2016年3月31日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その4

結果続き。治療についてです。
やはり西アフリカと欧米では違ってきます…。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その4

その3からつづき

かわうそ:まず支持療法についてです。すべての患者で、経口または経静脈的に電解質バランス異常を治療するために補液を受けています。実際、1人以外のすべての患者で、経静脈点滴がされていました。さらに、15人(56%)では食事も中止になって、完全静脈栄養になっています。
制吐剤はほとんどすべてで投与されていましたが、止痢薬はほとんど使われていません。
22人(81%)ではempiricalな抗生剤が投与されていて、平均2剤使っています。多いのは第三世第セフェム系です。西アフリカにいた24人のうち、17人は抗マラリアの予防投薬または治療を行われました。実際、マラリアが合併していると診断されている症例もあったと書いてあります。
11人(41%)の患者で、血液製剤が使用されています。血小板減少や出血傾向、低アルブミン血症に対するものでしょうか。あんまり詳しく書いてありませんでした。ここでの血液製剤はあくまで一般的な製剤です。このあと、実験的治療の項目でも血液製剤の使用について言及されています。ご存知と思いますが、こちらは、EVDから回復した患者さんの血液から作った製剤を、エボラウイルスに対する抗体があるものとして使用するというものです。

また、呼吸器系のSupportive careがしばしば行われていました。先程も言いましたが、呼吸器症状が意外に多いんです。19人(70%)で酸素投与が行われていて、9人(47%)では呼吸不全で人工呼吸管理が行われていました。Table 1にそのあたり書いてあります。
呼吸不全発症までのmedian timeは9日です。4人(15%)ではNIVを施行されていいて、うち2人では失敗したので、その後挿管人工呼吸管理されています。
全部で7人(26%)でMVされていますが、そのうち7人中5人では、さらに持続的腎代替療法が行われていました。

実験的治療についてですが、免疫治療として、回復期患者の血漿、白血球製剤、triple monoclonal antibody cocktail(ZMapp、ZMab、MIL77)があります。
抗ウイルス活性があると考えられている薬(TKM-Ebola、Favipiravir、Brincidofovir、Amiodarone)もいくつかあるようです。

かば:アミオダロンとか使うんですね。どういう効果を期待しているんですかね?

かわうそ:あと、血管漏出に対抗する薬(FXX06、melanocortin)もあります。
これらが、23人(85%)で投与されています。認可外または例外的使用(未承認医薬品を例外的に使用許可)として投与されたとのことです。
19人(70%)では、これらのうち少なくとも2剤が投与されていました。効果についてはよくわからないようですが、副作用はけっこうあったようで、SIRS、低血圧、肝機能障害、transfusion associated acute lung injuryなどが有害事象として報告されています。このあたりはTable 3にまとめてあります。特にTKM-Ebolaでは100%有害事象があったということになっています。

かば:怖いですね。

その5へつづく


2016年3月30日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その3

結果です。長いので前半だけです。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その3

その2からつづき

かわうそ:結果に行きますけど、ヨーロッパまたはアメリカで治療を受けたのは、全部で27人でした。9カ国、15病院での治療ということになっています。年齢の中央値は36歳。19人(70%)が男性、26人中9人が何らかの併存疾患を持っていました。20人(74%)がmedically evacuated patientでした。年齢の中央値は36.5歳。あとは圧倒的に少なくて、3人(11%)がlocally acquired caseの医療従事者でした。年齢の中央値は29歳です。4人(15%)がimported case of EVDで、年齢の中央値が38.5歳で、これはちょっと高いですね。22人(81%)が医療従事者であり、17人(77%)は西アフリカのエボラ治療チームで働いていた方です。発症から診断までの中央値は3日、発症から入院までは4日ということで、割と素早く診断と加療がなされていることがわかります。

臨床所見は気になるところで、Fig 1にまとめてのっています。発症時と入院時がわかれています。たぶん、発症時は記憶にたよっているのでちょっと不正確だと言いたいんだと思います。nも欠けています。あとで考察されていますが、西アフリカで発症した人でこの辺りのデータが乏しいようです。

発症時には、もっともcommonな症状は倦怠感です。20人(80%)で認められました。発熱が17人(68%)です。他のはFigure 1Aを参照してもらうとして…。
Fig 1Bが入院時の話になります。入院時には、発熱、食欲不振、虚弱、消化器症状が主なものとしてあげられます。

意外に、「エボラ出血熱」というわりには、あまり出血は多くないんだな、という印象を受けます。まあ、発症・入院時ということで比較的早期だからでしょうか。

Tableにも入院中に認められた臨床所見がまとめられています。半分近くの患者(14人、52%)で低酸素血症があって、平均SPO2は室内気で84.5%でした。酸素投与もされています。
実はすべての患者で下痢が認められていて、平均罹病期間は6日、1日3000mlが続くということで、けっこう激しい下痢ですね。これも関係していると思いますが、33%で腎障害があり、乏尿または無尿の人もいました。16人(59%)でSIRSの基準を満たしました。脳障害、脳炎などの神経学的合併症も1/3で報告されています。入院時には9人(33%)で鼻出血、点状出血、下血、血性下痢、静脈カテーテル周囲のoozingなどの出血傾向を認めており、入院経過では14人(52%)でカテーテル周囲のoozingが認められました。やはり出血熱だけはありますね。大量出血は2人(7%)で観察されています。

かば:PPEつけながら中心静脈カテーテルいれるのがすごいですよね。

かわうそ:さすがですね。
検査所見については、まずはウイルス感染ということで白血球減少が認められています。1週目で認められるようです。発症から6日目にnadirになり、2週間で回復していました。また、血小板減少はほとんどすべての患者で報告されていて、INRも上昇していて、medianで1.49です。この辺が出血に関係するのでしょうか。
アミノトランスフェラーゼは2週目で上昇していました。特にASTが有意に上昇するようです。一方、ビリルビンは少し上昇していただけでした。筋肉痛なんかも報告されていますので、それを反映しているのか、CKは最大平均1000Uくらいまで上昇してて、乳酸値もたいていの患者で上昇しています(2.8mmol/l)。クレアチニンは入院時には5人(19%)で上昇していました。大部分の患者で電解質バランス異常が認められています。また、すべての患者で低アルブミン血症が認められました。

その4へつづく

2016年3月29日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その2

本文に入ります。背景と方法です。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その2

その1からつづき

かわうそ:西アフリカでのEVDの流行で、2015年12月までに28600人以上の感染と、11300人以上の死亡が報告されています。死亡率は37~74%とけっこう幅がありますが、とにかくそう報告されています。
重症患者が圧倒的に多いですし、さらに西アフリカという地域柄、医療・非医療にかぎらず物資の供給に制限があったりだとか、あと、高温多湿という熱帯気候のためPPE装備、あの宇宙服みたいなやつですが、あの装備が十分にできないなど、不利な条件が重なったので、これくらい死亡率が高くなってしまっているようです。
多くのEVD患者が、全く治療を受けていないわけではもちろんなく、経口補液、止痢薬、解熱鎮痛薬、抗生剤などの対症療法は一応うけていたとされていますが、すべてのエボラ治療ユニットでより有効と思われる補液などの治療ができたわけでは当然ないのです。
そういう状況なので、より積極的に、経静脈補液などによって電解質バランスを補正することができれば、EVD重症患者のアウトカムを改善できるのではないか、という説はこれまでもあったのです。

2014年8月以降、西アフリカでEVDと診断された患者のうち数人が、より高度の医療を求めてヨーロッパやアメリカに避難してきました。さらに、西アフリカで、またはヨーロッパ・アメリカでの(院内)感染によりエボラウイルスに感染したと診断された患者も発生しています。
ヨーロッパとアメリカでEVDの治療を受けた患者は、広範囲の検査と循環動態について詳細なモニタリングの記録があり、より侵襲的な治療だとか、何より実験的な治療を受ける機会もあったので、西アフリカでの経過と違うのではないかということが予想されます。
というわけで、このレポートで、アメリカとヨーロッパでのEVD治療を受けたすべての患者の臨床的特徴と治療についてまとめてみたということです。

方法です。
Study designとしては、2014年8月から2015年12月まで、アメリカとヨーロッパで治療をうけた、エボラウイルス感染が確定したすべての患者のデータ(demographic、clinical、laboratory、virologic)をレトロスペクティブに匿名化して収集しました。

Study populatonはRT-PCRで診断確定した患者さんです。いろいろ定義があります。
「medically evacuated patient with EVD」というのが、発症と診断が西アフリカでされて、ヨーロッパまたはアメリカに治療を求めて移動した患者と定義されています。
「A patient with an imported case of EVD」というのもあります。これは、エボラウイルスに西アフリカで暴露または感染し、発症と診断がヨーロッパまたはアメリカであった患者と定義されています。
最後は、「A locally acquired case」というのがあって、暴露、発症がヨーロッパまたはアメリカで、診断が当然ですが、ヨーロッパまたはアメリカでされた患者と定義されています。基本的には院内感染ということだと思います。
これらの患者群で違いがあるかどうかということが後で検討されています。

その3へつづく


2016年3月28日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その1

ちょっと忙しくて滞っています。
今回は、アメリカとヨーロッパでの、エボラウイルス病の臨床的マネジメントです。まずはアブストラクトです。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その1

かわうそ:背景として、西アフリカ以外の地域におけるエボラウイルス病、以後EVDと略しますが、その患者の特性、臨床管理、観察されている合併症に関して入手可能なデータはほとんどないわけです。
というわけで、2014年8月から2015年12月までの間にアメリカとヨーロッパの病院で治療を受けたすべてのエボラウイルス感染確定例から入手しえた臨床データ、検査データ、ウイルス学的データを再検討してみました。

結果ですけど、治療を受けたEVD患者は全部で27例でした。年齢の中央値は36歳で、19例(70%)は男性で、26例中9例(35%)には併存疾患がありました。22例(81%)は医療従事者でした。27 例のうち24例(89%)は西アフリカから治療のために送還されたか、もしくは西アフリカでエボラウイルスに曝露・感染し、ヨーロッパまたはアメリカに戻ってきてから発症して検査で感染が確定していました。残りの3例(11%)はアメリカまたはヨーロッパで感染した人です。

発症時によくみられた徴候・症状は疲労(80%)と、発熱または体熱感(68%)です。臨床経過において主な所見は下痢、検査データの異常は、低アルブミン血症、電解質バランス異常でした。52%に低酸素血症があって、9例、33%に乏尿が認められ、うち5例は無尿になっています。肝機能障害は発症後中央値9日でピークに達しています。

治療としては、ほぼ全例で補液と電解質補給が行われていました。33%に非侵襲的または侵襲的人工換気、19%に持続的腎代替療法が行われていました。81%に経験的抗菌薬治療が行われていますし、けっこうな頻度ですが、85%に実験的治療が行われました。さらに70%で2種類以上の実験的介入が行われています。血中のエボラウイルスのRNA量は発症後中央値7日でピークに達して、ウイルス陰性化までの期間の中央値は17.5日でした。

死亡例は呼吸不全と腎不全をきたした3例を含む計5例で、死亡率は結局18.5%でした。

結論としては、アメリカまたはヨーロッパで治療を受けたEVD患者では,緊密なモニタリングと、補液・電解質異常の補正、栄養補給、呼吸不全・腎不全に対する救命救急治療などの集中的な対症療法を必要としました。このような治療を受けた患者のうち、81.5%が生存していて、これは西アフリカからの報告よりはだいぶよいようです。

その2へつづく

2016年3月7日

A Complementary Affair その2

ネットで検索してみると、シェーグレン症候群の補完症状(?)と補体をかけたタイトルということです。
確定診断と治療経過についての部分です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. 
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.

2016年1月27日

その2

その1からつづき

さて、ここで精査で何をしますか。

かば:腎生検ですね。

かわうそ:そうですね。あと貧血についても調べるべきとのことです。

かば:Cre=1.6とかなので、それほど貧血をきたすほどの腎機能障害ではないってことですか。

かわうそ:ここで題名が利いてきます。補体を測定してみたいところです。

貧血については、血清鉄は減っているものの、結合能は正常で、フェリチンは十分あって、ビタミン・葉酸は問題なしでした。LDH上昇もありません。というわけで、貧血については慢性疾患に伴うものなのでしょうという診断でした。

あとはレントゲンですね。どうですかね。写真載っていますが、あんまり間質性肺炎とは言い難いですけど。

かば:左中肺野が少し淡いかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。でも、印刷したものではよくわかりません。
CTでは、胸水が溜まっているのと、背側に間質陰影がありました。重力効果にも見えますが。

かば:でも、気管支血管壁が肥厚していますね。
ひょっとしたら誤嚥とか肺水腫があるのかも、ですね。

かわうそ:このあたりも少しすっきりしませんが…。
血液検査では、ANA、リウマチ因子が上がっていますし、補体は消費されていました。というわけで、クリオグロブリン血症などの免疫複合体による血管炎を鑑別にあげましょう。

ちなみに、クリオグロブリン血症は、HCVとの関連が有名ですので、一応調べておいて下さいということです。

かば:そうでした。

かわうそ:ここで腎生検をしています。わかりますか?私は解説見ないとさっぱりです。

かば:膜性腎症ですよね。

かわうそ:さすがですね。糸球体膜の増殖です。さらに、矢印のところには無構造物が充満しているように見えます。微小血栓が毛細血管に詰まっているとのことです。
IgMが糸球体の毛細血管壁に、点状または巣状に沈着しているということも、免疫染色で証明されています。
ここまではどうも急性の経過を表しているようなんですが、次の写真で、LambdaとKapperの軽鎖が、Kapper優位に沈着しているのがわかります。これは、マイルドな間質性腎炎の像ということです。

かば:ふんふんなるほど、たしかに。

かわうそ:ただ、あんまり慣れていない分野なので、ちょっと理解はいまいちです。原文あたって下さい。

これらが合併して、急性の腎機能障害を引き起こしたんだろうな、ということが考察されています。

で、治療はどうしますか?

かば:免疫複合体が原因なので、ステロイドと免疫抑制剤ですね。

かわうそ:そうですね。けっこう大量のプレドニゾロンとシクロフォスファミド、アザチオプリンなどが使われています。ステロイドは18ヶ月かけてゆっくり減量しています。
治療のかいあって、腎機能障害や他の症状、検査データ異常などもよくなっています。

かば:めでたしめでたしですね。

かわうそ:まとめとして、シェーグレン症候群は基本的には潜在性の疾患ですけど、間質性肺炎や気管支拡張症以外にも、腎機能障害とか発疹とか、血管炎とかリンパ増殖性疾患なども、忘れちゃいけない、と書いてありますね。
あとは、クリオグロブリン血症の分類とか、マニアックな知識も書いてあります。
実は、シェーグレン症候群の1割以上でクリオグロブリン血症を起こすようです。

かば:意外に多いですね。

かわうそ:でも、たいてい無症状らしいです。
あと、治療としては、ここでもまたリツキシマブです。実はRCTがあります。コントロール群で生存率3%なところ、魔法の薬リツキシマブで治療した群では、なんと生存率が60%にアップします。

かば:ほんとですか?これは読まねばならない論文ですね。

かわうそ:もっと話題になっても良さそうですけどね…。


2016年3月3日

A Complementary Affair その1

この題名は、英語の掛詞的なものみたいでして、ちょっと意味がとりにくいです。
鑑別診断までの部分です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. 
A Complementary Affair.
N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):74-81.
Mogabgab ON, Osman NY, Wei K, Batal I, Loscalzo J.

2016年1月27日

その1

かわうそ:57歳男性、呼吸困難、倦怠感で受診されています。労作時呼吸困難ということなので、我々だとすぐにCOPDとか間質性肺炎とかを考えてしまいますが、一般的には当然別の疾患も考えないといけませんよね。

かば:とりあえず心不全、腎不全、筋力低下、神経筋疾患とかですかね。

かわうそ:そうですね。ここではあと貧血なんかも上がっています。
どうやら労作時呼吸困難だと、ちょっと鑑別診断に上がってくる疾患が多すぎて絞り込めないようです。
ただ、起座呼吸ならもうちょいダイレクトだ、と書いてあります。そんなに疾患特異性ありますかね?ちょっとピンときていません。

かば:心不全ですね。肺うっ血みたいになる疾患。

かわうそ:ですかね。この人の病歴に戻りますが、シェーグレン症候群がもともとあって、あとは治療するまでもない高血圧、アレルギー性鼻炎、痔核、偏頭痛などがあります。で、ハイドロキシクロロキンという膠原病の薬とか、点鼻ステロイド、鎮痛薬を内服しています。事務職で旅行なし、喫煙飲酒なし。家族歴では膠原病の人がけっこういます。
この病歴、つまり、シェーグレン症候群の人の労作時呼吸困難で、疾患をさらにしぼれますか?

かば:間質性肺炎ですかね?あんまり心臓や腎臓の合併症は有名でないと思いますし。

かわうそ:そうですね。シェーグレン症候群といえば、基本的には涙腺、唾液腺がメインに障害されますが、あとは肺です。呼吸器疾患としては、間質性肺炎と気管支拡張症が多いように書いてあります。

この方は20年くらい前から診断されています。耳下腺の生検で確定診断されています。レイノー症状、関節炎、齲歯、GERD、腎結石などの既往があります。身体所見では、高血圧(150/80mmHg)、ドライアイ、ドライマウスくらいです。呼吸音はclearでfine cracklesは目立たないようです。ここはちょっとポイントですね。

で、検査なんですけど…。

かば:レントゲン、採血、尿検査とかですか?

かわうそ:呼吸音正常でもやっぱり胸部の画像検査はしますよね。
心機能については、トレッドミルして虚血性心疾患は否定的です。
ここでは、とりあえず高血圧に対して、サイアザイドとトリアムテネロンの合剤を処方されて帰りました。
やはり日本以外ではファーストチョイスはサイアザイドですよね。ただし、腎機能障害がある場合は要注意、と伏線が張られています。ちなみに採血検査はこの時はしていません。だからあとでちょっともめているんですけど。

で、7日後の次の受診時に採血してみたところ、Cre=1.6、BUN=43でした。たまたま7ヶ月前の記録があったんですが、そのときはCre=0.9、BUN=16ですので、急激に変化しています。

かば:あら。でも、薬出す前から腎機能が悪くなっていた可能性もありますよね。

かわうそ:そうなんですよね。薬剤性かどうかで対応が変わってきます。
いちおう、シェーグレン症候群でも腎障害が来るようです。自己免疫性のglomerular diseseと尿細管間質性腎炎が有名です。
腎結石の既往もありますので、腎後性腎障害の可能性も捨て切れません。

かば:ふんふん。

かわうそ:実は症状も悪化していました。呼吸困難が進行し、皮疹が出現しています。写真がのっています。赤い丘疹が体幹、大腿、上腕などに出現しています。
で、この皮疹が診断の決め手になるようで、全身性の血管炎をこの時点で考えないといけないのです。

かば:とすると、ANCAを測定するってことですか?

かわうそ:シェーグレン症候群にそういうANCA関連血管炎が合併するというのは考えにくいんですって。

かば:あ、そうか。シェーグレン症候群に発症する血管炎を考えるんですね。

かわうそ:そうなんです。知らなかったのですが、シェーグレン症候群に、最も多い合併症はleukocytoclastic angiitisだそうです。ただ、これは下肢にできやすいという特徴があるので、ちょっと考えにくいとのことです。
あとは、クリオグロブリン血症やHenoch-Schonlein紫斑病とかを挙げるべきです。実は、サイアザイドもこのような血管炎を引き起こすことがあるということでちょっとややこしいですが。

かば:なるほど。

かわうそ:血液検査の結果をみると、ヘマトクリットが23%で相当下がっています。で、MCVが86なので正球性貧血です。
あとは、やっぱり腎機能障害があります。肝臓は特に問題ありませんが、アルブミンとか総蛋白が減っていて、だいぶ疲弊していることがうかがわれます。
尿検査では、潜血と尿蛋白があって、腎機能障害が示唆されます。
あとは、超音波検査をやっていますね。水腎症はないし、腎萎縮が認められています。
つまり、やっぱり腎後性腎不全ではないし、薬剤性の急性の腎障害でもないですね。慢性の経過で腎障害があって、そのせいで高血圧になったのかな、と考察されています。

というわけで、ここまで考えると、シェーグレン症候群に関連したクリオグロブリン血症、その関連の腎疾患と考えます。

その2へつづく