Case 3-2017. A 62-Year-Old Man with Cardiac Sarcoidosis and New Diplopia and Weakness.
N Engl J Med. 2017 Jan 26;376(4):368-379.
Samuels MA, Gonzalez RG, Makadzange AT, Hedley-Whyte ET.
2017年1月30日
その1
かわうそ:今回の症例は62歳の男性で、心サルコイドーシスで治療を受けていました。
最初は風邪と言われて処方されたようです。しかし、入院3日前、朝4時に目が冷めて、上半身がうまく動かないことに気が付きました。
メガネを取ろうとして手を伸ばしますが、すごく集中しないと取れなかったとのことです。エピソードが具体的で面白いですね。
かば:ここまで時間が特定できるって突然発症ですね。
かわうそ:さすがに病院に行きます。症状は客観的にも確かめられますが、血液検査では異常ありません。また、頭部CTでも異常なしです。脳血管造影も問題なし。
追加で何の検査結果がほしいですか?
かば:髄液検査はどうですか?
かわうそ:赤血球4個、白血球188個、大部分がリンパ球です。白血球は多いですね。
この段階では、入院して抗生剤とステロイドを処方されたとのことです。
それでも、複視が増悪していますし、熱が出てきたようです。手の振戦もひどいです。治療のかいなく改善しないとのことで、MGHに搬送されたようです。
身体所見をとりなおされていますが、頭痛や項部硬直、嘔気嘔吐など、髄膜炎を疑わせるような所見はありません。
病歴も詳細に聴取しています。既往としては、4年前、心不全が悪化したということをきっかけにして心サルコイドーシスと診断されました。
16ヶ月前から、ステロイド治療を4ヶ月しています。
かば:ってことは、3年くらいは診断がつかなかったってことですか?
かわうそ:このあたりの経緯は不明です。診断がついても、病状が安定していて治療を必要としなかったのかもしれません。でも、心不全が悪化しているわけですしね。
ただ、PET-CTと縦隔鏡で診断がついた、と書いてありますので、診断は確定的でしょう。
さらに、4ヶ月前からは、今度はステロイドとメトトレキサートを投与されています。で、今回のエピソードの直前に終了しています。
かば:免疫抑制状態と言っていいんですかね?
かわうそ:そう考えてもらって構いません。
その他にもいろいろ合併症を持っています。高血圧とか高脂血症とか。また虚血性心疾患でステントと埋込み型除細動器が入っています。喘息と鼻炎もあります。
さらに、最近歯の治療をしています。これはあとで重要になってきます。処置後は抗生剤を投与されています。
かば:なるほど。
かわうそ:これらの基礎疾患に合わせて多種類の薬を飲んでいます。そのほか、喫煙飲酒なし。違法な薬物の使用なし。家族歴も一応書いてありますが、たいしたものはなさそうです。
バイタルとしては、少し血圧が低くてSPO2も悪いんですが、熱はありません。
記憶の障害がありそう、と書いてあります。神経学的所見もいろいろ書いてありますけど、慣れてないのでわかりません。どうやら複視のほか、眼球突出とか、ほおを膨らませられないとか書いてありますが、これがあとでどう関わってくるのかよくわかりません。
四肢の動きとしては、上腕にミオクローヌスがあるようです。力は大丈夫みたいです。rigidityありません。触覚は問題なし。深部腱反射はやや亢進程度です。ただ、あんまり、この所見が診断に役立つことはなさそうなんです。
かば:なら、ラボデータはどうですか?突発性の神経障害で、どれくらい採血検査が役に立つのかはよくわかりませんが。
かわうそ:そうですね。あまり異常値は載っていません。
かば:そういえば、画像検査はどうなんでしょうか。MRIとか。
かわうそ:たぶん埋込み型除細動器があるのでとれなかったんだとおもいます。CTの画像はあとで出ています。
かば:髄液検査の他の項目はどうですか?初圧とか、糖とか蛋白とか。
かわうそ:初圧も蛋白も高いです。糖は少し下がっていますが、一般的な細菌感染や結核感染などは考えなくてもよいくらい、らしいです。
で、転院後どういう治療をしているのかは詳しく書いていませんが、表をみると数日の経過で検査結果がどんどん悪化しているのがわかります。
神経症状も全身状態も悪化しています。高熱が出て、傾眠傾向や見当識障害がでています。
かば:感染症っぽいですよね。
かわうそ:そうなんですけど、喀痰、尿、血液、髄液からは細菌培養はされていません。それに、広域抗生剤を投与されていますが効果ありません。
細菌でなければウイルスだろう、ということでアシクロビルを投与されています。
かば:でも、ヘルペスを疑うような皮疹はないんですよね。
かわうそ:そうみたいです。さて、ここでようやくCTの画像も出てきます。
かば:どんどん悪くなっていますね。脳溝が見えなくなっているということは、脳浮腫が進行しているんですよね。
かわうそ:これみると、よく髄液採取しているなって思いますね。怖くないんでしょうか。
あと、脳溝がちょっと造影されているようにも見えますので、髄膜炎になっているんじゃないでしょうか。
脳波をとっても異常があるらしいんですが、よく知りません。すいません。ロラゼパムとかをつかって、てんかん発作を抑えたいようですが、根本的な治療ではないですからね。
あと、何の病気を疑って、何の検査をするべきなんでしょうか?
かば:神経サルコイドーシスはどうなんでしょうか?あとは、免疫抑制状態なので、やっぱり日和見感染症なんでしょう。
真菌とか結核とか?
かわうそ:たしか、アムビゾームも投与されていました。でも、βDグルカンは陰性だったらしいです。
かば:意外にがん性髄膜炎とか?ちょっと前に出ていた抗NMDA受容体抗体脳炎とか?
かわうそ:たしか、あれは画像的にはあんまり所見がないのに、症状が激烈なのが特徴だったと思います。
かば:こんなに脳浮腫はでない、と。神経所見も合わないですね。
かわうそ:おそらく。ここには、膠原病関連の脳症を鑑別に挙げています。SLEとか。サルコイドーシスで、さらに免疫抑制状態のヒトにに合併するのかは知りませんが。
ただ、抗核抗体やANCAを測定していて、陰性だったと思います。
かば:このヒト喘息があったので、Churg-Straussは考えておくべきなんでしょう。
かわうそ:免疫グロブリンとかもつかったりしていますが、効果なく、最終的には剖検がされています。
それでは鑑別診断をあげていきましょう。
その2へつづく