まずは病歴と診断までです。
Eunice LK, Theodore SH, David GF, Avinash K, Jochen KL.
2016年11月28日
その1
かわうそ:今回はわりと珍しいんですけど、早速病名が書いてあります。食道腺癌です。
ゴルフボールが喉に詰まっている感覚が2ヶ月続くということで受診されました。胃食道逆流が疑われ、PPIを処方されましたがよくなりません。
かば:次の手としては、梅核気ってことで半夏厚朴湯を試してしまいそうです。たしかに、食道癌のもありえますし、早めに胃カメラが必要でしたね。
かわうそ:怖いですよね。感覚だけなのか、実際に飲み込めないのか、きちんと聞かないと、ですね。この症例では実際に通らなかったようです。
ここではまずバリウムをされています。Fig 1Aでは、胃食道接合部のあたりの粘膜が不整な感じになって狭くなっているのがわかります。口側が拡張しているようにも見えます。
次がPET-CTです。
かば:内視鏡じゃないんですね?
かわうそ:ちょっと不思議ですが、検査のハードルもいろいろありますし。
CTでも、胃食道接合部のあたりの食道が全周的に肥厚していることがわかります。PETでFDGの取り込みもあります。この図ではわかりませんが、腋窩リンパ節なども腫脹しているようです。
血液検査では、CEAとCA19-9が上昇しています。
かば:なるほど、腺癌っぽいですね。
かわうそ:上部消化管内視鏡検査では、遠位食道から胃食道接合部にかけて、周囲がやや隆起して、中心に潰瘍を形成している病変がありました。食事ものどを通らないくらいですので、内視鏡もなかなか通りません。拡張させてから胃・十二指腸までのぞいています。そこには病変を認めなかったようです。
超音波内視鏡の画像も載っています。粘膜下まで浸潤していること、リンパ節腫脹があることが確認できました。
そして、さっそく生検しています。
かば:検体が大きいですね。
かわうそ:気管支鏡検査の検体とは違いますね。消化管内視鏡では、生検の検体だけで粘膜下まで浸潤しているということがわかるらしいです。
かば:で、これは腺癌でいいんですか?
かわうそ:HE染色で青っぽく染まっている部分がムチンらしいです。そのあたりから腺癌を伺わせますが、なかなか腺管形成がはっきりしません。
かば:低分化型なんでしょうね。
細胞診のパパニコロウ染色で、扁平上皮癌は黄色っぽくなるんでしたっけ?
これをみると青色ばっかりなので、やっぱり腺癌が疑わしいですね。
かわうそ:ちなみに、細胞診の検体でセルブロックを作成すると、少し腺管形成らしいものができてくるのが不思議です。
というわけで、低分化型腺癌、リンパ節転移あり、というところまで診断できました。
ここから病歴がはじまります。
嚥下困難と嘔吐のため食欲がなく、2ヶ月間で9kg減っています。
かば:それは大変ですね。
かわうそ:と思うのが日本人の限界でしょう。あとでこの人、体重が111kgだとでてきまので、本当に大変なんでしょうか?
かば:それでも1割減っていますし…。
かわうそ:たしかにそうですね。
そういえば、胃カメラのあとは食道が少し広がったためか、ごはん食べられるようになったような記載もありました。
既往としては、高血圧、高脂血症、脊椎の変形があります。子供の頃の虫垂炎の手術のときに小腸を切除して短くなったため、下痢をしているようです。
かば:慢性的に下痢をしていて、それでも111kgですか。
かわうそ:これらでけっこう大量の薬を内服しています。喫煙歴もしっかりあります。
さて、こういう人にどういう治療をしましょうか?
その2へつづく