど、やっぱりCOPDは経過が長いので、死亡をアウトカムにしようとすると10年20年先になりますから、なかなか現実的ではないですよね。
で、これまでの論文で、増悪と肺機能とか、増悪と死亡率の関係についてははっきりしているので、増悪をサロゲートマーカーにしているということなんでしょう。観察期間も短くなりますし。

かわうそ:理屈はわかりますけど、ちょっと三段論法っぽさが残っていて、騙された気分になります。
それに、増悪ってなんなのかというところが、未だにはっきりしないんですよね。そもそも肺炎は増悪なのかどうなのか。

かば:そうそう。あと、アドエア500を使われているところもちょっとひっかかります。

かわうそ:そうか。日本で適応があるのは250でしたっけ。

メソッドに行きます。
1年間フォローした多施設共同研究です。43カ国356施設が参加しています。

かば:大規模ですね。ダブルブラインド、ダブルダミーですね。デバイスの形でどちらの薬かわかってしまうので、どちらの群も2種類処方されているようですね。一つは実薬、一つはプラセボ。

かわうそ:ちなみに、ウルティブロがノバルティスの製剤ですし、ノバルティスの資金で行われた研究です。ウルティブロよりなのはしょうがないと思いますけど、ICS/LABAは肺炎のリスクをあげるから望ましくないみたいなことがイントロにかかれています。
ノバルティスといえば、ディオバン事件ですよね。となると話半分で聞いておいたほうがよいのかも…。

かば:あれは日本だけの研究ですから。この論文の研究は世界中で行われているわけですし、そういう不正はないと信じて良いとおもいますけど。

かわうそ:なるほど。でも私、ディオバンはあれ以来ほとんど切り替えました。
そもそも、ディオバンは降圧作用に加えて、脳梗塞や狭心症など血管障害を予防する効果が他のARBと比べると強いとかいう触れ込みだったわけですよね。それが偽装だったとして、ディオバンをわざわざ出す気になります?他に山程似たような薬があるのに。実際、勝手に変えるわけではないですよ。患者さんに、「こういうケチのついた薬ですけどどうします?」って聞いたうえで変更していますが。ただ、基本的にARBの中ではもっとも安い部類の薬になりますので、変更しないでほしいと言われたことはありますけど。

ちなみに、同じ理由で三菱の車も東芝の家電も買わないようにしてます。
でも、自分が失敗した時には、一度の失敗で自分の評価を決めないで欲しい、挽回のチャンスがほしいと思ってしまいます。人って勝手なもんですよね。

さて、対象は40歳以上のCOPD患者で、MRCがgrade 2以上の呼吸困難がある人です。SABAを吸ったあとの肺機能検査でしっかりと診断しています。
あと、増悪が重要な指標になりますので、1年前までに記録された増悪があるかどうかを適格基準に入れています。増悪の既往があったほうが、増悪しやすいという既報を踏まえたものになっています。

アウトカムとしては、COPDの増悪が1年間に何回あったのか、その程度はどうだったのか、軽度だったのか中等度だったのか重度だったのか、あと、初回増悪までの期間ということになっています。

増悪の定義もここに書いてあります。全身ステロイド and/or 抗生剤投与ということになっています。
というわけで、この論文では、肺炎の有無は問わないということになると思います。

かば:もともとの増悪の定義は、レントゲンであきらかな浸潤影がある場合は除くことになっていますよね。

かわうそ:増悪と肺炎は別物ということですよね。でも、そもそも重症のCOPDだと、レントゲンで肺炎の有無がわからない、気腫性変化が強くて浸潤影がはっきりしない、というのも常識ですし。

かば:症状では区別できないですしね。

かわうそ:いつもこのあたりはモヤモヤします。CTをいつも撮ることができるわけではないので仕方ないといえば仕方ないのですが。
その他もろもろ合わせて27個のsecondary outcomeを設定したと書いてあります。

かば:多いですね。全部を載っけてなくてアウトカムがオンラインサプリメント参照ってのは結構珍しいです。

かわうそ:さすがにこれは擁護しきれません(呆)
まあ、ほとんどが増悪関連のアウトカムなんだと思いますけど。増悪回数とか、初回増悪までの期間、増悪の期間とか、あと、moderateとsevereを組み合わせだとどうか、とかいろいろやってみたんでしょうけど。あとはSGRQとか肺機能なんかも評価しています。
ただ、これだけのアウトカムを検定するのは、統計学的にはどうなのかと思いますけど。対象患者が多いからいいってもんでもないでしょうし。

最後に、mild、moderate、severeの定義もありました。mildなものは、2日以上の症状の増悪とされています。ただし、抗生剤・ステロイドの治療にはいたらないもの。severeは入院やER受診が必要なもの、という風に決められています。
mildをどうやってひっかけるかというと、「electronic diary」なるものを渡しており、毎日記録してもらっているみたいです。けっこうお金かかりそうですね。

かば:最近はスマホのアプリを駆使した研究流行りですからね。

かわうそ:でも、老人が対象なので、そういう人たちがアプリを使いこなせるのかどうか。もちろん中にはそういう人もいるんでしょうけど。
統計についても詳しく載っていますが、割愛です。ほんとは非劣性試験のつもりで初めていますが、優越性を証明するための計算方法なんかも書いてあります。

その2へつづく



2016年6月30日

スタチン神話再び?

降圧剤と高脂血症治療薬の効果についての論文です。目新しいところは、リスクの小さい人が対象という点です。

Blood-Pressure and Cholesterol Lowering in Persons without Cardiovascular Disease.
N Engl J Med. 2016 May 26;374(21):2032-43.
Yusuf S, Lonn E, Pais P, Bosch J, López-Jaramillo P, Zhu J, Xavier D, Avezum A, Leiter LA, Piegas LS, Parkhomenko A, Keltai M, Keltai K, Sliwa K, Chazova I, Peters RJ, Held C, Yusoff K, Lewis BS, Jansky P, Khunti K, Toff WD, Reid CM, Varigos J, Accini JL, McKelvie R, Pogue J, Jung H, Liu L, Diaz R, Dans A, Dagenais G; HOPE-3 Investigators.


2016年6月8日


かわうそ:降圧剤は、ARB(カンデサルタン)とサイアザイド(ヒドロクロロチアジ)の合剤、つまりエカードです。
高脂血症治療薬は、ロバスタチンですので、クレストールですね。

かば:うちの病院には合剤少ないんですよね。

かわうそ:実は、今回のNEJM(2016年5月26日号)では、一連の研究で3つの同じような論文が載っているんです。
同じような軽度のリスクの人に、降圧剤群とプラセボ群の比較、高脂血症治療薬群とプラセボ群の比較、そしてこの、降圧剤と高脂血症治療薬のコンビネーション群とダブルプラセボ群の比較です。

かば:すごいですね。それを全部やったんですね。

かわうそ:それぞれ3000人ずつ、合計12000人を集めて、これを中央値で5.6年間フォローアップしています。

かば:…(絶句)。

かわうそ:リスクの高い人、心筋梗塞発症後の再発予防ではなく、それほどリスクの高くない人に使った時の効果をみる、というのが目的です。
では、どんな人が含まれるのか、ということですけど、methodsのところにはあまり詳しく書いてありません。男性なら55歳以上、女性なら65歳以上で、心血管系の疾患がなく、年齢以外に少なくとも1つ以上のリスク要因がある人、と書いてあるのみです。

かば:オンラインサプリメント参照ってありますけど。

かわうそ:当然お金を出していないので読めませんでした。
ただし、患者背景のTable 1が参考になると思います。ウエスト/ヒップ比が高い、喫煙歴、HDL-Cho低値、耐糖能障害、家族歴、腎機能障害とかです。
高血圧や脂質異常症は不問ということです。それにもかかわらず、降圧剤と高脂血症治療薬を使うという実験計画がドラスティックでよいですね。

かば:血圧高くない人にも、降圧剤を出すんですか?

かわうそ:そうなンですよ。高血圧のあった人は3割くらいしかいません。平均140/80くらいです。
高脂血症についても総コレステロールが200、LDL-choも120強です。

こういう人がほんとうにマジメに飲むのかどうか疑問だったのでしょうか、最初にお試し期間を設けています。4週間まず内服していただき、コンプライアンスだとか副作用だとかをチェックしたうえで、本番に臨んでいます。最初は6週間、それから6ヶ月毎フォローしています。

アウトカムについては、ちょっと注意が必要です。流行りの複合アウトカムが採用されています。
primary outcomeは、心血管系による死亡、非致死性の心筋梗塞または非致死性の脳卒中の発症です。
secondary outcomeは、primaryに加えて、心肺蘇生された、心不全を発症した、心カテをされた、が含まれるようになります。

結果に移ると、12705人集めてきて、3180人にエカードとクレストールを飲ませました。3181人はクレストールだけ、3176人がエカードだけ、3168人が両方共プラセボ、という感じでやっています。
これから先は、エカードとクレストールの両方とも内服した群と両方共プラセボの群を比較します。

年齢は65.7歳、46.2%が女性でした。血圧は138.1、LDL-choが127.8でした。やはり、普通なら投薬しない可能性が高い人々です。

お、けっこう服薬アドヒアランスはいいですね。8割以上の方が2年間飲んでいます。

治療効果としては、Fig 2に載っています。血圧は最長7年フォローしています。

かば:やっぱり血圧下がるんですね。ぱっと見、けっこう下がっているように見えますけど。

かわうそ:よくよく見てください。目盛りの単位がキモです。
まず、プラセボでも5mmHgくらい下がっています。内服群では、さらにそこから6mmHgさがるというわけです。

かば:y軸の目盛りに注意しないとですね。

かわうそ:でも、クレストールだと、LDL-choが30くらい減ります。たいしたものです。

ちなみに、このグラフ、5年までは横ばいなのに、そこから先にはさらに下がったりしているように見えます。油断していると、5年以上飲み続ければさらに効果が出てくるのか、とか刷り込まれてしまいそうです。

でも、よくみるとグラフの下に何人をフォローした結果なのか、という数字が載っています。ここに注目すると、実は5年以上フォローした人が少ないので、結果が変わってきているだけだと思われます。

かば:なるほど。

かわうそ:Table 2がアウトカムのまとめです。複合エンドポイントですが、個々のエンドポイントについても丁寧に件数の数字を出しています。偉い態度だなと思います。

かば:複合エンドポイントにしないと、イベント数が少なすぎて有意差がでにくいんでしょうね。

かわうそ:そう思います。デザイン的にも、低リスクの集団ですし。実際、心血管系が原因の死亡については、有意差がでていません。非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中については有意差が出ているようですが。
とりあえず、primary outcomeについては有意差があったということなんですが…。

かば:5年間フォローしたとき、157人にそういうイベントが起きるところが、降圧剤と高コレステロール薬を飲むと113人まで減らせられた、ということですね。3000人が飲んで30人くらいに効果が出たわけですね。

かわうそ:この結果をどう感じたらいいんでしょうかね。もう少し詳しく数字を追ってみると、コンバインドセラピー群では113人、3.6%にイベントが起きています。ダブルプラセボコントロール群では、157人、5.0%にイベントが起きています。HRが0.71で95%信頼区間が056-0.90、p<0.005です。
どう思います?「すごい、ぜひとも処方するべき」ってな感じで、広告されるんでしょうかね?

かば:製薬会社からすると、イベント発症率を3割近く減らした、とか言われますね。

かわうそ:absolute difference、つまり、5.0%と3.6%の単純な差なんですが、それもきちんと書いてありますよね。1.4%減らしました、といわれると、ほんと大したことない違いですよ。
さらにNNT(number need to treat)を計算すると72でした。つまり、72人治療して、1人救えるというわけです。
普通は隠したくなる数字ですよね。ちゃんと出しているだけ、真摯な態度を感じます。

かば:これを多いと見るか少ないと見るか。あと、医療経済的にどうなのか。
でも、COPDの薬よりはNNT小さいですよね。効いている気がします。

かわうそ:ていうか、COPDとかOSAの論文でこういうのを出しているところを見たことがないンですけど。
循環器科はこういう研究で呼吸器科よりかなり先を行っていますね。

かば:あと、結局スタチンがよく効いているみたいです。

かわうそ:よくご存知で。さっきも言ったように、この号では降圧剤とプラセボ、高脂血症治薬とプラセボでも同じような検討をしています。
で、高脂血症治療薬とプラセボ群の比較だけが、有意差がでました。
ということで、この3つの論文を読んだ感想として、クレストールの力がすごいな、という見方もあります。NNT=72ですけど。

かば:NNT=72って、でもけっこうすごくないですか?心筋梗塞の予防と考えたら、処方するかもしれません。
もっと血圧とかコレステロールの高い人だと効果がいいかもしれませんし。

かわうそ:あ、そういう解析もしていました。集められた人の中で、それでも血圧高めの人で解析すると有意差が出たといっています。

かば:きれいな結果ですよね。すごいですね。

かわうそ:実はYusufっていう人が、この3つの論文のうち2つを書いています。

かば:アジア系もが入っていますね。

かわうそ:これまでの研究ではやっぱり白人対象のものが多かったので、人種差を除外するためにいろいろ入れた、とどこかに記載ありました。

でも、私が仮に患者としてこの情報を得た時、やっぱり飲まないと思います。
筋痛・めまいだとかの副作用もある程度ありますし、それ以上に恩恵を受けるのが何十人に一人と言われると…。

かば:昔はもっとスタチン神話すごかったですよね。肺炎にだせ、とかCOPDにも出せ、とか。CRPが0でも、抗炎症作用があるとか。

かわうそ:今はどうなってるんでしょうね。

2016年6月20日

32歳男性、焦げた匂いと感覚異常 その2

いつもおなじみのMGH症例検討会です。
後半は、検査と診断、治療経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.


2016年5月30日

その2

その1からつづき

かわうそ:実臨床では、この段階で脳生検に突き進んでいます。でも、鑑別診断の検討ではこのあたりでサルコイドーシスなんじゃないのって疑っているらしいんですよね。
clinical diagnosisだと、脳腫瘍となっていますが、この解説の先生の診断では肉芽腫で、たぶんサルコイドーシスなんじゃないか、となっています。

だから、例えば採血でACEしたりとか、肺のCTを撮影したほうがよかんたんじゃないの、みたいなコメントを頂いています。

かば:もうちょっと侵襲の少ないところで生検できたんじゃないの?と考えてるわけですね。後出しですけどね。

かわうそ:主治医からすると、ぶどう膜炎や皮膚・関節症状、涙液・唾液の乾燥症状なんかの全身症状がないから、脳腫瘍だけと思ったんだ、ってコメントしています。

かば:あんまりサルコイドーシスっぽい症状がなかったんでしょうがないですね。
PET-CTの所見はどうだったんでしょうか?

かわうそ:そういえば、脳のPETについてコメントありましたよね。でも、胸部については触れられていません。

次は脳神経外科の先生のコメントです。glial tumorと思って開頭手術したわけですが、見た目がそれっぽくありません。固くて、ゴムみたいで、紫色っぽかったとのことで、想像と違ったと言ってます。

で、病理標本の写真をみてみると…。

かば:これは立派な肉芽腫ですね。サルコイドーシスですね。

かわうそ:そうなんです。非乾酪性肉芽腫ということがわかりました。
そういう目でレントゲンを撮り直してみると、やっぱり肺門部が腫れていることが確認されました。
造影CTでも肺門リンパ節腫脹がはっきりします。

かば:肺門部も分岐部も腫れていますし、EBUSの良い適応です。

かわうそ:VATSでもよさそうです。
でも、我々だとそう思うだけで、脳外の先生からすると、脳生検なんて簡単ですよ、とかなりませんかね?

かば:どうでしょう?わかりません。

かわうそ:サルコイドーシスについていくつか新たな知見があります。
最近では、あのワールド・トレード・センターの粉塵に巻き込まれた方の中に発症が増えたという報告があるんですって。
サルコイドーシスは非結核性抗酸菌症や真菌の感染で誘起されるのではないか、という噂がありますので、きっかけにはなるのかもしれません。

かば:それはほんとなんでしょうか?
その後のフォローがしっかりしていて、細かく見ているから、たまたま発見される可能性が高いのかもしれませんけどね。

かわうそ:なるほど。

神経サルコイドーシスについては、我々はあまりみないと思っていましたが、剖検の報告では、5-15%くらいはあるようです。
もう少しまじめに調べたほうがよいのかもしれません。MRIとかして。

かば:胸部CT、心エコー、眼科フォローするくらいですね。たしかにあんまり頭は調べませんね。

かわうそ:この症例の場合でも、年単位で徐々に症状出現、というくらいなので、心臓やブドウ膜のようにあえて積極的に探しに行かなくてもよいのかもしれません。

治療についてですが、なかなか攻めてるな、と思いますね。たぶん体格がよい人なのでしょう。80mgのプレドニンで治療しているンですが、外来で初めているンです。

かば:おおっ。さすがアメリカですね。

かわうそ:ただ、抗てんかん薬はやめられないようですし、幻覚については残っているようです。ステロイドの影響もあるのでしょうか、気分変動や物忘れで悩んでいるらしいです。さらに、けいれんの大発作も起こして搬送されたりしています。
サルコイドーシスって、ステロイド使ってほんとに治療効果あるのかな、とは疑問に思いますね。

かば:ステロイドパルスとかしないんでしょうか。

かわうそ:インフルキシマブとかも使わざるをえないかも、とは書いてます。
こういう風に、ステロイドの副作用の精神症状などで困った場合には、倍量にして隔日投与にするのがけっこううまいこといっていいんだ、みたいなトリビアというか小技が披露されてます。

で、最後に患者さん本人が来てコメントしています。
でも、今回みたいに、診断も治療もイマイチすんなり行ってない場合だと、本人がいる前では、活発な議論できないですよね。最初からサルコイドーシスを疑って全身検索したほうがいいとか、強く言い難いです。
以前読んだエボラ熱疑いならいいんですけど。

かば:ただ、肺門部リンパ節腫脹が見つかったからといって、脳生検がほんとに必要ないかどうかわかりませんよね。サルコイドーシスと脳腫瘍の合併の可能性を考えたら、やっぱり脳生検をしちゃうかもしれません。

それにしても、症例報告でサルコイドーシスが話題になることってけっこう多いですよね。やっぱり症状や経過が多彩で、診断が難しいんでしょうね。



2016年6月16日

32歳男性、焦げた匂いと感覚異常 その1

いつもおなじみのMGHの症例検討会です。
まずは鑑別診断までです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 15-2016. A 32-Year-Old Man with Olfactory Hallucinations and Paresthesias.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1966-75.
Ronthal M, Venna N, Hunter GJ, Frosch MP.


2016年5月30日

その1


かわうそ:若い男性の、これは珍しいんでしょうね、匂いの幻覚です。

かば:幻嗅ですね。

かわうそ:それと、錯感覚です。だるさ、しびれなどが左側だけででています。

かば:麻痺ではないんですね。

かわうそ:感覚の異常だけです。そういうのが結構長い期間で出てきています。幻嗅については、1年位の経過です。ほぼ毎日、硫黄の匂い、燃えたような匂いを感じて嘔気を催します。2分ほど続くそうです。さらに、6週間前から錯感覚も出てきたので受診しました。
神経学的な身体所見ではほとんど異常はありませんでした。
ただ、MRIを撮影すると、右側頭葉に腫瘤を指摘されました。部分的に造影されています。フレア画像では造影されている部分以上に病変が広がりを見せていたようです。

かば:浮腫でしょうか。

かわうそ:部分発作と診断されて、抗てんかん薬を処方されています。

かば:においといえばてんかんの前兆ですよね。

かわうそ:あ、なるほど。それは気づきませんでした。
で、精査のためにこの病院に紹介されました。
脳神経系の疾患ですので、ふだんならあまり読まないンですが、今回は我々にもけっこう関係のある疾患なので読んでみました。

かば:なんと。

かわうそ:まず、右利きということが一番初めに書いてあります。そして奥歯に虫歯があると書いてあります。このあたりは、頭の病気を見るときにいつも気に留めておくべき情報です。

かば:利き手はわかりますが、虫歯も関係あるんですか。

かわうそ:あとで出てきますけど、脳膿瘍などを考える際に、虫歯からの感染の波及を考慮すべきとのことです。

かば:なるほど。

かわうそ:あと、既往にADHDがあります。…、ほんと最近多いですね。
あとはあまり特記すべき所見はありません。関節痛、口腔内乾燥、呼吸困難などはないと書いてあります。昔、目の手術をしたため、瞳孔や対光反射に左右差ありらしいです。薬としては、最近はじまった抗てんかん薬くらいです。アレルギーはありません。普通に社会人として仕事をしています。飲酒喫煙なし、イリーガルドラッグの使用なしです。人種としては、アフリカ系とカリブ系の系統です。あまり旅行には行っていないようです。自己免疫疾患の家族歴なしです。
もう一度身体所見をとって神経学的異常なし、筋力なども異常なし。血液検査もほとんど異常なしです。心電図はちょっと微妙です。軽度の左室肥大。レントゲンも異常なしです。

MRIの所見をもう一度見てみましょう。Figure 1です。

かば:メタみたいな感じではないですね。リングエンハンスメントではないですし、くりっとした腫瘤病変というよりは、モヤモヤっと不正形ですね。

かわうそ:実はこのような腫瘤は一つだけではありません。さらに、髄膜にそっていくつか小さい結節が広がっています。

かば:髄膜炎とか髄膜播種とか?橋まで広がってますね。

かわうそ:この病変なら、幻嗅や片側の錯感覚の説明はつきそうです。
鑑別診断を上げていくのですが、まずてんかんについて検討しています。

このように、側頭葉に病変がある場合、5割でてんかん発作が出てくるみたいです。怖いですね。
複雑部分発作ということみたいです。このあたりの分類については勉強不足ですいません。部分発作なので意識が保たれるということだと思います。
この辺りの病変だと、嗅覚とか味覚に異常が出るということがわかっているらしいです。

かば:ヘルペス脳炎なんかもそうですよ。

かわうそ:原因としては、先ほど出てきた虫歯のほか、海綿静脈洞血栓症とか脳膿瘍も考えておけというところですが、この人はあんまり感染の兆候がないので、ちょっと可能性が低くなりますね。

全身症状といえば、唾液・涙液の乾燥症状 がないことも注目すべきです。
あんまりピンとこないのですが、唾液・涙液の乾燥症状がないということを、この筆者はやたら強調しています。サルコイドーシスやSLE、シェーグレン、強皮症などの神経症状ではなさそう、と言いたいようです。人種的に黒人ということで罹患率が高いということから、鑑別にあがってくるのでしょう。

ということで、これではいまいち絞れませんでしたので、てんかん発作ではなく、脳腫瘍の画像所見から鑑別をあげてみましょう。
とはいっても、われわれは脳転移くらいしかみたことがないのですが…。

かば:うーん。

かわうそ:拡散強調画像など、MRIの撮影方法の違いでいろいろ見えてくるものがあるようです。
例えば、グリオーマは細胞成分が少ないので写り方がどうこうとか、けっこう力入れて書いてありました。
あと、最近ではMRIのスペクトロスコピーという撮影方法があるようです。

かば:SPECTですか?いわゆる脳の血流をみるやつ?でもあれはCTでしたね…。

かわうそ:よくわからなかったのですが、けっこうかっこいいことが書いてあるんです。腫瘍内部のメタボリズムについての情報がわかるとのことで、どうやら細胞の中になんの蛋白が含まれているのか、というものがわかるらしいんです。
例えば、グリオーマは、おそらく細胞膜のターンオーバーが更新していることを反映して、cholineの量が多く、N-acetylaspartateが少ないということがわかっています。また、lactateが多いと嫌気性のメタボリズムが示唆され、脂質が多いと細胞の壊死を反映するなど、glioblastoma multiformeだと診断できます。これ、たしかERのマーク・グリーン先生が罹患した病気ですよね。

というわけで、脳腫瘍のなかでもどんなものらしいか、ということが想像できるということらしいです。
ただ、この症例では役に立たなかったということでした。

かば:ふふっ。

かば:あと、PETの結果も有用とのことです。ただ、我々の知識では、脳のPETは参考程度らしいので、どういうことなのか…。
まあ結局、いろんな情報を総合すると、悪性新生物ではなかろうということがわかりました。

石灰化も有用な情報と書いてありますが、この人にはそういう所見はなかったように記憶していますので、ここではちょっと省きます。結核の可能性を考えてのことでしょうか?

まとめると、悪性新生物ではない証拠がけっこうあって、炎症性の疾患の証拠がそろっています。
で、鑑別にあがるものは、多発性硬化症、脳炎、サルコイドーシス、ベーチェット病、結核、真菌感染、梅毒ゴム腫というところらしいです。

かば:難しい…。

かわうそ:画像上は肉芽腫っぽいな、というところまでわかりましたが、これ以上するとしたら生検しかないのでしょう。
けっこう気軽に脳生検するんだな、という感想ですけど。

その2につづく


2016年6月9日

MGH case 14-2016 その3

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。最後は検査と治療についてです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:このあとの対応としては、まず小腸の生検です。絨毛の障害を見つけたいです。
でも、けっこう大変ですよね。なぜって、この人は周りの人が自分を騙しているという妄想を抱いているわけなので、なかなか信用してもらえません。

かば:検査をさせてくれないんですね。

かわうそ:いちおう、セリアック病には信頼性の高い採血の検査、IgA tissue glutaminase antibodyがあるようです。この方はこれで陽性となっています。
このあとなんとか説得して検査した病理標本が図に載っています。自己免疫疾患なのでか、リンパ球が十二指腸の上皮内や固有粘膜に集まっていて、構造が破壊されているのがわかります。

でも、せっかく診断がついても、このあと治療も難渋してるんですよね。医者が嘘を付いているんだと。グルテンフリーダイエットを拒否しています。
どうやら妄想が延々と続いて、自分に対する陰謀の証拠を発見したとか騒いで、治療を拒否して、そうこうするうちに職を失って、ホームレスになって、自殺企図したりしたみたいです。

かば:なんと。

かわうそ:そのあとなんとか入院して、こんどこそ治療が開始されています。
グルテンフリーダイエットを三ヶ月続けたところ、リスペリドンの内服は必要ですが、妄想は消えたようです。
というわけで、苦労したけど、治療ができました。

かば:よかったですね。すごいですね。

かわうそ:良くなってから生検した結果の病理標本も載っています。すっかり正常の構造になっています。
実は、グルテンフリーダイエットが有効な疾患というのはセリアック病以外にもけっこうあります。セリアック病は他の自己免疫疾患との合併が多く、しっかりと診断する必要があるので、安易にグルテンフリーダイエットしない方がよいとのことです。

さて、この人については、この後切ない展開が待っています。実は、きちんとグルテンフリーダイエットを守っていたのですが、ついうっかり…。

かば:食べちゃったの?

かわうそ:そうなんです。妄想がぶり返し、グルテンフリーダイエットも受け入れてくれないらしく、困っているようです。

かば:やばいですね。診断ついても治療できないのは辛いですね。

かわうそ:こっそりグルテンフリーダイエット食べさせるわけにはいかないんでしょうか。

かば:やっぱり味が違うんでしょうね。ググると、日本ではダイエットのために使われることもあるみたいですけど。
この表をみると、セリアック病の合併症というか、消化管外症状ってたくさんありますね。難しいですね。

かわうそ:やっぱり、日本だけで働いていると、ほんとに診ない病気がたくさんありますね。

ちなみに、このcase recordの直前に載っていた、Image in clinical medicineもけっこう衝撃的な画像ですよ?

54歳の脳性麻痺のある男性が、喀痰による右主気管支の気道閉塞のせいで、Morgagniヘルニアから消化管が胸腔内に迷入しています。胸部聴診でbowel soundがわかったようです。
で、診断のあとどうしたかというと、本人・家族の希望により、外科的な修復は行われませんでした。このあとこの方がどういう暮らしをしたのかが気になるところです。


2016年6月7日

MGH case 14-2016 その2

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。鑑別診断編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その2

その1からつづき


かば:これまでの病歴からすると、鉄、ビタミン不足だけでなく、体重減少もあるんですよね。だから、腸管吸収が問題なのだと思いますけど、疾患が思いつきません。
自己免疫疾患がキーワードっぽいので、SLEかとも思いましたが、ほとんど診断基準に当てはまる症状、所見がないようですし。

かわうそ:確かにSLEは鑑別にあがるべきですね。

ここから鑑別診断に入ります。
まず、成人から突然発症した精神病とのことで、まずは基礎疾患がないかどうかしっかりと精査しましょう。

これまで発見された、鉄欠乏性貧血やビタミン欠乏は、神経障害との関係はありますが、さすがにこれほどの妄想性精神疾患をきたすことはないでしょう。
ビタミンB1のウェルニッケ症候群、ビタミンB3のペラグラは有名ですけど。

体重減少とビタミン欠乏があるので、神経性食思不振はやっぱり考えないといけないですよね。完璧主義というキーワードもありますし、ただし、さきほど触れたようにどれだけ周囲から話を聞いてもそういう証言は得られませんでした。

かば:体重減少と突然の意識障害と捉えると、悪性疾患と脳転移は考えるべきと思います。

かわうそ:そうですね。
でも、この症例では脳の画像検査は得られていないようです。
頭部MRIして脳腫瘍または脳転移の検索をすべきだ、とリコメンドされています。

あとは、橋本病という自己免疫性甲状腺疾患についてですが、これはおそらくたまたま見つかっただけで、精神症状との関係はなさそうとのことです。
むしろ、そのあと、甲状腺ホルモン補充に対して反応しないことが重要です。
あと、自己免疫性疾患があること、家族歴も濃厚であることです。
自己免疫疾患があって、吸収障害がある場合、これを考えるらしいんです。

・・・。実は、セリアック病でした。わかりました?

かば:おお。セリアックスプルーですね。

かわうそ:私はこの疾患は小麦というかグルテンに対するアレルギー反応を有する遺伝性疾患という認識だったのですが、むしろ吸収障害を伴うような自己免疫疾患と捉えるべきなようです。

かば:自己免疫疾患…。

かわうそ:という分類になるらしいです。私には、グルテンフリーダイエットというキーワードぐらいしか反応できないのですが。
ちなみに精神疾患についても、有名ではないものの、セリアック病に合併したという報告がけっこうあるらしいので、矛盾するものではないとのことです。

かば:すごいですね。病歴からここまでたどり着いたんですね。

かわうそ:ここで、精神科の主治医にコメントを求めています。「われわれは病歴でここまでたどり着いたわけだけど、実際みたお前はどうなの?」っていうところでしょうか。いじわるしているわけではないのでしょうが。
回答としては、「統合失調症としては、少しおかしなところはあるにせよ、やっぱり最初は妄想型の統合失調症と診断しちゃうよね」、といってます。

その3へつづく



2016年6月3日

MGH case 14-2016 その1

37歳女性、成人発症の精神病です。なかなか変わった症例です。前半は問題編です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 14-2016. A 37-Year-Old Woman with Adult-Onset Psychosis.
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1875-83.
Delichatsios HK, Leonard MM, Fasano A, Nosé V.

2016年5月27日

その1

かわうそ:妄想で精神科を受診されました。自分のまわりで大きな陰謀が進行しているというよくある妄想です。家族や友達が、自分に対して嘘ついているというような妄想を突然抱くようになってしまいました。妄想の他には幻覚などの精神症状はありません。
たまたま家に泥棒がはいったという事件をきっかけにして、さらに妄想が進行します。合鍵を持っていたのが家族だけなので、家族に対する疑惑が爆発、暴力沙汰になってしまったようです。
やや発症年齢が高く、典型的ではないように思われましたが、一応スキゾフレニア、統合失調症として入院加療となっています。アメリカでどうかはわかりませんが、日本なら自傷他害の恐れあり、で医療保護入院とか措置入院のレベルでしょうか。

かば:単なる統合失調症では、MGHのケースレコードにならないように思いますけど。

かわうそ:そうですね。やっぱり病理所見との対比が売りですからね。実は器質的な疾患がありました。
まず、採血結果、鉄欠乏性貧血がわかりました。その他ビタミンB12、D2の欠乏もありました。あとはほとんど正常です。栄養状態については、あれ?記載ありませんね。

既往歴は特にありません。足のケガとか、あと、卵巣腫瘍で卵巣摘出していますが、その後ホルモンバランス異常などは指摘されていないようです。
ただ、性格は異常というわけではないのですが、ちょっと変わっているようです。10代のころから完璧主義者で鳴らしていたようです。

かば:自閉症スペクトラムですか?そういえば、最近ADHD多くありませんか?偏食で肝障害とか、サプリで肝障害とか。

かわうそ:私もそう思いますが、この時点でそこまで言えるかどうかは書いてありませんでした。
あと、よく聞いてみると体重減少があります。期間は不明ですが9kgも減少しているらしいです。
過食症や嘔吐、下痢、髪の毛が薄くなるなど、神経性食欲不振を疑うようなエピソードはありません。利尿薬や下剤の使用もなしです。頭部外傷なし。引きこもり歴なし。
さて、家族歴はけっこう注目です。

かば:ほう。

かわうそ:母がSLE、姉妹に甲状腺機能異常、祖母に糖尿、おばが乳癌。ただし、精神疾患はありません。
食事はペスクタリアンダイエットをされています。知ってます?

かば:しらない。

かわうそ:調べたところ、動物の肉は食べないものの、魚介類は食べるというこだわりのようです。
あとは、卵を結構食べるとか、サラダ毎食食べてるとか、けっこう詳しく述べられています。
アルコールは機会飲酒程度、喫煙はないがマリファナ使用歴あり。
コーヒーは一日二杯でよいとも悪いとも書いてありませんが、自分は四杯くらいなので、これが問題だとしたらけっこうやばいですね。

一ヶ月入院して退院されました。リスペリドンだとか抗鬱薬、ビタミン薬などを出されています。ただ、あまり症状はよくなっていないようです。
フォローの外来受診時に、入院担当医が見たところ、さらにガリガリにやせていることを発見されました。

かば:甲状腺機能亢進ですか?

かわうそ:主治医もそう疑ったのでしょう、あらためて所見をとったら、甲状腺腫脹が発見されました。精査したところ、橋本病と甲状腺乳頭癌でした。
橋本病って基本的には甲状腺機能低下になるはずですが、機能亢進状態にもなりえますので、そのための精神症状なのかな、とも思いましたが、ちょっと病歴とは合わない印象ですよね。この方はほかにもキーとなる症状がありますし、それは甲状腺機能異常では説明できないようです。

とりあえず橋本病と甲状腺乳頭癌に対する治療として、甲状腺摘出術後、甲状腺ホルモン補充療法を行いました。
この経過が診断に結びつきます。実は、補充しても、なかなか有効血中濃度にならないんです。

これで思い浮かぶ病気あります?ていうか、これが精神疾患につながるという印象が私にはありませんでした。

その2へつづく


2016年5月26日

話題のがん免疫治療についての文献を読んでみた その2

今回はペンブロリズマブについての論文がLancetに載っていたので読んでみました。
今話題のがん免疫療法です。後半は結果からです。

Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial.
Lancet. 2016 Apr 9;387(10027):1540-50.
Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Arvis CD, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB.

2016年5月13日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。
まずOSについてのカプランマイヤー曲線をみましょう。50%以上PD-L1が発現している群と、全患者でそれぞれ曲線が描かれています。
機序的にいっても、PD-L1がたくさん発現している群で効果が大きいはずですよね。PD-1経路を介して、免疫細胞からの攻撃を逃れていた癌細胞に対する免疫が回復するわけなので。

一応、有意差はしっかりとあります。でも、このグラフで見ると、数ヶ月くらいの全生存期間の延長ですよね。これをみると、残念ながら必ずしも喧伝されているほどの夢の薬でもないな、と感じてしまいます。

解析期間中、1000人中約500人の患者さんが亡くなっています。詳しく見てみると、ペンブロリズマブ2mg/kg群では50%、10mg/kg群で45%、ドセタキセル群で56%の方が亡くなっています。

かば:あんまり変わっていないですね。

かわうそ:50%以上PD-L1が発現している場合は、ちょっと変わってきます。ペンブロリズマブ2mg/kg群では42%、10mg/kg群で40%のところが、ドセタキセル群で57%になりますから。

生存のHRで見てみると、ペンブロリズマブ2mgとドセタキセルをくらべると0.54で、10mgとドセタキセルだと0.50でした。
これならそうとうペンブロリズマブのほうがドセタキセルよりいいということになりますね。

あとは、ペンブロリズマブの用量を2mg/kgで認可されるのか、10mg/kgになるのかという問題が残ります。

かば:これは2mg/kgにするべきでしょう、さすがに。

かわうそ:それほど効果は変わらないけど、5倍値段が違ってくるわけですからね。

50%以上PD-L1が発現している場合、全生存期間の中央値は、ペンブロリズマブ2mg/kgで14.9ヶ月、10mg/kgで17.3ヶ月のところ、ドセタキセルでは8.2ヶ月でした。
半年から10ヶ月くらいは生存期間を延長できるということです。これをどう考えるかですけど…。

全患者でも、似たような結果でした。ペンブロリズマブ2mg/kgで10.4ヶ月で、10mg/kgで12.7ヶ月で、ドセタキセルでは8.5ヶ月でした。2ヶ月から4ヶ月、生存期間の延長が期待できるといえます。

つぎに、どんな特徴を持っている患者さんでペンブロリズマブの効果がいいのか、みたいなサブグループ解析をやっています。ニボルマブは扁平上皮癌がよいとかいう話があったように思いますが、ペンブロリズマブは非扁平上皮癌の方がよいようです。

ちなみに、Progression Free Survivalでも同じような解析をやっていますが、これでは、それほどペンブロリズマブ群が優位だとは言えないですね。
PFSっていうのは、やっぱりあくまでもサテライトのアウトカムであって、あんまりあてにならないこともあるのかな、とか思います。

かば:追加の治療の問題でしょう。ペンブロリズマブという選択肢が一つ増えた分だけ生存期間が伸びたという説明できませんか?あと、ペンブロリズマブだと副作用が少ないから、弱ってしまわず次の治療に移りやすいとか。

かわうそ:一応、このあとの化学療法のサイクル数についても解析されているようで、差はなかったようでした。
こういうがん免疫療法って、いったんは大きくなるけどがんばって使い続けろ、とかいう話をニボルマブの勉強会で聞きませんでした?

かば:そこが胡散臭いと感じてました。

かわうそ:同感です。
ただ、このあたりがPFSがあてにならないところなのかな、みたいなことがdiscussionにかかれていました。

副作用についてもまとめられています。
ドセタキセルでは、実感通り、食思不振とか倦怠感がやっぱり多いです。一方、ペンブロリズマブだとこれらは少ないです。あと骨髄抑制もあんまり出なさそうです。

自己免疫疾患が発症しやすいということで、甲状腺機能障害が有名です。あとは間質性肺炎ですね。死亡された方もいます。あと、重症な皮膚症状でなくなっている方もいます。

かば:やっぱり間質性肺炎でるんですね。新しい薬でどれくらいの副作用が出るかわからないし、どんな人に使っていいのか悪いのかという症例の蓄積がないので怖いですね。
でも、夢の薬と宣伝されていますからね。イレッサみたいに使われまくったあげく、悲惨なことにならないといいんですけど。

かわうそ:夢の薬というわりには、っていう生存期間ですね。
ドセタキセルとの値段の差はものすごいものがありますからね。

かば:ちょっと前までは、がんの免疫療法ってすごくアレな印象でしたね。血液をとって、免疫細胞を増やして活性化して戻します、みたいな。
ものすごく高いし、保険適応外で自腹だからものすごく高いし。
ニボルマブとかを適応外で自腹で使わせたりもするみたいですよ。自由診療ですから、良心さえ傷まなければ、やりほうだいです。

かわうそ:搾取ですね。怖いですね、恐ろしいですね。

2016年5月23日

話題のがん免疫治療についての文献を読んでみた その1

今回はペンブロリズマブについての論文がLancetに載っていたので読んでみました。
今話題のがん免疫療法です。イントロから方法までです。

Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial.
Lancet. 2016 Apr 9;387(10027):1540-50.
Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Arvis CD, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB.

2016年5月13日

その1

かわうそ:最近使われるようになったのは、ニボルマブ(オプジーボ)ですが、今回の主役のペンブロリズマブもそれと同じく免疫チェックポイント阻害薬というくくりになるようです。

かば:ググってみると、キートルーダという名前になるらしいですね。海外ではもう認可されているようです。
おっ、特許侵害とかで裁判沙汰になってますよ。


かわうそ:まじですか…。ニボルマブとペンブロリズマブは、直接比較試験はないのに、そんなとこで戦ってるんですね。

とりあえずこれは、進行した非小細胞肺癌で、PD-L1の免疫染色が陽性だった人を集めて行った第2/3相試験です。
ちなみに、ニボルマブの一連の試験はCHECKMATE、ペンブロリズマブはKEYNOTEという名前が付いているようです。
まず基礎知識として、PD-1経路というのが免疫のチェックポイントとして有名なんです。

この分野のしかも機序的なところは勉強不足でして、ほとんどこのイントロでしか情報を得ていないのでうまく説明できないし、正確かどうかも自信ありません。なので、詳しくは成書を参考にしていただきたいのですが、とりあえずまとめてみると、癌細胞にPD-1リガンドが発現していると、T細胞やB細胞のもっているPD-1受容体と結合して、免疫細胞がDown regulationされてしまいます。よって、癌細胞が異物と認識されることがないため、免疫チェックポイントをすり抜けて増殖してしまうというわけなんですね。というわけで、この薬はPD-1受容体に対する抗体ですので、T細胞上のPD-1受容体が癌細胞のもっているリガンド(PD-L1)とくっつくことを邪魔します。結果として、癌細胞が免疫系の攻撃を受けて縮小するというわけです。…、わかりましたか。

かば:…、まあ…。

かわうそ:とにかく話を進めます。大切なのは治療効果ですし。
プラチナダブレットによる化学療法を受けたあとの2nd lineとして使えるように認可されているようです。
ニボルマブとどう違うのかはよくわかりません。この論文の中には書いてありませんでした。

方法にどんな患者を集めたか書いてあります。化学療法を受けたあとの患者さんを集めています。EGFR-TKIやALK阻害薬でもいいみたいですね。
あと、組織検体でPD-L1が1%以上発現していることが確認されていることも参加に必要です。
自己免疫疾患や間質性肺炎は除外基準にひっかかります。ステロイド全身投与も除外基準です。免疫力を頼みにした治療ですので、ステロイドを飲んでいる人は効果が減弱して使いにくいみたいですね。脳転移も除外基準にひっかかりますが、浮腫に対してステロイド使っているからという認識でよいでしょうか。

Fig 1に患者登録の流れが詳しく載っています。2600人スクリーニングした中から、PD-L1染色できたのが2222人、そのうち2/3くらいで陽性でした。けっこう多いです。陰性の人はここで除外されます。50%以上発現している人と、1-49%の発現の人で分けて解析しています。さらに400人位がなんらかの理由で除外されています。脳転移の存在などでしょうか。結局、約1000人が350人弱くらいの3群にわけられています。ペンブロリズマブ2mg/kg、10mg/kg、ドセタキセルの人です。同じようなポピュレーションになるように、いくつかの基準で層別化したうえでランダム化した、と書いてありました。

患者背景が次のテーブルになります。平均年齢60歳くらい、男性6割。人種いろいろいますが、たいてい白人とアジア人ですね。

かば:日本人患者は、著者に日本人が含まれていないのでいないようです。

かわうそ:韓国かも知れません。
喫煙者も多いですね。
組織としては、非扁平上皮癌が7割でだいぶ多いです。

かば:オプジーボは扁平上皮癌がいいと言われていますよね。先に認可されていますし。

かわうそ:そうでしたね。でも、たしかこの薬は扁平上皮癌ではあまり良い結果がでなかったとありました。後で出てきます。

その2へ続く