私はまだ、なかなか実臨床では手が出せていませんが、肺エコーについてです。
Critical Care Ultrasonography Differentiates ARDS, Pulmonary Edema, and Other Causes in the Early Course of Acute Hypoxemic Respiratory Failure.
Chest. 2015 Oct 1;148(4):912-8.
Sekiguchi H, Schenck LA, Horie R, Suzuki J, Lee EH, McMenomy BP, Chen TE, Lekah A, Mankad SV, Gajic O.
2015年11月18日
かわうそ:みなさんがお好きな(?)肺エコーです。
ここに来て教えていただいたおかげで、私も気胸では何とか使えるようになりました。
この論文は、急性の低酸素性の呼吸不全で救急外来に来られた方の鑑別を超音波でやろうというものです。
心不全とARDSとそれ以外の疾患を分けるために必要なエコーの所見は?というものを調べたものです。
134人というのでけっこう大量の症例を集めています。
イントロに入ります。
まず、急性低酸素性呼吸不全(AHRF)の原因として、いろいろなものがあげられています。ALSのような肺に問題のないものもありますし、窒息のような気道閉塞もありますし、心不全やARDSのような心原性以外のpulmonary edemaがあります。血管系もあります。肺塞栓とかですよね。
これらを救急外来でエコーで簡便に鑑別できれば、診療上有用であろうという前提で始まっています。
方法に入ります。
血ガスが重要になりますよね。P/F ratio<300でAHRFを決めていますし。だから、血ガスと心エコーの間隔を6時間以内ときっちりと決めています。
一人に対して、左右4箇所ずつ、計8箇所で肺エコーをやっています。なかなか味のある絵が載っていますよね。後で出てきますが、結局いろいろ見た中で、B lineだけが有用であったとのことです。B lineっていうのは、私はよくわかっていないのですが。気胸しかまだわからないので。
かば:B lineっていうのは、縦にラインがでるやつですよね。間質性病変や肺胞性病変の存在を見ているはずです。
かわうそ:その他、胸水を見たりしていますし、普通の心エコーもやっています。左室の収縮能だとか、拡張能とか。下大静脈も評価しています。ここにはあまり詳しく書いていないんです。アペンディックスに載せてあるようですが、手に入れていません。
さらに、これらを10分以内に行うとしています。かっこいいですね。
結果です。9ヶ月で241人の患者がICUに入りました。AHRFの定義を満たしたのが134人ということになっています。
かば:すごいなあ。
かわうそ:Table 1は患者背景ですね。44%が心原性、31%がARDS、残りの25%が様々な疾患ということになっています。ちなみに、心不全とARDSの両方の要素を持つ人は、心不全に含まれています。
診断については、別々のDrが診断して、一応似たようなものになったとのことです(kバリュー=0.77)。
ARDSの原因は肺炎が最も多かったとのことです。様々な疾患にどういうものがあったかというと、一番多かったのが、肺炎、以下、肺梗塞、COPD増悪、肺塞栓、気胸、悪性胸水と続きます。「様々な疾患」にはどのようなものがあったかというと、片側の肺炎が半分くらい、あとは肺梗塞、COPD増悪、気胸、悪性胸水などでした。
解析については、まず、心原性肺水腫+ARDSというグループととその他の様々な疾患を区別するエコー所見をまず調べています。その他様々な疾患というのは、どうやら片肺の疾患が主なもののようですね。
いろいろ解析した結果、まずは肺エコーでB lineがさきほどの8個の領域のうち、いくつで認められるか、というものです。結局、B lineが3か所以上で見えた場合は、心原性+ARDS群に分類される、と。Figure 4のフローチャートにわかりやすくのっています。
引き続き、心原性肺水腫とARDSの鑑別を調べてみると、多変量解析で残ったものが、左胸水があること、中等度以上の左室の収縮能低下があること、下大静脈の直径が23mm以上であるということが、心原性肺水腫(+ARDS)群に含まれる因子ということがわかりました。
あと、弁膜症とか右心不全とかは、いっさいこの診断には寄与しなかったということです。
スコアリングなども気合入れて作ってありますよ。Fig 4に載っています。
かば:私、EFは測れませんけど…。
かわうそ:私もです。だいたい左室の壁運動がしっかりあるという程度でいいのではないでしょうか?
この論文でも、実は拡張能の指標もしっかりととろうとしていたようなのですが、結局一部でしか測定できずうまく解析できなかった、と著者が嘆いているんです。
それでも、E/e'がけっこう鑑別に有用かもしれないと書いています。
ただですね、こうしてみると「やっぱりエコーはすごい、やってみよう」とお思いになるかもしれません。私もそう思いました。…、Discussionを読むまでは。
かば:ふふっ。
かわうそ:けっこう台無しになるようなことをポロッと書いているあたり、非常に好感が持てますよね。今回検討した、鑑別に有用な所見について述べてあります。
まず、B lineについては、理論的に言えば、聴診でraleが聞こえることに相当するはずです。
そして、左胸水があることは、打診でわかるはずです。
さらに、左室収縮能の低下があるならⅢ音が聞こえるはずです。
最後に、IVCの拡張は頸静脈怒張で代用できるはずです。
というわけで、エコーと身体所見のどちらが感度が高いのか、という問題になってきそうです。
ちょっとテンション下がりますね。あくまで身体所見の確認というスタンスでエコーをするというのは、エコーをするハードルが下ると言えるかもしれませんが。
かば:ここであえて身体所見に立ち戻るっていうのがすごいですね。
かわうそ:しかし、そんなに心不全とARDSの鑑別でもめることはありますか?
循環器科でエコーされて、心機能は大丈夫です、と言われたとしても、B lineが見えて、左胸水があったら心原性だと言ってもいいということですかね?
きりん:まあ、もともと「心原性肺水腫+ARDS」群と「心原性肺水腫のないARDS」群という、区別しているのかどうかわからない分け方ですからね。
かわうそ:そうですね。区別できていないですよね。たまたまみつけて、喜び勇んで読み始めた割には、ちょっともやもやする論文でした。
でも、久しぶりにケースレポートとか総説でなくて原著論文を読みましたよ。
きりん:題名とAbstractは罪ですね。騙されますよね。
かわうそ:肺エコーをしよう!と意気込んで読んでみたら、結局身体所見でよくない?とか言われてますし。
かば:映画の予告編が一番おもしろかったような感じですね。
でも、読んでいなかったのでありがとうございました。B lineっていうのも久々です。
かわうそ:これがあると肺の浸潤影と関係するんですね。
きりん:小葉間隔壁が肺の表面では7mm間隔なので、縦のラインが7mm間隔で見えるということ、3本以上見えるというのがB lineです。これがあると肺水腫とか、あと間質性肺炎の存在が疑われます。
かわうそ:そんなミリメートルのオーダーで戦うんですか…。やってみたいとは思いますが…。
かば:エコーの研究って、たいてい術者の熟練度に左右される、というリミテーションが付きますよね。
かわうそ:エコーあてて、きちんと所見を書いて練習していくしかないですよね。