2015年9月5日

慢性咳嗽の意外な原因 その2

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. A Surprising Cause of Chronic Cough.
N Engl J Med. 2015 Aug 6;373(6):561-6.
Damaraju D, Steiner T, Wade J, Gin K, FitzGerald JM.

2015年8月19日

その2

その1から続き

かわうそ:ここでは、両眼の失明に注目して、側頭動脈炎とリウマチ性多発筋痛症を考えてプレドニンが開始されました。しっかりと側頭動脈を生検していますが、血管炎についてはネガティブでした。
ステロイドで一旦良くなったのですが、減量していくとまた咳、関節痛、筋肉痛、浮腫が出てきました。10mgで再発です。
この対応はどうなんでしょうか?血管炎が病理でないのに診断してステロイド使って良いのか、でも効いているみたいだからいいのかとか、側頭動脈炎で咳がでるのか?とか疑問思ったりしましたが、「can have a non-productive cough」と書いてあります。

かば:この人乾性咳嗽なんですね。痰の話は出ていませんね。

かわうそ:その点は一貫しているようです。さらに、生検の偽陰性も起こりうるようですので、きちんとリスクとベネフィットをはかりにかけるように注意書きがあります。介入としては間違っていないんですね。
ただ、減量で再発したので、今度は全身検索を行っています。それがこの図なんですが。

かば:うん。

かわうそ:胸腹部のCTで、肺にはinterstitial pulmonary edemaが出ていました。浮腫っぽいので、間質性肺炎とは違うのかな、という印象です。あと、胸水がちょっと溜まっていて、肺動脈が拡張しています。お腹にはリンパ節がたくさん腫れているということがわかりました。あと、十二指腸のあたりもおかしいようです。
この検査結果をどう考えるかなんですが。

かば:リンパ腫にしては、ちょっとリンパ節の大きさが小さい気がしますね。あと5年の経過はいかにも長いです。いわゆるmalignancyはちょっと合わないです。抗体検査でひっかからないタイプの膠原病とか。ぱっとはわからないですね。

かわうそ:ここでは、そういう経過を無視してCTの結果だけからリンパ腫とか十二指腸のあたりの癌とかを疑っています。ツベルクリン陰性はそこまで信頼できるものではないですし、結核も挙げています。
リンパ腫を疑って開腹生検をしています。その結果は次のページに写真があるんですけど、グラム陽性桿菌が検出されています。DNAとかPCRで調べたところ、Tropheryma whippleiとわかりましたので、Whipple病だと診断されました。

かば:え~っ、全然分からなかった~。

かわうそ:Whipple病についてご存知のこととかあります?

かば:全然ご存知なことはないです(笑)。

かわうそ:私も名前だけはかろうじて聞いたことあるくらいでした。イヤーノートで調べてみると、栄養障害のところででてきます。吸収障害、下痢、体重減少を起こすんでしたね。
ただ、Whipple病は、この患者の症状全てを一元的に説明できるみたいです。

かば:すごい。

かわうそ:Whipple病は、慢性の下痢が一番有名な症状なので、それがないのは非典型的ではありますが。ちなみに治療ってご存じですか?

かば:しらないです。

かわうそ:いちおうグラム陽性桿菌なので、抗生剤ということになります。CTRXを2週間投与した後ST合剤を飲ませたとあります。それが標準的治療のようです。
ところが、治療した途端、心雑音が聴取されるようになり、エコーでも疣贅が確認されました。Whipple病はこういう血栓症も起こしうるようです。抗生剤を続けたら、きちんと疣贅は消えました。ということは、先ほど出てきた両側の視野障害も関係するかもしれません。

かば:心内膜炎からでなくても、末梢の血管に血栓ができたということですね。

かわうそ:ただ、両側にでるかな、という疑問は残ります。
Whipple病は、マクロファージの中に細菌が充満してしまいます。それが組織に沈着するわけです。小腸の組織なら吸収障害を起こしますし、気道粘膜なら気道狭窄や攣縮に繋がりそうです。
Whipple病を、今後慢性咳嗽を診る時に鑑別診断として挙げるかどうか、という問題は残りますが、非常にまれな疾患(100万人に1人)なので、ほとんど考えなくてもよいでしょう。ちなみに、発育は非常に遅いので、培養では検出されないみたいです。

かば:今回もPCRしてますね。

かわうそ:Whipple病の症状としては、体重減少、下痢、関節痛、腹痛、発熱、核上性眼筋麻痺、頭痛、貧血、リンパ腫脹、心内膜炎と出ています。3割くらいの人で肺病変があって咳もよくでるということです。
関節痛が、体重減少と慢性下痢に引き続いて起こるというのが典型的な症状です。
慢性咳嗽の原因としてはレアですが、Whipple病の人にはコモンな症状です。

かば:1000人くらいの報告なんですね。

かわうそ:みることはないんでしょうけどね。治療としてはCTRXを2週間のあと、ST合剤を1年です。ステロイド使うこともあるようですが、逆に悪くするという報告もあります。
関節痛がキーになったわけですが、5年の経過で時々出現して、また完全に消失するという症状をきちんとひっかけられるか、自信ないですね。流してしまいそうです。