Case 27-2015. A 78-Year-Old Man with Hypercalcemia and Renal Failure.
N Engl J Med. 2015 Aug 27;373(9):864-73.
Powe NR, Peterson PG, Mark EJ.
2015年9月9日
その1
かわうそ:今回もMGHのケースカンファレンスです。
78歳男性の高カルシウム血症と腎不全です。経過がけっこう長いので嫌にならずについてきて下さい。4ヶ月前から始まっています。倦怠感、呼吸困難、咳嗽、肋骨痛、脇腹の痛み、そして1回だけ血尿がありました。この時入院になっています。vitalとかで特に問題があるようなものがないので、どうしてこの時入院になったのかよくわかりませんね。Fig 1には、この時撮ったCTと、次の本格的な入院の時、その2ヶ月後のPETの写真が載っています。重要なのは、この半年でほぼ変わりがないという点です。じゃ、読影してもらいましょうか。もう矢印ついてて異常わかっちゃってますけど。
かば:胸膜に結節影みたいなのがくっついてますね。ちょっと歪で、悪性腫瘍とかではなさそうですね。
かわうそ:しかも、このあと自然に消えてしまうみたいです。
きりん:あら。
かば:Cでは、小葉間隔壁の肥厚みたいなのがありますかね。
かわうそ:葉間がちょと怪しいですね。あと、葉間に沿って粒状影みたいなのありますよね。
Bでは肺門縦隔のリンパ節腫脹がありますね。内部に石灰化あります。DはPET-CTです。
きりん:ちょっとわかりにくいですけど、となりと同じくらいのスライスですか?ということは、縦隔リンパ節が光っているという理解でいいんでしょうか。
かわうそ:そのとおりです。気管前と大動脈周囲のリンパ節でしょう。
あと、心臓がよくないみたいで、弁置換術を受けたという既往があります。だからなのかなんなのか、冠動脈の石灰化が目立ちますし、両側胸水とそれによるpassive atelectasisが少しありそうです。
この入院時の所見は対症療法のみで軽快しており、外来フォローで退院になりました。
ところが、4ヶ月後に症状悪化で再入院になりました。倦怠感が強いようです。
ここから、既往・生活歴・家族歴が書いてあります。あんまりパッとしたものはありません。高血圧、高脂血症、前立腺肥大、認知機能低下がある。舞踏様(?)の変な動きがると。あとは弁置換術と大動脈瘤。6年前ツベルクリン反応が陽転化しています。薬はけっこうたくさん飲んでいます。セロクエルだとかドネペジルだとかSSRIだとか下剤だとかビタミンだとか。あとは過去喫煙くらいですかね。
かば:縦隔のリンパ節腫大は、2年前の弁置換術の時と変わっていないみたいですね。
かわうそ:そうなんです。長期間変わっていないというのは鑑別診断あげるときに思い出してください。
身体所見も大したものありません。いろいろ書いてありますが、目立つのは徐脈と心雑音くらいです。
次のページの血液検査は見ないようにして下さい。優秀な先生方なら答えがわかってしまうと思いますので、私が異常所見を述べたいと思います。ちょっと貧血(Hb=10)、白血球は4000くらいで正常、分画も特に問題なしです。電解質はカルシウムが上昇している(14.9mg/dl)以外は問題ないのですが、腎機能は異常です。これが今回の入院の理由ですね。Cre=5.26mg/dl、BUN=77mg/dlに上昇しています。腎機能障害と血尿が関係ありそうですね。
きりん:わー。
かわうそ:CRPはちょっと書いていないですが、赤沈が亢進(56mm/h)しています。
肝機能障害も微妙にあるようです。
かば:カリウムとかは上がっていないんですね。
かわうそ:そうですね。4台後半で正常上限くらいです。
ひょっとしたら倦怠感などは、高Ca血症や腎機能障害の影響かも、ということになります。よく聞いてみると、体重減少、食欲不振、便秘などもあります。過去3ヶ月で4.5kgというからなかなか大変ですね。
かば:前の入院の時は腎機能障害はないのですか?
かわうそ:それが、書いていないんですよ。だから多分ないのでしょう。腎機能障害については、けっこう急激に来たものだと思います。
さて治療ですが、まず高Ca血症の治療って聞かれてすぐに思い浮かびますか?
かば:まず生食の補液します。
かわうそ:そうですね。他には?
きりん:エルシトニンです。
かわうそ:さすがですね。あと、フロセミドで排出したり、ビスフォスフォネート使ったりしますよね。ここでもそういう治療をやっています。
この段階で、何かほしい検査ありますか?鑑別のために。
きりん:尿中のカルシウムです。
かわうそ:そうですね。でも、ここでは取っていませんね…。
かば:骨のレントゲンです。
かわうそ:それは記載あります。打ち抜き像みたいなものがあったと書いてあります。頭蓋や下顎骨です。そこの生検で形質細胞が増えているという所見(7%)でした。
きりん:あと、PTHとかですかね。
かわうそ:どんどんでてきますね。みなさんさすがです。
PTHは正常だったようです。このあたり、さすがにMGHの先生はレベル高いなと感心するのですが、入院時の採血ですでに鑑別診断で必要とされるような項目は網羅されているんですよね。
かば:蛋白とかアルブミンとかは?
かわうそ:血清アルブミンは書いていません。尿中蛋白ではベンスジョーンズ蛋白が検出されていますね。また、イムノグロブリンについては、IgMが少し上昇していることがわかりました。
あとは、腎機能障害で血尿も出ているということから、当然腎生検は検討したいところです。次のページにもう顕微鏡写真が出ています。
ちなみに、この病理のコメントをしているのは、Eugene J. Mark先生です。実は私が学生のころ、MGHケースカンファレンスの抄読会に参加している時から知ってますね。なつかしい名前です。なんでおぼえているかというと、一緒に読んでいた先生が、いつもこの人が出てくるたびに、「友人(Eugene)ていう名前のくせに言うことが厳しい」とオヤジギャグをとばしていたからなんです。そのころはしょーもな、とか思って流していましたけど、もう10年くらい経って改めて思い出してみると、意外によさがわかってきますね。歳をとりました。Dr. Nancy Lee Harrisも前にでてきましたけど、この二人は私たち勉強会メンバーにとってはスターでしたよ。
きりん:ふふっ。そういうの意外に忘れないですよね。
かわうそ:すいません。脱線しました。
さて、この腎病理をどう読みますか?
きりん:尿細管のあたりの間質のところに、リンパ球なのか炎症細胞がたくさんあるように思います。
かわうそ:えっ?わかるんですか?すごいですね。正解です。
かば:よくわかるね。糸球体がないことしかわかりませんでした。
かわうそ:実はこのDの*のあたりがいちおう糸球体の硬化した病変になるようです。
つぶれてるのでわかりにくいんです。
A-Cは、きりんさんのおっしゃるとおりです。尿細管の間質のところにリンパ球を中心とした炎症細胞の浸潤があり、尿細管を壊しています。
さらにCの所見は、この単語がでてしまったら診断に辿り着く人がでてきてしまうんじゃないかとまで思ってしまうような決定的なものです。
granulomatousまたはpoorly formed granulomasと表現するような病変Dr. Eugene J Markが言っています。肉芽腫様ということでしょう。
その2へつづく