2016年7月4日

アドエアとウルティブロ その1

薬の比較の論文は好みではないのですが、勉強会の題材としてはけっこういいかもしれません。突っ込みどころが多くて割りと盛り上がりました。
まずはMethodまでです。


Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.


2016年6月20日

その1

かわうそ:NEJMに載っていたインダカテロール+グリコピロリウムとサルメテロール+フルチカゾンの比較です。

かば:オンブレス+シーブリ=ウルティブロとセレベント+フルタイド=アドエアですね。

かわうそ:アドエアは1日2回、ウルティブロは1日1回投与なんですよね。それを比較するってどうなのかな、と正直思います。

かば:デバイスの形もけっこう違いますよね。

かわうそ:とにかく、LAMA/LABAとICS/LABAの比較です。
LABAまたはLAMAの単剤で治療を開始して効果不十分な患者さんに、次に何を使うのか、という疑問に対する研究という位置づけでよいのでしょうか。

かば:純粋なCOPDなら、ICSを使うのは最後の手段という感じですけど。自分ならLAMA/LABA使うことが多いと思います。

かわうそ:なるほど。
あと、これはCOPDの研究論文を読むとたいてい書いてあるのですが、急性増悪が非常に重大な意味を持つという…。
個人的には、本当に増悪を予防することがそんなに重要なのかな、という疑問が残るところなんですけど。いちおう、肺機能低下が進行するとか、QOLが下がるとか、入院が増えるとか、さらに死亡が増えるとか、まあ、お金がかかるし、健康の面でも問題なので、なんとかこれを食い止めることが大切だ、とか書いてあります。たいていこの手の論文にはこうやって書いてありますよね。こう書いときゃ間違いないみたいな。

というわけで、増悪を抑えるということをアウトカムに持ってきて解析していますけど、このあたりいつもひっかかります。
まあ、薬を投与するのは症状を軽減させたり、なんなら数値を改善させるということを目標にしてしまいがちですけど、本来はこういうふうな真のアウトカムを目標にするべきなんでしょうね。増悪が真のアウトカムかどうかはともかくとして。

かば:一番重要なのは予後とかなんでしょうけど、やっぱりCOPDは経過が長いので、死亡をアウトカムにしようとすると10年20年先になりますから、なかなか現実的ではないですよね。
で、これまでの論文で、増悪と肺機能とか、増悪と死亡率の関係についてははっきりしているので、増悪をサロゲートマーカーにしているということなんでしょう。観察期間も短くなりますし。

かわうそ:理屈はわかりますけど、ちょっと三段論法っぽさが残っていて、騙された気分になります。
それに、増悪ってなんなのかというところが、未だにはっきりしないんですよね。そもそも肺炎は増悪なのかどうなのか。

かば:そうそう。あと、アドエア500を使われているところもちょっとひっかかります。

かわうそ:そうか。日本で適応があるのは250でしたっけ。

メソッドに行きます。
1年間フォローした多施設共同研究です。43カ国356施設が参加しています。

かば:大規模ですね。ダブルブラインド、ダブルダミーですね。デバイスの形でどちらの薬かわかってしまうので、どちらの群も2種類処方されているようですね。一つは実薬、一つはプラセボ。

かわうそ:ちなみに、ウルティブロがノバルティスの製剤ですし、ノバルティスの資金で行われた研究です。ウルティブロよりなのはしょうがないと思いますけど、ICS/LABAは肺炎のリスクをあげるから望ましくないみたいなことがイントロにかかれています。
ノバルティスといえば、ディオバン事件ですよね。となると話半分で聞いておいたほうがよいのかも…。

かば:あれは日本だけの研究ですから。この論文の研究は世界中で行われているわけですし、そういう不正はないと信じて良いとおもいますけど。

かわうそ:なるほど。でも私、ディオバンはあれ以来ほとんど切り替えました。
そもそも、ディオバンは降圧作用に加えて、脳梗塞や狭心症など血管障害を予防する効果が他のARBと比べると強いとかいう触れ込みだったわけですよね。それが偽装だったとして、ディオバンをわざわざ出す気になります?他に山程似たような薬があるのに。実際、勝手に変えるわけではないですよ。患者さんに、「こういうケチのついた薬ですけどどうします?」って聞いたうえで変更していますが。ただ、基本的にARBの中ではもっとも安い部類の薬になりますので、変更しないでほしいと言われたことはありますけど。

ちなみに、同じ理由で三菱の車も東芝の家電も買わないようにしてます。
でも、自分が失敗した時には、一度の失敗で自分の評価を決めないで欲しい、挽回のチャンスがほしいと思ってしまいます。人って勝手なもんですよね。

さて、対象は40歳以上のCOPD患者で、MRCがgrade 2以上の呼吸困難がある人です。SABAを吸ったあとの肺機能検査でしっかりと診断しています。
あと、増悪が重要な指標になりますので、1年前までに記録された増悪があるかどうかを適格基準に入れています。増悪の既往があったほうが、増悪しやすいという既報を踏まえたものになっています。

アウトカムとしては、COPDの増悪が1年間に何回あったのか、その程度はどうだったのか、軽度だったのか中等度だったのか重度だったのか、あと、初回増悪までの期間ということになっています。

増悪の定義もここに書いてあります。全身ステロイド and/or 抗生剤投与ということになっています。
というわけで、この論文では、肺炎の有無は問わないということになると思います。

かば:もともとの増悪の定義は、レントゲンであきらかな浸潤影がある場合は除くことになっていますよね。

かわうそ:増悪と肺炎は別物ということですよね。でも、そもそも重症のCOPDだと、レントゲンで肺炎の有無がわからない、気腫性変化が強くて浸潤影がはっきりしない、というのも常識ですし。

かば:症状では区別できないですしね。

かわうそ:いつもこのあたりはモヤモヤします。CTをいつも撮ることができるわけではないので仕方ないといえば仕方ないのですが。
その他もろもろ合わせて27個のsecondary outcomeを設定したと書いてあります。

かば:多いですね。全部を載っけてなくてアウトカムがオンラインサプリメント参照ってのは結構珍しいです。

かわうそ:さすがにこれは擁護しきれません(呆)
まあ、ほとんどが増悪関連のアウトカムなんだと思いますけど。増悪回数とか、初回増悪までの期間、増悪の期間とか、あと、moderateとsevereを組み合わせだとどうか、とかいろいろやってみたんでしょうけど。あとはSGRQとか肺機能なんかも評価しています。
ただ、これだけのアウトカムを検定するのは、統計学的にはどうなのかと思いますけど。対象患者が多いからいいってもんでもないでしょうし。

最後に、mild、moderate、severeの定義もありました。mildなものは、2日以上の症状の増悪とされています。ただし、抗生剤・ステロイドの治療にはいたらないもの。severeは入院やER受診が必要なもの、という風に決められています。
mildをどうやってひっかけるかというと、「electronic diary」なるものを渡しており、毎日記録してもらっているみたいです。けっこうお金かかりそうですね。

かば:最近はスマホのアプリを駆使した研究流行りですからね。

かわうそ:でも、老人が対象なので、そういう人たちがアプリを使いこなせるのかどうか。もちろん中にはそういう人もいるんでしょうけど。
統計についても詳しく載っていますが、割愛です。ほんとは非劣性試験のつもりで初めていますが、優越性を証明するための計算方法なんかも書いてあります。

その2へつづく