2016年8月10日

ホセ・デ・リベーラの絵画に描かれたPectus excavatum

医学論文とはちょっと違うので、英単語に馴染みがなくて読むのに苦労しました。

Pectus excavatum in paintings by Jusepe de Ribera (1591-1652).
Thorax. 2016 Jul;71(7):669-70.
Lazzeri D, Nicoli F.


2016年8月1日

かわうそ:Pectus excavatumという疾患が描かれているわけなんですが、まず、ホセ・デ・リベーラって知ってます?

かば:知らないです。

かわうそ:カラバッジョのリアリズムの流れを組んだ画家とのことです。この絵のように、明暗を強調して、聖人の衰えた肉体を美化することなく写実的に描いていることなど、たしかに影響がうかがわれますね。

聖人の受難・殉教のシーンをドラマチックに描くことが多いようです。当時はかなり人気だったようです。
私も、カラバッジョの絵が好きですので、けっこう好みの画風ではあります。

で、写実的な画風のためか(?)、解剖学的異常や内科疾患もリアルに描かれています。
有名な絵としては、「えび足の少年」、「髭のある女性」、「盲目の彫刻家」などがあります。

「髭のある女性」については、大塚国際美術館で見た記憶があります。まあ、インパクトのある絵ではあります。

かば:大塚国際美術館行ったことあるんですか?複製が大量に置いてあるんですよね。どんなとこですか?

かわうそ:入場料が高いだけあって、充実してますよ。1日では回れないくらいです。何度か行きましたけど、楽しみました。食事も美味しいし。

かば:「えび足の少年」は見たことありますね。「髭のある女性」は、男性ホルモン過剰でしょうか。

かわうそ:だとすれば、不妊になると思うので、この絵のように授乳しているのはおかしいように思うんですよね。ほんとに写実的なのでしょうか?どこか誇張があるように思います。別にそれでいいと思いますけど。

さて、この絵を見て、描かれた疾患はわかりますか?この号のThoraxの表紙にもなっています。本文には他に2つの絵が載っています。


かば:うーん?

かわうそ:ちなみに、描かれた聖人は、St JeromeとSt Onophriusです。St Jeromeというのは聖ヒエロニムスのことだそうです。St Onophriusについては日本語のWikipediaがなかったので不明です。ただ、どちらも別に殉教した人ではないみたいなんですよね。少なくとも、聖ヒエロニムスは、砂漠で隠遁生活を送った神学者、というイメージなんですけど。あと、自分にとって、ヒエロニムスといえばライオンと一緒に描かれているもの、と考えていましたので、ちょっとこの絵をヒエロニムスと言われても違和感があるんですよね。

かば:で、疾患は?Pectus excavatumってなんでしたっけ?

かわうそ:実は、漏斗胸なんです。

かば:なるほど。そういえば。

かわうそ:ところで、なぜ漏斗胸が描かれているか、なんですが、いまいちはっきりしません。

かば:この聖人にそういう伝承があったわけではないんですか?

かわうそ:ないようなんです。この絵以外には、これらの聖人が漏斗胸として描かれているものはないのです。
ちなみに、漏斗胸自体は、レオナルド・ダ・ヴィンチが初めて解剖学的に考察しているようですし、この時代には医学的にも認識されていたとのことです。

かば:漏斗胸だと、見た目の問題の他に、呼吸機能低下とか呼吸困難などの自覚症状が出てくることがあるので、そういう苦難を聖人の苦悩の象徴として描いたのでは?

かわうそ:なるほど。そうかもしれませんが、真相はもはやわからないです。
ただ、なんとなくですが、光と影を強調したかったのかな、と思います。で、そういうモデルを探してきたのではないでしょうか。


2016年8月4日

GERDと咳の関係

すっきりとわかりやすい論文でした。

The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms.
Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.
Lavorini F, Chellini E, Bigazzi F, Surrenti E, Fontana GA.


2016年7月29日

かば:Deflation coughってわかります?「肺活量測定の時、息を吐き切った時に誘発される咳のような排出努力」という定義らしいんですけど。

かわうそ:なんとなくわかります。聴診のとき、強制呼気で咳き込むってことですかね。

かば:そういうイメージでいいと思うんですが、定義上は、肺活量測定なので、ゆっくり呼出して肺が空っぽになった時に誘発される咳嗽とのことです。なので、強制呼気とは少し違うのかもしれません。とにかく、胃食道逆流、GERDの症状と考えて良さそうです。

そのDeflation Cough、DCとGERDの関係を調べたのが本研究です。

157人で、DCの評価と24時間食道PHモニタリング、MII-pHをしています。

かわうそ:24時間食道PHモニタリングを157人で!

かば:なのでCHESTに載ったんだと思われます。

157人中、93人では慢性咳嗽もありました。
DCは、肺活量測定を2~4回繰り返して、咳込みを耳で測定したとあります。

結果です。表をみてもらう方がわかりやすいですね。2×2表が載っています。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1531
DCなし1596

DCとGERDには関係がありました。P<0.01です。
感度50%、特異度76%、陽性予測率33%、陰性予測率86%ということでしたが、著者はまだ満足していません。

かわうそ:けっこう立派な結果に感じますけど。

かば:そこで、慢性咳嗽のある93人に絞って解析しています。慢性咳嗽についてはVASで評価したとのことです。ちなみに、この中に現喫煙者はいませんでした。


Acid MII-pHNormal or Nonacid MII-pH
DCあり1525
DCなし251

こうすれば、感度88%、特異度67%、陽性予測率38%、陰性予測率はなんと96%ということになりました。

かわうそ:すごいですね!
でも、つまり…、どういうことだってばよ?

かば:つまり、遷延性咳嗽・慢性咳嗽で受診した患者さんで、強制呼気で聴診をしたとしますよね。

かわうそ:うんうん。

かば:その時に、DC、咳込みがなかったとしたら、GERDの可能性が低くなるので、PPIを出さなくてもよいということになると思うんです。

かわうそ:なるほど。
強制呼気時の咳込みって、けっこう喘息に典型的かと思っていましたけど、GERDに関係するんですね。

かば:胸腔内圧が高まることで胃酸逆流につながるんじゃないか、とDiscussionに書いてありました。
この論文は全部で6ページだけで、非常にシンプルですけど美しい結論ですよね。