2016年7月27日

隠れた病変 その3

NEJM、clinical problem-solvingです。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
最終回です。ようやく診断できました。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その3

その2からつづき


かわうそ:案の定というか、3ヶ月後に再診した時に、左足の腫れを訴えています。この時大腿周囲径を測定してみたら4cmもの左右差がありました。

かば:腫れてるとか赤いとか、主観的な記載だけでなく、こういう客観的な指標をカルテに残せればかっこいいですね。

かわうそ:コンサルトしやすいかも、です。
さて、腫脹の原因として、こういう症例で血管が開通した後に一過性に腫脹することもありうる、だから治療失敗ではない可能性もある、と慰めのようなコメントが載っていますが、基本的にはreccurenceと言ってよいでしょう。
ちなみに、我々がこういう疾患を見た場合、圧迫帯とか弾性ストッキングとかでとりあえず対応しがちですけど、予防効果としては限定的だ、と寂しいことが書いてあります。

で、ドップラーエコーをしてみたところやっぱり閉塞しています。血管径の呼吸性変動が消失していて、相当中枢から詰まっていることが予想されました。
さて、次する検査はどうしましょう?

かば:・・・。

かわうそ:もうすでに我々が当直で診るレベルを超えていますので、わからなくて当然ですし結局専門科に任せることになるんでしょうけど。まあ、循環器科なのか血管外科なのかわかりませんけど。

最終的には、総腸骨静脈にステントを入れました。Figureを見てみると、ステントを入れる前後での血管造影の写真が載っています。ステント留置前には、本来あるべきところに総腸骨静脈が全く認められず、代わりに側副血行路が山程見えています。留置後にはきちんと総腸骨静脈が造影されて側副血行路が見えなくなっています。

かば:これ全部側副血行路ですか…。
で、次の図が血管内エコーですね。

かわうそ:まず、総腸骨静脈がなんとか開通した状態で検査しています。すぐ近くに総腸骨動脈があります。やっぱりこれが圧迫していたようです。というわけで、やはりMay-Thurner症候群ということです。
CTの時は、閉塞していたため診断できなかったんでしょう。血管内エコーで診断できた症例でした。

いくつか教訓的なポイントがあると思います。

まず、外傷とか蜂窩織炎とかの診断に飛びつかず、より致命的になりうる深部静脈血栓・肺塞栓を疑っておくこと。
特に、呼吸困難や頻脈という微妙な情報をおかしいと思うこと。
深部静脈血栓症と診断した場合、この人に発症することが典型的といえるかどうか、リスク因子を検討すること。
くらいが挙げられるでしょうか。

そういえば、この人が深部静脈血栓症のリスクが低いといえるほど活動的かどうかという点については、私は少し疑問に思っています。
というのも、このCTの写真をみると、かなり体格がよいと言わざるを得ません。

かば:画面いっぱいに皮下脂肪がありますね。

かわうそ:2日前に5km走ったっていうのも、本当は久しぶりの運動だったのでわざわざ言ったのかもしれません。
だから、1回目に発症した際には、肥満だししょうがないかも、と思ってしまうかもです。
でも、2回目に発症した時にはしっかりと診断して、3回目の発症を防ぎたいところです。

かば:May-Thurner症候群はけっこうこの勉強会で名前出てきますよね。

かわうそ:実際、昔はDVTの数%に見つかるだけ、とされていたのが、血管内エコーをするようになったことで半数以上でMay-Thurner症候群が診断されるという報告も引用されています。
疑って検査しないとわからないわけですし、相当見逃されているんでしょう。血管内エコーという診断器具の出現により、新しくトピックになっている疾患なのではないでしょうか。


2016年7月22日

隠れた病変 その2

NEJM、clinical problem-solvingです。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
やっぱり再発しました。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その2

その1からつづき


かば:それにしても、こんな若い女性に突然発症しますかね?ランニングしているくらいですし、動かないでじっとしているような人ではないと思います。これまでの話ではリスク要因がなさそうです。
凝固能の亢進とか、血栓の原因を探るべきなんじゃないですか?

かわうそ:たしかに。すぐに診断できて治療できてラッキーと思っちゃダメですよね。「妙に変だなー」と思って背景を探りましょう。
では、どんな病歴を聞いたり、追加の検査をしたいですか?

かば:妊娠とかピル内服とかですね。あと、喫煙歴とか。アメリカならこういうときイリーガルドラッグを使っているかどうか熱心に聞いてますよね。

旅行とかも必要ですね。変わったところに行ったかどうかだけでなく、長時間動けないようなイベントがあったかどうかがわかると思います。
血液凝固関係の既往、家族歴も知りたいところです。血管炎など膠原病とかも?

かわうそ:さすがですね。どんどんでてきますね。
実はピルは飲んでいます。喫煙歴ありますが、2年前にやめています。飲酒はほどほどだそうです。
父親が関節鏡での膝の手術のあとでDVTになったということなので、ひょっとしたらこれは遺伝性の血液凝固異常と関係があるのかもしれません。ただ、そうでないかもしれない、という歯切れ悪いコメントが載っています。
どうやら、初回の発症なら、それほど精査は要らないのではなかろうか、というのが筆者の意見のようです。それはそうかもしれません。

ただ、主治医の先生はこの時点でいろいろ検査を追加しています。血液凝固能の検査や遺伝子変異などです。
どうやら、ループスアンチコアグラントが陽性に出たといっています。プロテインCだとかプロテインSだとかも当然のように測定されていますが、このへんは本当に弱い分野ですのでコメント差し控えたいと思います。

そして、残念なことに、退院後5日目に同じ症状で受診しています。エコーでも血栓を確認しました。Fig 2によると、総腸骨静脈から膝窩静脈までずっと血栓が詰まっているようです。

かば:すごい血栓っぷりですね。完全閉塞ですね。ヘパリンが入っているんですよね?それなのにこうなってしまうのは、さすがにおかしいですね。
何か血管の流れを障害させるような腫瘤があるのかもしれません。

かわうそ:でも、CTとっているわけですからね。さすがにそういう腫瘤病変があればわかりそうです。
あと、ヘパリンが本当に治療域に入っているかどうかは調べておくべきですけど、さすがに大丈夫だったと書いてあります。

かば:血管炎はどうでしょうか。

かわうそ:そうですね。あと、抗リン脂質抗体症候群とか、ベーチェット病とか。occult tumorで凝固しやすい状態になっていないかはチェックしておきたいところだと書いてあります。

そして解剖学的異常です。May-Thurner症候群をあげましょう。知ってました?

かば:前、勉強会で出てきましたね。調べた覚えあります。

かわうそ:腸骨動脈が腸骨静脈を圧迫するんですね。ちょっとこの辺りの解剖がよくわからないのですが、「左」総腸骨静脈が「右」総腸骨動脈と交差する部分の問題が一般的なようです。だから左に症状がでることが多い疾患です。
というわけで、ここでもう一度CTをよく見なおしてみました。でも、やっぱり腹腔内、骨盤内に腫瘤病変やリンパ節腫脹、総腸骨静脈の圧迫などはありません。
でも、血管炎なんかは画像で見つけるのは難しそうですね。

しかたがないので(?)、もう一度カテーテルでの血栓除去をして、血管は開通しています。

そうこうしているうちに突然血小板数が15万くらいに下がっています。もともとが30万くらいありましたので、一気に半分になったことになります。

かば:HIT、heparin induced thorombocytopeniaですね。未分画ヘパリンを使っていたんでしたっけ?

かわうそ:実はHITかどうかを診断するための検査というのがいろいろあるみたいです。私は全然知りませんでしたけど。HPF4抗体を測定したり、serotonin release assayとか。ここでは、この辺の検査をしてHITではなかったという診断になっています。でも、なんだかんだでヘパリンから別の薬に変えたところ、血小板数は回復したし、足の腫れも引いてきたのでめでたしめでたし、ということでワーファリンの内服に変えて退院しました。

かば:ここで退院していいのか、というところは疑問ですよね。

かわうそ:そうですよね。治療はうまく行ったのかもしれませんが、原因を追求せず返してしまうと、たぶん3回目がありますよね。
まあ、「要らないんじゃないの」とか言われながらも、下大静脈フィルターが留置されていますので、再発したとしても足が腫れる程度で、肺塞栓など致死的な疾患は回避できると思ったのかもしれませんけど。


その3へつづく


2016年7月20日

隠れた病変 その1

NEJMのclinical problem-solvingを読みました。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
とりあえず前半戦です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その1

かわうそ:2日前に5kmくらいのランニングをしたのでそのせいかとも思ったらしいのですが、こむら返りのような痛みが左足にあって、おなかやおしりにまで広がっているとのことです。
でもよくみると足が腫れているし、労作時の呼吸困難もあるようなんですよね。
発熱、胸痛、安静時呼吸困難はありません。走ったからといって、ケガをしているわけでもありません。
バイタルはほぼ正常ですが、頻脈(102/分)だけがあってちょっと気になります。

足の腫れについては、診察上、ふくらはぎから大腿にかけて、びまん性に発赤、浮腫を認めました。

さて、この病歴を聞いて、どんな鑑別診断をあげて、どんな検査をしますか?

かば:深部静脈血栓症を疑って、下肢静脈エコーです。

かわうそ:もちろんそうですね。
ここのコメントには、片側の足の疼痛、発赤、腫脹ならまずは外傷とか蜂窩織炎を考えろとのことです。
でも、所見とはちょっと合わないですし、この方には胸痛の訴えはないものの、しっかりと呼吸困難があるので、深部静脈血栓・肺塞栓を念頭に置くべきですね。だから、エコー、造影CT、D-dimerをやっています。

さらに、この方は腹痛もあるので、血栓の原因として、腹部の血管を圧迫するような病変があるのでは?と疑っておくべきだ、とされています。ただ、ここまで考えられるのはちょっとレベル高いですよね…。

さて、深部静脈血栓・肺塞栓についてはWell's scoreというものがあって、これをスコアリングして疑わしければ侵襲的検査にうつるようです。
私はこの基準は知りませんでしたが、けっこう常識的なものです。外傷があるとか、長期臥床があるか、血栓傾向やそういう薬剤使用歴があるかとかの項目があります。

さて、次はCTの写真です。読影してもらおうと思いましたが、これはすぐに分かりますね。血栓が両側下葉にいく血管内にたくさん見つかりました。
なんなら、肺野にも肺梗塞を疑うようなwedge shaped infarctionが左の肺底部にあります。

そして、ドップラーエコーで左下肢に血栓がみつかりました。その他、トロポニンT、BNP、血球数、PT、APTTなど含めて血液検査では特に異常なしです。
で、治療はどうします?

かば:抗凝固です。ヘパリンですね。

かわうそ:出血が否定されるなら、検査の結果をまたずにエンピリカルにはじめてもいいくらいだとエキスパートオピニオンで言っています。

この症例では、抗凝固療法だけでなく、下大静脈フィルター留置と、カテーテル下での血栓溶解除去治療をしています。

実はカテーテルでの早期の血栓溶解除去についてはエビデンスがあるようですが、フィルター留置についてはそうでもないというコメントが載っています。
フィルターを留置するのは、状態が悪くて抗凝固ができないような人に予防的に行うものとされているようで、この方の場合は当てはまりません。

とは言え、速やかに診断と治療に成功しており、めでたしめでたしと言いたいとこですが、まだ前半なんですよね。


その2へつづく


2016年7月15日

アドエアとウルティブロ その3

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果後半と感想です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その3

その2からつづき


あと、1秒量の変化率についても書いてあります。1年後、ウルティブロとアドエアでは62mlもの有意な差がありました!
でも62mlって…。肺機能検査して、これくらいは誤差の範囲のはずですよ。

かば:COPDの人って、1年間で150mlくらい1秒量が減っていくはずなので、その中で60ml違うのは大きいかもしれません。

かわうそ:これもマスとして見た時には意味があっても、個人としては意味が無いということですね。
それよりは、デバイスとしての使い勝手とか安い方とかの方が選択の動機としては大きくなりませんか?

その他SGRQなども軒並みウルティブロの方がいいと出ていますし、サブグループ解析でも基本的にはウルティブロの方が優勢でした。
が、これが本当に処方の動機になるかどうか。まあ、みなさんの判断に任せますけど。

安全性のまとめを見てみると、やはりCOPDの研究で死亡をアウトカムにするのは難しいと思います。1年で1%くらいの死亡率です。
ただ、COPDの論文を読むと、いつもCOPDは死亡の原因の4番目、とか高々と掲げられていて、だから治療が大切、薬が大事、と言われているんですけどね。その割には実際論文読んだときに目にする死亡率がしょぼいんだよな、と思わざるをえません。

このまえの降圧剤・高脂血症治療薬の論文では5年間フォローしていましたので、それと比べると…。

あと、副作用は多いことになっています。8-9割で起きています。ただ、COPDの悪化というのが7割くらいあります。これって、本当に副作用なのかというのが疑問です。COPDは進行性の疾患ですし…。

他にもこの辺は謎が多いです。増悪とは別に、副作用として、ウイルス性や細菌性の上気道感染という項目があります。

かば:下気道感染と肺炎がそれぞれ別で計上されていますね。インフルエンザも別に項目作られてますね。

かわうそ:そうなんですよ。謎です。
肺炎については、ウルティブロが3.2%、アドエアが4.8%で、P=0.02ですが、これだけ数を集めたら、このレベルでは有意差がないようにも思いますが…。

かば:この論文みたいにアウトカムが何十個もあると、それだけでもP値の設定は厳しくなるはずですよね。

かわうそ:すいません。実は統計のあたりは、よっぽど気合入れて論文読まないかぎりはすっ飛ばしていまして。よくわかりません。場合によっては、そういう議論を全部すっ飛ばして、「P<0.05でした(だから有意差ありました)」とMRから宣伝されるかもしれませんね。医師がまじめに論文を読み込んでいるとは思われていませんからね。

という感じの論文ですが、先生はウルティブロだしてますか?

かば:けっこうだしてます。

かわうそ:そうですか…。純粋なCOPDと診断できていればいいんです。

まず最初に、咳・痰・息切れできた高齢者に喫煙歴があって、閉塞性燗器障害があって、何ならCTで気腫性病変がしっかりあったとしますよね。で、LABAなりLAMAで治療をしました。それでも症状が残存していたり、増悪を来したりして、追加の治療が必要になったわけですよね。
そこでLABA+LAMAを使えるかどうかですけど…。
普通に考えると、COPDと喘息ってすごく合併しやすいと言われているわけです。とすれば、ここで純粋なCOPDと言い切れるだけの自信が私にはありませんので。
喘息の存在を否定できます?アトピー体質や季節性など、典型的な所見のない喘息の存在ってのも、そんなに珍しいものではないと思いますけど。

かば:喘息があるんだとしたら、吸入ステロイドが入っていないのは最悪ですね。

かわうそ:なので、自分ならやっぱりアドエアなりシムビコートを使いがちです。

かば:でも、吸入ステロイドでCOPDの症状取れますかね?

かわうそ:たしかにそこは弱いんでしょうね。でも、なにせ喘息に気管支拡張剤のみってのは禁忌ですから。
COPDに吸入ステロイドは、肺炎のリスクを高めるんだか高めないんだか、そこはたしかに微妙なとこですが、禁忌ではありませんから。

かば:喀痰細胞診で好酸球を確認したりするのは参考になりますよ。

かわうそ:あんまりそのオーダー出したことないです…。さすがですね。今度やってみます。

あと、こういう合剤の論文読むといつもアドエアが出だした頃を思い出します。あの時代、1つのデバイスで済むので画期的で大流行しましたよね。

フルタイドとセレベントを合剤で吸入することによる相乗効果ってやつも、あの時代は大流行でしたね。

かば:今でも言ってません?
理屈は色々ありましたね。平滑筋がナンチャラで、ステロイドが吸収されやすいとか。

かわうそ:私は、そんなことほんとにあるのかなって思って眉唾と思っていましたけど。いや、まだ医師になりたてくらいで、純粋な気持ちできいていたかも…。

でも、その理論はあれ以降の合剤でお目にかからないように思います。普通に考えたら、服薬コンプライアンスよくなる以上の効果はないですよね。


2016年7月12日

アドエアとウルティブロ その2

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.

2016年6月20日

その2

その1からつづき


かわうそ:3000人以上あつめて、1600人ずつに分けて試験しています。ITT解析だけでなく、per protocol解析もしているようです。途中でいなくなった人が多かったんでしょうか。まあ、どちらでもそれほど結果は変わりません。
吸入薬ってあんまり副作用でない印象ありますが、けっこう脱落者が多いんです。ウルティブロ群で17%、アドエア群では19%です。副作用でなのかどうかはわかりませんが、とにかくやめています。

Table 1が患者背景です。平均年齢は65歳、男性が75%でやや多く、最初の段階で半数以上で吸入ステロイド薬が使われていました。適格基準に呼吸困難の自覚症状があり、増悪の経験があるという条件がありますからこうなるんでしょう。ただ、喘息の除外という点では、どうなんでしょう?
あと、現喫煙者が40%というのは、いかにも多いと思います。

グループ分けについても書いてあります。ABCDと分けて、それぞれ何%くらいいるのかと。詳細は省きますが、定義上、A群の人はこの研究に含まれにくいので少ないです。また、C群は肺機能はいいはずなのに症状が重かったり増悪が多かったりと、あんまり想像しにくいグループなのでやっぱり少ないです。基本はD群が中心です。肺機能も悪くて増悪も多いという最重症です。

でも、実際このグループわけを日常診療で意識することってありますかね?自分では、研究の時にしか使わないような…。

かば:一応これに基づいて治療することにはなっていますよね。C群のような人たちでは、肺機能がよかったとしても、増悪すると予後が悪いので、2剤、3剤での治療が必要です。

かわうそ:1秒量なども群間差がないように分けられています。%FEV1も45%くらいですのでしっかりと悪いです。

アウトカムについてはFig 2を見てください。ウルティブロ群の方が増悪率が低くなっています。HRだかORだかが0.88ですので、薬の広告では、「増悪の発生率が1割下がりました」とか、大々的に宣伝されるんでしょうね。

かば:「非劣性を確認するつもりが優越性が証明されました!」とかも言われそうですよね。

かわうそ:うーん、って感じですね。

1年間でどれくらい増悪するか、というのがグラフになっています。とりあえず「any」のラインを見てみましょう。どんなレベルの増悪でもよいというくくりにすると、52週のところをみてみると、なんと8-9割の人が最終的には増悪しています。で、さすがにウルティブロ群の方が5ないし10%くらいは増悪した人が少ないように見えます。でも、健康な人でも1年に1回くらいは調子崩しますよね…。

もうちょい重症な群、「moderate + severe」を見てみます。つまり病院にいって抗生剤やらステロイドやらをもらうとか、入院を考える群ということになります。こういう人たちも1年間で50%くらいあって、ウルティブロ群の方が10%くらい低くなっているように思います。このレベルのイベントを10%抑えるというのは、けっこう大したものだとも思いますが…。

secondary outcomeに、最初の増悪までの日数の中央値が比較されています。ウルティブロで70日、アドエアで56日くらいで起きているようです。2ヶ月に1回くらいは起きているんでしょうか?

かば:日本の研究だと、年の増悪が1回以下、何なら0.5回以下だと思いますけど。多すぎじゃないですか。

かわうそ:まあ、けっこう重症群を集めてきたからでしょうか。
あ、moderate or severeな増悪の年間発生回数はここに載っていました。ウルティブロ群で0.98回なところが、アドエアでは1.19回となっています。…、これ、差ありますか?

そもそも、増悪時には主治医の判断で抗生剤なりステロイドを出すことになっていますけど、でも、ガイドライン上ではここのしきいはすごく低いはずですよね。
だいたい、これくらいの重症度の人が調子悪いと病院にきて、風邪薬とか鎮咳去痰薬とかだけで帰しますかね?レントゲン撮って、肺炎の所見があってもなくても、どっちにしても基本出しますよ?

やっぱりアウトカムの設定がゆるゆるなのでは?

前に降圧剤・高脂血症治療薬の論文を読みましたけど、あのときは複合エンドポイントだからどうこうといちゃもんを付けてしまいました。
でも、個々のエンドポイントは、死亡率とかカテで診断してたりとかしっかりとしています。あんまり判定が変わる要素がありません。

それと比べると、この論文の、というかCOPD系の論文って、病気以外の要素が影響される部分が大きすぎると思うんです。
たとえば、病院へのアクセスとかですよ。同じような症状だとしても、病院に行こうと思うかどうかでmildとmoderateが別れるというのは、どうなんでしょうか。自分としては納得いきません。

入院かどうか、というのも同じです。もともとのADLとか、独居か同居家族がいるか、とか、増悪の重症度と違うところで対応が別れ得ますよ。
想像してみてください。これはやばい、入院かもしれないな、と思ったとしても、同居家族がいてちょっと悪くなれば連れてこれる人と、独居で悪くなったら孤独死しそうな人では、同じレベルの症状・検査結果でも対応が変わってきますよ。
この辺が、1000人単位で人数を集めたんだから統計学的には意味があると言われても、感情としては納得できません。

というわけで、先生がさっき触れた日本のCOPDの増悪の影響を調べた論文だって、あの大学という異常にしきいの高い外来に増悪でわざわざ受診するストレスを考えると、そのまま受け取っていいのかどうか、非常に疑問です。日本人は、自分たちの管理が海外と比べて良いから増悪が少ない、と自賛しているのかもしれませんが。

あと、これは大規模な研究になるとどれでも言えることなんですが、1年間の増悪回数が0.98回と1.19回で、P値が0.001以下だから統計学的に有意差があると言われて、だからウルティブロを使いなさいと言われてもですよ…。数字の上では差があったとしても、実臨床で差があるのでしょうか?

かば:自分1人で考えるのではなく、日本全体とか大きな単位で考えてみんながみんなウルティブロを出せば、医療経済的に変わってくるという話をきいたことありますけど。

かわうそ:なるほどそうかもしれません。
まあとにかく、こういう風にいろいろ考えて読めば読むほど、どうしたらいいかわからなくなってきます。

その3へつづく



2016年7月4日

アドエアとウルティブロ その1

薬の比較の論文は好みではないのですが、勉強会の題材としてはけっこういいかもしれません。突っ込みどころが多くて割りと盛り上がりました。
まずはMethodまでです。


Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その1

かわうそ:NEJMに載っていたインダカテロール+グリコピロリウムとサルメテロール+フルチカゾンの比較です。

かば:オンブレス+シーブリ=ウルティブロとセレベント+フルタイド=アドエアですね。

かわうそ:アドエアは1日2回、ウルティブロは1日1回投与なんですよね。それを比較するってどうなのかな、と正直思います。

かば:デバイスの形もけっこう違いますよね。

かわうそ:とにかく、LAMA/LABAとICS/LABAの比較です。
LABAまたはLAMAの単剤で治療を開始して効果不十分な患者さんに、次に何を使うのか、という疑問に対する研究という位置づけでよいのでしょうか。

かば:純粋なCOPDなら、ICSを使うのは最後の手段という感じですけど。自分ならLAMA/LABA使うことが多いと思います。

かわうそ:なるほど。
あと、これはCOPDの研究論文を読むとたいてい書いてあるのですが、急性増悪が非常に重大な意味を持つという…。
個人的には、本当に増悪を予防することがそんなに重要なのかな、という疑問が残るところなんですけど。いちおう、肺機能低下が進行するとか、QOLが下がるとか、入院が増えるとか、さらに死亡が増えるとか、まあ、お金がかかるし、健康の面でも問題なので、なんとかこれを食い止めることが大切だ、とか書いてあります。たいていこの手の論文にはこうやって書いてありますよね。こう書いときゃ間違いないみたいな。

というわけで、増悪を抑えるということをアウトカムに持ってきて解析していますけど、このあたりいつもひっかかります。
まあ、薬を投与するのは症状を軽減させたり、なんなら数値を改善させるということを目標にしてしまいがちですけど、本来はこういうふうな真のアウトカムを目標にするべきなんでしょうね。増悪が真のアウトカムかどうかはともかくとして。

かば:一番重要なのは予後とかなんでしょうけど、やっぱりCOPDは経過が長いので、死亡をアウトカムにしようとすると10年20年先になりますから、なかなか現実的ではないですよね。
で、これまでの論文で、増悪と肺機能とか、増悪と死亡率の関係についてははっきりしているので、増悪をサロゲートマーカーにしているということなんでしょう。観察期間も短くなりますし。

かわうそ:理屈はわかりますけど、ちょっと三段論法っぽさが残っていて、騙された気分になります。
それに、増悪ってなんなのかというところが、未だにはっきりしないんですよね。そもそも肺炎は増悪なのかどうなのか。

かば:そうそう。あと、アドエア500を使われているところもちょっとひっかかります。

かわうそ:そうか。日本で適応があるのは250でしたっけ。

メソッドに行きます。
1年間フォローした多施設共同研究です。43カ国356施設が参加しています。

かば:大規模ですね。ダブルブラインド、ダブルダミーですね。デバイスの形でどちらの薬かわかってしまうので、どちらの群も2種類処方されているようですね。一つは実薬、一つはプラセボ。

かわうそ:ちなみに、ウルティブロがノバルティスの製剤ですし、ノバルティスの資金で行われた研究です。ウルティブロよりなのはしょうがないと思いますけど、ICS/LABAは肺炎のリスクをあげるから望ましくないみたいなことがイントロにかかれています。
ノバルティスといえば、ディオバン事件ですよね。となると話半分で聞いておいたほうがよいのかも…。

かば:あれは日本だけの研究ですから。この論文の研究は世界中で行われているわけですし、そういう不正はないと信じて良いとおもいますけど。

かわうそ:なるほど。でも私、ディオバンはあれ以来ほとんど切り替えました。
そもそも、ディオバンは降圧作用に加えて、脳梗塞や狭心症など血管障害を予防する効果が他のARBと比べると強いとかいう触れ込みだったわけですよね。それが偽装だったとして、ディオバンをわざわざ出す気になります?他に山程似たような薬があるのに。実際、勝手に変えるわけではないですよ。患者さんに、「こういうケチのついた薬ですけどどうします?」って聞いたうえで変更していますが。ただ、基本的にARBの中ではもっとも安い部類の薬になりますので、変更しないでほしいと言われたことはありますけど。

ちなみに、同じ理由で三菱の車も東芝の家電も買わないようにしてます。
でも、自分が失敗した時には、一度の失敗で自分の評価を決めないで欲しい、挽回のチャンスがほしいと思ってしまいます。人って勝手なもんですよね。

さて、対象は40歳以上のCOPD患者で、MRCがgrade 2以上の呼吸困難がある人です。SABAを吸ったあとの肺機能検査でしっかりと診断しています。
あと、増悪が重要な指標になりますので、1年前までに記録された増悪があるかどうかを適格基準に入れています。増悪の既往があったほうが、増悪しやすいという既報を踏まえたものになっています。

アウトカムとしては、COPDの増悪が1年間に何回あったのか、その程度はどうだったのか、軽度だったのか中等度だったのか重度だったのか、あと、初回増悪までの期間ということになっています。

増悪の定義もここに書いてあります。全身ステロイド and/or 抗生剤投与ということになっています。
というわけで、この論文では、肺炎の有無は問わないということになると思います。

かば:もともとの増悪の定義は、レントゲンであきらかな浸潤影がある場合は除くことになっていますよね。

かわうそ:増悪と肺炎は別物ということですよね。でも、そもそも重症のCOPDだと、レントゲンで肺炎の有無がわからない、気腫性変化が強くて浸潤影がはっきりしない、というのも常識ですし。

かば:症状では区別できないですしね。

かわうそ:いつもこのあたりはモヤモヤします。CTをいつも撮ることができるわけではないので仕方ないといえば仕方ないのですが。
その他もろもろ合わせて27個のsecondary outcomeを設定したと書いてあります。

かば:多いですね。全部を載っけてなくてアウトカムがオンラインサプリメント参照ってのは結構珍しいです。

かわうそ:さすがにこれは擁護しきれません(呆)
まあ、ほとんどが増悪関連のアウトカムなんだと思いますけど。増悪回数とか、初回増悪までの期間、増悪の期間とか、あと、moderateとsevereを組み合わせだとどうか、とかいろいろやってみたんでしょうけど。あとはSGRQとか肺機能なんかも評価しています。
ただ、これだけのアウトカムを検定するのは、統計学的にはどうなのかと思いますけど。対象患者が多いからいいってもんでもないでしょうし。

最後に、mild、moderate、severeの定義もありました。mildなものは、2日以上の症状の増悪とされています。ただし、抗生剤・ステロイドの治療にはいたらないもの。severeは入院やER受診が必要なもの、という風に決められています。
mildをどうやってひっかけるかというと、「electronic diary」なるものを渡しており、毎日記録してもらっているみたいです。けっこうお金かかりそうですね。

かば:最近はスマホのアプリを駆使した研究流行りですからね。

かわうそ:でも、老人が対象なので、そういう人たちがアプリを使いこなせるのかどうか。もちろん中にはそういう人もいるんでしょうけど。
統計についても詳しく載っていますが、割愛です。ほんとは非劣性試験のつもりで初めていますが、優越性を証明するための計算方法なんかも書いてあります。

その2へつづく