2015年8月31日

人体自然発火

Case of So-Called "Spontaneous Combustion".
Br Med J. 1888 Apr 21;1(1425):841-2.
Booth JM.

かわうそ:完全に趣味の世界ですがお付き合いください。X-fileが好きなのもので。たしか、人体自然発火事件の回があって、そこでモルダー捜査官がスカリー捜査官に説明してるときに、医学雑誌にも載っている、とかいってたように思います。記憶が定かではありませんが。
で、pubmedで「Spontaneous Combustion(人体自然発火)」で検索したところフリーで入手できたものがこれです。100年以上前のBMJになります。

きりん:むー。今までにないジャンルですね。

かわうそ:さて、人体自然発火の定義的なものがまず書いてあります。被害者は全て死亡した状態で発見され、体、服、周囲のものは部分的にまたは全部が燃えて破壊されているようです。体は燃えて炭化しているが、これは衣服や周囲のものの燃焼では説明できないということです。
次いで著者の経験した症例の報告という形式になっています。
2月19日、日曜日の朝、納屋の屋根裏の干し草置き場で65歳の男性の検死を行いました。

かば:耳鼻科のドクターじゃないんですか?

かわうそ:たしかに、Lecturer on Diseases of Ear and Larynxとありますね。
まあとにかく、被害者(症例報告なら患者というのが正しいように思いますが、ここでふさわしいのはやはり被害者、もしくはガイシャですね。)は酒浸りの年金生活者で、前日の夜9時前に酩酊した状態で1階の馬小屋に入っていくところが確認されています。その目撃者にドアを閉めるよう言い、ドアが閉まった後、階段を登って行く音が聞こえたという証言があります。その日はそよ風もないくらい静かだったという証言もあり、争う物音などは気付かれなかったようです。
で、翌日の8-9時に、近所に住人が現場の屋根から煙が出ているのをたまたま窓から見つけ、現場に駆けつけたところ、屋根裏部屋の床の穴からこの年老いた兵士の遺体を目撃したということです。
消火作業については述べられていませんので、すでに鎮火していたのだと思います。
著者が到着した際の写真がありますので、これを見ながら続きを聞いてください。

きりん:ちょっとショッキングな写真ですね。

かわうそ:ですね。ただ、キャプションにあるように、近所の人が撮影したのをもらってるんですよね。この写真以外には、撮影できなかったっていってますし、なんだかなーって思います。
さて、写真を一目見て異様なのは、周囲には燃えやすいもの、例えば干し草や木材などが豊富にあるにも関わらず、発火が本人の周囲の床などにしか影響していないように見えることですね。これは他でも報告されている現象で、人体自然発火事件の特徴の一つといえそうです。
体はほとんど灰になっているんですが、顔などの形はまだ残っていて、髪の毛と頭皮は燃え尽きていたんですが、ヒゲは残っているくらいで、彼を知っている人はそうと認識できるほどだそうです。この写真ではややわかりにくいですが。四肢の末端は階下の床の灰の中に落ちていたようです。これも人体自然発火事件の特徴でしょう。人体の一部が焼け残っている写真がネットにあります。モルダー捜査官も出していたかもしれない。
軟部組織はほとんど燃焼の燃料として消費されていたということです。酒浸りで太っていてよく燃えたと言いたいんでしょうか。火災で屋根からの石の落下したため、遺体がいくらか損傷してるのもわかります。
争った形跡がないことにも触れておくべきでしょう。死に際して、苦しんだ形跡がない。どうやら、人体自然発火事件では、これも特徴といえるようです。目撃者がいて、証言している事例もネットにはけっこうありました。
ただし、真犯人がいて、密かに忍び込んで泥酔した被害者に火をつけたり、本人の火の不始末という線も可能性としては十分残っているのではないでしょうか。
さて、いよいよ解剖、組織学的検討、と行きたいところですが、ここで急展開です。運搬人によると、一体として運ぼうとしたところ、collapseしてしまってできなかったと言ってます。で、解剖はできなかったと。著者の嘆きが聞こえてくるようです。
最後に体裁を整えるためか、機序みたいなものを考察してますが…。

かば:なんか、症例報告っていうよりは、大衆雑誌の記事とか推理小説読んでるみたいですね。
BMJに載っているっていっても、鵜呑みにするんじゃなくて、どこまで信頼できるのか実際読んでみないとわからないってことですね。

かわうそ:そういっていただけると、読んだかいがあります。

きりん:あと、レイアウトとかフォントとか今のとかなり違いますね。今のはやっぱり読みやすいですね。

かわうそ:やっぱりそういう見やすさは大切ですよね。私はそういうのもあって、NEJMが一番読みやすいなって思っています。
今後も、フィクションで題材になる不思議な事件が、実際に医学雑誌で検討されてるのかとか、たまに調べたいと思います。全く役に立ちませんが。


2015年8月20日

MGHケースカンファ(22-2015) その2

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. 
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1からつづき



その2

かわうそ:ここから鑑別診断に入ります。ここまでの経過で5週間です。胸痛、呼吸困難、筋肉痛、倦怠感、発熱という「とらえどころのない症状の集まり」と言っていて、診断に苦労したんでしょうね。「とらえどころのない症状の集まり」というのも、診断を絞る上でのキーワードになるようにも思いますけどね。
とりあえず、一番ハデで生命に脅威を与えている症状であるところの、心嚢水貯留に着目して、病態にせまろうではないか、ということで話が進んでいきます。でも、とかいっているわりにはこれまでなんやかんや理由をつけて頑なに心嚢穿刺をしてこなかったじゃないか、って思いません?早く胸水穿刺をして症状をとってあげればいいのに…。
鑑別診断としては、まずKussmaul徴候に着目しています。このあたりはマニアックなんであんまり良くわかりませんでしたが、Kussmaul徴候は心タンポナーデでは出現しないが、収縮性心膜炎では出現するそうです。つまり、Effusive-constrictive pericarditisという診断になるようです。ただし、このEffusive-constrictive pericarditisという診断は、いろんな疾患で出てくるので、「does not lead us closer to a diagnosis」なんですって。なんか不安になってきます。
でも、全身状態の管理としては、心嚢水穿刺は絶対必須ですよね。死にかけて苦しんでいるんですから。ここでようやくとうとう自分でもそれを認めてくれました。ところがですよ、この主治医団(?)は、この段階での「心嚢水の検査では診断に結びつかないと信じている」とか言ってて、やっぱりやらない理由を言い続けているんです。

かば:反応性の心嚢水がたまっているんだろう、って考えているんですね。
この時点では誰がプレゼンしているんですか?最初のヒトとは違いません?

かわうそ:たしかに。変わっているかもしれません。まあ所属とか何も書いていませんので、私の想像で言わせてもらえば、これは最初研修医がプレゼンしていて、会場の誰かが「なんで心嚢水つかないの?」とか聞いてきて、収集つかなくなるほど炎上したので、上級医が出てきたっていう可能性を考えています。そう想像して笑ってしまったということです。
でも、このヒトなかなかかっこいいことを言っているんですよ。検査結果で診断が絞り込めるまで鑑別診断を上げていく、というのは今後心がけたいですね。かっこいいなと思いながらも、何いってんのコイツ?という思いが拭えませんが。
というところで、次のページには答えが出ているので、ここでみなさんに鑑別をあげていただきたいんです。どうですか?

チンパンジー:最初、筋肉痛とか息切れとかがありますね。呼吸器科回ってて見てた患者さんに似ているので、筋炎とか膠原病関連の間質性肺炎などを考えました。次に吸気時の胸痛とか心嚢水あると、心膜炎からSLEなんかを考えますが、ちょっと合わないところもありますね。血球減少ないですし。
しかも、僕もラボデータ見た時に、ぱっと目につく高い数値を見てしまいました。フェリチン著増ですよね。あと関節痛があることと、サーモンピンク疹があるということから、診断はついてしまいますね。

かば・きりん:(深く頷く)

かわうそ:みなさん、さすがですね。もう診断ついてるんですね。私はここまで読んできてまだピンときていませんでしたが…。
で、答えは?

チンパンジー:成人スティル病です。

かわうそ:大正解です。さすがとしかいいようがありませんね。
もう言うことないとお思いでしょうが、ここからが実はこの回で一番重要なところです。

かば:あ、いちおう不明熱の鑑別はしっかりやっているんですね。

かわうそ:そうなんです。感染や膠原病、悪性腫瘍についてはここで鑑別して否定しています。あと、急性リウマチ熱についても考えていますが、これは弁膜症が有名ですので、心臓の症状が合わないようです。
で、Adult onset Still’s diseaseについてなんですが、問題はここなんですよ。
ここには、「チャレンジングな症例にあたったとき、我々はしばしばインターネットで検索して、診断の仮説をたてる」、そう豪語しているんですよ!(`Д´)

かば・きりん・チンパンジー:ははははは。

かわうそ:そりゃそーだけど、それはいっちゃあダメでしょって話ですよ。
このセリフを聞いてから、これまでの話を振り返ってみると、私のこれまでの失礼な態度もご理解いただけるのではないでしょうか。

きりん:ふふっ。しかも、どんな単語で検索したのかも正直に言ってますね。言わないでいいのに…。

かわうそ:偉いことに検索結果の最初の10個がadult onset Still's diseaseだったようです。で、安心したと。

かば:インターネットはすごいですね。でも、これ活字になっているんですね。

かわうそ:活字にしちゃだめなところですね。この会をブログに上げるところだって、けっこう修正とかしてますから。

きりん:これ言ったの誰だ?って前を振り返って見ちゃいますね。本名出てますし。

かわうそ:同級生とかどう思うんでしょうか?「あれは言っちゃダメでしょ?自分もやってるけど。」とか言われてますよ。
とにかく、ここを電車の中で読んでいて、つい大笑いしてしまいました。今回私が一番言いたかったのはここです。これを伝えられて満足しました。
adult onset Still's diseaseが鑑別に上がって、これまでの症状とか検査所見とかを当てはめてみると、全てちゃんと合うということです。ここらへんで疾患のまとめが書いてあります。興味があれば読んでおいて下さい。
で、ようやく心嚢穿刺をしてくれて、でもあんまりよくならなかったんですね。まだリウマチ熱と考えてアスピリンとペニシリンで治療していたと。で、adult onset Still's diseaseと診断して、ステロイドを入れて、すみやかに改善したようです。今は元気に大学に戻って、バスケとかしているそうです。でも、IL1受容体アンタゴニストが始まっていますね。adult onset Still's diseaseの治療として最近行われているようです。

かば:ほんとに5週間1回もステロイドださなかったんでしょうか?NSAIDSも。気の毒に。
Dr. ハウスみたいな話ほんとにあるんだ。こわいこわい。

かわうそ:今となっては、Dr. ハウスの知恵に頼らなくても、インターネットに答えがあるんですよ。

かば:検索しているとかいうところ、だれも何もつっこまなかったんでしょうかね?

かわうそ:たぶん言われているんでしょうけど、省略されているとか?あと、失笑されてる空気があったとしても、それは活字にしにくいですね。

きりん:ジョークみたいな感じで言ってたんじゃないですか?

かわうそ:そう信じたいし、それなら良いんですが、内輪にとどめておいて欲しいですね。活字にしちゃってますので、これが著者の悪意なのかプレゼンターがマジテンションだったのかわかりませんね。
でも、時代の移り変わりを感じます。私が学生の時読んでいた時は、MGHケースカンファレンスでこんなに盛り上がれませんでしたから。

かば:成人スティル病ってやっぱり難しいんですね。不明熱の鑑別で絶対上がってきますよね。

かわうそ:フェリチン取ってますので、最初から疑っていたのかもしれません。話を面白くするために、順番を前後してたとか。本来は私なんか足元にも及ばないような優秀な先生方なのに、こんなにネタにしてしまい申し訳ないです。
前回とりあげた症例(Case 9-2015)もけっこう面白い回でした。患者の家族やカンファレンスの出資者(?)が出てきたりとか。まさか2回続けてこんなお宝に出会えるとは、うれしいですね。
楽しかったんですが、でもさすがにMGHは疲れます。しばらく間隔開くと思います。


かわうそ振り返りコメント:
録音を聞き返してみて、自分の話の進め方が拙すぎて、非常にもったいなかったなと思いました。もうちょっとみんなの意見を聞きながら進められると、もっと面白くなるのに、と忸怩した思いがあります。喋り過ぎでした。
ただ、この回はいろいろツッコミたいところが多すぎて、思い入れが強すぎたというわけなので許してください。


2015年8月17日

MGHケースカンファ(22-2015) その1

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1

かわうそ:最近また自分の中でブームが復活してきたMGHのケースカンファレンスです。夏休みで1週間暇でしたので、調子に乗って読んできました。
生来健康な20歳の男性が、喉の痛み、発熱、倦怠感、全身の筋肉痛、心嚢水貯留で入院したという話です。最初は喉頭炎を疑われて抗生剤を出されています。えらいもので、ちゃんとペニシリンが出されていますね。
しかしさっぱりよくならず、その後も何度も受診されています。やっかいなことに、喉からβ溶血性連鎖球菌なんかが検出されたりもしているので、やっぱり感染症なのかな、とか言って、レボフロキサシンに変更して加療とかもされています。
でもやっぱり調子よくならない。今度は息切れもあるし、胸も痛いし、ということで受診されました。痛みはけっこう強くて(6/10)、呼吸で痛みが増強して、という性状です。WBCが23000、CRPが30、赤沈が96と亢進していました。ちなみに、赤沈が出てきましたので、ここで前回の赤沈0事件を思い出しました。

きりん:GIMカンファレンスのやつですね。

かわうそ:あれは何だったんでしょうかね?ちょっと考えたんですけど、あれは時間経過の問題なのかなって思ったんです。赤沈ってのはCRPよりもさらに臨床症状から遅れて亢進したりするはずなので、今回の症例のように赤沈がしっかりと亢進しているものでは比較的亜急性~慢性の経過をたどっていて、前回のように赤沈がしょぼければ、急性の経過であることを意味しているのかな、と思いました。

きりん:うーん。でも、0ですからねぇ。

かわうそ:そうか。さらになんらかの機序が重なってるんですかね。
さて、ここでようやく入院を許してもらえました。家の近くの病院ですけど。発症からは、3週間は経過していますね。CTとかは異常なし。この時点でもまだ感染症を疑ってるんですね。AZMとVCM、CTRXを使っています。痛みに対しては、モルヒネを使ったということです。

かば:CTは首みたいですね。あと経胸壁エコー。

かわうそ:あ、そうですね。すいません。でも、次のページですぐに他のところもCTとっています。こういう治療で痛みはよくなったけど、発熱や息切れは変わらない。で胸のCTを撮ったところ、右肺門縦隔リンパ節は腫脹していて、両側胸水があって、おそらくpassiveな無気肺があって、という所見はあるみたいですが、肺塞栓などはっきりとした所見はなかった、ということです。
で、免疫異常や免疫不全についてもこのへんで抗体を調べていて否定的ということです。
さらにお腹も痛くなってきたということで、2日後にCTを撮影されています。入院してからなら5日目です。お腹のCTでは異常なしなんですけど、胸水が増えているということと、心嚢水貯留が出てきているということが偶発的に発見されたということなんです。
でもねぇ、たぶんというかなんというか、このヒト結構前から胸が痛いとか呼吸が苦しいとか言ってますよね。ということは、経過からするとですよ、MGHの先生には失礼な話だということは重々承知してますが、この時点で初めて心嚢水が出てくるってのは、理屈にはあわないですよ。個人的に思ってるんですが、見逃しなんじゃないですか?(・∀・)

きりん:え?

かば:またまた。

かわうそ:私がそう考えてしまう理由というのも、読み進めていくとわかってもらえると思います。
心エコーしていて、胸水貯留と心嚢水の貯留があって、でも疣贅はなく、心機能も保たれています。次に肩の痛みのこととかも触れています。で、ここで突然、Rashが顔とか腕とかにでてきた、ということが書いてあります。写真も載っています。発熱の時だけ出てきて、1時間位で消えてしまうということです。

かば:このワード聞いたことありますね。

かわうそ:特徴的みたいですよね。
リウマチ熱関連の検査についてもここで出てきます。最初のどからストレプトコッカスが検出されていますので。ASOがぱっとしないとか。
とにかく、入院しているのにどんどん悪くなっていると。どんな治療しているのかいまいちわかりにくいんですけど。特に、どんどん心嚢水が増えてきている、呼吸性のTRが目立つ、と記載してあって、こっちまでドキドキしてきますよね。このヒトたち、なんかのんびりしてません?早く何とかしてやってって感じです。

かば:不明熱の検索をやってないんでしょうか?感染症ばっかり気にしているみたい。

かわうそ:すみません。言っていませんでしたが、いちおう抗体とかいろいろ調べているようです。

かば:このあたり、ドラマ「Dr. ハウス」を彷彿させますね。患者さんが死にかけるパターン。

かわうそ:安心して下さい…。生きてますよ!( ̄ー+ ̄)

かば・かわうそ:…。

かわうそ:…(このスルースキルの高さにシビれるわ~。ありがとうございます)。
さて、ここでようやくCCUに入室しますので、話が展開すると期待していいです。
生活歴が載っています。大学生で、危険な性行為や、外国旅行、動物との接触はないようです。喫煙はないが、マリファナを吸うことはある、飲酒は「drank five or six beers once per week」とありますので、週に1回5-6杯のビールですかね?量がいまいちわかりませんが、アメリカ人ならたいしたことなさそうです。みなさんの方が多いくらいですよね?兄弟に違法ドラッグ使用による感染症で亡くなった人がいるとこも面白いですね。アメリカっぽくてワクワクしますが、関係はなさそうです。
身体所見についても、これまでのまとめっぽいことが書かれています。
次のページにラボデータの表があります。WBCは当然高いし、慢性の経過で貧血になってて、反応性に血小板が多い。20歳でAlbが2.6っていうのは、けっこうおおごとだなと思います。心臓のことなので、CK、トロポニンT、BNPなんかも載っています。で、CRPは高い、と。
で、ここから先は見てしまうと答えがわかってしまうので、できれば見ないふりをしていただきたいんですが。

きりん:見てしまいました…。

かわうそ:見てしまいましたか…。まあ、しょうがないですよね。書いてありますもんね。(´・ω・`)
レントゲン写真では、ご覧のとおり心嚢水貯留と胸水貯留ですね。心電図はあまり詳しくないので説明しにくいですが、心嚢水貯留に特徴的なもののようです。心エコーは先ほど触れたのでもうご存知ですよね。右心房が圧迫されているようです。
ここから鑑別診断に入ります。

その2へつづく


2015年8月12日

診断力強化トレーニング 「本当にあった怖い話」 その2

診断力強化トレーニング
京都GIMカンファレンス


2015年7月31日

その1から続き

その2

きりん:では答えです。
これは、知っている人が見ると一目でわかるものです。私は最近おぼえたんですけど。
レミエール症候群です。

かわうそ:なるほど。(名前だけはかろうじて)聞いたことあります(キリッ)。

きりん:若い男性で、首が痛くて、虫歯があって、こんな胸部写真だと疑うというものです。何例かみるともしかして、と思えるかも、ですね。
血液培養で嫌気性菌が生えてきて、多分口腔内の菌だと思うんですけど。あと、頚部の造影CTものってますけど、静脈が血栓で詰まってます。リンパ節ではなく、血栓で痛かったんですね。

かわうそ:これはかなり怖くないですか?触診してて飛んだらどうしよう、という感じ。

きりん:でも静脈ですから、頭でなくて肺ですから。

かわうそ:あ、そうか。なら安心(?)ですね。

きりん:ヒントになるのは、まず上気道感染があったというところ、あとリンパ節が腫れていないのに首が痛いところです。お腹の所見は目くらましですね。

かわうそ:なるほど。で、血沈が0ってことについては?

きりん:何も書いてないですね。ふふっ。

かわうそ:ははは。わざわざ書いといて触れてないってのは、なんかすごくモヤモヤしますね。
でも、もし自分が鑑別診断聞かれたら、結核でしょって自信満々で言って、すごい恥を書いてたと思いますね。

きりん:まあまあ。実際結核は鑑別診断に上がっておかしくないと思いますよ。
治療については、この疾患を「当初から」想定し、アンピシリン・スルバクタムとクリンダマイシンを使用したとあります。嫌気性菌をターゲットにしてます。感受性を確認してベンジルペニシリンに変えています。肝腎機能も改善しています。

かわうそ:肝臓と腎臓が悪かったのは、敗血症とDICによるものってことなんですね。

きりん:だと思います。発熱も肺炎像も血栓も、そうとう長く続いたようです。DICについては最初に抗凝固しただけということです。

かわうそ:自分がこれを診たとき、最初から診断つけるのは無理としても、検査と治療を大きくはずすことはないと思うんです。それなりの抗生剤を使って、それはメロペンとかゾシンかもしれませんけど。クリンダマイシンを使えるかどうかまでは別ですけど。で、それなりにDICとして抗凝固療法して、というように。
首についても、そんなに痛いのなら、という感じでCTを撮って、おそらく血栓まではわかるんでしょう。

きりん:うちの優秀な放射線科の先生が見つけてくれて、あわよくばレミエール症候群って診断をつけてくれると。

かわうそ:他力本願ですが、そこは否定できません。
でも、こういうふうにかっこよく診断して治療するのにはやっぱりあこがれますね。治療を開始するのはいいとして、抗生剤の変更とかいつまで抗凝固するかとか。どう管理するかってのはなかなか難しいです。

きりん:すぐ血液培養の結果がでて、感受性に一週間かかるとすると…。まだ発熱している間にde-escalationしてると思いますけど、たしかに経過表がほしいですね。

かわうそ:先生もこの前レジオネラ肺炎を治療されてましたけど、あれも延々と熱が出てたし大変そうでしたよね。

きりん:あれは最初腎機能が悪くて、クラビット隔日投与にしてたんです。で、一度熱型が悪化したんですが、その時利尿がついていたので、Ccrを測定してクラビットの量を調整して、とかしてました。

かわうそ:なるほど、やっぱりレジオネラ肺炎って診断できても、その管理は一筋縄ではいかないんですね。最終的にちゃんと救命できてて、さすがです。

きりん:いえいえ。いい勉強になりました。
最後にレミエール症候群の特徴が書いてあります。抗菌剤がない時期には多かったのですが、最近上気道炎に抗菌剤を処方するのを制限したらまた報告が増えてきたみたいです。

かわうそ:抗生剤減らしたことの弊害ってのもあるんですね、意外です。

きりん:あと、嫌気性菌が原因なので、感受性が判明する前のペニシリン系単剤は危険です。

かわうそ:なるほど。まあ、頼まれてもしてないでしょう。

きりん:治療期間は決まったものはないそうですが、本症例では点滴経口あわせて八週間だそうです。長いですね。
抗凝固についても、決まりはないようですが、血栓が逆行性に進行して頭蓋内に進展するなら、血管結紮とあります。

かわうそ:そんなのあるんですか?怖いですね。何度もエコーとか造影CTしないとだめですね。

きりん:海綿静脈洞もつながっていくので、頭痛が悪化してるとか眼球充血にも関係してたのかもしれないですね。けっこう危険なサインととらえていたのかも、です。今思い付いたんですけど。
こういうのは救急外来にきてもおかしくないですね。帰しちゃいそうですね。若いからって言って。

かわうそ:そのあとショックで戻ってきますね。
でもやっぱりこういう形のカンファはこわいですね。自分たちだけではできないですね。鑑別診断挙げる知識が少ないので。
あと、診断したと思って自信満々でプレゼンして、でも会場から思わぬ鑑別診断が上がってきて、全然それを想定してなくて、検査もしてないから否定できなくて、結局診断間違ってたんじゃないの、とかいう雰囲気になっていって涙目になってる自分の姿が目に浮かびます。

きりん:えーっ、先生は全然大丈夫じゃないですか?

かわうそ:ええっ?そうですか?(*・ω・*)

きりん:先生はいつもカンファとかでは本気(で殺りにくる)モードですから。

かわうそ:えっ…。((((;゚Д゚)))))))

きりん:なんでこれ調べてないの?とか、この影に気がつかなかったの?とか。

かわうそ:いやいや、そんなキツく言ってないはずですよ…。( i _ i )

きりん:今でも先生方とのカンファはちょっと恐怖感覚えるときあります (笑)
研修医のときは、ありがたいことに救急外来で困った症例を相談するカンファレンスがありました。そこでは、偉い教授でも、「僕、ちょっと鑑別挙げてみていいですか?これとこれと…。合ってます?」「違いまーす」とかいってワイワイしてました。総診のカンファはそういうの多いかもしれません。

かわうそ:ならぜひこの京都GIMカンファレンスに参加して、そういう話芸を学んできます。


2015年8月9日

診断力強化トレーニング 「本当にあった怖い話」 その1

診断力強化トレーニング
京都GIMカンファレンス


2015年7月31日

その1

きりん:今回はかば先生は夏休みです。
また、「診断力強化トレーニング」からです。京都GIMカンファレンス編集です。いろいろ有名な病院の先生が執筆されています。

かわうそ:これって、外部から参加してもいいんでしょうかね?恐いですけど、機会があれば行ってみたいですね。

きりん:本に書いてあるところによると、毎月洛和会音羽病院でやっているみたいです。老若男女、勤務医開業医だれにでも門戸を開いているとかネットに書いてありました。

かわうそ:我々がここでやいやい言っているのは、その場では的はずれだったり議論され尽くしたような指摘なのかももしれないですね。

きりん:もしかしたらプレゼンターが答えを言う前に、参加者で診断がついていたりとか?
さて、今日の症例は27歳の特に既往のない男性です。側胸部痛と背部痛です。10月の半ばから倦怠感があって、咽頭痛と頭痛を伴う40度の発熱を認めたため、近医を受診、シプロフロキサシンを処方され、一旦良くなったということです。よくあるパターンですね。一旦解熱したんですけど、1週間位たってまた38度の発熱が出て胸背部痛が出現したので、入院となったということです。

かわうそ:27歳が発熱でいきなり入院になったんですね。

きりん:病歴をまとめると、緩徐発症で、高熱ですが悪寒戦慄がなくって、寝汗もなくって、この時は頭痛も腹痛も嘔吐もなしと。温泉・渡航歴なくって、周囲に同様の症状なくって、でも深呼吸で胸が痛くって、咳と唾液様の痰があって、呼吸困難があると。大切なのは、嚥下時と咽頭痛、側頚部痛があるということで、なんか、喉と肺のあたりが怪しいなって思います。それと食欲が落ちているということです。
既往歴は特になくて、アレルギーもなくて、ビール飲んでいて、喫煙は少し多いですね。1日2箱を10年、てことは17歳から吸っていたのかってかんじですね。

かわうそ:吸ってたんでしょうねぇ。

きりん:で、シプロフロキサシンを6日間内服したと。

かわうそ:こういう時にいつも思うんですけど、量がどうだったのかっていう情報が重要じゃないですか?きちんと処方されていれば、抗生剤をきちんと出していたけど効かないから感染症は否定的なんじゃないか、とか考えられそうですが、100mg3錠分3なら話がややこしくなりますよね。実際は感染症だけど、抗生剤が効いていないという可能性も考えないといけないというか。

きりん:感染症診療の一番基本ですよね。

レボフロキサシンも、我々なら500mg分1に決まってますけど、油断してると100mgとか250mgとかだされてますよね。腎機能も別に悪くないのにな、とか思うことあります。

身体所見は、まあまあ大柄で、発熱してて、呼吸数が多くて、脈拍多くて、血圧は保たれていて、SPO2も保たれていると。

かわうそ:SPO2が92%はちょっと低くないですか?老人が92%なら、まあいっかとか考えちゃうかもしれないですけど。

きりん:さすがに27歳の若者には低いですね、たしかに。で、頭頸部では、眼瞼結膜に充血があって黄染はなし。なんか、目を真っ赤にして、はあはあいっている感じです。口腔内に虫歯が多く、咽頭発赤著明ですけど、扁桃腫大はない。頸部のリンパ節をさわっていくと、胸鎖乳突筋に沿って痛い痛いという。でもリンパ節はあんまり腫れていないみたいです。心音は異常なくって、聴診は右下肺と左側胸部に吸気終末にぼそぼそ音がすると。腹部は、右季肋部に圧痛があって…。ややこしくなってきましたね。筋性防御はないけど、肝叩打痛はあって、Murphy徴候はない。CVA叩打痛はないと。
首なのか、肺なのか、お腹なのか?という…。

かわうそ:おなかの所見も出てきたんですか…。もう手に負えないかも…。

きりん:検査結果は、カラーで印刷したのでわかりやすいです。

かわうそ:異常値が赤色になってますね。わざわざありがとうございます。

きりん:いえいえ。白血球が20000以上、好中球優位、血小板が極端に減っていて、凝固が延びている。血沈が0です。腎機能障害もあって、肝逸脱酵素は上昇してないのにビリルビンとALPが高い、と。さらに、Na低くて、CRPが20です。盛りだくさんです。

かわうそ:それはたしかに入院ですね。

きりん:ですね。胸部CTでは胸膜直下に多発浸潤影です。

ここで、あなたの診断は?とくるんです。

かわうそ:この時点で診断つけるんですか?(驚愕)

きりん:そうです(キッパリ)。
まとめると、高度の炎症所見があって、血小板が消費されてる。血沈が亢進してないのが変わってますけど。あと、肝機能が悪くないようなのにビリルビンが上がっている。敗血症のときってビリルビンちょっと高めになる印象があるので、そういうのかなって思います。

かわうそ:血栓・塞栓でこういうふうになったのかなって思わせますよね。

きりん:私は胸部CTをみて、これはって思いました。

かわうそ:reversed halo sign みたいですよね。ちょっと中が空洞っぽいというか。

きりん:私はこれみてseptic emboliって思いました。入院させますよね。

かわうそ:なるほど。自分は、結核はやっぱり除外できないなって思います。ニューキノロン出されちゃって、一瞬よくなったっていう経過もありますし。でも、喉が痛いとかはあまり聞かない訴えなんでおかしいかな…。

きりん:結核なら、もうちょっと赤沈がんばれよってなりますね。

かわうそ:それもそうですね。血沈ほとんど計らないんでいまいち感覚つかめませんが、さすがに0ってのはないですね。これは重要な情報そうですね。

きりん:きっと実際のカンファでもこんな感じでもっといろいろ鑑別診断があがってきて、「でも血沈あがってないからね」とかいう会話があったんじゃないですかね。
あとは、血管炎とか考えるべきでしょうか。

その2に続く

2015年8月1日

Physician-assisted dying

Unanimity on death with dignity--legalizing physician-assisted dying in Canada.
N Engl J Med. 2015 May 28;372(22):2080-2.
Attaran A.

2015年6月24日

かわうそ:実はこういう話題は興味あるところでして、今後も追っかけていくつもりです。現時点ではすぐに臨床に役立つような知識ではないんですが、たまにはこういうのもいいんではないかなということで、今回読ませていただきました。
NEJMにでてた、カナダでPhysician-Assisted Dying(PAD)が合法化されたことについての記事です。実は、年表の図にあるように、カナダ以外でもすでに合法化されている国や地域があって、PAD自体は目新しいものではないです。ただし、これが強調しているところは、裁判所で全員一致で合法とされたところと、国民の8割が賛成しているという、そのプレッシャー感ですね。
2016年には患者が医師の助けによる死を選べるらしいんですが、おそらくそういう安楽死的な処置に一番慣れていたり親和性のありそうなThe Canadian Society of Palliative Care Physiciansの会員があんまり乗り気でないようなので、いったいどうなることかと全く関係のない自分でもヒヤヒヤしています。

きりん:すでにPADが合法化されてるところでは、マニュアルとかガイドラインとかあるんでしょうか?何か悪用されそうですよね。

かわうそ:たしかに。「〇〇レジデントマニュアル」とか「熱病」みたいに、毎年改定されて市販とかされてる可能性だってありますね。

かば:ERっていうドラマで、安楽死が扱われてるの知ってます?中国系の、すごくできるけど野心家の医師が、父親が認知症になって困って、結局カリウムを静注して安楽死させるんです。同僚の医師と共謀して死亡診断してました。

かわうそ:ERで自分がおぼえているエピソードは、子どもの麻疹患者の話です。みんなが診断つかずに困っている時に、カーター先生がコプリク斑を見つけて一発で診断してました。「ハリソンに載ってただろ?」「全部読んだの?」「もちろん、当たり前でしょ!」、みたいな会話してたような記憶があります。たしか母親がワクチンの副作用がどうとか製薬会社の陰謀だとかギャーギャー言ってワクチン接種させてなくて、カーター先生に一喝されてました。病棟閉鎖とかすごく大事になってました。
この後の展開もけっこう好きで、まだまだ話したいんですが、このへんで話を戻します。
ここからの話の筋道がけっこう面白いんです。こういう終末期の話では、Autonomy、自律性が大切だとか言われるんですが、日本の場合はどうなんでしょうか?ちょっと実情にあわないとこがあるように思いますけど。

きりん:癌の告知だって、いまだに、ある程度の高齢者なら家族に先にしてるくらいですからね。本来はまず本人に話して、しかるのちに家族にも話すかどうかを本人と相談するのが正しいあり方のはずですけど。

かわうそ:ですね。あと、生命維持治療のさし控えと中止の違いについての倫理学的考察にも触れてます。僕らは、気管内挿管しないことと挿管チューブ抜去をものすごく大きな違いがあるように考えて区別してますけど、論理的に考えてみたらそこにはあんまり違いがないんだっていうことです。最終的に訪れる死という結果からすると大きな違いはない、という論理ですね。

きりん:知らないうちに空気に流されて、深く考えずにやっちゃってるってことですね。

かば:でも、やっぱり訴訟の問題とかはありそうですし、医療者側だけの問題ではないですよね。

かわうそ:まあでも、こういう論理はどこかで読んだことあるんですが、この先がまた、刺激的なメッセージで興味あります。私には初見でした。ここでは、セックスワーカーにコンドームを配るとかヤク中に注射器を配るとかと同じ論理で安楽死を論じてるんです。売春やヤク中をやめさせられないんでせめて感染症を予防しようという感じで、苦痛を伴う死よりもせめて管理された死をって話です。
こういう介入自体、日本ではあんまり受け入れられていないと思うんですけど。非常にドライというか、プラグマティックな考えというか。

かば:ブラックジャックのドクターキリコですね。あれだって、ものすごい誇りと技術をもってやってますよね。

かわうそ:手塚治虫の先見性ですね。
あとは精神疾患や認知症についてはどうするのか、元気な時の意思を尊重してよいのかとかにも言及されています。やっぱり難しい問題ですよね。姥捨山とか優性思想とかにつながりやすい危険な匂いがすることは否めません。
ちなみに、このPADに関しては、スイスのディグニタスが有名ですね。ネットの情報を語ってしまうのも抵抗ありますが、必要としている患者さんがいる一方で、黒い噂もあるみたいです。けっこう杜撰な面談で薬を処方してるとか、その患者の遺産で相当潤っているとか。遺体を違法に廃棄したとか。
そもそも、こういうことをPADと言ったり、PAS(Physician-assisted suicide)と言ったり、安楽死・尊厳死と書かれていたりして、まだまだ非常に混乱しているのも感じます。
最後になりましたが、東洋的仏教的な教養をバックボーンに持っている…

かば・きりん:…。(苦笑)

かわうそ:…。とにかくそういう私からすると、人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、相当おこがましいとは思いませんかね?

かば:それもブラックジャックですね。本間丈太郎先生のセリフ。