CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 32-2015.
A 57-Year-Old Man with Severe Pneumonia and Hypoxemic Respiratory Failure.
N Engl J Med. 2015 Oct 15;373(16):1554-64.
Mansour MK, Ackman JB, Branda JA, Kradin RL.
Case 32-2015.
A 57-Year-Old Man with Severe Pneumonia and Hypoxemic Respiratory Failure.
N Engl J Med. 2015 Oct 15;373(16):1554-64.
Mansour MK, Ackman JB, Branda JA, Kradin RL.
2015年10月28日
その3
その2からつづき
かわうそ:Blastomycesを見つけるための検査をしましょう、ということでですが、やっぱり気管支鏡検査ですよね。できればBALもと書いてあります。
…。最初ここまで読んだ時は、「なるほど、気管支鏡検査ねぇ。でも、状態悪いから勇気いるよね~。」とか思ったのですが、実はすでに前医で施行されているんですよね。しれっと、negative studyであった、と言われているんです。
で、しょうがないので気管支鏡検査をやりました。BALもやっています。しかも、舌区と右上葉からやっています。両側とはアグレッシブですね。
かば:根性出しましたね。
かわうそ:で、次のページに喀痰グラム染色の顕微鏡写真が載っています。普通のグラム染色でこんなのが見えています。しつこいですが、前の病院でのnegativeだという検査結果はどう受け止めればよいのでしょうか?
かば:痰が多くなくて、検査に出さなかったとか?
かわうそ:うーん…。まあ、そうかもしれません。
プロが見れば、この"large, thick-walled, round-to-oval yeast forms with broad-based budding"だけでBlastomyces dermatitidisということがわかるくらい特徴的な所見らしいです。
そういえば、βーDグルカンも368pg/mlと著明な上昇を認めています。そういえば、血液データのtableには載っていませんでしたね。
ちなみに、アメリカにはblastomycosisの検査キットがあるみたいです。ヒストプラズマもキットがあります。そうとう多いんですね。
かば:すごいね。
かわうそ:診断もついたし、blastomycosisなら、アムホテリシンBを使おう、となります。
しかし、残念です。翌日無尿になり、呼吸状態が悪化します(PF ration=49!)。CVHDやECMOをはじめようという話が出ていますが、上部消化管出血を併発し、ショック状態になります。こういう壮絶な状況のところで、家族から積極的治療の中止の申し入れがあり、亡くなります。
で、剖検の結果が写真にのっています。右肺のマクロ写真では、上葉がまるっきり実質臓器みたいに見えています。顕微鏡写真では、どの染色でもblastomycesが肺の中に充満しています。
気管支鏡で採取したものとはいえ、喀痰検査で診断がついていますので、もうちょい早くわからなかったのか、と悔いが残る症例ですね。早い段階で抗真菌薬を使っておけば、と。
かば:日本にはあまりない病気だと思うけど、私は、もともと健康な人に抗真菌薬を使うところまで辿りつけないように思います。
かわうそ:日本ならもうちょっと早い段階で入院になっているのではないでしょうか。で、おそらくβーDグルカンを測定していて、そこでひっかかって抗真菌薬が始まっていてほしいと思います。でも、そこでアムホテリシンBなのか、ボリコナゾール使っているのかはわかりませんけど。
かば:これは人ごとではないですね。恐ろしい。
かわうそ:肺だけでなく、リンパ節や脾臓にもblastomycesが充満していました。血流に乗って広がっているのでしょう。
あと、健康なはずのこの患者さんですが、肝臓に線維化があり、肝硬変になりかかっていたようです。このあたりも少し疾患の経過に影響を与えていたかもしれないです。
最後に、これは私達にも耳が痛い点なのですが、かなり早い段階で…。
かば:ステロイドですか?
かわうそ:そうなんですよ。抗真菌薬前にステロイドが入っていることがツッコまれています。
基本的には、blastomycosisにステロイド単剤は安易に使ってはいけないようです。抗真菌薬と併用するなら、効果あるかもしれないです。
かば:なるほど。
この症例はいつもと比べても全然わかりませんでした。
かわうそ:知らないとわかりませんよね。
結局人は、自分の知っていること、もしくは知りたいことしか目に入らないんですよね。
この症例も、きっと喀痰検査でblastomycesはあったんじゃないですかね?でも、疑っていなかったので、存在に気がつかなかったとか。ま、あくまで私の勝手な説ですけど。