2016年9月20日

33歳男性、肛門痛と出血 その2

診断と治療経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 25-2016. A 33-Year-Old Man with Rectal Pain and Bleeding.
N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):676-82.
Zeidman JA, Shellito PC, Davis BT, Zukerberg LR.

2016年8月31日

その2

その1からつづき

かわうそ:炎症性腸疾患の中では、潰瘍性大腸炎やベーチェット病は少し印象が違います。クローン病が考えやすいとのことです。
感染症としたら、どれっぽいですか?

かば:結核はどうですか?

かわうそ:そうですね。経過が長いですからね。でも、結核性直腸炎というのは、どうなんでしょうか?AIDS発症していればありうるのかもしれませんが、この人はHIVネガティブですし。さらに、直腸だけでなく、肛門にも合併して病変をきたすような結核はさらにまれ、ということらしいので頻度的に除外できそうです。

クラミジアや淋病については、もう少し罹病期間が短いはずです。一応、最後のMSMから半年経っているはずですので。ただ、本当にそうか、という点はきちんと確認すべき、と書いてあります。

かば:じゃあ、ヘルペスは?

かわうそ:もうちょっと皮疹がメインと思いますし、あんまり消化器症状は聞かないですね。

かば:そうか、そうですね。

かわうそ:まあ結局、梅毒が鑑別として外せないところらしいです。会陰部に潰瘍だとか扁平コンジローマだとかの病変をきたしますし、経過も矛盾しないようです。
梅毒といえば、皮疹についてこれまで述べられていないじゃないか、と思うかもしれません。実際、9割の人に出現するはずです。ただ、非常に曖昧な症状なので、患者自身も医師も、きちんと認識するのは難しいようです。

ちなみに、感染症医がしっかりと診察したら、手のひらと足の裏に皮疹を発見しました。場所的になかなか難しいところですね。梅毒を疑わないと診ないかも。

ただ、この症例の場合は、肛門裂傷を診察した際に、直腸鏡をして直腸炎に気がついているわけですので、その標本を調べれば診断できそうです。あとは、血液検査で抗カルジオリピン抗体、抗Treponema 抗体を調べれば完璧でしょう。クローン病との鑑別も問題無くつきそうです。

で、Figure 1が病理所見ですが…。

かば:すごく粘膜にリンパ球が集まっていますね。

かわうそ:そうです。腺組織が減って、リンパ球を中心とした炎症細胞が集まっています。再生している像もあります。このへんは全然知りませんが、キャプチャーをみるとクローン病とは全く違う所見とのことです。免疫染色でスピロヘータの存在も証明できました。

かば:こんなにいるんですか!

かわうそ:怖いですよね。
ただ、一般的な梅毒の染色では全然見つけられず、特殊な免疫染色を用いた、と書いてありましたので、やっぱり臨床所見から梅毒を疑わないと、診断が困難な症例なのかもしれません。

治療は何か知ってます?

かば:ペニシリンです。

かわうそ:ペニシリンGの筋注ですよね。この人もその治療をしていますが、日本には注射剤がなくて延々と内服しないといけないというのもまた有名な話です。
で、抗体価も治療によってきちんと下がっています。

あと、MSMの場合、性感染症に罹患していないか、定期的にフォローが必要です。また、HIVに対して暴露前予防のため、テノホビル・エムトリシタビン(ツルバダ配合錠)の内服をしています。
このあたりはもはや常識なんでしょうか?この記述読んだ時はけっこうビックリしましたけど。

かば:そうですね。国試にもでていると思います。

かわうそ:リンパ球数が減って初めて内服開始と言われていた時代からすると、隔世の感がありますね。まだ数年しか経っていないはずですけど。
こうやって知識をアップデート出来て良かったです。

ただの痔でしょ、と思ったら、クローン病なども鑑別に上がってきて、やっぱり性感染症だったという流れで、けっこう二転三転して面白かったですね。