2016年4月7日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その6

ようやくラスト。Discussionにはいります。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その6

その5からつづき


かわうそ:まずはまとめですが、EVDのためヨーロッパまたはアメリカで治療を受けた患者の重症度は、軽症から重症・致死的まで幅がありました。ヨーロッパまたはアメリカでの死亡率は18.5%ということで、西アフリカの37-74%と比べてかなり低かったといえるのではないでしょうか。
死亡した5人は全員42歳以上でした。西アフリカでは、40歳以上または45歳以上というのが、EVDの死亡のリスクファクターとして同定されていまして、それと矛盾しないと言えます。

かば:西アフリカだと42歳で高齢なんでしょうね。

かわうそ:その基準を欧米で当てはめていいのかとは思います。
次に、アメリカとヨーロッパでは、十分に治療されたから、死亡率が低かったのか?ということについて考察されています。

筆者によると、もしかすると、死亡率は41%(27人中11人死亡)まで上がってもおかしくなかったと主張しています。つまり、NIV治療を受けた2人、MVをうけた2人、MVとCRRTを受けた2人、これ合わせて6人が、西アフリカでは行われない治療で救命しえたと言えますので。

ヨーロッパとアメリカで治療をうけたEVD患者の重要な特徴は、電解質と血球数について詳細にモニターできたということです。これらのデータをまとめると、はやく受診して、supportive care, intravenous fluid resuscitation, careful fluid management and electrolyte replacement to correct metabolic abnormalities, nutritional support, and critical care supportを受けられれば、死亡率を減らすことができるんじゃないか、ということが示唆されたというわけです。

全部で5人の患者が、無尿性の腎不全になり、CRRTを受けています。急性腎不全はおそらくhypovolemic shockと急性尿細管壊死のためと考えられました。CK上昇、肝逸脱酵素上昇なども影響している可能性があるかと思います。
EVDは、典型的には重症の呼吸器症状を呈さないと考えられていたのですが、実際は8人(30%)で入院時に咳嗽がみられています。これは既報と矛盾しません。ギニアからの報告では、入院時の呼吸困難は致死的な経過と関係があるとされているくらいです。今回は9人(33%)で呼吸不全のため人工呼吸管理されました。繰り返しになりますが、NIVで治療された2人は生存しましたが、MVを必要とした7人のうち、腎機能障害でCRRTを必要とした3人は死亡しています。EVDで呼吸器症状のでるメカニズムはいろいろ書いていますが、結局はよくわからないみたいです。ウイルス自体のため?治療のため?輸液が多すぎた?実験的治療の副作用?など考察されています。結局、症例が少ないので何もいえません。

実験的治療についてですが、ほとんどの患者で実験的治療が行われていました。8割以上です。有害事象もありましたが、有害事象も治療効果も評価できないし、支持療法によるものと区別できません。この辺りについては、今後の研究に期待、とのことです。

limitationについてですが、1.西アフリカと比べて数が少ない。2.成人、ほとんどが非アフリカ系。アフリカでのデータに乏しい。3.検査施設が異なる。RT-PCT。退院基準が決まっていないので入院日数の比較は?4.実験的治療をうけているが、その効果・副作用が不明確。5.レトロスペクティブなデータ収集。というわけで、この結果を一般化することはできない、となっています。

結論としては、EVDによる死亡率は依然として高いままなんですが、このように詳細にモニタリングして、経静脈的に補液を行って、電解質バランスの異常を補正して、栄養管理をして、呼吸不全・腎不全に対して侵襲的な治療を厭わないということで生存率を高めうることがわかりました。
また、そもそも、西アフリカという医療資源が制限された状況を改善するべきだということも示唆されました。

以前、NEJMのMGH case reportでエボラ疑いの人を読んだので、その関連で読んでみました。その人は結局マラリアだったというオチでしたが。

そういえば、やっぱり欧米はすごくて、こうやって欧米でもEVD患者をみるということが予想された時に、情報共有のネットワークを作ったそうです。その結果がこの論文というわけです。

かば:たしかにすごいですね。