2016年5月26日

話題のがん免疫治療についての文献を読んでみた その2

今回はペンブロリズマブについての論文がLancetに載っていたので読んでみました。
今話題のがん免疫療法です。後半は結果からです。

Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial.
Lancet. 2016 Apr 9;387(10027):1540-50.
Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Arvis CD, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB.

2016年5月13日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。
まずOSについてのカプランマイヤー曲線をみましょう。50%以上PD-L1が発現している群と、全患者でそれぞれ曲線が描かれています。
機序的にいっても、PD-L1がたくさん発現している群で効果が大きいはずですよね。PD-1経路を介して、免疫細胞からの攻撃を逃れていた癌細胞に対する免疫が回復するわけなので。

一応、有意差はしっかりとあります。でも、このグラフで見ると、数ヶ月くらいの全生存期間の延長ですよね。これをみると、残念ながら必ずしも喧伝されているほどの夢の薬でもないな、と感じてしまいます。

解析期間中、1000人中約500人の患者さんが亡くなっています。詳しく見てみると、ペンブロリズマブ2mg/kg群では50%、10mg/kg群で45%、ドセタキセル群で56%の方が亡くなっています。

かば:あんまり変わっていないですね。

かわうそ:50%以上PD-L1が発現している場合は、ちょっと変わってきます。ペンブロリズマブ2mg/kg群では42%、10mg/kg群で40%のところが、ドセタキセル群で57%になりますから。

生存のHRで見てみると、ペンブロリズマブ2mgとドセタキセルをくらべると0.54で、10mgとドセタキセルだと0.50でした。
これならそうとうペンブロリズマブのほうがドセタキセルよりいいということになりますね。

あとは、ペンブロリズマブの用量を2mg/kgで認可されるのか、10mg/kgになるのかという問題が残ります。

かば:これは2mg/kgにするべきでしょう、さすがに。

かわうそ:それほど効果は変わらないけど、5倍値段が違ってくるわけですからね。

50%以上PD-L1が発現している場合、全生存期間の中央値は、ペンブロリズマブ2mg/kgで14.9ヶ月、10mg/kgで17.3ヶ月のところ、ドセタキセルでは8.2ヶ月でした。
半年から10ヶ月くらいは生存期間を延長できるということです。これをどう考えるかですけど…。

全患者でも、似たような結果でした。ペンブロリズマブ2mg/kgで10.4ヶ月で、10mg/kgで12.7ヶ月で、ドセタキセルでは8.5ヶ月でした。2ヶ月から4ヶ月、生存期間の延長が期待できるといえます。

つぎに、どんな特徴を持っている患者さんでペンブロリズマブの効果がいいのか、みたいなサブグループ解析をやっています。ニボルマブは扁平上皮癌がよいとかいう話があったように思いますが、ペンブロリズマブは非扁平上皮癌の方がよいようです。

ちなみに、Progression Free Survivalでも同じような解析をやっていますが、これでは、それほどペンブロリズマブ群が優位だとは言えないですね。
PFSっていうのは、やっぱりあくまでもサテライトのアウトカムであって、あんまりあてにならないこともあるのかな、とか思います。

かば:追加の治療の問題でしょう。ペンブロリズマブという選択肢が一つ増えた分だけ生存期間が伸びたという説明できませんか?あと、ペンブロリズマブだと副作用が少ないから、弱ってしまわず次の治療に移りやすいとか。

かわうそ:一応、このあとの化学療法のサイクル数についても解析されているようで、差はなかったようでした。
こういうがん免疫療法って、いったんは大きくなるけどがんばって使い続けろ、とかいう話をニボルマブの勉強会で聞きませんでした?

かば:そこが胡散臭いと感じてました。

かわうそ:同感です。
ただ、このあたりがPFSがあてにならないところなのかな、みたいなことがdiscussionにかかれていました。

副作用についてもまとめられています。
ドセタキセルでは、実感通り、食思不振とか倦怠感がやっぱり多いです。一方、ペンブロリズマブだとこれらは少ないです。あと骨髄抑制もあんまり出なさそうです。

自己免疫疾患が発症しやすいということで、甲状腺機能障害が有名です。あとは間質性肺炎ですね。死亡された方もいます。あと、重症な皮膚症状でなくなっている方もいます。

かば:やっぱり間質性肺炎でるんですね。新しい薬でどれくらいの副作用が出るかわからないし、どんな人に使っていいのか悪いのかという症例の蓄積がないので怖いですね。
でも、夢の薬と宣伝されていますからね。イレッサみたいに使われまくったあげく、悲惨なことにならないといいんですけど。

かわうそ:夢の薬というわりには、っていう生存期間ですね。
ドセタキセルとの値段の差はものすごいものがありますからね。

かば:ちょっと前までは、がんの免疫療法ってすごくアレな印象でしたね。血液をとって、免疫細胞を増やして活性化して戻します、みたいな。
ものすごく高いし、保険適応外で自腹だからものすごく高いし。
ニボルマブとかを適応外で自腹で使わせたりもするみたいですよ。自由診療ですから、良心さえ傷まなければ、やりほうだいです。

かわうそ:搾取ですね。怖いですね、恐ろしいですね。