2016年11月18日

31歳女性、不妊症 その2

診断と経過についてです。



2016年9月28日

その2

その1からつづき


かば:子宮内膜に肉芽腫ができる疾患ですよね。…、結核とサルコイドーシスしか思い浮かびませんね。

かわうそ:普通はそうですよね。親切なことに、Table 2にまとめてあります。まずは感染か非感染で考えます。感染なら、結核、真菌、寄生虫などです。
非感染なら、サルコイドーシス、異物、手術後、血管炎などです。
この中で何が一番考えられるか、ということなんですが…。

やっぱり、結核の蔓延国からやってきた人、というのが一番ひっかかるらしく、外せないです。ほとんど決まり、みたいなテンションで書かれてあるように感じました。

卵管の狭窄と子宮内膜の肉芽腫がある、ということも結核なら矛盾しません。

かば:オッカムの剃刀ですね。

かわうそ:とはいうものの、結核を否定する要素もいろいろあります。まず、BCGをしっかり接種されています。そして、乾酪壊死がありません。また、他の臓器症状がありませんし、熱や咳など結核の症状がそもそもありません。画像上、肺の病変もありませんし。血液検査で炎症のない健康な若い女性なんです。

でも、ネパールでは人口の45%が感染しているわけですし、その大多数が子どもを産んで育てるべき人が罹患している、と書いてあるんです。

かば:なんと。

かわうそ:BCGって、髄膜炎を予防する程度なのかと思っていましたが、子どもの感染のリスクを5割くらい下げると書いてあります。すいませんでした。認識を改めます。

かば:BCGは大事ですよね。

かわうそ:そうなんですね。
活動性の結核に進行するのも8割近く減らします。ただ、10-15歳で効果がなくなってしまうんです。それ以降の感染は予防できません。

性器結核は、ネパールでは不妊に悩む女性には珍しくないらしいです。呼吸器の結核がないのは別に珍しくなく、この人の症状はまさに典型的なようです。

結核性子宮内膜炎についての病態生理もけっこうわかっているらしく、まず、もともとの感染巣から血行性またはリンパ行性に卵管に感染巣をつくります。そこからは卵管を通って子宮内膜にドレナージされます。だから、卵管狭窄はほぼ必発です。

子宮内膜生検で非乾酪性肉芽腫になる理由もちゃんとあります。子宮内膜は周期性に剥落しますので乾酪壊死を形成するまで成長しない、ということだかららしいです。脱落直前に採取すればあるかもしれません。また、卵管の病変を調べてみたら、乾酪壊死が見つかることも多いそうです。

かば:こうみてみると、まさに典型的ですね。
抗酸菌染色で陰性でしたが、PCRなども調べるべきなんでしょうね。

かわうそ:鑑別診断を否定していきます。
真菌ならもっと全身性になりそうです。ウイルスなら核内封入体などが見つかってほしいですし、ヘルペスやパピローマウイルスならもっと性器に皮膚症状が出てほしいです。これらは血行性ではなく上行性感染なんでしょうし。

サルコイドーシスもGPAも他の臓器に病変が出てほしいですね。性器だけってのはまれです。

というわけで、診断確定のためには、何度も生検をするべきであり、できれば卵管切除が必要なようです。
月経血培養で抗酸菌を検出するべき、と書いてあります。治療効果の確認用いるようです。培養の陰性を確認します。

かば:卵管切除したら自然妊娠しにくくなると思いますけど。でも、もう狭窄しているから働かないんでしょうね。

かわうそ:うそかほんとか、こういう場合、逆に切除したほうが人工授精の確率が上がると書いてあります。

さて、この症例の経過ですが、月経血と子宮内膜生検の培養から結核菌が検出されて診断され、治療に移ります。なんと、リファンピシンとイソニアジドの血中濃度の測定までしています。

かば:やったことないですね。

かわうそ:結核の治療は無事終わり、そのあとは人工授精でなんとか妊娠しています。

かば:子癇前症になったり、34週で帝王切開など書いてありますので、大変だったみたいですけど。

かわうそ:まあ今は母子ともに元気なようで、よかったですね。

時代小説とか読むと、子どもができないから離縁とかで事件が起きたりするのが定番だったりしますけど、結核も一因だったんですね。
ネパールで5割だったら、昔の日本でも似たようなものでしょうしね。

ちなみに、この号の「Images in clinical medicine」は、尿管結核でしたので、奇しくも結核つながりが見られました。