あけましておめでとうございます。今年もぼちぼち更新していきます。
恒例のMGH症例検討です。
76歳男性、発熱、白血球減少と肺の浸潤影です。
まずは問題編です。
CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 37-2015. A 76-Year-Old Man with Fevers, Leukopenia, and Pulmonary Infiltrates.
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2162-72.
Cho JL, McDermott S, Tsibris AM, Mark EJ.
その1
かわうそ:76歳男性、発熱、白血球減少と肺の浸潤影です。けっこういろいろ病気持っている人ですね。5週間前までは元気だったようですが、その時から39度の発熱、悪寒、咳、盗汗、下痢、倦怠感、食欲不振などが出現しています。でも、いまいち疾患が絞りにくい症状ですよね。1週間経ってようやく受診して、ここで半年で5kgということで、体重減少もけっこうあることが判明しています。
このときの尿検査と血液培養では陰性でした。また、レントゲンではあまりはっきりした異常を認めていないようです。
さらに1週間後、今度はレントゲンで右中肺野に淡い浸潤影です。CTでは、さらに少量胸水と肺底部あたりに網状影を指摘されています。写真も乗っています。
かば:ふんふん。なんか、なぞな皮下気腫がありますね。あと、心臓のオペもされているみたいですね。冠動脈バイパスですかね。
かわうそ:皮下気腫については、このあと出てくるのですが、VATSされているのでそのためということです。
さて、このあとダウンしてしまって入院しています。既往歴としては、高血圧、脂質異常症、COPD、冠動脈疾患でバイパス術、心不全、末梢血管障害でもバイパスしていますね。糖尿病、痛風、前立腺肥大もあります。膀胱癌でBCG注入を7ヶ月前までやっていました。いろいろ薬も飲んでいますが、免疫抑制をきたすものはないようですね。
バイタルとしては、相変わらず40度近い発熱がありますが、その割には脈はそれほど速くないです。呼吸数はやや多く、SPO2は室内気で93%と少し低いです。身体所見としては、右季肋部の圧痛くらいです。ラボデータでは、あんまりたいしたことないです。CRPがちょっと高くてWBCが少ない、貧血が徐々に進行、腎機能や栄養状態がちょっと悪い程度です。これで疾患を絞り込むのはやっぱり難しいですね。
超音波検査で馬蹄腎、脂肪肝が発見されています。心エコーもそれほど問題無いです。
レントゲンに戻ると、右中肺野にpatchyな陰影です。CTでみると、びまんせいにGGOが出現し、特に肺底部では胸膜下に網状影が出現していることがわかりました。
ちなみに、感染症については、血液検査でも各種培養検査でも異常なしです。
さて、追加で検査したいものとかあります?
かば:全部されていますけどね…。気管支鏡とかですか?
かわうそ:そういえば、どうやらこのあたりで喀血したらしくて、気管支鏡やっています。
肺胞出血の所見はなく、悪性細胞もなし、BALでも何も培養されていません。まだ抗生剤は投与されていないようなんですけどね。
じゃあ膠原病なのかな、ということで、リウマチ科に相談した上で、ステロイドパルスが行われています。そのあと60mg/日でプレドニンが始まっています。
ステロイドで、一瞬ちょっと良くなったかな、と思ったけどまたぶり返したようです。
ここで先程も触れましたが、VATSされています。病理の所見では、基本的には炎症細胞の浸潤した結節が見つかっています。拡大写真をみてみると乾酪壊死を伴わない類上皮肉芽腫がみつかっています。気管支周囲や肺胞間隔壁の肥厚を伴っており、リンパ管に沿っているように思われます。
かば:サルコイドーシスでしょうか?
かわうそ:もちろん鑑別に上がってきますよね。
ステロイドに反応なしということで、抗生剤が始まってます。バンコマイシンとゾシンです。
ここでMGHに転院されています。このあたりで意識障害が出現してます。腰椎穿刺とか頭部の画像検査をされていますが、はっきりとした異常はやっぱり見つかっていません。
転院後、ステロイドは効果がないということでテーパリングされています。さらにここで抗結核薬が始まっています。INH、RFP、EBです。
かば:わからないまま片っ端からやっているという感じですね。
かわうそ:今のところ、肉芽腫があったということ以外、結核を疑うことはでてこなかったんじゃないかと思いますが…。あ、そうか(意味深なつぶやき)。
さて、また病歴に戻ると、造影剤アレルギーがあって、昔重喫煙歴があって、アスベスト暴露がある、と。飲酒は最近していなくて、ドラッグ使用なし。昔メキシコに行ったり、子どもが鳥を飼っていたり、猟師でしかやうさぎやきじを食べたりしているところはちょっと変わっているかもしれません。家族歴にはリウマチがあります。
さて、鑑別診断をあげましょうか?
その2につづく