2016年10月31日

鏡は横にひび割れて

NEJMのImages in clinical medicineからです。
写真をそのまま載せると問題ありそうですので、リンクしておきます。
ぜひ見て下さい。


2016年10月28日


かわうそ:8ヶ月の子どもの眼の写真です。黒目の真ん中に白いモヤッとしたものが写っています。
親御さんによると、4ヶ月前から両方の眼に白い不透明な物質ができて、眼振も目立ってきたとのことです。

かば:写真見ると白内障ですね。ていうか、題名にデカデカとCongenital Rubellaって出てますからね。

かわうそ:もうちょっと隠して、クイズ形式でもいいかなって思うときがあります。

さらに両側の白内障だけでなく、小角膜・小眼球症が認められました。
眼底所見は正直よくわかりませんが、風疹の網膜症の所見があるとのことです。salt-and-pepper appearanceというらしいです。そういわれるとそうかもしれません。

血液検査でIgMとIgG抗体が陽性でした。というわけでやっぱり先天性風疹症候群でした。母親が妊娠時に風疹に罹患したかは不明なのが怖いところです。少なくともワクチン接種歴はないとのことです。

かば:かわいそうですね。われわれはポリクリとか、小児科研修の前に抗体の有無を確認されますけど、一般的には自分の抗体の有無とか知らないでしょうからね…。

かわうそ:で、白内障の手術をして、リハビリをしています。さらに精査をしたところ、動脈管開存症があって結紮術を必要としました。
発達の程度が気になるところでして、その後もフォローされています。5歳4ヶ月の時点では、眼振が減少しており、視力もまあまあ回復していて、普通に学校生活を送っているようです。

かば:よかったですね。

かわうそ:私は先天性風疹症候群の話を聞くといつも、アガサ・クリスティーの「鏡は横にひび割れて」を思い出すんですよね。映画になるとなぜか「クリスタル殺人事件」なんですけど。
ご存知ですか?

かば:たしか、往年の大女優が毒殺されかかって、代わりにファンの女性が死んでしまう話ですよね。
先天性風疹症候群が動機になってましたね。

かわうそ:アガサ・クリスティーは、薬剤師の経歴がありますから、こういう背景の話があってもいいと思いますけど、少なくても当時の読者も、先天性風疹症候群がどういうもので、殺人事件の動機になりうるということを理解していたということになりますよね。

かば:今の日本ではちょっと通じないかもしれません。

かわうそ:だからこの映画を啓蒙活動として勧めるといいと思ってるんです。

…。ちょっと話変わりますけど、アガサ・クリスティーの話って、けっこう医師が犯人とか嫌な役が多いような気がしているんですけど。やはりアガサ・クリスティーの職歴が関係してるのでしょうね。

かば:考えすぎじゃないですか?


2016年10月20日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その3

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その3

その2からつづき

かわうそ:Discussionに入ります。
もう一度結果をまとめます。心血管疾患のある閉塞性睡眠時無呼吸患者における二次予防についての本研究では、通常の治療にCPAP治療を加えたことで、重症心疾患系イベントのリスクは減らせませんでした。ただし、CPAP治療は日中の眠気を減らし、HR-QOLやmoodを改善させるなど、自覚症状については良好な効果が期待できます。

私は知りませんでしたが、実はこの結果はそれほど目新しいものではないようです。
既報について述べられています。これまでに3つ、似たような目的でランダム化比較試験が行われています。
一つ目はスペインで行われた他施設試験で、心血管疾患のない閉塞性睡眠時無呼吸患者725人が対象でした。もう一つは、単施設で冠動脈疾患でカテーテル治療を受けたばかりの閉塞性睡眠時無呼吸患者224人を対象にしています。いずれも数年間のフォローアップで、心血管系の複合エンドポイントで有意差を示せませんでした。しかし、アドヒアランス良好な患者では良好なアウトカムが得られたというサブ解析がなされています。3つ目は最近の虚血性脳卒中140人で行われたもので、CPAP治療は、2年のフォローアップでevent free survialに影響しなかったというものです。

かば:ということは、CPAP治療で心血管系、脳血管系疾患には予防効果がないということは、専門家の間ではあたりまえだったということですか?私も知らなかったんですけど。

かわうそ:みたいです。これはちゃんと言ってほしかったですけどね…。
limitationとしては、この研究を始めた時期には参加した幾つかの地域では、睡眠時無呼吸の診断や治療が一般的ではなかったということがあります。ただし、研究施設に対して説明やモニターを十分にして、質の良い研究になるよう配慮したとのことで、試験の結果に影響するようには思えません。

また、今研究でのCPAPのアドヒアランスは平均で3.3時間/日であり、これが問題なのかもしれないといっています。
これくらいのアドヒアランスのレベルは、既報と同程度なんですが、心疾患系のアウトカムに影響するほど十分ではなかったのかもしれません。

かば:もっとアドヒアランス良好な場合に、はっきりとした治療効果があるかもしれないってことですか?

かわうそ:と、言いたいのだと思います。でも、サブグループ解析の結果を見ると、それもどうなんでしょうかね…。

また、効率的にリクルートして、他施設でのデータに矛盾がないようにするため、conventionalでstandardなPSG検査ではなく、単純なスクリーニングデバイスを用いて被験者を集めています。ここが問題なのかもしれません。
ただし、AppneaLinkは既報によると、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸を診断するのに信頼できるデバイスということですので、やはり結果にそれほど影響するとは思えませんね。

かば:中等症の閉塞性睡眠時無呼吸を含めたからでないですか?重症の人なら違うかも。

かわうそ:それも、いちおうサブグループ解析でやってます。

かば:重症だと人数が少なくなるので有意差が出にくいとか。だから、重症の人だけを2000人集めたら有意差がでるかも。 実臨床でも、中等症の人だとコンプライアンスが悪い印象ありますから。

かわうそ:かもしれませんが、それだけの規模で研究してようやく有意差がでるくらいの結果だとしたら、そんなに熱心に治療しないといけないのかって思いますけど。

かば:自覚症状が非常に改善した人を集めたらどうなんでしょうか?

かわうそ:なるほど。たしかに、そういうサブグループ解析はなかったように思いますが、経験上、睡眠が改善してばっちり眠気がとれたといって満足している人は、やっぱりアドヒアランスが良好な気がします。
だから、アドヒアランス良好群とそれほど異なるグループにはならないのではないでしょうか。

睡眠時無呼吸の人っていろいろいますからね。日中の眠気などの自覚症状がひどい人から、家族からいびきがひどいと言われるくらいで、自覚症状が全くない人とか。
自覚症状の強い人が、CPAPをつけて眠気が改善されたりすれば、モチベーションが上がってつけ続けてもらえることが多いですが、自覚症状のもともとない人は、マスクの不快感が強くて、続けられない人がいますよね。
そういう人につけ続けてもらうために、AHI低下の他に、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防する目的でつけ続けてください、と言っていたんですけどね。こういう事実を知ってしまうと、これから情熱を持って診療続けられないですよ!

かば:そんなにCPAP治療に情熱もってやってたんですか?(;一_一)

2016年10月14日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その2

結果です。なかなかおもしろい結果ですよね。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その2

その1からつづき

かわうそ:結果です。15325人あつめて、そのうち5844人が適格基準に当てはまりましたので、アプニアリンクによる検査をしています。3246人が中等症以上になりましたので、run-in periodの1週間、シャムCPAPをしています。2717人が忍容性があり研究に参加しました。これをCPAP+usual care群とusual care alone群に半分ずつにわけていますが、なんやかんやで減って、結局2687人が解析されました。
平均年齢は61歳、81%が男性、BMIが29、ODIは28でした。ESSは7.4でそれほど高くありません。途中で脱落したのは147人でした。フォローアップの中央機関は3.7年です。
Table 1が患者背景になります。

かば:フォローのレベルがハンパないですね。

かわうそ:お金かかってますよね。
アドヒアランスを見てみると、シャムCPAPの段階では5.2時間着用していましたが、1ヶ月後には4.4±2.2時間に減っています。12ヶ月後では3.5±2.4時間で、それ以降は安定していました。AHIは3.7まで減少しており、OSAがCPAPで良好にコントロールされていることを示唆していました。CPAP群1346人中566人、42%は1日あたり4時間以上着用しておりアドヒアランス良好でした。いろいろ批判もあるでしょうけど、実臨床の感覚からするとこれくらいなんじゃないでしょうか?usual care alone群の中でも、90人、6.7%がCPAPを試みられたようです。うち57人のみが治療を継続しているとのことでした。よいのでしょうか?
薬物治療、食事・喫煙などの生活習慣、BMIの推移などには両群間で差がありませんでした。

さて、プライマリーエンドポイントについてですが、全部で436人で心血管系のイベントが記録されています。うちわけをみると、CPAP群で229人、17.0%に対し、usual care alone群では207人、15.4%でした。HRは1.10で、むしろCPAPで治療したほうが、心血管イベントを起こしやすいという結果でした。もちろん、95%信頼区間が0.91-1.32、p値0.34ですので有意差はありませんでしたが。Table 2、Figure 2に書いてあります。

かわうそ:さすがにこれでは困りますので、サブグループ解析を追加していろいろ解析していますが、それでもCPAP群がよかったという結果はでませんでした。
参加者が多様ですので、中国とそれ以外、年齢、性別、OSAの重症度、BMI、日中の眠気の有無、心血管系疾患の既往、耐糖能障害など、いろいろやっています。

かば:涙ぐましい努力ですね。

かわうそ:ただ、CPAP治療のアドヒアランス良好群では、アドヒアランス不良群やusual care群とは異なっていました。

名前だけはおなじみ、で有名なプロペンシティースコアマッチングの結果を、アドヒアランス良好群で見てみましょう。CPAP群でアドヒアランス良好だった561人と、それとマッチするようなusual care alone群を集めてきて比較しました。この集団だと、CPAP群では86人(15.3%)でイベント発生に対してusual care alone群では98人(17.5%)でした。HRが0.80で95%CIが0.60-1.07、p=0.13でしたので、有意差はないもののCPAP治療が良好な結果につながりました。
カプランマイヤー曲線でもこの結果を確かめたとのことです。図はsupplementary appendixです。

かば:想定したよりアドヒアランスがよくなかったんですかね。アドヒアランス良好群がもっといたら、ちゃんと有意差がでたのかもしれませんね。

かわうそ:でも、これくらいギリギリの差しかないなら、苦しくめんどくさいCPAP治療をしたくないと患者さんが考えても、止められないですよ。

セカンダリーエンドポイントでも、ほとんど有意差がついていませんが、唯一、CPAP群で一過性脳虚血発作による入院が増えたという結果がでました。RR=2.09、95%CI=1.05-4.99、P=0.04です。また、アドヒアランス良好群とusual care郡のプロペンシティースコアマッチングの解析結果では、卒中や脳血管イベントの複合アウトカムでCPAP群がよいという結果がでていますが、これも多変量解析では消えてしまいました。

かば:なんならCPAP群の方が悪いですね。この結果って、あんまり話題になっていないように思いますけど。黙殺されてません?

かわうそ:そんな気がしています。
ただ、自覚症状だけはCPAP群で良好でした。Table 3に載っています。
ESSがCPAP群でベースラインとくらべて3減っています。HADSも良くなったと言っていますが、これが臨床的に意味のある違いなのかどうかは知りません。統計的に有意差があっても、臨床的には意味のない違いっていうのは、けっこうこっそりと論文に紛れ込んでいたりしますから、ちゃんと元論文にあたってみる必要があるんでしょう。やっていませんが。SF36もCPAPでよかったと書いてありますし、健康状態が悪くて仕事を休んだ日も少なくなっています。

でも、ESSで3の差って、CPAP治療の劇的な効果からすると、ちょっとしょぼくないですか?

かば:あまり自覚症状のない人を集めたらしいんで、しょうがないのでは?

かわうそ:なるほど。
まあ、ちょっとせつない結果の論文ですので、ここくらいは著者の主張を信じてあげたいと思います。

そういえば、血圧は経過中下がっていませんでした。これは既報と違うところです。

さて、睡眠時無呼吸で気になるのは交通事故との関係ですよね。これは、Table 4に書いてあります。
交通事故だとか、事故による外傷とか、ニアミスとか書いてあります。データのある人数が少ないからなのかもしれませんが、これも有意差ありませんでした。

タクシーとかトラックの運転手が、睡眠時無呼吸で受診したばあい、今後どうなるんでしょうね。何をやっても事故が減らないんですけど。

その3へつづく。


2016年10月11日

CPAPは睡眠時無呼吸患者の心血管系イベントを抑制するか? その1

これまでの診療を一変させうる、けっこう衝撃的な結果と思いますけど、あんまり話題になっていないように思うんですけど?
イントロから方法までです。

CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea.
N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, Luo Y, Ou Q, Zhang X, Mediano O, Chen R, Drager LF, Liu Z, Chen G, Du B, McArdle N,Mukherjee S, Tripathi M, Billot L, Li Q, Lorenzi-Filho G, Barbe F, Redline S, Wang J, Arima H, Neal B, White DP, Grunstein RR,Zhong N, Anderson CS; SAVE Investigators and Coordinators.

2016年9月27日

その1

かわうそ:睡眠時無呼吸は、いびきとか日中の眠気が問題なだけではないんですよね。
夜間に一時的な低酸素血症になって、交感神経が活性化され、高血圧になったり、酸化ストレスや炎症反応が亢進、血液過凝固傾向になるとされています。また、胸腔内の陰圧が上がることで、心臓、大血管に強い力学的ストレスがかかるそうです。
これまで報告されているコホート研究では、睡眠時無呼吸と心血管系疾患、特に脳卒中などのイベントには強い相関があるとされてきました。

かば:われわれには特になじみのある分野ですね。

かわうそ:直接的に関与したことはないですが、噂はよく聞いてました。
さて、過去のRCTでは、CPAP治療によって、血圧が低下するとか、血管内皮細胞の機能、インスリン抵抗性の改善などの効果も報告されています。
これまでの観察研究の報告では、CPAP治療により心血管系の合併症や死亡を、特にアドヒアランスの良い人で減らすと言われていました。

心血管系疾患の既往のある人の4-6割で、OSAが合併していると言われています。こういう患者さんでは、十分な薬物治療をしているにも関わらず心血管系のイベント再発のリスクが高いので、CPAP治療を追加することでリスクを予防できるかもしれないと言われていました。

かば:これまで証明はされていなかったんでしょうか?意外ですね。

かわうそ:この確認のため、今回のSAVE study(Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints study)というものをやってみた、ということです。「OSA患者の心血管系イベント発生率の減少の点でCPAPが効果があるかどうかを評価するためにデザインされた二次予防研究」らしいです。

かば:ちょっとEが強引ですね。

かわうそ:方法です。研究デザインとしては、国際的、多施設共同、ランダム化、パラレル、オープンラベルの研究デザインです。シャムCPAPではないので、どちらのグループに入ったかは、医師も患者もわかっているんですが、エンドポイントとなるイベントの評価については、ブラインドされているということです。
Philips Respironics社とResMed社が研究資金と機械を提供しました。

かば:けっこうプレッシャーかかりますね。結果を出さないといけない。

かわうそ:参加者は7カ国、89の施設で集められました。適格基準は、45-75歳で、心血管系または脳血管系疾患があり、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断されていること、です。閉塞性睡眠時無呼吸の診断はPSGではなく、ApneaLinkというResMedの機械をつかって、ODI4>12で診断しています。あと、あんまりにも自覚症状が強い人は除外されています。ESSが15以上、または重症の低酸素血症、チェーンストークス呼吸で居眠り運転事故のリスクが高いと診断された場合は除外されています。

かば:なんで自覚症状が強い人は除外なんでしょうか?

かわうそ:書いてなかったので私の推測なんですけど、自覚症状が強い人に対して、CPAP治療をしないのが、倫理的に問題があると判断されたのかもしれません。

参加者はCPAP治療に対して最低限のアドヒアランスが必要ですので、1週間のrun-in periodを設けてシャムCPAPを着けて寝てもらい、平均3時間以上着用できた人を選んでいます。

CPAP治療は、Philips Respironics社のREMstar AutoのMかPRが使われています。はじめの一週間はオートマチックモードにセットされ、それからは記録されたデータに基づいて計算された90th percentileの圧に固定されます。心血管系リスクを下げるための投薬治療などはガイドラインに従って行われました。また、すべての参加者は睡眠習慣改善のためのアドバイスをうけています。診察は、1、3,6,12ヶ月とそれ以降1年毎に設定されました。年一回の診察以外に半年ごとに電話での調査も行われました。

測定項目は、血圧、脈拍、投薬内容、health behaviorが記録されています。CPAP群では、CPAPのアドヒアランスのデータもです。ランダム化のとき、6ヶ月、2年、4年目に身体測定と、質問票としてESS、SF36、HADS、EQ5Dを取っています。

どちらの群に割り当てられたかを知らないcommittee memberが、心血管系のアウトカムを判定しました。
プライマリーエンドポイントは、心血管疾患の複合アウトカムです。ここには、心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、心不全、急性冠症状、一過性脳虚血発作による入院です。
前もって指定したセカンダリーエンドポイントとしては、カテーテル治療、心房細動、糖尿病発症、全死亡などを追加しています。あとは自覚症状、QOL、気分などを見ています。
安全性についてのエンドポイントには、運転中や仕事中に怪我に繋がったような事故など、参加者の居眠りに関係した項目があり、これも興味あるところです。

統計は省略します。

かば:かまわんよ。

かわうそ:しのびねえな。

その2へつづく。


2016年10月3日

ジャディアンスって何? その2

エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34. 
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.

2016年9月5日

その2

その1からつづき


かば:患者背景とかはどうなんです?

かわうそ:65歳前後でBMIが30くらい、A1cが8くらいです。血圧や脂質異常症はコントロールされているようですね。
ACEやARB、メトホルミン、SU剤などの服用率は高いです。

かば:BMIが30って聞くと、これをそのまま日本で当てはめて使っていいのかわからないですね。

Figure 2をみると、もともと腎機能の良くって蛋白尿がない人には、あんまり効果がないんでしょうね。腎機能の悪い人には意味のある薬なのかもしれません。

かわうそ:そうかもしれません。ただ、どういう人に使うべき、ということについては、考察でも触れられていませんでした。なにせ腎機能悪化進行抑制効果が初めて証明されたわけですので、eGFRが低くて禁忌になっていなければ、全員につかうべき、くらいのテンションなんでしょうか。

腎機能について言えば、そもそも尿糖が出ているというのは、けっこうどきっとする検査異常ですよね。薬でそういう状態を作ってしまうというのが、腎機能の予後的にどうなのか、という懸念があります。
で、それについての検討がされています。Figure 3です。
プラセボ群だと、経時的にeGFRが低下しています。それと比較してエンパグリフロジン群では、飲み始めにややeGFRが低下するものの、そのあとは安定して変化ありません。
さらに、内服終了後、エンパグリフロジン群ではもとのレベルまで回復するという結果まで出てしまっています。

まあ、プラセボ群で悪くなったと言っても、3年間でeGFRで4くらいなので、それがどれくらい意味があるのかというのも…。

長期フォローの研究ですので、尿蛋白やeGFRなどの検査結果で差がでたと大騒ぎするのも、ちょっと。あくまでサロゲートマーカーにすぎないんですから。

とはいうものの、こういう結果がでた糖尿病の薬が初めてということなので、期待が大きいんでしょうね。低血糖発作もあまりないようですし。

ちなみに、adverse event、有害事象についても一言いいですか。

かば:どうぞ。

かわうそ:最近の傾向なんでしょうけど、内服中におきたあらゆるイベントをここに入れてしまっているんですけど、なにせやたら多いんです。どちらの群でも9割くらいが副作用を報告されています。severeだとかseriousな副作用ですら、3-5割で報告されたことになっています。ここまで来ると、かえって本当の薬の副作用がわからなくなっちゃうように思いますけど。

かば:ネットで調べると、「エンパグリフロジンは、プラセボと比較すると、心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中のリスクを14%有意に低下させた」だとか「3人に1人の割合で心血管死を抑制した」、らしいんですけど。
ネットでは、素晴らしい結果だ、という好意的な評価が多いみたいです。

かわうそ:ほんとですか?なんか、ここに書いてある数字からは想像できない数字ですけど。有害事象の表に、any deathっていうのがありますけど、5-6%くらいしかないです。腎不全死が少ないんですから、ほとんどが心血管死ってことですよね。なら、そんな華々しい結果になりますかね?
まあ、もとの論文に当たってみないとなんともいえませんけど。

かば:そういえば、エンパグリフロジンの投与量が2種類あって、それを一緒の群として解析するのもどうなんでしょうか?

かわうそ:添付文書を見ると、体格や腎機能で用量を調整するわけではなく、効果不十分な場合は増量らしいですし、たしかにおかしいですね。

とにかく、いろいろツッコミ所のあるよい論文だったと思います。