NIV(非侵襲的換気)を始めた時に、呼吸と機械が同期しているかどうかを調べた論文です。
Parasternal electromyography to determine the relationship between patient-ventilator asynchrony and nocturnal gas exchange during home mechanical ventilation set-up.
Thorax. 2015 Oct;70(10):946-52.
Ramsay M, Mandal S, Suh ES, Steier J, Douiri A, Murphy PB, Polkey M, Simonds A, Hart N.
2015年12月9日
かば:患者と機械が同期していない呼吸がどれくらいあるのか、ということですね。
かわうそ:そうです。NIVをしている時に、PVAがどれくらいあるのかというものを見たい、ということと、PVAがガス交換に関係するかどうかを調べたいわけです。
PVAの検討はこれまでもされたことはあって、トリガーとサイクルについてそれぞれPVAがあるとされています。そしてPVAはガス交換や睡眠の質と関係するということが、これまでは報告されています。PVAが、呼吸の1割を超えたら、Adverse clinical impactがあったという報告があるようです。
しかし、こういう筋電図みたいなものを付けてまで評価したものはないというわけで、今回、sEMGparaという機械を使って研究されています。
2010年から2012年で人を集めていますが、28人ですね。
かば:意外に少ないですね。NIVまでする人はたしかに少ないですけど。
かわうそ:そうですね。PVAの定義としては、まずトリガーの非同期とサイクルの非同期に分けられます。吸気と呼気の同期にそれぞれ対応しているのだと思います。結局トリガーの非同期が主に検出されていますので、こちらについてだけ詳しくみていくと、ineffective effort、auto trigger、double trigger、multiple triggerが定義されています。PSGみたいな図が載っています。筋電図の波形で、double triggerなのかauto triggerなのかを鑑別しています。
かば:面白いですね。
かわうそ:supplementary appendixに詳しく乗っているようですが、手に入れていません。すいません。
人工呼吸器はSTモードで、バックアップの呼吸回数は安静呼気時-2回で設定しています。
結果ですが、28人の平均は61歳、BMIは35、FEV1が1.1Lです。いろいろ疾患によって分けて考察しています。10人がCOPD、6人が神経筋疾患、12人が肥満低換気です。患者背景は疾患によって当然差があります。
また、Table 2を見ると、COPDでは自発呼吸が多いのですが、その他ではPressure controlつまり機械主導の換気の方が多いということです。これは予期されたことですが、自発呼吸が多いほうがPVAが多いということがわかりました。
かば:なるほど。考えてみたら当たり前かもですね。
かわうそ:PVAがそもそも一体何%くらいあったかというと、3割位という結果でした。
前の報告では、1割のPVAがあれば有害事象が増えるため問題ということだったはずですので、大きな違いですね。また、8割の患者でPVAが1割以上という結果になりました。
かば:多いですよね。寝ている間にバッキングとまではいかないまでも、一瞬タイムラグがったりして、けっこう違和感が生じているってことですよね。
かわうそ:そうなりますね。
一番多いのは、ineffective effortということで、筋肉は動いたのに、トリガーとして機械に認識されなかったというものです。逆に、サイクルの非同期の方は数%しかないです。
一応、疾患別に見てみてますが、あまり特徴はなさそうです。有意差がないので。
かば:肥満低換気が一番少ないですかね。
かわうそ:次は、もう一つの目標であるところの、PVAとガス交換が関係あるかということについてです。SpO2モニターとかトスカ(経皮pCO2測定)を使って測定しているみたいですが、結局全く関係はなかった、ということのようです。
かば:すごく非同期呼吸が多いということはわかったけど、ガス交換には関係なくて、臨床的にはあまり意味がないということですね。睡眠の質とか検討の余地はありそうですけど。
かわうそ:あと、これは導入した日の記録なんですって。
かば:なるほど、となると慣れてくるとかわるのかもしれませんね。
かわうそ:本当はPSGをした方がいいんだろうけど、とかも書いてあります。でも、ヨーロッパのガイドラインでは、NIV導入時にPSG測定を義務付けていないので別にいいでしょ、ということみたいです。
かば:へー。なるほど。
かわうそ:呼吸器合う合わないではなく、もうちょっと別の所の設定をいじるべき、ということみたいなのですが、じゃあどこを設定し直すのか、やっぱり見えてきません。
またしても、もやもやの残る論文でした。
ただ、担当患者さんの人工呼吸器の設定でずっと悩んでいるんですよ。イマイチ、圧とかフローの波形が綺麗でなくて、きちんと患者さんの呼吸にあっているのか、と。そういう悩みに対して、あんまり考えすぎなくてもいい、という勇気をくれた論文と言えるのかもしれません。たしかに、患者さんに聞いてもあまり呼吸に違和感がないようですし、血ガスの数字もそれほど悪くありませんので。