Br Med J. 1888 Apr 21;1(1425):841-2.
Booth JM.
かわうそ:完全に趣味の世界ですがお付き合いください。X-fileが好きなのもので。たしか、人体自然発火事件の回があって、そこでモルダー捜査官がスカリー捜査官に説明してるときに、医学雑誌にも載っている、とかいってたように思います。記憶が定かではありませんが。
で、pubmedで「Spontaneous Combustion(人体自然発火)」で検索したところフリーで入手できたものがこれです。100年以上前のBMJになります。
きりん:むー。今までにないジャンルですね。
かわうそ:さて、人体自然発火の定義的なものがまず書いてあります。被害者は全て死亡した状態で発見され、体、服、周囲のものは部分的にまたは全部が燃えて破壊されているようです。体は燃えて炭化しているが、これは衣服や周囲のものの燃焼では説明できないということです。
次いで著者の経験した症例の報告という形式になっています。
2月19日、日曜日の朝、納屋の屋根裏の干し草置き場で65歳の男性の検死を行いました。
かば:耳鼻科のドクターじゃないんですか?
かわうそ:たしかに、Lecturer on Diseases of Ear and Larynxとありますね。
まあとにかく、被害者(症例報告なら患者というのが正しいように思いますが、ここでふさわしいのはやはり被害者、もしくはガイシャですね。)は酒浸りの年金生活者で、前日の夜9時前に酩酊した状態で1階の馬小屋に入っていくところが確認されています。その目撃者にドアを閉めるよう言い、ドアが閉まった後、階段を登って行く音が聞こえたという証言があります。その日はそよ風もないくらい静かだったという証言もあり、争う物音などは気付かれなかったようです。
で、翌日の8-9時に、近所に住人が現場の屋根から煙が出ているのをたまたま窓から見つけ、現場に駆けつけたところ、屋根裏部屋の床の穴からこの年老いた兵士の遺体を目撃したということです。
消火作業については述べられていませんので、すでに鎮火していたのだと思います。
著者が到着した際の写真がありますので、これを見ながら続きを聞いてください。
きりん:ちょっとショッキングな写真ですね。
かわうそ:ですね。ただ、キャプションにあるように、近所の人が撮影したのをもらってるんですよね。この写真以外には、撮影できなかったっていってますし、なんだかなーって思います。
さて、写真を一目見て異様なのは、周囲には燃えやすいもの、例えば干し草や木材などが豊富にあるにも関わらず、発火が本人の周囲の床などにしか影響していないように見えることですね。これは他でも報告されている現象で、人体自然発火事件の特徴の一つといえそうです。
体はほとんど灰になっているんですが、顔などの形はまだ残っていて、髪の毛と頭皮は燃え尽きていたんですが、ヒゲは残っているくらいで、彼を知っている人はそうと認識できるほどだそうです。この写真ではややわかりにくいですが。四肢の末端は階下の床の灰の中に落ちていたようです。これも人体自然発火事件の特徴でしょう。人体の一部が焼け残っている写真がネットにあります。モルダー捜査官も出していたかもしれない。
軟部組織はほとんど燃焼の燃料として消費されていたということです。酒浸りで太っていてよく燃えたと言いたいんでしょうか。火災で屋根からの石の落下したため、遺体がいくらか損傷してるのもわかります。
争った形跡がないことにも触れておくべきでしょう。死に際して、苦しんだ形跡がない。どうやら、人体自然発火事件では、これも特徴といえるようです。目撃者がいて、証言している事例もネットにはけっこうありました。
ただし、真犯人がいて、密かに忍び込んで泥酔した被害者に火をつけたり、本人の火の不始末という線も可能性としては十分残っているのではないでしょうか。
さて、いよいよ解剖、組織学的検討、と行きたいところですが、ここで急展開です。運搬人によると、一体として運ぼうとしたところ、collapseしてしまってできなかったと言ってます。で、解剖はできなかったと。著者の嘆きが聞こえてくるようです。
最後に体裁を整えるためか、機序みたいなものを考察してますが…。
かば:なんか、症例報告っていうよりは、大衆雑誌の記事とか推理小説読んでるみたいですね。
BMJに載っているっていっても、鵜呑みにするんじゃなくて、どこまで信頼できるのか実際読んでみないとわからないってことですね。
かわうそ:そういっていただけると、読んだかいがあります。
きりん:あと、レイアウトとかフォントとか今のとかなり違いますね。今のはやっぱり読みやすいですね。
かわうそ:やっぱりそういう見やすさは大切ですよね。私はそういうのもあって、NEJMが一番読みやすいなって思っています。
今後も、フィクションで題材になる不思議な事件が、実際に医学雑誌で検討されてるのかとか、たまに調べたいと思います。全く役に立ちませんが。