今回は、アメリカとヨーロッパでの、エボラウイルス病の臨床的マネジメントです。まずはアブストラクトです。
Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.
2016年3月3日
その1
かわうそ:背景として、西アフリカ以外の地域におけるエボラウイルス病、以後EVDと略しますが、その患者の特性、臨床管理、観察されている合併症に関して入手可能なデータはほとんどないわけです。
というわけで、2014年8月から2015年12月までの間にアメリカとヨーロッパの病院で治療を受けたすべてのエボラウイルス感染確定例から入手しえた臨床データ、検査データ、ウイルス学的データを再検討してみました。
結果ですけど、治療を受けたEVD患者は全部で27例でした。年齢の中央値は36歳で、19例(70%)は男性で、26例中9例(35%)には併存疾患がありました。22例(81%)は医療従事者でした。27 例のうち24例(89%)は西アフリカから治療のために送還されたか、もしくは西アフリカでエボラウイルスに曝露・感染し、ヨーロッパまたはアメリカに戻ってきてから発症して検査で感染が確定していました。残りの3例(11%)はアメリカまたはヨーロッパで感染した人です。
発症時によくみられた徴候・症状は疲労(80%)と、発熱または体熱感(68%)です。臨床経過において主な所見は下痢、検査データの異常は、低アルブミン血症、電解質バランス異常でした。52%に低酸素血症があって、9例、33%に乏尿が認められ、うち5例は無尿になっています。肝機能障害は発症後中央値9日でピークに達しています。
治療としては、ほぼ全例で補液と電解質補給が行われていました。33%に非侵襲的または侵襲的人工換気、19%に持続的腎代替療法が行われていました。81%に経験的抗菌薬治療が行われていますし、けっこうな頻度ですが、85%に実験的治療が行われました。さらに70%で2種類以上の実験的介入が行われています。血中のエボラウイルスのRNA量は発症後中央値7日でピークに達して、ウイルス陰性化までの期間の中央値は17.5日でした。
死亡例は呼吸不全と腎不全をきたした3例を含む計5例で、死亡率は結局18.5%でした。
結論としては、アメリカまたはヨーロッパで治療を受けたEVD患者では,緊密なモニタリングと、補液・電解質異常の補正、栄養補給、呼吸不全・腎不全に対する救命救急治療などの集中的な対症療法を必要としました。このような治療を受けた患者のうち、81.5%が生存していて、これは西アフリカからの報告よりはだいぶよいようです。
その2へつづく