2016年2月9日

この時期にこの症状なら… その2

出産後の呼吸困難と喀血の原因は?
解答編です。

A 26-year-old woman with respiratory decompensation in the immediate postpartum period at Mount Sinai Medical Center in New York City.
Thorax. 2015 Nov;70(11):1095-7. 
Bunker DR, Meinhof KT, Hiensch RJ, Ghaw O, Becker CD.

2016年1月22日

その2

その1からつづく

かわうそ:ここで、思い起こされるのが、先ほどちょっとでてきた尿検査異常なんですって。

かば:膠原病ですか?

かわうそ:腎臓と肺が共に侵される疾患です。focal segmental necrotising glomerulonephritisなんかですよね?実はあんまり知らないところですが。
というわけで、診断つかないうちに免疫抑制剤を投与しようかな、とかいう話になってきます。
あと、人工呼吸器の設定ということでAPRV、Airway Pressure Release Ventilationをやっています。

かば:前の病院では流行っていましたね。流行りかけのときにがんばって使っていましたが。
でも、結局健康な肺でないと結局うまくいかない、ということを痛感して終わりましたね。

かわうそ:今は流行っていないんですか?

かば:救急領域ではやっているんでしょうけど。最近の本にも載っていないと思います。

かわうそ:ちょっと臨床から離れているうちに変わっていきますね。
さて、この症例では、ステロイドパルスが始まって、免疫抑制剤はないですけど、血漿交換をしています。

ちなみに、皮疹や関節炎症状などはありませんでした。血液検査では、MPO-ANCAがひっかかりました。
腎生検をすると、やはりpauci-immune crescentic glomerulonephritisが認められました。半月体形成腎炎ですね。晴れてMPA(microscopic polyangitis)と診断が付きました。

かば:肺塞栓と思ったらまさかの診断でしたね。ややこしい時期に発症してしまいましたね。
腎生検しているのが偉いですね。妊娠中だとなかなか腎臓の精査とか後回しになりそうです。

かわうそ:このあたりの疾患は最近名前が変わってしまって混乱してます。
元「Wegener肉芽腫症」は、多発血管炎性肉芽腫症、英語で言うと、Granulomatosis with Polyangitis(GPA)になりました。
元「Churg-Strauss症候群」が、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、Eosinophilic Granulomatosis with Polyangitis(EGPA)になっています。
そして今回の顕微鏡的多発血管炎、microscopic polyangitis(MPA)は…、あ、これは名前が変わっていないんですね。
で、これらを合わせて、ANCA関連血管炎なんですね。

かば:ややこしい…。

かわうそ:MPAでは、腎臓がもっとも傷害されるようですけど、肺胞出血、喀血もしやすいということで、この症例にぴったり合うということが書いてあります。高用量のプレドニンと血漿交換を行って安定したのですが…。

かば:レントゲン写真も綺麗になっていますね。若いですからね。

かわうそ:ANCA関連血管炎がこんなに若い人に発症するのはちょっとびっくりですけど。

かば:たしかに。

かわうそ:一応よくなりましたが、喀血があって抗凝固しにくいのが残念です。あと、免疫抑制剤については、これまでシクロホスファミドが使われていましたが、最近、リツキシマブがいいのでは、というのが話題です。

かば:またですか。どこにでも出てきますね。

かわうそ:なにせMPAは再発が多いのが問題ですので、投与しました。
ただですね、これで終われないんです。リツキシマブを何度か投与して、副作用もなく安心していたのですが、退院3週間後、また呼吸困難そして起座呼吸で受診しました。レントゲンでは異常陰影がありません。
今度は何なんでしょう?

かば:まさかこの流れは?

かわうそ:心エコーでは問題ありませんでしたが、造影CTで肺動脈内に血栓を認めました。というわけで、こんどこそ肺塞栓です。

かば:ふふっ。なんとっ。

かわうそ:というわけで、MPAのあと肺塞栓になってしまったという症例でした。
MPA自体が血栓のリスクをあげるらしいですけど、喀血もするし血栓のリスクも上げるといわれると、もうどうしたらよいのか…。
また、挿管・筋弛緩しての人工呼吸管理、そしてそもそも出産後ということが、ことごとく血栓形成傾向でした。
今度はワーファリンで軽快しました。リツキシマブも続けているようです。

かば:この症例から学ぶべきこと、という項目があって親切ですね。
妊娠中に血尿・蛋白尿が続く人はちゃんと調べないといけない、とか、肺塞栓だと思い込んで、他の疾患を頭から考えないのはいけない、とか。

かわうそ:たしかにD-dimerとか造影CTについての言及がないので、肺塞栓の治療がちょっと早過ぎなのかもしれないですね。エコーで右心負荷はありましたが。