2016年7月15日

アドエアとウルティブロ その3

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果後半と感想です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その3

その2からつづき


あと、1秒量の変化率についても書いてあります。1年後、ウルティブロとアドエアでは62mlもの有意な差がありました!
でも62mlって…。肺機能検査して、これくらいは誤差の範囲のはずですよ。

かば:COPDの人って、1年間で150mlくらい1秒量が減っていくはずなので、その中で60ml違うのは大きいかもしれません。

かわうそ:これもマスとして見た時には意味があっても、個人としては意味が無いということですね。
それよりは、デバイスとしての使い勝手とか安い方とかの方が選択の動機としては大きくなりませんか?

その他SGRQなども軒並みウルティブロの方がいいと出ていますし、サブグループ解析でも基本的にはウルティブロの方が優勢でした。
が、これが本当に処方の動機になるかどうか。まあ、みなさんの判断に任せますけど。

安全性のまとめを見てみると、やはりCOPDの研究で死亡をアウトカムにするのは難しいと思います。1年で1%くらいの死亡率です。
ただ、COPDの論文を読むと、いつもCOPDは死亡の原因の4番目、とか高々と掲げられていて、だから治療が大切、薬が大事、と言われているんですけどね。その割には実際論文読んだときに目にする死亡率がしょぼいんだよな、と思わざるをえません。

このまえの降圧剤・高脂血症治療薬の論文では5年間フォローしていましたので、それと比べると…。

あと、副作用は多いことになっています。8-9割で起きています。ただ、COPDの悪化というのが7割くらいあります。これって、本当に副作用なのかというのが疑問です。COPDは進行性の疾患ですし…。

他にもこの辺は謎が多いです。増悪とは別に、副作用として、ウイルス性や細菌性の上気道感染という項目があります。

かば:下気道感染と肺炎がそれぞれ別で計上されていますね。インフルエンザも別に項目作られてますね。

かわうそ:そうなんですよ。謎です。
肺炎については、ウルティブロが3.2%、アドエアが4.8%で、P=0.02ですが、これだけ数を集めたら、このレベルでは有意差がないようにも思いますが…。

かば:この論文みたいにアウトカムが何十個もあると、それだけでもP値の設定は厳しくなるはずですよね。

かわうそ:すいません。実は統計のあたりは、よっぽど気合入れて論文読まないかぎりはすっ飛ばしていまして。よくわかりません。場合によっては、そういう議論を全部すっ飛ばして、「P<0.05でした(だから有意差ありました)」とMRから宣伝されるかもしれませんね。医師がまじめに論文を読み込んでいるとは思われていませんからね。

という感じの論文ですが、先生はウルティブロだしてますか?

かば:けっこうだしてます。

かわうそ:そうですか…。純粋なCOPDと診断できていればいいんです。

まず最初に、咳・痰・息切れできた高齢者に喫煙歴があって、閉塞性燗器障害があって、何ならCTで気腫性病変がしっかりあったとしますよね。で、LABAなりLAMAで治療をしました。それでも症状が残存していたり、増悪を来したりして、追加の治療が必要になったわけですよね。
そこでLABA+LAMAを使えるかどうかですけど…。
普通に考えると、COPDと喘息ってすごく合併しやすいと言われているわけです。とすれば、ここで純粋なCOPDと言い切れるだけの自信が私にはありませんので。
喘息の存在を否定できます?アトピー体質や季節性など、典型的な所見のない喘息の存在ってのも、そんなに珍しいものではないと思いますけど。

かば:喘息があるんだとしたら、吸入ステロイドが入っていないのは最悪ですね。

かわうそ:なので、自分ならやっぱりアドエアなりシムビコートを使いがちです。

かば:でも、吸入ステロイドでCOPDの症状取れますかね?

かわうそ:たしかにそこは弱いんでしょうね。でも、なにせ喘息に気管支拡張剤のみってのは禁忌ですから。
COPDに吸入ステロイドは、肺炎のリスクを高めるんだか高めないんだか、そこはたしかに微妙なとこですが、禁忌ではありませんから。

かば:喀痰細胞診で好酸球を確認したりするのは参考になりますよ。

かわうそ:あんまりそのオーダー出したことないです…。さすがですね。今度やってみます。

あと、こういう合剤の論文読むといつもアドエアが出だした頃を思い出します。あの時代、1つのデバイスで済むので画期的で大流行しましたよね。

フルタイドとセレベントを合剤で吸入することによる相乗効果ってやつも、あの時代は大流行でしたね。

かば:今でも言ってません?
理屈は色々ありましたね。平滑筋がナンチャラで、ステロイドが吸収されやすいとか。

かわうそ:私は、そんなことほんとにあるのかなって思って眉唾と思っていましたけど。いや、まだ医師になりたてくらいで、純粋な気持ちできいていたかも…。

でも、その理論はあれ以降の合剤でお目にかからないように思います。普通に考えたら、服薬コンプライアンスよくなる以上の効果はないですよね。