2016年9月15日

33歳男性、肛門痛と出血 その1

ちょっと微妙な症例なんですけど。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その1

かわうそ:33歳の男性の直腸の痛みと出血です。排便時にお腹が痛い、拭いた時に血がつくとのことです。4ヶ月前からということで結構長く症状続いています。
便自体には血が付いていないようです。

かば:ふーん。普通に聞いたら、ちょっと経過は長いですけど、まずは痔と考えますね。

かわうそ:まず家庭医のところを受診しています。さすがに偉いな、と思うところは、この男性がMSM(Men who have Sex with Men)であることを聞いているということです。というわけで、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどを調べておきましょう。
また、直腸診もしており、外痔核を確認しています。

かば:結果としては、HBV抗体が陰性みたいなので、ここは介入の余地がありますね。

かわうそ:サイリウム(下剤)、NSAIDS、局所ステロイドを処方しています。
しかし、10週間後に再診しました。痛みが全然引かないようです。バイタルなどは初診時と変りなく、特に問題ありませんが、これでもう半年くらい悩んでいることになります。

さて、この時点でなにか考えることありますか?

かば:この分野には、あんまり経験ないので…。

かわうそ:そうですよね。専門科に任せますね。
病歴としては、あまり大したことありません。既往歴も家族歴も問題ありません。
さて、専門科ではさすがにしっかりと身体所見の評価がされています。視診上、前部と後部の二箇所に深い裂肛を認めました。sentinel skin tagなんかもできています。
普通、裂肛は9割後部にできて、残り1割が前部です。このように2箇所できたり、横に裂肛を認めたりすると、即、基礎疾患があると考えるべきとのことです。

というわけで、ここで直腸鏡を施行されています。すると、直腸にも粘膜の炎症が認められました。

ですので、ただの外痔核と思った病変が、ここで急に内科の領域になってきます。

かば:潰瘍性大腸炎なんかの、炎症性腸疾患とかですかね。

かわうそ:さすがですね。ただ、潰瘍性大腸炎は肛門の病変は有名ではないので、鑑別の上位にはこなさそうです。直腸から上行する潰瘍病変がキーワードでしたっけ?

あと、大腸炎ではなく直腸炎というところも鑑別疾患を挙げるのに役立ちます。そもそも、あんまりproctitisという英単語は目にしないですよね。

かば:そういえば。

かわうそ:直腸炎と大腸炎では症状も違います。直腸炎は、典型的には排便障害、切迫感、渋り腹、失便などが典型的です。一方、大腸炎では下痢、腹痛、腹部膨満、体重減少などの症状がでます。当然、大腸から直腸に炎症がまたがることもあるのですが、この症例ではほぼ直腸炎の症状だけと考えられますので、けっこう典型的な直腸炎となります。

あと、炎症性腸疾患だけでなく、この方がMSMであることを考えると、性感染症なども当然考えるべきですよね。あとは、外傷、虚血、アミロイドーシスなどが鑑別に上がってきます。表に一覧が載っています。
ただ、外傷は、ちょっと経過が長いので消えそうですね。
虚血も、このような若年でリスク要素のない人は、消えそうです。

というわけで、やっぱり感染症か自己免疫疾患が残ってきそうです。

その2へつづく