2016年7月12日

アドエアとウルティブロ その2

ウルティブロとアドエアの直接比較の論文の続きです。
結果です。

Indacaterol-Glycopyrronium versus Salmeterol-Fluticasone for COPD.
N Engl J Med. 2016 Jun 9;374(23):2222-34.
Wedzicha JA, Banerji D, Chapman KR, Vestbo J, Roche N, Ayers RT, Thach C, Fogel R, Patalano F, Vogelmeier CF; FLAME Investigators.

2016年6月20日

その2

その1からつづき


かわうそ:3000人以上あつめて、1600人ずつに分けて試験しています。ITT解析だけでなく、per protocol解析もしているようです。途中でいなくなった人が多かったんでしょうか。まあ、どちらでもそれほど結果は変わりません。
吸入薬ってあんまり副作用でない印象ありますが、けっこう脱落者が多いんです。ウルティブロ群で17%、アドエア群では19%です。副作用でなのかどうかはわかりませんが、とにかくやめています。

Table 1が患者背景です。平均年齢は65歳、男性が75%でやや多く、最初の段階で半数以上で吸入ステロイド薬が使われていました。適格基準に呼吸困難の自覚症状があり、増悪の経験があるという条件がありますからこうなるんでしょう。ただ、喘息の除外という点では、どうなんでしょう?
あと、現喫煙者が40%というのは、いかにも多いと思います。

グループ分けについても書いてあります。ABCDと分けて、それぞれ何%くらいいるのかと。詳細は省きますが、定義上、A群の人はこの研究に含まれにくいので少ないです。また、C群は肺機能はいいはずなのに症状が重かったり増悪が多かったりと、あんまり想像しにくいグループなのでやっぱり少ないです。基本はD群が中心です。肺機能も悪くて増悪も多いという最重症です。

でも、実際このグループわけを日常診療で意識することってありますかね?自分では、研究の時にしか使わないような…。

かば:一応これに基づいて治療することにはなっていますよね。C群のような人たちでは、肺機能がよかったとしても、増悪すると予後が悪いので、2剤、3剤での治療が必要です。

かわうそ:1秒量なども群間差がないように分けられています。%FEV1も45%くらいですのでしっかりと悪いです。

アウトカムについてはFig 2を見てください。ウルティブロ群の方が増悪率が低くなっています。HRだかORだかが0.88ですので、薬の広告では、「増悪の発生率が1割下がりました」とか、大々的に宣伝されるんでしょうね。

かば:「非劣性を確認するつもりが優越性が証明されました!」とかも言われそうですよね。

かわうそ:うーん、って感じですね。

1年間でどれくらい増悪するか、というのがグラフになっています。とりあえず「any」のラインを見てみましょう。どんなレベルの増悪でもよいというくくりにすると、52週のところをみてみると、なんと8-9割の人が最終的には増悪しています。で、さすがにウルティブロ群の方が5ないし10%くらいは増悪した人が少ないように見えます。でも、健康な人でも1年に1回くらいは調子崩しますよね…。

もうちょい重症な群、「moderate + severe」を見てみます。つまり病院にいって抗生剤やらステロイドやらをもらうとか、入院を考える群ということになります。こういう人たちも1年間で50%くらいあって、ウルティブロ群の方が10%くらい低くなっているように思います。このレベルのイベントを10%抑えるというのは、けっこう大したものだとも思いますが…。

secondary outcomeに、最初の増悪までの日数の中央値が比較されています。ウルティブロで70日、アドエアで56日くらいで起きているようです。2ヶ月に1回くらいは起きているんでしょうか?

かば:日本の研究だと、年の増悪が1回以下、何なら0.5回以下だと思いますけど。多すぎじゃないですか。

かわうそ:まあ、けっこう重症群を集めてきたからでしょうか。
あ、moderate or severeな増悪の年間発生回数はここに載っていました。ウルティブロ群で0.98回なところが、アドエアでは1.19回となっています。…、これ、差ありますか?

そもそも、増悪時には主治医の判断で抗生剤なりステロイドを出すことになっていますけど、でも、ガイドライン上ではここのしきいはすごく低いはずですよね。
だいたい、これくらいの重症度の人が調子悪いと病院にきて、風邪薬とか鎮咳去痰薬とかだけで帰しますかね?レントゲン撮って、肺炎の所見があってもなくても、どっちにしても基本出しますよ?

やっぱりアウトカムの設定がゆるゆるなのでは?

前に降圧剤・高脂血症治療薬の論文を読みましたけど、あのときは複合エンドポイントだからどうこうといちゃもんを付けてしまいました。
でも、個々のエンドポイントは、死亡率とかカテで診断してたりとかしっかりとしています。あんまり判定が変わる要素がありません。

それと比べると、この論文の、というかCOPD系の論文って、病気以外の要素が影響される部分が大きすぎると思うんです。
たとえば、病院へのアクセスとかですよ。同じような症状だとしても、病院に行こうと思うかどうかでmildとmoderateが別れるというのは、どうなんでしょうか。自分としては納得いきません。

入院かどうか、というのも同じです。もともとのADLとか、独居か同居家族がいるか、とか、増悪の重症度と違うところで対応が別れ得ますよ。
想像してみてください。これはやばい、入院かもしれないな、と思ったとしても、同居家族がいてちょっと悪くなれば連れてこれる人と、独居で悪くなったら孤独死しそうな人では、同じレベルの症状・検査結果でも対応が変わってきますよ。
この辺が、1000人単位で人数を集めたんだから統計学的には意味があると言われても、感情としては納得できません。

というわけで、先生がさっき触れた日本のCOPDの増悪の影響を調べた論文だって、あの大学という異常にしきいの高い外来に増悪でわざわざ受診するストレスを考えると、そのまま受け取っていいのかどうか、非常に疑問です。日本人は、自分たちの管理が海外と比べて良いから増悪が少ない、と自賛しているのかもしれませんが。

あと、これは大規模な研究になるとどれでも言えることなんですが、1年間の増悪回数が0.98回と1.19回で、P値が0.001以下だから統計学的に有意差があると言われて、だからウルティブロを使いなさいと言われてもですよ…。数字の上では差があったとしても、実臨床で差があるのでしょうか?

かば:自分1人で考えるのではなく、日本全体とか大きな単位で考えてみんながみんなウルティブロを出せば、医療経済的に変わってくるという話をきいたことありますけど。

かわうそ:なるほどそうかもしれません。
まあとにかく、こういう風にいろいろ考えて読めば読むほど、どうしたらいいかわからなくなってきます。

その3へつづく