2016年4月4日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その5


まだ結果が続きます。アウトカムについてです。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.


2016年3月3日

その5

その4からつづき

virologic and immunologic examinationについては、Table 4にまとめが載っています。
エボラウイルスのRNAを検出するための、平均のRT-PCRサイクルの閾値は発症5日目で24でした。エボラウイルスRNAの量は発症6.5日目で、2.7*10^7コピー/mlということです。
発症してから、血液検査で最初にRT-PCRが陰性になるまでの時間としては、17.5日が中央値です。

かば:帰国者の隔離ってされているんでしたっけ?

かわうそ:どうなんでしょう?たぶん無いんじゃなですか?でも、この結果からすると、2週間以上はウイルスが検出されるようなので、けっこう長く隔離されることになりますけど。

エボラウイルスRNAは、いろんなところから検出されるんですが、実際、唾液、汗、大便、精液、直腸/膣/皮膚のスワブ検体で検出されています。

かば:ほんとうに皮膚からも検出されているんですね。汗のせいなんでしょうけど。

かわうそ:エボラウイスルに対するIgM抗体は、発症10日目の時点で5人で検出されました。IgGは11日目で6人で検出されました。全員が抗体ができるわけではないんですかね。

かば:抗体のできる人が生存しやすいとか?

かわうそ:それっぽいですけど、どうなんでしょう?記載ありませんでした。
ただ、回復患者からの血液製剤は、EVD治療の特効薬というわけではないと報告されているようです。

ちなみに、ゴルゴ13がエボラウイルスに感染した時は、サルからつくった血清で、自分だけでなく乗り合わせた豪華客船の乗客の命も救っていましたけどね(「病原体レベル4」より)。

アウトカムですけど、5人が死亡しました。発症14日目で11.1%、28日で18.5%ということで、死亡例は4週間で全員亡くなっています。20人が自宅退院して、2人はリハビリ施設に退院しました。あと5人が死亡退院で、計27人ですね。
死亡群は生存群と比べて高齢であったということで、56歳対34.5歳、P=0.01で有意差がありました。
当然この5人は重症で、多臓器不全があり、MVとCRRTを受けていました。NIVを受けたうち2人は生存しています。8人(30%)で昇圧剤、循環作動薬が使用されています。心肺蘇生を施行された患者はいませんでした。EVDの致死的なケースが2例あったんですが、そのうち1例ではResuscitaion medicationが投与され、もう一例では経皮ペーシングが行われたということです。

他に生存群と死亡群を分ける要因としては、入院までの時間があがりました。生存群3.5日対死亡群5日ということで、P=0.03で有意差がありました。
特に、medically evacuated patientsでは、入院までの時間が、生存した16人では死亡した4人よりも短かったようです。4日と5日というわけでの違いなんですが…。P=0.02で有意差あります。

かば:つまり、死亡した5人のうち、4人は「medically evacuated patients」で、あとの1人が「imported case」か「locally acquired case」かわからないということですね。
この死亡した人が、医療従事者だったかどうかとか国籍とか気になりますよね。

かわうそ:そのあたりは興味あるところですが、記載されていないと思います。見逃しただけかもしれませんけど。
医療従事者の割合はたしかに高いはずですが、今回の報告には一般人なのか医療従事者なのかは入っていません。西アフリカにも旅行者や商用で滞在していた人がいるはずですし(渡航制限はあるかもしれませんが)、原理的には、欧米でも病院外で感染し得ます。また、西アフリカの上流階級の人が、より良い治療を求めて欧米に渡った、という可能性もあります。

まあでも、基本的にEVDは医療従事者の罹患率・死亡率の高い疾患ということは言えると思います。
そこをはっきりさせるとかなりセンセーショナルなので、ぼかして書いてあるような印象を受けました。

かば:どれくらいの人が、ボランティアなりNGOなりで西アフリカに支援に行っていたのか、その母数も欲しいところです。

かわうそ:たしかに。
本文に戻りますが、クレアチニン、ビリルビン、ウイルス量の上昇が死亡と関係があるのではないかと示唆されています。
まあでも、生存群22例と死亡群5例の比較ですからね…。数が少ないですね。

その6へつづく