2016年2月5日

この時期にこの症状なら… その1

これに遭遇したら、かなり焦ると思います。問題編です。
26歳女性、出産後の呼吸困難と喀血です。

A 26-year-old woman with respiratory decompensation in the immediate postpartum period at Mount Sinai Medical Center in New York City.
Thorax. 2015 Nov;70(11):1095-7. 
Bunker DR, Meinhof KT, Hiensch RJ, Ghaw O, Becker CD.

2016年1月22日

その1

かわうそ:Thoraxにも症例検討会みたいなシリーズがありましたので、ちょっと読んでみました。

かば:Mount Sinai病院ですね。聞いたことあります。

かわうそ:やっぱり有名なんですか?
実は、私もこの病院にはちょっと思い出がありまして…。昔、「The Universe of English」という、東大教養学部の英語の教科書が市販された、とかいってちょっと話題になりませんでした?

かば:大学入ったくらいの時、生協に売っていたような気がしますね。

かわうそ:私はたしか浪人生の時くらいでした。CDとかもついていて、リスニングの勉強になるんです。全部読んだわけじゃないんですが、最初の話だけは覚えていて、それにちょうどMount Sinai病院ってのが出てくるんです。たしか、主人公の奥さんが動物園でライオンに噛まれて、ここに運ばれたけど死んでしまった、とかいう流れだったと思います。
全く忘れていたことですけど、ふとしたことで記憶が蘇りますね。なつかしいと思ってしまいました。
(後で調べたら、パトリック・マグラアの「O'Malley and Schwartz」という短編小説でした。内容が正しいかどうかはわかりませんが。)

かば:へー。

かわうそ:話が脱線しました。じゃあ始めます。26歳女性、出産直後、というか3日後に呼吸困難を発症しています。もちろん思い当たる疾患がありますよね。

かば:ふんふん。あれですね。

かわうそ:実は、妊娠中に血尿・蛋白尿がありましたが、精査加療はされていませんでした。
それ以外は特に問題ありませんでしたが、退院予定日、突然の呼吸困難、頻呼吸、頻脈が出現しました。PaO2は48Torrです。さらに喀血もしています。心電図、心エコーで右心負荷所見がありました。

かば:となれば、当然肺塞栓ですよね。

かわうそ:あとは羊水塞栓とか肺水腫とか出産後の心筋症とかもあるのかな、という鑑別が上がっています。喀血が少し気になりますが、肺塞栓でも5%くらい喀血合併があるようです。
とりあえず、ヘパリンを始めています。喀血しているけど、使わざるをえませんよね。
しかし、その後100mlくらいの喀血しています。かなりの量ですね。で、ヘパリンをやめて挿管されています。

かば:なんと。

かわうそ:でも出血が多くてコントロールがなかなか難しいみたいです。頻回の吸引しても難しいし、筋弛緩薬使ったり、用手的に換気したりして苦労している様が伺えます。レントゲンをみると、両側の浸潤影がありますし、心陰影の拡大があります。右心負荷を表しているんでしょうか?右側が目立ってますね。
Hbの低下もけっこうあります(12.8→7.1g/dl)。だいぶ出血してますね。
というところで気管支鏡検査をしています。出血源はわかりませんでした。BALはできなかったとのことですが、肺胞出血なら、ではだんだん血性になって返ってくるはずです。

で、肺胞出血の原因はなんでしょうか、とくるんですけど…?

かば:感染とかを急に起こしたとは考えにくいですよね。薬剤もないですよね、普通の分娩でしたら。なんですかね。

その2へつづく