感染と発癌について、ちょっと雑談しています。
Malignant Transformation of Hymenolepis nana in a Human Host.
Malignant Transformation of Hymenolepis nana in a Human Host.
N Engl J Med. 2015 Nov 5;373(19):1845-52.
Muehlenbachs A, Bhatnagar J, Agudelo CA, Hidron A, Eberhard ML, Mathison BA, Frace MA, Ito A, Metcalfe MG, Rollin DC, Visvesvara GS, Pham CD, Jones TL, Greer PW, Vélez Hoyos A, Olson PD, Diazgranados LR, Zaki SR.
2015年12月16日
その3
その2からつづき
かわうそ:Discussionでいろいろ考察されています。まず、こういう症例はほんとうにまれなのですが、免疫抑制の宿主で条虫が消化管内から逃れてcystを形成して長生きするということは報告されています。変わったところで長く暮らして排除されないようなH. nanaでは、その幹細胞に遺伝子変異が蓄積して、癌細胞化してしまったのではないか、というような仮説が立てられています。
というわけで、一風変わった症例報告でした。
かば:これは症例報告でもNEJMに載りますね。でも、これも治療は一応プラジカンテルとかアルベンダゾールが書いてありますね?
かわうそ:でも、こういう薬は腸管にいる寄生虫にしか効きにくいらしいんです。あと、こんな風にクローン性に増殖した細胞に効果があるかというと…。
かば:わからないですよね。
かわうそ:この方もそういう治療に関わらず亡くなっていますので。
最後に、感染をきっかけにして発症する悪性疾患との関連について触れられていて、ちょっとおもしろいと思いました。
肝炎ウイルスと肝細胞癌とか、ピロリ菌と胃癌とか、HPVと子宮頸癌とか、EBVとリンパ腫とかですね。ちょっと前にけっこう話題になってたと記憶しています。
変わったところでは、タスマニアデビルの絶滅危機の原因もそうですよね。
かば:恐ろしい。ウイルスとかは習いましたけど、条虫って…。
かわうそ:寄生虫では、住血吸虫と肝細胞癌とか膀胱癌とか関連がありませんでした?うろ覚えですが。
あと、この文献のどこかに書いてありましたが、基本的に癌細胞ができるのは脊椎動物に限られているようです。だから、条虫が癌になることは聞いたことがない、と。ただ、条虫の成長というか自然史には、ヒトからの免疫反応が必要らしいんです。特にH. nanaはヒト以外の宿主がないようなので。しかし、HIVでは正しい免疫応答がないので、こんなことになってしまったのかもしれません。
かば:しかも、most common tapewormで、7500万人も感染しているんですね。知りませんでした。
かわうそ:これは、「栃木県の総合内科医のブログ」で紹介されていて、面白そうだったので読んでみました。でもまあ、難しいですね。特にDNA解析の部分が。