2016年3月29日

先進国でのエボラウイルス疾患治療について その2

本文に入ります。背景と方法です。

Clinical Management of Ebola Virus Disease in the United States and Europe.
N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):636-46.
Uyeki TM, Mehta AK, Davey RT Jr, Liddell AM, Wolf T, Vetter P, Schmiedel S, Grünewald T, Jacobs M, Arribas JR, Evans L, Hewlett AL, Brantsaeter AB, Ippolito G, Rapp C, Hoepelman AI, Gutman J; Working Group of the U.S.–European Clinical Network on Clinical Management of Ebola Virus Disease Patients in the U.S. and Europe.

2016年3月3日

その2

その1からつづき

かわうそ:西アフリカでのEVDの流行で、2015年12月までに28600人以上の感染と、11300人以上の死亡が報告されています。死亡率は37~74%とけっこう幅がありますが、とにかくそう報告されています。
重症患者が圧倒的に多いですし、さらに西アフリカという地域柄、医療・非医療にかぎらず物資の供給に制限があったりだとか、あと、高温多湿という熱帯気候のためPPE装備、あの宇宙服みたいなやつですが、あの装備が十分にできないなど、不利な条件が重なったので、これくらい死亡率が高くなってしまっているようです。
多くのEVD患者が、全く治療を受けていないわけではもちろんなく、経口補液、止痢薬、解熱鎮痛薬、抗生剤などの対症療法は一応うけていたとされていますが、すべてのエボラ治療ユニットでより有効と思われる補液などの治療ができたわけでは当然ないのです。
そういう状況なので、より積極的に、経静脈補液などによって電解質バランスを補正することができれば、EVD重症患者のアウトカムを改善できるのではないか、という説はこれまでもあったのです。

2014年8月以降、西アフリカでEVDと診断された患者のうち数人が、より高度の医療を求めてヨーロッパやアメリカに避難してきました。さらに、西アフリカで、またはヨーロッパ・アメリカでの(院内)感染によりエボラウイルスに感染したと診断された患者も発生しています。
ヨーロッパとアメリカでEVDの治療を受けた患者は、広範囲の検査と循環動態について詳細なモニタリングの記録があり、より侵襲的な治療だとか、何より実験的な治療を受ける機会もあったので、西アフリカでの経過と違うのではないかということが予想されます。
というわけで、このレポートで、アメリカとヨーロッパでのEVD治療を受けたすべての患者の臨床的特徴と治療についてまとめてみたということです。

方法です。
Study designとしては、2014年8月から2015年12月まで、アメリカとヨーロッパで治療をうけた、エボラウイルス感染が確定したすべての患者のデータ(demographic、clinical、laboratory、virologic)をレトロスペクティブに匿名化して収集しました。

Study populatonはRT-PCRで診断確定した患者さんです。いろいろ定義があります。
「medically evacuated patient with EVD」というのが、発症と診断が西アフリカでされて、ヨーロッパまたはアメリカに治療を求めて移動した患者と定義されています。
「A patient with an imported case of EVD」というのもあります。これは、エボラウイルスに西アフリカで暴露または感染し、発症と診断がヨーロッパまたはアメリカであった患者と定義されています。
最後は、「A locally acquired case」というのがあって、暴露、発症がヨーロッパまたはアメリカで、診断が当然ですが、ヨーロッパまたはアメリカでされた患者と定義されています。基本的には院内感染ということだと思います。
これらの患者群で違いがあるかどうかということが後で検討されています。

その3へつづく