エンパグリフロジンという新しい種類の糖尿病薬についての論文です。
Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34.
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators.
2016年9月5日
その2
その1からつづき
かば:患者背景とかはどうなんです?
かわうそ:65歳前後でBMIが30くらい、A1cが8くらいです。血圧や脂質異常症はコントロールされているようですね。
ACEやARB、メトホルミン、SU剤などの服用率は高いです。
かば:BMIが30って聞くと、これをそのまま日本で当てはめて使っていいのかわからないですね。
Figure 2をみると、もともと腎機能の良くって蛋白尿がない人には、あんまり効果がないんでしょうね。腎機能の悪い人には意味のある薬なのかもしれません。
かわうそ:そうかもしれません。ただ、どういう人に使うべき、ということについては、考察でも触れられていませんでした。なにせ腎機能悪化進行抑制効果が初めて証明されたわけですので、eGFRが低くて禁忌になっていなければ、全員につかうべき、くらいのテンションなんでしょうか。
腎機能について言えば、そもそも尿糖が出ているというのは、けっこうどきっとする検査異常ですよね。薬でそういう状態を作ってしまうというのが、腎機能の予後的にどうなのか、という懸念があります。
で、それについての検討がされています。Figure 3です。
プラセボ群だと、経時的にeGFRが低下しています。それと比較してエンパグリフロジン群では、飲み始めにややeGFRが低下するものの、そのあとは安定して変化ありません。
さらに、内服終了後、エンパグリフロジン群ではもとのレベルまで回復するという結果まで出てしまっています。
まあ、プラセボ群で悪くなったと言っても、3年間でeGFRで4くらいなので、それがどれくらい意味があるのかというのも…。
長期フォローの研究ですので、尿蛋白やeGFRなどの検査結果で差がでたと大騒ぎするのも、ちょっと。あくまでサロゲートマーカーにすぎないんですから。
とはいうものの、こういう結果がでた糖尿病の薬が初めてということなので、期待が大きいんでしょうね。低血糖発作もあまりないようですし。
ちなみに、adverse event、有害事象についても一言いいですか。
かば:どうぞ。
かわうそ:最近の傾向なんでしょうけど、内服中におきたあらゆるイベントをここに入れてしまっているんですけど、なにせやたら多いんです。どちらの群でも9割くらいが副作用を報告されています。severeだとかseriousな副作用ですら、3-5割で報告されたことになっています。ここまで来ると、かえって本当の薬の副作用がわからなくなっちゃうように思いますけど。
かば:ネットで調べると、「エンパグリフロジンは、プラセボと比較すると、心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中のリスクを14%有意に低下させた」だとか「3人に1人の割合で心血管死を抑制した」、らしいんですけど。
ネットでは、素晴らしい結果だ、という好意的な評価が多いみたいです。
かわうそ:ほんとですか?なんか、ここに書いてある数字からは想像できない数字ですけど。有害事象の表に、any deathっていうのがありますけど、5-6%くらいしかないです。腎不全死が少ないんですから、ほとんどが心血管死ってことですよね。なら、そんな華々しい結果になりますかね?
まあ、もとの論文に当たってみないとなんともいえませんけど。
かば:そういえば、エンパグリフロジンの投与量が2種類あって、それを一緒の群として解析するのもどうなんでしょうか?
かわうそ:添付文書を見ると、体格や腎機能で用量を調整するわけではなく、効果不十分な場合は増量らしいですし、たしかにおかしいですね。
とにかく、いろいろツッコミ所のあるよい論文だったと思います。