2016年5月15日

静脈血ガス分析

静脈血ガス分析でCOPD増悪を評価したらどうか、という論文です。

Using venous blood gas analysis in the assessment of COPD exacerbations: a prospective cohort study.
Thorax. 2016 Mar;71(3):210-5. 
McKeever TM, Hearson G, Housley G, Reynolds C, Kinnear W, Harrison TW, Kelly AM, Shaw DE.

2016年4月18日

かわうそ:イントロから行きます。
当然ですがCOPDの増悪はよいものではありません。これはイギリスでは1年間に10万人くらい入院するようですし、死亡のリスクを高めます。増悪入院した人の50%の人が4年以内に亡くなるほどです。
COPDの増悪を診察した場合、ガイドラインでは動脈血を採取してガス分析をするように推奨されています。
ただし、動脈血ガス採取は相当痛いです。手首で取る場合は特に。麻酔をかけてやることもある、と書いてありますが、その直後には、めんどくさいので誰もやっていない、とも書いてあります。

かば:Aラインを取るときは麻酔するんでしょうね。

かわうそ:そうですね。麻酔科回ったときにした記憶あります。
そんな血ガスなんですが、最近の報告によると、静脈血のガス分析でも変わらないのではないかという説があるようです。
たしかに小児科領域ではよく見ますし、最近では糖尿病性ケトアシドーシスのモニタリングもするらしいです。

かば:透析科でもよく見てますよね。

かわうそ:CO2貯留をみる場合も問題ないようです。
というわけで、COPDの増悪でどうなのか、ということを調べているのが今回の論文です。

Methodsに行きます。単一施設でCOPDの増悪と診断された患者すべてを登録して、動脈血ガスと静脈血ガスを同時に測定します。この際、痛みのスケールも評価しています。
さっそく結果を見てみます。2013年2月から2014年1月までの1年間で1376人がCOPDの増悪として入院しています。

かば:ほんとかな?1日3人位入院していますよ?

かわうそ:恐怖ですね。
あと、少し謎なところですが、全員を登録したと書いてある割には、解析している患者数は234人なんです。どういう基準で除外されたのかが詳しく書かれていないようです。
患者背景ですが、年齢は71歳でまあいいんですが、性別が男女ほぼ半分ということで、ちょっと気になりますね。COPDって普通は男性が圧倒的に多い病気ですからね。BMIが26ですが、これは外国なのでこんなもんですね。

かば:あと、喫煙歴なしの14人が。これを入れていいのかとツッコミたいですね。
現喫煙者も3割なのでけっこう多いように思います。

かわうそ:次がメインのResultです。
Figureをみてみます。動脈血ガスからと動脈血ガス、それぞれから得られた結果の平均値を横軸にとって、縦軸に差をとって散布図を作っています。
PHの差は非常に小さいことがわかりました。PHの平均は7.4くらい、縦軸の0のそばに点が集まっています。ということはPHについては静脈血でも代用できそうです。
HCO3-については、Figure2に同じような図が載っています。平均29.7mmol/lで、これもほとんど差がありません。
PCO2については、この論文では単位がキロパスカルなので少しわかりにくいですが、Torrに換算すると、PaCO2=52、PvCO2=57くらいです。

かば:さすがに増悪なのですこしCO2が溜まっているんですね。

かわうそ:そして今までのと比べると、ばらつきが大きいようです。
最後のFigure 4はO2についての図です。これはさすがに動脈血と静脈血を直接比べるわけにはいきません。というわけで、SaO2、つまり動脈血ガスから計算された酸素飽和度と、SpO2、つまり経皮的に測定された酸素飽和度を比較しています。

かば:だいぶばらつきが大きいように見えますけど。

かわうそ:それでも、この筆者の人は、SpO2が80%以上あればばらつきが小さくなると言い張っています。

かば:けっこう強引だな。統計的には説明がつくのかもしれませんが。

かわうそ:一応それを信じて話を進めます。こういう風に解釈するにも意味があるんです。COPD増悪をみて静脈血ガスを採取した時のアルゴリズムを作ろうというわけです。
計算方法についてはよくわかっていませんので、アルゴリズムの表を見てもらいたいのですが、これまでの結果から、PH、HCO3-、PaCO2については、動脈血ガスを取らなくても、静脈血ガスで十分信用できて代用できることがわかりました。問題はPaO2なのです。
SpO2が80%以下の場合、SpO2が信頼できないので動脈血ガスを採取します。またアシドーシスがある場合も動脈血ガスを採取してきちんと評価すべきです。
そうでなければ、CO2の貯留はきちんと評価できますので、静脈血ガスでの評価で十分なのではないでしょうか。CO2の貯留はきちんと評価できているはずなので、静脈血ガスでアシドーシスでなければ、動脈血ガスでもアシドーシスではないでしょう。

このアルゴリズムを適用すると、2/3という、けっこうな割合で、動脈血ガスを採取せずに済んだはず、ということです。
ありがたい結果ですね。

かば:増悪でも意外にCO2が貯留していないものなんですね。